【自損事故】を起こしてしまった…【警察】を呼ばなかった時のリスクとは?

Q1.自損事故(単独事故)とはどういう事故?

「自損事故」とは、他の運転手や歩行者などの「事故の相手」が存在しない、運転手が単独で起こした事故のことを指します。
自損事故の典型例としては、以下のようなものがあります。

・公道の電柱やガードレールへの衝突
・駐車や車庫入れのミスによる、家屋や商店の壁への衝突
・走行中の運転ミスに拠る、道路わきの溝や崖などへの転落

自損事故で発生する損害は、主に、以下の三種類に分けられます。

・運転手本人の身体に対する損害(怪我、後遺症など)
・運転手の運転していた車両に対する損害(破損、故障など)
・車両が衝突した物体に対する損害(電柱や家屋の破損など)

他人が関わらず、「自分の運転ミス」で起こる事故のため、基本的には、事故の責任は事故を起こした本人に全て帰せられることになります。
つまり、損害賠償を請求する相手がおらず、発生した損害への対応は運転手自身が行わなければならないのです。

自損事故を起こした責任は自分で取らなければならないのですから、後のことを考えても、適切な初期対応が重要になります。
まず、もし怪我をした場合にはすぐに病院に行き、重症の場合は救急車を呼んでください。
また、事故直後には自損事故だと思った事故でも、実は他の人が巻き込まれて被害者になっている可能性があります。
気を動転させずに事故現場の周囲を確認して、他に被害者がいないかを確認しましょう。
そして、車通りの多い公道や高速道路などで発生した自損事故は、後続車による2次事故につながるおそれがあります。
周囲に散らばったものを片付けたり、車を脇に寄せたりするなどの危険防止措置を必ず行いましょう。

Q2.自損事故で警察を呼ばなかったときのリスクは?

たとえ怪我人が出なかった場合でも、自損事故は「交通事故」と見なされます。
そして、交通事故を起こした運転手は、警察に報告する義務があります。
警察への報告義務は道路交通法第72条第1項にも規定されており、これを違反したときには、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金という罰則を受ける可能性があります。
なお、事故を起こした後の「危険防止措置」も、同じく道路交通法第72条第1項に義務付けられています。

また、事故に届け出しなかったとしても、大半の場合は後から事故の存在は発覚してしまいます。
そして、事故後すぐに届け出しなかった運転手に対しては警察の心証が悪くなり、「届け出しなかったなら、やましいところがあるに違いない」と疑われるようになってしまう。
そのため、事故後すぐに届けを出して、他に被害者のいない自損事故であることを警察に確認してもらうことが、運転手自身の身を守るためにも大切になります。
警察に届け出しなかった場合、自分の加入している保険から「保険金が支払われない」リスクも生じます。
警察が事故の存在を確認して発行する「交通事故証明書」がないと、交通事故の存在が客観的に証明できなくなるためです。
また、事故の状況についての詳細な記録がないことにより、自損事故が原因で起こった怪我や車両の故障と、事故との因果関係の証明が難しくなります。
そのため、せっかく自動車保険に入っていても、必要なときにその保険が使えないという事態になってしまう可能性があるのです。

自損事故を起こした人の中には「警察へ届け出してしまうと免許の点数が減点されるかも…」と心配する人もいます。
しかし、故意に起こした事故や飲酒運転が原因ではない、通常の運転ミスが原因の自損事故であれば、電柱やガードレールにぶつけることに対する罰則はありません。
免許の点数が減点されるなどの行政処分もありません。
ただし、飲酒運転や酒酔い運転をしていた場合にはそれに対する罰則が科されますし、故意にぶつけた場合にも「器物損壊罪」や「過失建造物損壊罪」などが適用されます。
その場合には刑事事件となり刑事罰を受けることになります。

Q3.自損事故にあった直後、警察へ届け出する項目は?

自損事故にあった場合、重症な怪我などを負っていて行動できない状態になっていない限り、すぐに警察への通報を行いましょう。
持っている携帯電話やスマホなどで、110番に通報してください。
電話口に出た警察官には、以下の項目について簡潔に伝えましょう。

・「自損事故を起こした」という事実の報告
・事故現場を起こした場所の情報
(カーナビやスマホのGPS、また最寄りの掲示板や電柱などを調べて住所が判明すれば住所を教える。住所が判明しない場合には、目立つ建物などの情報を伝える。)
・自分の怪我の状態、救急車の必要性の有無
・「自分のほかに被害者がいない」ことを確認した、という事実の報告
(もし他にも被害者がいた場合には「人身事故」または「物損事故」として報告する)
・その他、事故現場の状況の特徴

Q4.自損事故における病院保険の注意点は?

交通事故では、身体に強い衝撃のかかる事例が多いです。
そして、事故による怪我は、事故直後ではなく時間が経過した後に事故の発症する場合が多いです。
たとえば、交通事故で起こる怪我の代表であるむちうちの場合、事故から数日後に発症することが一般的です。
ほかにも、交通事故では頭部や首、脊柱などの神経に関する症状が発生する場合が多いです。
神経に関する症状は外見から判別できない場合が多いため、早期から発覚させるために、病院で検査を受けることが望ましいのです。

病院に行くのは、可能であれば事故の当日、遅くとも事故の翌日か翌々日までに行ってください。
事故から時間が経てば経つほど、症状の発見が遅れるだけでなく、事故と怪我との因果関係の証明が難しくなる可能性があるためです。
因果関係の証明は、治療費の支払いに「自動車保険」を利用する際に重要となります。

自損事故で発生した運転手自身にとっての損害、また他人の損害に対する賠償には、保険を使用することができます。
ただし、保険を利用すると保険の等級が下がり、次年度からの保険料が上がってしまいます。
そのため、支払われる保険金と次年度以降の料金を比較考量して、場合によっては保険金を受け取らないという選択も行うことになります。
また、ごくまれに「保険金目当てに、自損事故を装う偽装事故を起こした」と疑われてしまうケースがあります。
もし、あらぬ疑いにより保険金の支払いを拒絶された場合には、「保険金請求訴訟」による対応が必要となる可能性もあります。

自損事故で使える保険は、任意保険への加入の有無、また加入しているプランなどによって変わります。
運転手側に発生する損害の種類と、それぞれに対応する保険は、下記の通りになります。

自損事故で運転手側に発生する損害と、対応する保険の種類(例)
搭乗者傷害保険 車両保険 自損事故保険
運転手自身の怪我や後遺症
同乗者の怪我や後遺症
運転手の車に発生した損害

同乗者の怪我や後遺症に対しては、任意保険に加入していなくても、強制加入である「自賠責保険」から一定金額の補償が出ます。
また、自損事故で破壊してしまった民家の壁や商店の看板などの「他人の財産」に対する損害は対物賠償保険から賄います。
もしも歩行者などを負傷させてしまったり、家族以外の他人である同乗者に負傷をさせてしまった場合は「人身事故」となり対人賠償保険を用いることになります。

Q5.自損事故を起こす前から、事前にできる対策とは?

交通事故を起こした運転手は、ついつい慌ててしまい、事故直後に最善の対応を行うことが難しいものです。
また、誰も見ていないところで電柱や壁にぶつかる事故であれば、警察への報告を怠る気持ちが生じてしまうかもしれません。
しかし、後に警察に事故が発覚したときのことや、保険が使用できなくなるリスクも考えて、自損事故を起こしたら必ず警察に届けるようにしましょう。

自損事故を起こしても、適切な報告や対応ができれば、刑事罰や行政処分を受けることを回避できます。
また、自覚症状がなくても病院で検査を受けることで、思わぬ症状が悪化することを事前に予防することができます。
そのためにも、常日頃から「もし事故を起こした場合は、このように行動しよう」と、確認をしておきましょう。
また、事故を起こしたときに使える保険のプランを確認したり、必要があれば見直しを行うことも大切です。

常に安全運転をこころがけて、事故を起こさないようにするのが一番と言えるかもしれません。
しかし、どれだけ気を付けて運転していても、自動車に乗っている以上は思わぬところで事故の被害にあってしまう可能性があります。
いざという時に相談できる弁護士の連絡先も、ご自身のスマホやカーナビなどに記録しておきましょう。

この記事の監修弁護士

岡野武志弁護士

アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。

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