逸失利益は専業主婦でも受け取れる!家事従事者は基礎収入をどう計算?
「交通事故で後遺障害の逸失利益は収入のない専業主婦では受け取れないの?」
「パートをしている主婦はパート代分しか逸失利益は認められないの?」
「高齢者でも家事労働をしていれば逸失利益が認められることはあるの?」
交通事故にあわれて後遺障害まで残ってしまった方からすれば、せめてなるべく多くの損害賠償額を受け取りたいと思われるのではないでしょうか?
交通事故に巻き込まれるというのは、はじめての方が多いでしょうから後遺障害による逸失利益を主婦がもらえるかなんて知らなくて当然かと思います。
しかし、後遺障害の逸失利益を理解しておかないと主婦の方が最終的にもらえる賠償額が少なくなってしまう可能性があるんです!
このページでは、そんな方のために
- 専業主婦でも逸失利益を受け取れるのか
- 兼業主婦の逸失利益の計算方法
- 高齢者の家事労働に対する逸失利益
といった事柄について、徹底的に調査してきました!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
後遺障害による逸失利益は交通事故の損害賠償の中で大きな割合を占める損害の項目です。
しかし、主婦の方の逸失利益は増額の可能性が高いにもかかわらず、案外見過ごされがちです。
ここで、後遺障害の逸失利益をしっかり理解して、主婦の方も適正な賠償額を受け取れるようにしましょう。
目次
そもそも、収入の有無と逸失利益とはどういう関係にあるのでしょうか?
まずは、逸失利益の定義などから確認していきたいと思います!
収入のない専業主婦でも逸失利益はもらえる!
家事労働は金銭的に評価できる
後遺障害の逸失利益・基礎収入の定義
後遺障害の逸失利益とは、
交通事故による後遺障害が残存しなければ被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害
をいいます。
そして、その逸失利益の計算項目の一つである基礎収入とは
後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入
のことをいいます。
家事労働には経済的利益が認められる
この定義からすると現実収入のない主婦や学生・無職の方などは基礎収入がなく、逸失利益が認められないことになってしまいそうです。
しかし、主婦の方に後遺障害が残れば、将来の家事や育児に支障が出るにもかかわらず、それについて補償がないのは不合理です。
そこで、判例は以下のとおり、家事労働は金銭的に評価できるものとして、家事労働の経済的利益を認めています。
結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであ(略)るから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。
出典:最判昭和49年7月19日
判例にも記載されていますが、家事を家政婦の方に依頼するにはお金が必要であることからすれば、当然といえるかもしれませんね。
その結果、収入のない専業主婦でも後遺障害の逸失利益を受け取れることになります。
なお、同じく収入のない学生や無職の方も将来的に収入を得られる可能性があるので、逸失利益が認められることが多いです。
収入のない者の後遺障害の逸失利益について簡単に表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
立場 | 請求 | 始期 |
---|---|---|
専業主婦 | ○ | 症状固定時 |
学生 | 18歳or大学卒業時 | |
無職 | △※ | 症状固定時 |
※将来的な就労の蓋然性がある場合
現実収入のない主婦の方の場合、逸失利益の請求を見落としている場合があります。
冒頭でお伝えしたとおり、後遺障害による逸失利益は交通事故の損害賠償の中で大きな割合を占める損害の項目です。
一度示談してしまうと、損害賠償額の大幅な増額の機会を逃してしまうかもしれません。
主婦の方は示談される前に必ず弁護士に一度相談をした方がいいでしょう。
専業主婦の基礎収入の計算方法は?
家事労働は金銭的に評価できるとしても、具体的に基礎収入をいくらとして計算すればいいかはよくわかりませんよね。
実は、主婦(家事従事者)の基礎収入の計算方法は基準によって違うんです!
ここからは、各基準ごとに説明していきたいと思います。
自賠責基準
まず、自賠責基準では、主婦(家事従事者)の基礎収入を以下のように定めています。
② 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
全年齢平均給与額の年相当額とする。
ただし、58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額とする。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
そして、自賠責の全年齢平均給与額は月額で
- 男子:415,400円
- 女子:275,100円
と定められており、年額計算ですと
- 男子:4,984,800円
- 女子:3,301,200円
となります。
弁護士基準
一方、弁護士基準では、女性労働者の全年齢の平均賃金となります。
先ほどご紹介した判例でも、同様のことが述べられています。
家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。
出典:最判昭和49年7月19日
そして、具体的な平均賃金は、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめた賃金センサスを基に算出されます。
そのため、平均賃金は毎年変動することになりますが、通常事故前年の賃金センサスを用いることになります。
なお、最新の平成28年の女性労働者の全年齢平均賃金は3,762,300円となっています。
追記:平成30年の女性労働者の全年齢平均賃金は3,826,300円となっています。
最後に、自賠責基準と弁護士基準との休業損害及び逸失利益の金額を検証した表にまとめてみました。
自賠責基準 | 弁護士基準※ | |
---|---|---|
休業損害(日額) | 5,700円 | 10,483円 |
逸失利益(年額) | 3,301,200円※ | 3,826,300円 |
※自賠責は58歳未満の女性、弁護士は平成30年賃セ
任意保険会社は自賠責基準の金額で提示をしてくることも多いです。
休業損害ほどではないですが、後遺障害の逸失利益も弁護士基準の金額を用いることで増額の可能性があります。
任意保険会社から逸失利益の提示があった場合には、示談する前に一度弁護士に相談してみた方がいいでしょう。
主夫の基礎収入の計算方法は?
近頃は、下のツイートの方のように、男性の方がもっぱら家事に従事するいわゆる「主夫」の方も増えているようです。
わしもこの週末は初めから慣れない専業主夫でクタクタなり。
— ひゅーXもじゃっくまん (@bigimo) August 27, 2017
こういった場合、男性であるということで、基礎収入の計算方法が変わるのか疑問に思われる方がいるかもしれません。
しかし、結論としては、いわゆる主夫の方であっても、基礎収入は女性労働者の平均賃金が用いられることが多いようです。
あくまで、家事労働という内容に着目して基礎収入を算出しているため、労働を行った者の性別は影響しないということです。
ただし、自賠責基準では機械的に男子の全年齢平均が適用される結果、女性の専業主婦よりも逸失利益が高額になる可能性があります。
兼業主婦の逸失利益の計算方法は?
働く全ての主婦が兼業主婦ではない
以下の統計のとおり、最近では共働きの世帯は専業主婦の世帯の倍近くあるようです。
もっとも、共働きといっても、その働き方は様々です。
一般的には、働きに出られている既婚女性の方はすべて「兼業主婦」と呼ばれています。
しかし、交通事故の損害賠償においては週30時間未満勤務の女性を兼業主婦と呼ぶことが多いようです。
週30時間以上のフルタイムで働かれている方の場合には、給与所得者として逸失利益が計算されることになります。
兼業主婦の基礎収入の計算方法は?
それでは、週30時間未満働いている兼業主婦の基礎収入の計算方法はどのようになるのでしょうか?
結論からいうと、現実収入と平均賃金の高い方を基礎収入とする取扱をしています。
ただし、先ほど見たとおり、自賠責基準と弁護士基準とで平均賃金の額が異なるので、その点は注意が必要です。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
平均賃金以上 | 現実収入 | |
平均賃金(年額)※ | 3,301,200円 | 3,826,300円 |
※自賠責は58歳未満の女性、弁護士は平成30年賃セ
兼業主婦の方の場合、任意保険からの逸失利益の提示額が、平均賃金以下の現実収入を基礎に算出されている場合があります。
その場合、弁護士に依頼することで逸失利益が大幅に増額する可能性があります。
任意保険会社から逸失利益の提示があった場合には、示談する前に一度弁護士に相談してみた方がいいでしょう。
家事労働分は加算されないの?
兼業主婦の方からすると、仕事も家事もこなしているのであるから、現実収入と家事労働分の両方を補償してもらいたいと思われるかもしれません。
しかし、残念ながら、現実収入と家事労働分の両方が補償されることはほとんどないようです。
その理由としては、
- 本来主婦業は24時間労働であり、その主婦労働全体の経済的価値を平均賃金をもって評価している
- その一部の時間を割いて現実収入を得たとしても、それは主婦労働の一部が現実収入のある別の労働に転化したにすぎない
ということがあげられています。
つまり、平均賃金以下分の現実収入は、本来24時間労働である家事労働の中で既に評価されているという考え方です。
仕事が終わってから、頑張って家事をこなしている方からすると、納得出来ないような気もしますが、仕方がないのでしょうか・・・?
レポートにあるとおり、残念ながら家事労働分の加算は認められにくいのが実情です。
もっとも、
実収入の喪失が家庭に与える影響が大きい
などの事情を考慮して、基礎収入額を通常よりも高額にして逸失利益を計算した裁判例も存在します。
家事労働分が加算されないことに納得のできない兼業主婦の方は、とりあえず弁護士に相談だけでもしてみるとよいでしょう。
高齢者の家事労働の逸失利益は!?
高齢者は基礎収入が異なる場合も・・・
先ほど見たとおり、家事従事者の基礎収入は家事労働という内容に着目して算出されており、家事労働を行った者が誰かは関係ありません。
そのため、高齢者であっても、主婦として家事労働を行えば、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入に逸失利益を計算するのが原則です。
しかし、現実収入のある方は、高齢者になってくると次第に収入が減っていく場合が多くなります。
そのこととの均衡から、高齢者の場合には、全年齢平均よりも金額の低い年齢別平均賃金を基礎収入に逸失利益を計算する場合があります。
さらに、相当な高齢で身体状況などから通常の家事労働を行うことが困難と判断される場合には
平均賃金の金額から一定割合を減額した金額
を基礎収入に逸失利益を計算する場合もあるようです。
あくまで、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入に逸失利益を計算するのが原則です。
任意保険から、それ以下の金額を基礎収入にした逸失利益が提示された場合には、すぐに示談せず、一度弁護士に相談してみましょう。
子供夫婦と同居している高齢者は?
子供夫婦と同居している場合、高齢者が負担する家事の割合は、身体状況や同居家族の生活状況によって様々です。
その場合には、負担する家事の割合に応じて、女性労働者の平均賃金の一定割合を基礎収入に逸失利益が計算されることになります。
高齢者の方はどの程度家事を負担していたかを立証するのは、中々難しいところもあります。
立証にお困りの場合には弁護士に相談して、アドバイスだけでも聞いてみるとよいでしょう。
一人暮らしでも逸失利益が認められることも
家事労働は他人のために行う場合にはじめて経済的・金銭的価値を有することになります。
そのため、一人暮らしの方が家事労働を行っても基礎収入とは認められません。
ただし、基礎収入が、後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入であることから
将来的に一人暮らしの高齢者が子供夫婦と同居して家事を負担
する可能性が高いことを証明できた場合には、例外的に基礎収入が認められ、逸失利益が受け取れる可能性があります。
ここまで見てきた高齢者の家事労働の基礎収入の問題について、表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
同居あり | 一人暮らし | |
---|---|---|
原則 | 負担する家事の割合に応じて | 否定 |
例外 | 年齢別平均賃金を基礎※ | 将来的な同居の可能性 |
※相当な高齢の場合、さらに一定割合減額することも
このように、高齢者の家事労働の基礎収入は様々な問題があります。
そして、高齢者の家事労働の基礎収入がいくら認められるかによって、受け取れる逸失利益の金額が大幅に増える可能性もあります。
高齢者の家事労働の賠償問題でお悩みの場合には、示談する前に弁護士に相談することをおすすめします。
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最後に一言アドバイス
岡野弁護士、読者の方に、最後にアドバイスをお願いします。
冒頭でもお伝えしたとおり、後遺障害による逸失利益は交通事故の損害賠償の中で大きな割合を占める損害の項目です。
しかし、主婦の方の逸失利益は増額の可能性が高いにもかかわらず、安易に示談をしてしまえば、大幅な増額の可能性を失うかもしれません。
後遺障害の逸失利益を主婦がどれくらい受け取れるのか、少しでも疑問があれば、示談する前に必ず弁護士に相談しましょう。
まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。