自転車事故判例で過失割合・高額賠償が争点の判決|自転車同士・対人・対車別

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自転車事故判例で過失割合・高額賠償が争点の判決|自転車同士・対人・対車別

子供が被害にあった自転車事故過失割合が争いになっているのだけれど、何か基準はないの?」

「自転車事故の過失割合は判例でどう判断されているの?」

「自転車事故でも高額な損害賠償が認められた事例もあるって聞いたけれど最高額はどれくらいなの?」

ご自身やお子様等がはじめて自転車事故の被害者になられた方は、自転車事故の過失割合や判例などに関し、詳しくご存じでない方も多いと思います。

このページでは、そんな方のために

  • 自転車事故の過失割合の基礎知識判例の傾向
  • 自転車事故の過失割合が争いになった裁判例
  • 自転車事故で高額な損害賠償が命じられた事例

といった事柄について、徹底的に調査してきました!

専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。

弁護士の岡野です。よろしくお願いします。

自転車事故は通常の交通事故の場合以上に過失割合が争いになる事例が多いです。

実際に、過失割合が大きく争われた裁判例も存在します。

また、最近では、自転車事故の場合でも高額な損害賠償が命じられた裁判例が出されています。

こちらでは、実際の裁判例も交えて、自転車事故の過失割合や損害賠償についてできるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。

冒頭で岡野弁護士から、自転車事故は通常の交通事故の場合以上に過失割合が争いになる事例が多いという解説がありました。

一体、これはどういった理由からなのでしょうか?

また、自転車事故の過失割合を決める際に、何か基準になるものはあるのでしょうか?

まずは、自転車事故の基礎知識や自転車事故の過失割合の基礎知識を確認していきたいと思います!

自転車事故の過失割合と判例

自転車事故の過失割合と判例

自転車事故とは

自転車事故の件数についての統計

自転車事故の件数自体は減少傾向

そもそも、自転車事故は毎年どれくらい発生し、交通事故においてどれくらいの割合を占めているのでしょうか?

警察庁が発表している自転車事故の件数推移に関する統計データが、以下のページに掲載されています。

Pz-LinkCard
- URLの記述に誤りがあります。
- URL=http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/about_mpd/jokyo_tokei/tokei_jokyo/bicycle.files/001_28.pdf

昨今、自転車事故に関するニュースをよく聞きますが、統計上、自転車事故の発生件数は減少傾向にあるようです。

とはいっても、直近の平成28年でも自転車が関与する事故は約9万件も発生しており、交通事故の約2割が自転車が関与する事故になっています。

自転車と歩行者の事故は増加傾向

また、自転車事故の件数は、減少しているものの、自転車と歩行者の事故は反対に増加傾向にあるようです。

2000年と2010年の検証では、交通事故の総件数は約2割減少しましたが、自転車対歩行者の事故は約1.5倍に増加しました。

このことが、自転車事故自体の件数は減少しているにもかかわらず、自転車事故のニュースはよく聞かれるようになった原因の一つと考えられます。

死傷者は未成年者と高齢者に多い

そして、以下のページに掲載されているグラフのとおり、自転車事故の死傷者は、未成年者と65歳以上の高齢者で全体の過半数を占めています。

ご家族に自転車に乗られる子供や高齢者がおられるご家庭の方は、特に自転車事故に注意しなければいけませんね。

自転車事故の傾向
傾向
自転車事故全体の件数 減少
自転車と歩行者の事故 増加
死傷者 未成年・高齢者に多い

自転車事故の類型

先ほどの統計の話の際にも少し触れましたが、一言に自転車事故といっても、その中にはいくつかの類型があります。

類型①車と自転車の事故

まず、被害者が自転車走行中に加害者側が運転すると衝突するような類型の自転車事故が考えられます。

類型②自転車同士の事故

また、被害者も加害者もともに自転車という類型の自転車事故も考えられます。

類型③自転車と歩行者の事故

さらに、被害者が歩行者であり、加害者が運転する自転車に轢かれるような類型の自転車事故も考えられます。

自転車事故の類型
類型① 類型② 類型③
被害者 自転車 自転車 歩行者
加害者 自転車 自転車

自転車事故の特徴

①加害者が保険未加入の場合が多い

加害者が車の場合、車は自賠責保険への加入が、以下の条文のとおり法律上義務付けられています。

自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(略)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。

そして、車の所有者の多くは、強制加入である自賠責保険に加えて、任意の自動車保険にも別途加入しています。

具体的な任意保険の加入率の統計は以下のページに掲載されているとおりですが、対人・対物賠償保険の加入率は2017年3月末時点で87.9%となっています。

一方、加害者が自転車の場合、車の自賠責保険のような強制的に加入が義務付けられている保険は存在していません

また、高額な賠償金が命じられたニュース等により、徐々に認知度は高まっているものの、実際の自転車保険の加入率は2割程度のようです。

全体(1,000人)でみると、自転車保険に加入しているのは176人(17.6%)となり、まだ加入者は少ないという傾向が明らかになった。

このように、加害者が自転車の場合に、加害者が保険未加入の場合が多いことが、自転車事故の特徴の一つといえます。

②後遺障害を認定する機関がない

加害者が車の場合被害者後遺症が残った場合には、加害者の加入する自賠責保険会社を通じて、

損害保険料率算出機構が後遺障害の有無及び等級を認定

することになります。

一方、加害者が自転車の場合、車の損害保険料率算出機構のような中立的な立場から後遺障害の有無及び等級を認定する機関は存在していません

そのため、被害者は、

医療記録などの資料を根拠に自身の後遺障害の有無や程度を主張

しますが、第三者機関が認定しているわけではないため、加害者側も容易には納得せず争いになることが多いのが、自転車事故の特徴の一つです。

③過失割合が問題になりやすい

上記の類型①のほとんどの場合は、けがを負うのは自転車に乗っていた被害者だけになります。

しかし、自転車は道路交通法上は車両として扱われ、車と同様の規制に服するため、

過失割合は単車よりは有利に修正されるが、歩行者と同等程度までには修正されない

ことになります。

しかし、自転車が車両として扱われるという意識に乏しく、自分だけがけがをしているということもあり、被害者が過失割合に納得しないことも多いです。

次に、上記の類型②の場合、裁判例の集積に乏しく、車両同士の事故の場合を参考にしますが、車両同士の事故とは当然異なる面もあります。

そのため、当事者双方が中々過失割合に納得せず、問題になりやすいといえます。

そして、上記の類型③の場合、類型①の場合同様、自転車は道路交通法上は車両として扱われ、車と同様の規制に服するため、

過失割合は車と歩行者の事故の場合よりは自転車に有利に修正されるが、歩行者が自転車より有利に扱われることには変わりはない

ことになります。

しかし、自転車が車両として扱われるという意識に乏しく、歩行者と自転車にそれほどの差はないと考え、加害者が過失割合に納得しないことも多いです。

このように、自転車事故の場合、

  • 車両としての意識が乏しく、被害感情が強くなりやすい
  • 車両同士の交通事故に比べて判例の集積に乏しい

ことなどから、自転車事故の場合には、その他の類型の交通事故以上に過失割合が争いになりやすいといえます。

自転車事故の類型と該当する特徴
自転車対車 自転車同士 歩行者と自転車
加害者が保険未加入 少ない 多い 多い
後遺障害認定機関 あり なし なし
過失割合 争いになりやすい

自転車事故の過失割合の基礎知識

過失割合の基礎は判例タイムズ等

もっとも、交通事故における過失割合は、大量の同種事案を公平・迅速に処理すべく、事故の類型毎に基本的な過失割合の基準が存在します。

このことは、基本的に自転車事故の場合も同様です。

その過失割合の基準は、東京地裁で民事交通訴訟を集中して担当する専門部の裁判官が中心となり作成した認定基準が実務上用いられています。

その認定基準は、「別冊判例タイムズ 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という書籍において公表されています。

こちらの書籍は、弁護士をはじめとする専門家向けの本で、一般の方が読むには少々難しいものです。

保険会社が説明する過失割合に不満や疑問があるときは、弁護士に相談し、あなたの交通事故の状況を詳しく伝えるといいでしょう。

こちらの書籍で公表される基準にもとづいて、過失割合が適正か否か、教えてもらうことができます。

ただし、先ほども少し触れましたが、かかる書籍にも自転車同士の事故の過失割合の基準は掲載されていません

最終的には当事者間の交渉で決定

このように、自転車事故の過失割合を決める際にも一定の基準は存在します。

とはいえ、一言で自転車事故といっても具体的な事情は様々であり、全く同じ自転車事故は存在しません。

また、いくら基準があるとはいっても、自転車事故の当事者同士が双方その基準に納得しなければ、過失割合は決まりません。

そのため、自転車事故の過失割合は、最終的には当事者間の交渉により決定されるといえます。

交渉が成立せず訴訟になることも

しかし、自転車事故の特徴のところでお伝えしたとおり、交渉では過失割合が決まらないことも多く、その場合には訴訟になることもあります。

訴訟になれば、最終的には裁判所が過失割合を決定し、高額賠償が命じられることもあります。

もっとも、特徴のところでお伝えしたとおり、加害者が自転車の自転車事故の場合、加害者側が保険未加入の場合も多いです。

その場合、高額な損害賠償判決が出たとしても、実質的に回収が困難な場合もあるので注意が必要です。

色々とお伝えしてきましたが、

  • 自転車事故にも過失割合の基準はあるが、通常の交通事故よりも裁判例の集積に乏しい
  • 最終的には、自転車事故の過失割合は当事者間の交渉で決まるが、通常の交通事故よりも当事者の納得が得られにくい
  • 過失割合に納得できず、訴訟を提起しても、賠償金を回収できない可能性が通常の交通事故の場合よりも高い

ということをここでは押さえておきましょう。

自転車事故の判例の傾向について

お伝えしたとおり、自転車事故の場合、交渉が成立せず訴訟に至る事例もあります。

では、自転車事故の判例にはいったいどういった傾向があるのでしょうか?

訴訟上でも和解ができない事例も

実は、訴訟が提起された事例でも、比較的多くの事例は和解で終了することになります。

しかし、自転車事故の場合は、過失割合損害賠償金額が合意できたのに、ある点で和解できない事例が他の交通事故よりも多いようです。

それは、和解金(示談金)の支払方法です。

加害者が自転車の場合、保険未加入の場合も多く、その場合、和解金は加害者本人が支払うことになります。

もっとも、加害者の資力の問題から、和解金を一括では支払えない場合も多いため、支払回数や1回ごとの支払金額が争いになります。

この点で合意ができず、判決に至らざるを得ない事例が他の交通事故よりも多い傾向にあるようです。

過失割合が大きく争われることも

また、自転車事故の場合、訴訟が提起された後も、

  • 車両としての意識が乏しく、被害感情が強くなりやすい
  • 車両同士の交通事故に比べて判例の集積に乏しい
  • 加害者側の自転車が保険未加入の場合には、代理人の入らない当事者間の訴訟になることも多く、冷静かつ合理的な判断がつきにくい

などの理由により過失割合が争われやすい傾向にあるようです。

高額賠償の判例が増加傾向にある

さらに、最近では、加害者が自転車の交通事故事例でも、高額賠償が命じられる判例が増加傾向にあるようです。

ニュース等でも取り上げられるようになったため、もしかしたらご存知の方もいるかもしれません。

具体的な高額賠償の判例については、自転車事故の各類型ごとに確認していきたいと思います。

自転車同士の自転車事故の過失割合と判例について

自転車同士の自転車事故の過失割合と判例について

過失割合の基礎

まずは、自転車同士自転車事故過失割合について検討してみたいと思います。

先ほどもお伝えしたとおり、過失割合の基準が掲載されている別冊判例タイムズにも、自転車同士の事故の過失割合の基準は掲載されていません。

もっとも、日弁連交通事故相談センター東京支部過失相殺研究部会が、試案ではありますが、自転車同士の事故の過失相殺基準を公開しています。

かかる基準では、車両同士の事故の過失割合を基準にしつつ、自転車の特殊性に応じて一部修正を加えています。

車両同士の事故と自転車同士の事故で基本過失割合が異なる事故類型を抜粋して表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。

車両同士の事故と自転車同士の事故で基本過失割合が違う事故類型
車両同士 自転車同士
一時停止のある交差点の出合い頭衝突 20:80 30:70
一時停止のある丁字路の衝突 15:85 25:75
交差点の出合い頭衝突 左方40:右方60 左方45:右方55
丁字路の衝突 直進30:右左折70 直進40:右左折60
追越車と被追越車 先行20:後続80 先行0:後続100
進路変更車と後続直進車 先行90:後続10※ 先行60:後続40

※先行者に進路変更の合図がない場合

このような修正は

  • 一時停止規制は自転車の場合、必ずしも厳密に順守されていない社会実態
  • 自転車は車両に比べて低速であることから、回避可能性が車両よりやや高い
  • 自転車は免許制度ではないため、左方優先という道路交通法の規制を知らないことも多い
  • 自転車にはバックミラーがなく、後方車の認識が困難

などの、自転車の特殊性を考慮した修正と考えられます。

過失割合が争われた裁判例を紹介

もっとも、先ほどご紹介した自転車同士自転車事故過失割合は、あくまで試案の基準にすぎません。

そこで、続いては、実際の自転車同士の自転車事故の過失割合が争われた裁判例についていくつかご紹介していきたいと思います。

神戸地裁平成28年6月29日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 51歳 女性 電動アシスト付き自転車を運転
被告 16歳 男性 外装変則6段ギア付き自転車を運転
事故状況 被告側に一時停止規制のある交差点の出合い頭衝突

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 10 40 25
被告の過失割合 90 60 75
主張・判断理由 ・被告は一時停止を無視し、相当の速度で交差点に進入
・原告は徐行で交差点に進入
・歩道寄りを走行していたのは歩行者を避けるという正当な理由があったため
・原告は相当の速度で交差点に進入
・被告が交差点に徐行で先入
原告は歩道の車道側走行義務に違反
・被告には一時停止義務及び左方確認義務違反あり
・原告にも歩道の車道側走行義務違反あり
・自転車同士の衝突場所から被告の先入認められない
・破損状況や転倒状況から双方共相当の速度の侵入認められない

なお、原告の過失として問題となっている、歩道の車道側走行義務は、道路交通法上、以下のように規定されています。

(略)普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分(略)を徐行しなければなら(略)ない。(以下略)

先ほどご紹介した、過失割合の基準の試案ですと、一時停止のある交差点の出合い頭衝突の基本過失割合は原告30:被告70でした。

それに対し、こちらの裁判例では、原告25:被告75と判断されており、必ずしも過失割合の基準の試案どおりの過失割合にならないことがわかります。

名古屋地裁平成27年3月11日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告側※ 77歳 男性
被告 17歳 女性
事故状況 ・午後7時30分頃
・信号のない丁字路入口の横断歩道上で、先行の原告が右折を開始した際、右側から原告を追い抜こうとした被告と衝突

※原告側当事者事故後に亡くなり、原告は当事者の相続人

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 40 70 70
被告の過失割合 60 30 30
主張・判断理由 ・被告の追い抜き時の側方距離の保持、安全確認義務違反
・被告は無灯火であった
・原告側の進路変更時の右後方の安全確認義務違反 ・被告にとって、原告車が右寄りに進路を変更することを予期することは困難
・被告が無灯火であったことを考慮

先ほどの表にはありませんが、過失割合の基準の試案だと、右折車と後続直進車の自転車同士の事故の基本過失割合は先行車65:後続車35になっています。

それに対し、こちらの裁判例では、先行者である現行70:後続車である被告30と、過失割合の基準の試案とは異なる判断がなされています。

東京地裁平成24年5月11日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 女性
被告 男性
事故状況 丁字路を右折してきた被告車と原告車が正面から衝突

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 0 80 30
被告の過失割合 100 20 70
主張・判断理由 ・被告には前方不注視の過失がある
・原告は路側帯を走行し、走行が許可される状況だった
・原告は衝突前に危険を察知して停止した
・原告には前方不注視の過失がある
・原告が走行していたのは路側帯ではなく、車道の逆走という違反がある
・原告車は、接触時、走行中であって停止していない
・原告車は停止直前に被告車と衝突している
・原告車は、路側帯内と車道の境界線付近を走行しており、路側帯の走行が許可されていた
・双方前方不注視の過失があるが、右折して本件道路に進入してきた被告の過失の方が大きい

なお、被告が原告の過失として主張した「車道の逆走」というのは、道路交通法上の以下の規定を前提としています。

車両(略)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、(略)軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。

自転車事故はこのような自転車の右側通行が原因で発生することも多いようです・・・。

自転車の右側通行は道路交通法違反であり、過失割合の判断においても、不利に働くことが多いですので、自転車に乗られる方は十分注意しましょう!

横浜地裁平成23年12月26日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 女性
被告 女性
事故状況 前方を走行していた原告車に後方から被告車が衝突

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 10 90 10
被告の過失割合 90 10 90
主張・判断理由 ・被告は安全確認義務に反し、歩道上の速度としては極めて速いスピードを出していた ・被告は原告以上のスピードで直角に進路変更してきた ・被告主張の事実は認められない
・主として被告の過失により本件事故が発生したものと判断される
・停止中ではなく、衝突時横断歩道のほぼ中央にいたことから原告にも過失はある

基本的には、原告の過失割合の主張を認めた事例といえます。

東京地裁平成22年9月14日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告側※ 71歳 男性
被告 12歳 男性
事故状況 ・午後7時5分頃
・信号機のない交差点の出合い頭の衝突事故(原告左方)

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 0 50 40
被告の過失割合 100 50 60
主張・判断理由 ・被告は無灯火かつ異常な高速度で交差点に進入
・原告は交差点に先入
・被告は灯火しており減速して交差点に進入
・原告は交差点に先入していたとはいえない
・自転車の場合には左方優先の原則は重視されるべきでない
・原告車は左側走行義務に違反している
・被告は灯火しており減速して交差点に進入
・原告は交差点に先入
・原告車左方進行を考慮
・原告車は道路の中央あたりを走行

先ほどの表にあるとおり、車両同士の交差点の出合い頭衝突事故の基本過失割合は左方40:右方60になっています。

こちらの判決の時点では、自転車同士の事故の過失割合の試案は出されていなかったため、車両同士の事故の過失割合を参考にしたものと考えられます。

ご覧いただいたとおり、自転車同士の事故の場合、お互いに相手方のほうが過失が大きいという主張がなされやすい傾向にあると考えられます。

そのため、裁判上でも双方が納得する和解ができず、判決にまで至るケースが想定されます。

自転車事故の高額な損害賠償事例

続いては、自転車同士の類型の自転車事故高額賠償が命じられた判例をいくつかご紹介したいと思います。

神戸地裁平成28年6月29日判決

こちらの判例は先ほど過失割合のところでもご紹介した事例ですが、損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 主婦
性別 女性
年齢 51歳
事故の内容 被告側に一時停止規制のある交差点の出合い頭衝突
傷害の内容 右脛骨高原骨折
入通院 入院日数137日、通院期間517日、実通院日数57日
後遺障害 12級の神経症状

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
医療費 170万221円
入院雑費 20万5500円
通院交通費 2万720円
休業損害 271万1600円
傷害慰謝料 250万円
後遺障害慰謝料 280万円
逸失利益 383万4657円
その他費用 4万8573円
物損 5万9400円
損害額小計 1388万671円
過失相殺 ▲347万168円
既受領額 ▲181万5401円
弁護士費用 85万円
損害額合計 944万5102円

損害総額は944万5102円でした。

主な内訳

休業損害は、

  • 入院日数137日及び本件事故日1日の合計138日が100%
  • 退院直後の31日が70%
  • その後の98日が50%
  • その後の症状固定日までの期間387日が20%

の制限があったとして計算

  • 逸失利益は、労働能力喪失期間を10年間、労働能力喪失率を14%として算定
  • 過失相殺は原告の過失割合を25%として算定

しています。

東京地裁平成24年3月16日判決

こちらの事例損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 会社員
性別 女性
年齢 54歳
事故の内容 自転車の前輪同士が衝突
傷害の内容 右橈骨遠位端骨折
入通院 通院期間417日間、通院実日数40日
後遺障害 10級10号の手関節の可動域制限

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
医療費 11万5885円
薬剤費 1万1400円
通院交通費 1万8060円
休業損害 374万6466円
傷害慰謝料 150万円
後遺障害慰謝料 495万円
逸失利益 1164万6231円
損害額小計 2198万8042円
過失相殺 ▲989万4619円
損害の填補 ▲135万1520円
弁護士費用 107万円
損害額合計 1181万1903円

損害総額は1181万1903円でした。

主な内訳
  • 休業損害は、237日分を認定
  • 逸失利益は、労働能力喪失期間を67歳までの11年間、労働能力喪失率は27%として算定
  • 後遺障害は、原告が適切な時期に手術を受けなかったことも影響しているとして、損害の90%の限度で、本件事故と相当因果関係のある損害と認定
  • 過失相殺は原告の過失割合を45%として算定

しています。

東京地裁平成24年3月16日判決

こちらの事例損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 駐車場の統括責任者
性別 女性
年齢 39歳
事故の内容 原告自転車が被告自転車の左側にごく接近して並んだ時、被告自転車が左側にそれて原告自転車に接触
傷害の内容 右母指末節骨開放骨折等
入通院 通院期間209日間、通院実日数13日
後遺障害 10級7号の右親指の関節可動域制限

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費・通院費 11万4374円
傷害慰謝料 100万円
後遺障害慰謝料 550万円
逸失利益 1148万7560円
損害額小計 1810万2024円
過失相殺 ▲814万5911円
損害の填補 ▲13万円
弁護士費用 98万円
損害額合計 1080万6113円

損害総額は1080万6113円でした。

主な内訳
  • 逸失利益は、労働能力喪失期間を67歳までの28年間、労働能力喪失率は27%として算定
  • その上で、現実に明らかな減収はないことから上記計算により算定した7割の金額を逸失利益として認定
  • 過失相殺は原告の過失割合を45%として算定

しています。

このように、自転車同士の事故であっても、1000万円を超える高額賠償が命じられた判例も存在します。

そして、被告の資力にもよりますが、これくらいの金額になると、保険などに入っていなければ、被告が一括して払うのは困難と考えられます。

そのような場合には、実際にどうやって損害賠償金を回収するかが別途問題になってきます。

歩行者と自転車との事故の過失割合と判例について

歩行者と自転車との事故の過失割合と判例について

過失割合の基礎

続いて、歩行者と自転車との自転車事故の類型の過失割合について検討してみたいと思います。

自転車同士の類型と異なり、こちらの類型は別冊判例タイムズに、過失割合の基準が掲載されています。

詳しくは、個々の事故類型ごとに細かく過失割合の基準が定められていますが、大まかな傾向として

自転車は、自動車などに比べて軽量かつ低速であり、衝突の際の衝撃や外力が少ないため、自動車などよりも歩行者に対する優者性の程度は低い

ことから、歩行者と自動車などとの事故の場合よりも、過失割合が自転車に有利に修正されることが多いといえます。

もっとも、事故の発生場所や態様により、歩行者保護の要請に差があることから、一律に一定の割合で修正されるわけではないことになります。

例えば、横断歩道付近の横断中の事故につき、歩行者と自転車の事故歩行者と自動車などの事故とでは過失割合が以下の表のとおり異なります。

対歩行者の横断歩道付近の横断中の過失割合
自転車 自動車等
横断歩道付近の横断中の事故 30:70 35:65

ただし、歩行者と自転車との事故であっても、自転車がいわゆる普通の速度(時速15㎞程度)を大幅に超える速度で走行していた場合には、

過失割合を自転車に有利に修正する根拠の一つである自動車などに比べて低速であることが妥当しない

ことから、歩行者と自動車等との事故の過失割合の基準を参考にして過失割合を決定することになる場合もあるので、その点は注意しましょう。

過失割合が争われた裁判例を紹介

もっとも、判例タイムズに掲載されている過失割合は、基準にすぎず、絶対的なものではありません。

そこで、続いては、実際の歩行者と自転車の自転車事故の過失割合が争われた裁判例についていくつかご紹介していきたいと思います。

神戸地裁平成21年3月25日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 54歳 女性
被告 男性
事故状況 信号機のない交差点を横断していた歩行者の原告と交差道路を直進して来た被告自転車とが衝突した事故

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 0 50 30
被告の過失割合 100 50 70
主張・判断理由 ・被告が自転車が猛スピードで突進してきたため衝突
・原告は確認のため駐車車両から10㎝前に出ただけ
・駐車車両で視界が悪いのに漫然と交差点に進入した原告に安全確認義務違反がある ・原告にも自転車の有無及び動静に対する注視が不十分であった過失がある
・10㎝出ただけでは衝突しないので、原告の主張認められない
・被告が猛スピードを出していたとまでは認められない
・被告走行道路のほうが相当程度広い

歩行者であっても、交差点に進入する際に、自転車が進行してくる可能性が認識できたことから、一定の過失が認められたものと考えられます。

大阪地裁平成8年10月22日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 71歳 男性
被告 男性 18段変速マウンテンバイクを運転
事故状況 ・午後7時10分頃
・被告が自転車・歩行者専用道路を走行中、前方に立っていた原告と衝突

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 15 50 15
被告の過失割合 85 50 85
主張・判断理由 ・被告は夜間に前照灯を付けずに運転
・変速ギアの操作で前方不注視
・被告は自転車としてはかなり速い時速20~25㎞で走行
・被告は飼い犬に気を取られて前方不注視 ・原告主張を認め、被告の重過失が主たる事故の原因と認定
・原告にも前方不注視あるが、原告の年齢も考慮

双方に前方不注視がある場合、程度の差こそあれ、自転車も歩行者に対する優者性が認められることから、自転車の方が過失割合が大きくなります。

名古屋地裁平成14年9月27日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告側※ 85歳 女性
被告 14歳 男性 マウンテンバイクを運転
事故状況 ・午後5時40分頃
・歩車道の区別のない道路で正面衝突

※原告側当事者事故後に亡くなり、原告は当事者の相続人

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 0 60 15
被告の過失割合 100 40 85
主張・判断理由 ・原告側が歩行していた場所は歩道上
・位置からして電柱の陰にはならない
・被告無灯火
・被告は相当の速度出していた
・原告は下を向いていて前方不注視
・原告が電柱の陰から突然出てきた
・事故の主たる原因は被告の安全確認義務違反
・原告側が電柱で見えなかったとはいえない
・被告無灯火
・被告は相当の速度出していたとはいえない
・下を向いていたかはともかく原告にも前方不注視

なお、被告は道路の左側端付近を適法に走行していましたが、それでも対面歩行者の安全を確認すべき注意義務が課せられる状況にあったとされています。

ご覧いただいたとおり、歩行者と自転車の事故の場合、双方に過失があっても、基本的には自転車側の過失が大きいものとして判断されます。

一方で、歩行者側にも自動車等との事故に比べ、より一定の過失が認められやすい傾向にあると考えられます。

自転車事故の高額な損害賠償事例

続いては、歩行者と自転車の類型の自転車事故高額賠償が命じられた判例をいくつかご紹介したいと思います。

神戸地裁平成25年7月4日判決

こちらの約9500万円もの高額賠償が命じられた神戸地裁判例ニュースでも大きく報じられたため、ご存知かもしれません。

基本情報
属性 専業主婦
性別 女性
年齢 62歳
事故の内容 正面衝突
傷害の内容 急性硬膜下血腫、広範囲脳挫傷、水頭症
入通院 入院日数182日
後遺障害 別表1の1級相当
意識障害(植物状態)

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費 298万2471円
装具費 3万9982円
入院雑費 27万3000円
入院付添費 109万2000円
休業損害 143万4160円
傷害慰謝料 300万円
後遺障害慰謝料 2800万円
逸失利益 2190万4918円
将来介護費 3938万6420円
損害額小計 9811万2951円
損益相殺 ▲290万5869円
損害の填補 ▲5999万9990円
損害額合計 3520万7092円

※原告側は自身の人身傷害保険から先行して受領

原告の損害総額は3520万7092円でした。

主な内訳
  • 逸失利益は、労働能力喪失期間を10年間、労働能力喪失率を100%として算定
  • 将来介護費は、日額8000円、期間を平均余命年数の23年として算定

しています。

なお、上記のとおり、原告の損害総額は3520万7092円ですが、被告側は、保険会社が原告側に先行して支払った5999万9990円の支払い義務も負います。

そのため、冒頭でお伝えしたとおり、合計で約9500万円もの支払い義務を負うことになります。

なお、本件は加害者が11歳の未成年であり、親権者である母親の監督義務が問われた事例でした。

そして、裁判所は被告である母親が事故当事者である息子に対し、

自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていたとはいえず、監督義務を果たしていなかった

ものと判断しました。

子供をもつ親の皆様は、お子様が自転車事故の被害者だけでなく、加害者にもなる可能性があるということを十分認識しておく必要があります。

また、本件では、原告側が人身傷害保険に加入していたため、先行して約6000万円を受領できましたが、

仮に、原告側に使用できる保険がなければ、実質的にほとんど損害を回収できない可能性

があった事案と考えられます。

自転車事故の保険は、加害者となった際の相手方への賠償だけでなく、被害者となった際の損害の確実な回収のためにも重要といえます。

東京地裁平成26年1月28日判決

こちらの事例損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 主婦
性別 女性
年齢 75歳
事故の内容 信号無視をして赤信号で交差点を直進し、横断歩道上の歩行者と衝突
傷害の内容 右前頭葉硬膜下出血、クモ膜下出血等
入通院 入院日数6日
結果 死亡

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費 4万4810円
入院雑費 9000円
休業損害 4万5869円
看護費用等 5万円
傷害慰謝料 13万円
死亡慰謝料 2600万円
逸失利益 1536万506円
葬儀費用 150万円
関係者雑費 2万975円
弁護士費用 430万円
損害額合計 4746万1160円

認められた損害総額は4746万1160円でした。

主な内訳
  • 死亡慰謝料は、被害者本人分2300万円、被害者の夫分200万円、被害者の息子分100万円として算定
  • 逸失利益は
  • 家事労働分を平均余命のほぼ半分の8年、生活費控除率を30%として算定
  • 年金分を平均余命の15年、生活費控除率を40%として算定

しています。

横浜地裁平成8年5月27日判決

こちらの事例損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 夫の店の手伝い
性別 女性
年齢 62歳(死亡時)
事故の内容 被告の自転車が道路の路側帯に居た歩行者の右脇腹に自転車の左ハンドルを衝突させ、その衝撃によりブロツク塀に頭を強打
傷害の内容 頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫、外傷性クモ膜下血腫等
入通院 入院日数557日
結果 死亡

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費 390万8046円
入院雑費 66万8400円
休業損害 304万3835円
傷害慰謝料 300万円
死亡慰謝料 1700万円
逸失利益 995万1200円
葬儀費用 120万円
損害額小計 3877万1481円
過失相殺 ▲775万4296円
損害の填補 ▲357万3071円
弁護士費用 280万円
損害額合計 3024万4114円

認められた損害総額は3024万4114円でした。

主な内訳
  • 逸失利益は、就労可能年数を9年間、生活費控除率を30%として算定
  • 過失相殺は原告側の過失割合を20%として算定

しています。

大阪地裁平成8年10月22日判決

こちらの判例は先ほど過失割合のところでもご紹介した事例ですが、損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 大学の非常勤講師
性別 男性
年齢 71歳
事故の内容 前照灯の備付けがない被告マウンテンバイクが時速20~25㎞で自転車・歩行者専用道路を走行中に歩行中の原告と衝突
傷害の内容 左急性硬膜下血腫、左脳挫傷、右頭蓋骨骨折
入通院 入院日数611日
後遺障害 1級相当
(脳挫傷による体幹機能障害及び両上下肢機能の著しい障害により身体障害者福祉法の身体障害者等級表一級の認定)

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費 5万6341円
入院雑費 79万4300円
休業損害 304万3835円
付添看護費 278万1000円
休業損害 16万2933円
傷害慰謝料 120万円
後遺障害慰謝料 2400万円
逸失利益 60万6566円
将来介護費 1202万4195円
将来雑費等 240万4839円
家屋改造費 342万302円
介助器具購入費 56万6811円
損害額小計 4801万7287円
過失相殺 ▲720万2594円
既払金 ▲1500万円
損害額合計 2581万4693円

原告の損害総額は2581万4693円でした。

主な内訳
  • 逸失利益は、事故がなければ非常勤講師を2年は続けられたものとして算定
  • 将来介護費は、日額5000円、期間を平均余命年数の2/3である8年として算定
  • 過失相殺は原告側の過失割合を15%として算定

しています。

なお、上記のとおり、判決で認められた原告の損害総額は3520万7092円ですが、被告は、原告に対し、先行して合計1500万円を支払っています。

このように、歩行者と自転車との類型の自転車事故自転車同士の事故の類型以上に高額賠償が命じられる可能性があるといえます。

そして、被告の資力にもよりますが、これくらいの金額になると、保険などに入っていなければ、被告が一括して払うのは困難と考えられます。

そのような場合には、実際にどうやって損害賠償金を回収するかが別途問題になってきます。

車と自転車の自転車事故の過失割合と判例について

車と自転車の自転車事故の過失割合と判例について

過失割合の基礎

続いて、自転車と車との自転車事故の類型の過失割合について検討してみたいと思います。

自転車同士の類型と異なり、こちらの類型は別冊判例タイムズに、過失割合の基準が掲載されています。

詳しくは、個々の事故類型ごとに細かく過失割合の基準が定められていますが、大まかな傾向として、

通常自転車の速度が四輪車・単車の速度と歩行者の速度との中間になること

から

自転車側の過失につき、単車よりは有利に修正されるが、歩行者と同視する程度までには修正されない

といえます。

例えば、双方赤信号の際の事故につき、単車と四輪車・自転車と四輪車・歩行者と四輪車とで、過失割合がそれぞれ以下の表のとおり異なります。

双方赤信号の場合の過失割合
単車 自転車 歩行者
四輪車 60 70 80
相手方 40 30 20

ただし、単車より有利に修正されるが、歩行者程までには修正されない根拠が、自転車の速度が単車の速度と歩行者の速度との中間にあることから

自転車の速度次第で、単車と四輪車との事故の過失割合の基準や自転車と四輪車との事故の過失割合の基準

を参考にして過失割合を決定することになる場合もあるので、その点は注意しましょう。

過失割合が争われた裁判例を紹介

もっとも、判例タイムズに掲載されている過失割合は、基準にすぎず、絶対的なものではありません。

そこで、続いては、実際の自転車と自動車との自転車事故の過失割合が争われた裁判例についていくつかご紹介していきたいと思います。

名古屋地裁平成28年3月11日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 女性 自転車運転
被告 男性 普通乗用自動車運転
事故状況 ・午後9時50分頃
・丁字路を左折してきた被告車と直進路の右側を走行していた原告車が衝突

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 0 30 25
被告の過失割合 100 70 75
主張・判断理由 ・被告車両が一時停止も左方の安全確認もせずに左折
・原告は被告車両と駐車車両との間に挟まれて逃げ場がなかった
・被告車両は一時停止後ゆっくりと左折
・原告は無灯火
・原告傘差し運転
・原告違法な右側通行
・被告走行路のほうが明らかに広い
・被告は、通常の交差点安全進行義務に加え、交差道路を通行する車両の進行妨害禁止義務もあり、過失の程度は重い
・自転車にも、注意義務違反、右側走行、傘差し運転などの過失がある

なお、道路交通法上、交差道路のほうが明らかに広い場合は、その道路を走行する車両の進行を妨害してはならないという義務が定められています。

車両等は、(略)通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。

一方、自転車側にも右側通行等の違反があったことから、一定の過失が認められています。

神戸地裁平成28年2月17日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 男性 自転車運転
被告 男性 普通乗用自動車運転
事故状況 道路外へ進出するために右折する四輪車と直進する自転車との事故

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 0 35 10
被告の過失割合 100 65 90
主張・判断理由 ・被告は、原告車を全く確認しておらず、特別に必要な左方向を確認する義務を怠った著しい過失がある
・原告は通常の時速10~15㎞で走行
・原告にはよそ見をする等前方不注視の著しい過失がある
・原告は通常の自転車の速度を大幅に超える時速30㎞程度で走行していた過失がある
・被告車の既右折
・被告の著しい過失までは認められない
・原告の著しい過失は認められない
・被告車の既右折認められない
・原告車の高速度の走行認められない

こちらの事例は、双方主張の修正要素を認定せず、判例タイムズの基本過失割合どおりの過失を認定した裁判例といえます。

さいたま地裁平成25年10月10日判決

こちらの事例の基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
原告 女性 66歳
被告 男性 普通乗用自動車運転
事故状況 信号のない交差点の出合い頭衝突

そして、過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断は以下の表のとおりです。

過失割合に関する双方の主張及び裁判所の判断
原告主張 被告主張 裁判所の判断
原告の過失割合 5 30 20
被告の過失割合 95 70 80
主張・判断理由 ・横断歩道上で発生した事故
・原告高齢者
・被告に著しい過失あり
・本件事故は道路幅が狭い場合に該当
・自転車側に一時停止規制がある類型であり、基本過失割合は40:60
・原告高齢者以外の修正要素なし
・原告走行側に一時停止規制
・原告高齢者
・横断歩道上で発生した事故

こちらの事例は、当事者双方及び裁判所ともに、判例タイムズをベースに過失割合を主張・認定した裁判例と考えられます。

自転車と四輪車の事故の場合、単車と四輪車の事故の場合に比べれば、自転車の過失が小さく判断されやすいといえます。

一方で、自転車は道路交通法の規制を受けるため、自転車に道路交通法違反が認められる場合には過失がより大きく判断されることになるといえます。

自転車事故の高額な損害賠償事例

最後に、自転車と自動車との類型の自転車事故高額賠償が命じられた判例をいくつかご紹介したいと思います。

千葉地裁松戸支部平成29年9月8日判決

こちらの事例は、今年判決が出された最新の判例ですが、損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 社会人(高卒)
性別 男性
年齢 25歳(症状固定日)
事故の内容 被告車が、中央線を逸脱して対向車線に進入し、対向車線を自転車で走行していた原告に衝突
傷害の内容 脳震盪、顔面骨折、両側肺挫傷、胸髄損傷、胸椎脱臼骨折、右下腿コンパートメント症候群、右膝靱帯損傷等
入通院 入院11ヶ月、通院18ヶ月、通院日数133日
後遺障害 別表第一第1級1号

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費・文書費 3708万4915円
通院交通費 27万9300円
入院雑費 47万2500円
入院付添費 109万2000円
介護備品等 193万9015円
入院付添費 57万2000円
付添人交通費 4万1661円
休業損害 143万4160円
住宅改造工事費 2320万5000円
装具代 111万5850円
休業損害 182万7324円
入通院慰謝料 318万9000円
将来治療交通費 223万6020円
将来介護費 1億661万9420円
将来介護用ベッド 389万674円
車いす買替費用 72万323円
後遺症逸失利益 7911万5266円
後遺症慰謝料 2800万円
既払金 ▲7049万6740円
弁護士費用 2190万円
損害額合計 2億4171万1528円

原告らの損害総額は2億4171万1528円でした。

主な内訳
  • 将来介護費用は、原告の父が67歳になるまで日額8000円で、67歳になって以降は日額1万8000円で、原告の平均余命の55年間算定
  • 後遺症逸失利益は、基礎収入を高卒の全年齢平均賃金センサスで、労働能力喪失期間を原告が67歳までの42年間で算定

しています。

東京地裁平成25年1月30日判決

こちらの事例損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 兼業主婦
性別 女性
年齢 59歳
事故の内容 信号のない丁字路で、被告車が突き当たり路を右折する際、右方から走行してきた原告自転車と衝突
傷害の内容 脳挫傷
入通院 入院日数合計1441日
後遺障害 別表第一第1級1号

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
治療費 1276万6589円
入院雑費 216万1500円
文書料等 4万8300円
症状固定後の入院費用 800万9070円
付添看護費 936万6500円
将来介護費 1500万円
将来雑費 641万6449円
休業損害 1388万9799円
入通院慰謝料 538万円
後遺症逸失利益 2740万7002円
後遺症慰謝料 2400万円
損害額小計 1億5288万1609円
過失相殺 ▲2293万2242円
既払金※ ▲2234万4751円
近親者固有の慰謝料 300万円
弁護士費用 1116万円
損害額合計 1億2276万4616円

※既受領の自賠責保険金のうち3995万135円は遅延損害金に充当

原告らの損害総額は1億2276万4616円でした。

主な内訳
  • 逸失利益は、基礎収入を女性の全年齢平均賃金センサスの85%で、労働能力喪失期間を症状固定時の63歳の平均余命の約半分である13年間として算定
  • 過失相殺は原告側の過失割合を15%として算定

しています。

東京地裁平成23年10月4日判決

こちらの事例損害賠償に関する基本情報は以下の表のとおりです。

基本情報
属性 ・専業主婦
・幼児
性別 ・女性
・男性
年齢 ・42歳
・2歳
事故の内容 自転車が横断歩道を走行中、被告運転のダンプカーが交差点を左折して横断歩道を通過しようとした際に衝突
傷害の内容 ・胸腹部臓器損傷
・外傷性血胸
結果 死亡

そして、認められた損害賠償の額は以下の表のとおりです。

認められた損害賠償額
逸失利益 5647万785円
慰謝料 5200万円
葬儀費用 968万3810円
損害額合計 1億1815万4595円

原告らの損害総額は1億1815万4595円でした。

なお、こちらは、母親が2歳の次男を自転車に乗せて走行中に事故にあい、両名ともお亡くなりになった事例になります。

主な内訳
  • 逸失利益は、母親分が3422万1531円、次男分が2204万9254円
  • 慰謝料は母親分が2400円、次男分が2000万円、夫(父親)分が400万円、長男分が400万円

となります。

自転車と自動車との類型の自転車事故の場合、衝突時に被害者の身を守るものがないため、重篤な結果を引き起こしがちです。

その結果として、ご覧いただいたとおり、億を超える高額賠償が命じられた裁判例も出されています。

ただし、加害者が自転車の類型の自転車事故の場合より、加害者が保険に加入している場合が多いため、回収可能性はその他の類型より高いといえます。

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最後に一言アドバイス

岡野弁護士、読者の方に、最後にアドバイスをお願いします。

ご覧いただいたとおり、一言に自転車事故といっても、類型ごと過失割合の考え方は異なります。

また、過失割合の争いや損害賠償の金額の争いなどから裁判にまで至るケースも考えられます。

自転車事故の場合、回収可能性が問題になることも多いので、その点も含め、自転車事故の過失割合でお悩みの方は弁護士に相談してみましょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。

このページを最後までお読みの方は、

  • 自転車事故の過失割合の基礎知識判例の傾向
  • 自転車事故の過失割合が争いになった裁判例
  • 自転車事故で高額な損害賠償が命じられた事例

について、理解を深めていただけたのではないかと思います。

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皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。

自転車事故の判例についてのQ&A

自転車事故にはどんな特徴があるの?

一言で自転車事故といっても、その中にはいくつかの類型があります。①車と自転車の事故、②自転車同士の事故、③自転車と歩行者の事故にわけられます。中でも、③自転車と歩行者の事故は増加傾向にあるといわれています。 自転車事故は3つの類型にわけられる

自転車事故に過失割合の基準はあるの?

自転車事故にも過失割合の基準があります。そもそも、交通事故における過失割合は、大量の同種事案を公平・迅速に処理するために、事故の類型毎に基本的な過失割合の基準が存在します。これは、自転車事故の場合にもあてはまります。 自転車事故「過失割合」の基礎知識

「歩行者 対 自転車」の過失割合の基準は?

この類型は、別冊判例タイムズに、過失割合の基準が掲載されています。大まかな傾向として、歩行者と自動車などとの事故の場合よりも、過失割合が自転車に有利に修正されることが多いといえます。自転車は、自動車などに比べて軽量かつ低速であり、衝突の際の衝撃や外力が少ないため、自動車などよりも歩行者に対する優者性の程度が低いとされます。 「歩行者 対 自転車」の過失割合の基礎

この記事の監修弁護士

岡野武志弁護士

アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。

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