後遺障害等級の事前認定とは?被害者請求と流れにどんな違いがあるの?
「交通事故の後遺障害について調べていたら事前認定って言葉が出てきたけど一体何のことなの?」
「後遺障害の事前認定の手続きはどうなっているの?」
「後遺障害の事前認定は非該当の可能性が高いって噂を聞いたけど本当なの?」
交通事故にあわれて後遺症が残ってしまった方の中には後遺障害の申請を検討されていらっしゃる方もいるかと思います。
しかし、はじめて交通事故に巻き込まれた方も多いでしょうから、後遺障害の事前認定とは何かがわからないという方もいるのではないでしょうか?
このページでは、そんな方のために
- 後遺障害の事前認定とは何か
- 後遺障害の事前認定の手続き
- 後遺障害の事前認定は非該当の可能性が高まるのか
について、徹底的に調査してきました!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
交通事故の被害者の方でも、後遺障害の事前認定とは何かについて、よくおわかりになっていない方がいらっしゃるかもしれません。
後遺障害の事前認定にはメリットもデメリットも存在します。
後遺障害の事前認定とは何かをしっかり理解した上で、ご自身に適した後遺障害の申請方法を選択できるようにしましょう。
目次
そもそも、事前認定という言葉自体、聞きなれない言葉ですよね。
後遺障害の手続きと何やら関連がありそうですが、具体的に事前認定とは何かについて、まずは確認していきたいと思います!
後遺障害の事前認定とは何か
自賠責への後遺障害の申請方法
事前認定とは、簡単に言うと相手方任意保険会社が窓口となり、被害者の自賠責保険の後遺障害の等級認定を事前に確認する方法のことです。
交通事故の加害者が、自賠責保険だけではなく任意保険にも加入している場合、被害者は、任意保険会社から
- 自賠責保険金分
- 自賠責保険金分を超える任意保険会社負担分
を一括して支払ってもらうことになります。
この制度のことを一括払制度といいます。
相手方任意保険会社は、被害者に一括払いをした後、自賠責保険から、自賠責保険金分を回収します。
この制度のことを加害者請求といいます。
この制度が自賠法15条を根拠としていることから15条請求とも呼ばれています。
被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。
出典:自動車損害賠償保障法第15条
この加害者請求の前提として、一括払いをする相手方任意保険会社は、自賠責から支払われる保険金分をあらかじめ確認する必要があります。
その一環として、被害者の自賠責保険の後遺障害の等級認定を事前に確認する事前認定という方法があります。
事前認定は、相手方任意保険会社から第三者機関である損害保険料率算出機構に損害調査を委託する方法で行われます。
事前認定のメリット
ご覧頂いたとおり、事前認定は相手方任意保険会社が主体となり、相手方任意保険会社のために行われる手続といえます。
そのため、後遺障害の申請の必要書類の収集や費用負担は、原則として相手方任意保険会社となるため、被害者からすると
- 資料収集の負担が少ない
- 費用負担がない
ことがメリットといえます。
事前認定のデメリット
また、ご覧頂いたとおり、事前認定は相手方任意保険会社が主体となり、加害者請求の前提として行われる手続といえます。
そのため、後遺障害の申請の手続きに、原則被害者は関与できず、自賠責保険に対する保険金(相当額)請求手続きに先行して行われるため、
- 手続きが不透明
- 等級が認定されても、すぐには自賠責保険金(相当額)を受領できない
ことが被害者にとってのデメリットといえます。
まずは、事前認定のメリット・デメリットについて正確に理解しておくことがここでは重要といえます。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
① | 資料収集の負担が少ない | 手続きが不透明 |
② | 費用負担がない | すぐには保険金受領できない |
後遺障害の事前認定の手続きは?
事前認定で被害者が取得すべき必要書類
お伝えしたとおり、事前認定は相手方任意保険会社が主体となり、相手方任意保険会社のために行われる手続きといえます。
そのため、後遺障害の申請の必要書類の収集は、原則として相手方任意保険会社が行います。
ただし、事前認定の場合であっても、必要書類のうち後遺障害診断書だけは被害者が取得することになります。
そして、後遺障害の事前認定の手続きは以下のようになります。
① 主治医に作成してもらった後遺障害診断書を相手方任意保険会社に提出
↓
② 相手方保険会社が必要書類を揃え、被害者の後遺障害の等級の認定を損害保険料率算出機構に依頼
↓
③ 損害保険料率算出機構から相手方任意保険会社に被害者の等級認定の結果を通知
↓
④ 相手方保険会社から被害者に後遺障害の等級認定の結果を通知
必要書類の後遺障害診断書の作成ポイント
事前認定は相手方任意保険会社が主体となる手続のため、後遺障害の申請の手続きに、原則被害者は関与できません。
そのため、後遺障害診断書の取得が、被害者請求の手続きにおいて、ほぼ唯一被害者が関与できる部分といえます。
そして、自賠責保険の後遺障害の認定手続きは書面審査のため、後遺障害診断書の記載内容・方法が認定に大きな影響を及ぼします。
そこで、ここからは必要書類である後遺障害診断書の作成ポイントについてご紹介していきたいと思います!
まず、自賠責保険所定の後遺障害診断書の書式は、下記のページに掲載されているものになります。
そこで、後遺障害診断書の書き方のポイントを後遺障害診断書の書式に沿って各項目ごとに検討していきたいと思います。
①被害者の個人情報
まずは、書式の左上の部分に被害者の個人情報を記載することとなります。
具体的には以下のとおりになります。
- 氏名
- 性別
- 生年月日
- 住所
- 職業
なお、職業欄は記載されないことも多いですが、そのことにより訂正を求められることはないようです。
②受傷日時
交通事故証明書記載の事故発生日を記載します。
事故の翌日以降にはじめて通院し、事故日を伝えていない場合、初診日を誤って記載されてしまう場合があるのが注意点です。
③症状固定日
症状固定日の欄には、治療を続けてもこれ以上良くならない状態に達した日を記載します。
症状固定日は賠償や後遺障害の認定において重要な意味を持ちます。
にもかかわらず、被害者の方と主治医の方の症状固定日の認識が違う場合があるため、提出前によく確認する必要があるのが注意点です。
④当院入院期間
後遺障害診断書を記載してもらう病院での入院期間を記載します。
転院前に他の病院で入院していた場合、その入院期間は記載されませんが、 申請時に同時に提出する経過の診断書により確認できるので問題ありません。
⑤当院通院期間
後遺障害診断書を記載してもらう病院での通院期間を記載します。
転院前に他の病院で通院していた場合、その通院期間は記載されませんが、 申請時に同時に提出する経過の診断書により確認できるので問題ありません。
症状固定日後も通院することがありますが、通常通院の終期と症状固定日を一致させるのが注意点です。
また、実治療日数が記載されていない場合があるため、提出前によく確認する必要があるのも注意点です。
⑥傷病名
治療期間中の傷病名を記載します。
症状固定時に残存している傷病名だけが記載される場合もあります。
後者の場合には、後遺障害との関係で記載しておくべき傷病名に漏れがないか、提出前によく確認する必要があるのが注意点です。
⑦既存障害
後遺障害診断書に記載される障害を残す原因となった交通事故以前から被害者が有していた障害を記載します。
既存障害がある場合、交通事故と後遺障害との因果関係が争われることがあります。
そのため、既存障害があっても、今回問題となっている後遺障害とは無関係の場合は
- 無関係である旨を記載してもらう
- 既存障害の意味を説明した上で、記載してもらわないようにする
などの配慮が必要となるのが注意点です。
⑧自覚症状
症状固定時に被害者自身が感じており、医師に申告した症状を記載します。
特に重要なポイントになるので、後ほど詳しく説明いたします。
⑨各部位の後遺障害の内容
後遺障害の客観的証拠となる他覚症状と検査結果を記載します。
後遺障害診断書の中で最重要ともいえるポイントになります。
診断自体は、医師の判断であり、被害者が口出しをすることはできませんが
- 必要な検査
- 可動域制限の正確な測定方法
などを医師が把握していない場合もあるので、必要な検査や可動域制限の正確な測定方法を予め説明しておく必要があるのが注意点です。
⑩障害内容の増悪・緩解の見通し
後遺障害の症状の今後の見通しを記載します。
後遺障害とは将来においても回復が困難と見込まれる症状のことをいうため
緩解・軽減の見通しあり
などと記載されていしまうと、その記載を根拠に後遺障害認定が否定されてしまう可能性があるのが注意点です。
そのため、
- 「症状固定」
- 「今後の緩解の見通しなし(不明)」
などと記載してもらうのがポイントです。
お医者様の中には、時間の経過による自然治癒も含めて「緩解・軽減の見通しあり」と記載されてしまう方もいらっしゃいます。
その場合には、交通事故の賠償上は時間の経過による自然治癒があっても症状固定になることを説明する必要があります。
そういった説明やその他の記載の訂正・加筆にお悩みの場合、
弁護士に依頼して、弁護士から説明・依頼
してもらうことにより、問題が解決することもあるので、まずは弁護士に相談してみましょう。
なお、もっと詳しく後遺障害診断書の書き方について知りたいという方はこちらのページもご覧になってみて下さい!
後遺障害の事前認定には時効がない?
先ほどお伝えしたとおり、事前認定は、相手方任意保険会社が一括払いをした後、自賠責保険から、自賠責保険金分を回収する前提で行われます。
そのため、事前認定の場合、相手方任意保険会社が賠償金を被害者に支払う前ならいつでも申請でき、特に時効はないことになります。
注意すべきなのは、相手方任意保険会社が、被害者への一括払後、自賠責保険に自賠責保険金分を請求する加害者請求には時効があり、
賠償金支払時から3年
で時効になるという点です。
最後に、ここまでご紹介してきた後遺障害の事前認定の手続きについて表にまとめてみました。
原則 | 例外・注意点 | |
---|---|---|
申請主体 | 相手方任意保険会社 | 認定は損害保険料算出機構 |
資料収集 | 後遺障害診断書は被害者 | |
手続き関与 | 後遺障害診断書の記載には被害者関与可 | |
時効 | なし | ・被害者の相手方への賠償請求 ・加害者請求 には時効あり |
後遺障害の事前認定は非該当の可能性が高まる!?
事前認定で非該当の可能性が高まる理由
後遺障害の事前認定に関し、twitter上ではこんな意見も聞かれます。
事故の保険会社から封書が来てて後遺障害申請が非該当になりましたよ、って通知だった。事前認定だと大体は通らないとあったし想定内ではあったけどどうしたもんかなあ。弁護士入れるべきか諦めるべきか
— es (@es_atlf) December 13, 2015
このように、事前認定で申請すると非該当の可能性が高いという噂があるようです。
ここからはこの噂の根拠について、お伝えしていきたいと思います。
先ほど、事前認定のデメリットの一つとして、後遺障害の申請の手続きに、原則被害者は関与できず、手続きが不透明である点をお伝えしました。
「手続きが不透明」とは、保険会社が提出した書類の内容を被害者が把握できないということです。
具体的には、事前認定の場合、事案によってですが、保険会社は
後遺障害が認められにくい方向に働く内容の顧問医の意見書
を付けて被害者の後遺障害の等級の認定を損害保険料率算出機構に依頼することがあるようです。
このことが、事前認定で申請すると非該当の可能性が高いという噂の根拠の一つといえます。
むちうちで14級9号を狙う場合特に注意!
上記のようなことがあるため、特にむちうちで14級9号が認定されるか争いになるケースでは、事前認定での申請には注意すべきです。
画像等での他覚的所見のないむちうちで14級9号が認定されるか争いになる場合、後遺障害等級が認定されるかは提出書類の内容が大きく影響します。
そのため、保険会社が提出した書類の内容を被害者が把握できない事前認定では、特に非該当の可能性が高まるといえます。
事前認定で弁護士が申請してもいい場合とは?
一方、明確に後遺障害ありと判断される場合であれば、事前認定で申請することは、
- 資料収集の負担が少ない
- 費用負担がない
というメリットが得られ、むしろ有利といえます。
明確に後遺障害ありと判断される場合とは、具体的には、手足を失うなどの欠損障害等の場合が考えられます。
ただし、明確に後遺障害ありと判断される場合でも、
事故前からの症状である既往症がある
場合、既往症を理由に後遺障害の適切な後遺障害等級認定がされない可能性があるので、事前認定での申請には慎重になる必要があります。
後遺障害の申請を弁護士に頼んだ場合、弁護士は、被害者の代理人として活動することから、通常は
被害者請求
の方法で申請を行うことになります。
ただし、後遺障害の申請を弁護士が行う場合でも、明確に後遺障害ありと判断される場合には、事前認定の方法で申請することがあります。
明確に後遺障害あり | 後遺障害の判断困難 | |
---|---|---|
既往症あり | 事前認定には適さない場合あり | 事前認定には適さない |
既往症なし | 事前認定でも足りる場合あり |
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後遺障害の事前認定にはメリットも存在しますが、適切な後遺障害等級認定の可能性を高めるには事前認定の申請は適さない場合も多いです。
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まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
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