交通事故で裁判所を被害者が利用する方法|民事裁判・調停それぞれの注意点
この記事のポイントをまとめると
- 交通事故の民事上の問題について、示談できない場合には、裁判所に民事裁判や調停を被害者は申し立てることができる
- 交通事故で裁判所に民事裁判を申し立てた場合には、裁判所基準で出される和解案が重要になる
- 交通事故における民事調停の裁判所への申し立ては、管轄、呼び出しの通知を無視した効果、和解案の内容などに民事裁判の場合と違いがある
交通事故における裁判所について知りたい方はぜひご一読下さい。
目次
交通事故に関する問題は、裁判所で争われることがあります。
皆さんがまず思い浮かべるのは、交通事故の加害者が、裁判所で有罪・無罪やどのような刑罰が科すかが決められる裁判の場面ではないでしょうか?
しかし、交通事故では、裁判所を被害者が利用できる場面があります。
交通事故で裁判所を被害者が利用する方法
裁判所を被害者が利用できるのは民事上の問題
交通事故には、法律を犯した加害者にどのような刑罰を科すかという刑事上の問題以外にも
交通事故の被害者が受けた損害をどのようにして償うか
という民事上の問題があります。
この点、刑事上の問題は、検察庁(官)が加害者にどのような刑罰を求めるか(起訴)を決め、裁判所が起訴された事件に判断を下します。
つまり、交通事故の刑事上の問題を裁判所で争うかどうかは検察庁(官)が判断することであり、被害者自身が直接判断できるわけではありません。
一方、民事上の問題については、裁判所に訴状や調停申立書を提出することで、被害者が裁判所で争うかどうかを決めることができます。
この刑事上の問題と民事上の問題とを比較した表が以下のものになります。
刑事上の問題 | 民事上の問題 | |
---|---|---|
内容 | 加害者にどのような刑罰を科すか | 被害者が受けた損害をどう償うか |
裁判所で争うかを決める人 | 検察庁(官) | 交通事故の当事者 |
※交通事故には加害者の行政上の問題もある
交通事故の示談ができない場合に裁判所を利用
もっとも、交通事故の民事上の問題は、いきなり裁判所で争われるケースはあまりありません。
通常、交通事故の民事上の問題は、まず示談交渉が行われ、示談により解決するケースが多いです。
示談の定義としては、以下のものになります。
示談
民事上の争いごとについて、裁判ではなく当事者間の話し合いによって解決すること。
交通事故の民事上の問題は、当事者間のみでの話し合いがまとまらず、示談できない場合に、裁判所で争われることになるのが通常です。
なお、交通事故の示談までの流れについては、以下の記事により詳しく記載されていますので、ぜひご覧になってみて下さい!
交通事故で裁判所を利用する方法は裁判と調停
そして、交通事故の民事上の問題について、裁判所を利用する方法には、まず訴状を提出して民事裁判を起こすというものがあります。
もっとも、交通事故の民事上の問題について、裁判所を利用する方法には、調停を申し立てるという方法もあります。
調停の定義としては、以下のものになります。
調停
民事上の問題について第三者が当事者間を仲介し、その問題の解決を図ること。
このように、交通事故で裁判所を被害者が利用する方法には、民事裁判と民事調停という二種類があります。
続いては、民事裁判と民事調停それぞれの流れや利用するときの注意点についてお伝えしたいと思います。
まず、交通事故には、刑事上の問題と民事上の問題があり、裁判所を被害者が利用できるのは、民事上の問題であるということは覚えておきましょう。
そして、交通事故では、通常示談がまとまらなかった場合に、はじめて裁判所が利用されることになります。
さらに、交通事故で裁判所を利用する方法としては、民事裁判だけでなく、民事調停という方法もあるということを覚えておくといいでしょう。
交通事故で裁判所を利用する時の注意点|民事裁判の場合
まずは、交通事故の民事裁判を裁判所に提起(起訴)する流れについてお伝えしたいと思います。
交通事故の民事裁判の大まかな流れは、以下の図のようになります。
出典:https://atomfirm.com/wp-content/uploads/jiko_saiban-1.png
そして、交通事故で裁判所を利用する場合、民事裁判においては特に以下の点に注意する必要があります。
①裁判所の管轄
上記の図のとおり、交通事故の民事裁判では、まず、訴状を裁判所に提起(起訴)する必要があります。
もっとも、提出すべき裁判所(裁判所の管轄)は、請求金額と場所により決まる点には注意が必要です。
金額による管轄
まず、交通事故の民事裁判では、損害賠償の請求額が140万円以下の場合には簡易裁判所に訴状を提出することになります。
簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
出典:裁判所法第33条1項1号
一方で、損害賠償の請求額が140万円を超える場合には地方裁判所に訴状を提出することになります。
地方裁判所は、次の事項について裁判権を有する。
一 第三十三条第一項第一号の請求以外の請求に係る訴訟(以下略)
出典:裁判所法第24条1項1号
請求金額 | 裁判所 |
---|---|
140万円以下 | 簡易裁判所 |
140万円を超える | 地方裁判所 |
※当事者間の合意がある場合などの例外あり
場所による管轄
もっとも、簡易裁判所も地方裁判所も全国各地にありますが、どこの裁判所でもいいというわけではありません。
交通事故の民事裁判の場合には
- 被害者の住所
- 被告となる人の住所
- 交通事故の発生場所
を管轄するいずれかの裁判所に提出することになります。
どこの裁判所が管轄を有するかについては以下の裁判所のページで確認が可能です。
なお、当事者間の合意がある場合には、本来管轄のない裁判所に訴訟を提起できる場合があります。
②裁判所からの呼び出しの通知
交通事故の民事裁判の訴状が管轄のある裁判所に提出されると、裁判所は、訴状の被告に対して
呼び出し(出頭命令)の通知
が送られます。
この呼び出しは特別送達という方法により行われます。
裁判所からの呼び出し(出頭命令)に応じなかった場合、裁判は終了し、請求内容がそのまま認められることになる点には注意が必要です。
③裁判所基準で出される和解案
先ほどの民事裁判の流れの図にもあるとおり、交通事故では、争点が整理され、ある程度双方の主張・証拠が出揃うと、
裁判所からの和解案
が提示されることになります。
この和解案は、高額な裁判所基準額などの慰謝料をもとに提示されることになります。
そのため、示談交渉において通常認められる金額よりも、裁判所基準で算出された和解案の金額の方が高額になることが多いです。
統計上、交通事故の裁判は和解で終了する事案が判決よりも多く、その前提となる和解案が非常に重要となる点に注意する必要があります。
なお、交通事故における裁判所が提示する和解案の重要性については、以下の記事により詳しく記載されていますので、ぜひご覧下さい!
また、裁判所基準に基づいて算出された慰謝料などの金額の相場を知りたいという方は、以下の慰謝料計算機が大変便利です。
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交通事故で裁判所に民事裁判を提起する場合には、まず裁判所の管轄がどこにあるかを注意する必要があります。
一方、裁判所に民事裁判を提起された側は、呼び出しの通知を無視していると、相手方の請求がそのまま認められてしまうので、注意しましょう。
交通事故では民事裁判を提起しても、和解で解決することが多いため、裁判所が提示する和解案が非常に重要になります。
当事者間で示談する場合の金額よりも、和解案の金額は、高額な裁判所基準で算出されるため、高額になることが多いです。
ただし、示談交渉を弁護士に依頼いただければ、示談の段階においても、高額な裁判所基準で慰謝料を算出・請求することが可能になります。
示談交渉をするにしても、被害者自身で行う場合と弁護士を利用する場合とでは、基準に違いがあるようなんです!
交通事故だって弁護士・裁判所を利用した場合と、普通に示談する場合での基準だって違うわけで。
— あぶないあはき師:びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 (@binbo_cb1300st) April 12, 2015
交通事故の裁判に関しては、以下の記事もぜひ参考にしてみて下さい。
交通事故の裁判の流れやより詳しい情報はコチラ!
交通事故で裁判所を利用する時の注意点|民事調停の場合
続いては、交通事故の民事調停を裁判所に申し立てる流れについてお伝えしたいと思います。
調停の場合にも、
管轄の裁判所への申立書の提出
↓
裁判所からの呼び出しの通知
↓
主張・立証を経た上での裁判所(調停委員会)からの調停案の提示
という流れになり、この点は民事裁判と大差はありません。
もっとも、各流れにおいて、民事調停の場合には、民事裁判と異なる部分があることに注意する必要があります。
①裁判所の管轄
先ほど、交通事故の民事裁判の場合、裁判所の管轄は、請求金額と場所により決まるとお伝えしました。
一方、民事調停の場合、請求金額にかかわらず、申し立てるのは簡易裁判所になるという点が、民事裁判との違いになります。
また、場所の管轄についても、民事調停の場合、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所となります。
ただし、交通調停事件の場合には、請求者の住所地を管轄する簡易裁判所にも申し立てが認められています。
自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償の紛争に関する調停事件は、(略)損害賠償を請求する者の住所又は居所の所在地を管轄する簡易裁判所の管轄とする。
出典:民事調停法第33条の2
なお、民事調停法上の交通調停の対象は、自動車の運行による人身事故に限定されます。
そのため、一般民事調停事件となる物損事故や自転車事故の場合、合意がない限り請求者の住所地を管轄する簡易裁判所には申し立てできません。
いずれにしても、交通調停を含む民事調停の場合、交通事故の発生場所には管轄が認められない点が、民事裁判との違いになります。
お伝えしてきた民事裁判と民事調停の管轄を比較したものが以下の表になります。
請求金額 | 民事裁判 | 民事調停 |
---|---|---|
140万円以下 | ・相手方の住所地を管轄する簡易裁判所
・請求者の住所地を管轄する簡易裁判所 |
・相手方の住所地を管轄する簡易裁判所 (・請求者の住所地を管轄する簡易裁判所)※ |
140万円を超える | ・相手方の住所地を管轄する地方裁判所 ・請求者の住所地を管轄する地方裁判所 ・交通事故の発生場所を管轄する地方裁判所 |
※交通調停(自動車の人身事故)の場合に限られる
②裁判所からの呼び出しの通知
交通事故の民事調停の申立書が管轄のある裁判所に提出された場合に、裁判所が、申立書の相手方に対して
呼び出し(出頭命令)の通知
が送るという点については、民事裁判と同様です。
ただし、調停の呼び出しは特別送達ではなく、普通郵便の方法で行われているようです。
なお、以下のツイートのように、交通事故の民事調停は、加害者が裁判所に申し立てをして、呼び出しの通知を被害者が受ける場合もあります。
裁判所からの呼出状が届く。裁判員じゃなくて、交通事故(こっちのもらい事故)の調停申し立てを相手がしたらしい。停車中、バリバリの新車に突っ込んできた相手は無保険車だった。こっちになんの過失もないのに、かなわん。しかも、こっちの新車はいまだ直っておらず。
— Kinta (@jkawakmr34) March 31, 2011
もっとも、民事調停では、裁判所からの呼び出し(出頭命令)の通知を無視した場合の効果に、裁判との違いがあります。
具体的には、裁判の場合と異なり、裁判所からの呼び出し(出頭命令)の通知を無視しても、申立人の主張がそのまま認められることにはなりません。
裁判所からの呼び出し(出頭命令)の通知を無視し続けた場合、話し合いの意思がないものとして、調停の手続きは終了することになる場合が多いです。
法律上は、裁判所からの呼び出し(出頭命令)に正当な理由なく応じない場合は、5万円以下の過料に処すると定められています。
しかし、実務上は、民事調停を理由なく欠席したとしても、過料に処せられることはほとんどないといえます。
考えられる理由はさまざまですが、徴収できる過料に比べて、徴収するためのコストが掛かりすぎるのが理由の一つともいわれています。
③和解案と調停案の違いとは?
交通事故の民事調停でも、当事者双方の主張・立証がある程度出揃うと、それを踏まえて裁判所(調停委員会)から調停案が提示されます。
もっとも、民事裁判における高額な裁判所基準で算出される和解案とは異なり、調停案は、必ずしも裁判所基準で算出されるとは限りません。
裁判所基準とは、裁判で判決となった場合に認められる慰謝料などの相場を基に作成された基準になります。
そして、民事裁判の場合、和解がまとまらなければ、判決により裁判所が判断を下すため、判決を前提とする高額な裁判所基準で和解案は算出されます。
一方、民事調停の場合、調停がまとまらなければ、調停が不調に終わったものとして、不成立で終了し、裁判所が最終的な判断を下すことはありません。
そのため、民事調停の調停案は、必ずしも裁判所基準で算出されるとは限らないという、裁判所の和解案との違いがあります。
交通事故で裁判所を被害者が利用する方法には、民事裁判だけではなく、民事調停という方法もあるということは覚えておくとよいでしょう。
もっとも、民事裁判と民事調停とでは、さまざまな点に違いがあります。
それらの違いを把握した上で、ご自身にあった裁判所の利用方法を選択できるようにしておくのが望ましいといえます。
なお、交通事故の調停については、以下の記事により詳しく記載されていますので、ぜひご覧になってみて下さい!
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交通事故で裁判所を利用する方法には、民事裁判だけでなく、民事調停という方法もあります。
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もっとも、一般の方がそれぞれの違いや具体的状況を把握するのは困難な面もあると思いますので、ぜひ専門家である弁護士に相談してみて下さい。
まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。