交通事故の被害者の救済措置・救済制度|国や民間の救済制度をお悩み別に紹介

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交通事故の被害者の救済措置・救済制度|国や民間の救済制度をお悩み別に紹介

交通事故加害者自賠責保険にも入っていなくてお金もないようなのだけれど、この場合、賠償金の受け取りをあきらめるしかないの?」

「交通事故の被害者になった家族に重い後遺障害が残ってしまったけれど、今後の治療やお金の面が心配…」

「交通事故の被害者になった父が亡くなってしまったけれど、残された私たち家族の今後の生活が心配…」

交通事故の被害者やそのご家族は様々な問題に直面するかと思いますが、その問題に対する救済措置救済制度が定められている場合があります。

このページでは、色々な問題の中でも特に救済の必要性が高いと考えられる

  • 交通事故の加害者が無保険などの場合の救済
  • 交通事故の被害者に重度の後遺障害が残った場合の救済
  • 交通事故被害者の遺族に対する救済制度

についてご紹介していきたいと思います!

専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。

弁護士の岡野です。よろしくお願いします。

交通事故の被害者の救済制度としては、まず加入が義務付けられている自賠責保険があります。

しかし、交通事故では、自賠責保険に加入していない場合や、自賠責保険だけでは救済しきれない場合も数多くあります。

そういった場合のために、国や民間には様々な救済措置や救済制度が定められていますが、交通事故の被害者の方はそれを知らない場合もあります。

こちらで交通事故の被害者の救済措置や救済制度についてしっかり理解し、いざという時にその救済措置や救済制度を利用できるようにしておきましょう。

交通事故被害者救済制度として、日本では車両の保有者に自賠責保険の加入を義務付けています。

これは、交通事故の被害者の損害を最低限度保障するためです。

しかし、自賠責保険には有効期限があり、期限切れになっている場合もあります。

また、ひき逃げなど加害者が不明の場合には、自賠責保険に対する請求ができなくなってしまいます。

このように、交通事故の加害者が無保険や所在不明などで自賠責保険に請求できない場合の救済制度について、まずはお伝えしたいと思います。

交通事故の加害者が無保険等の場合の救済

交通事故の加害者が無保険等の場合の救済

国の救済制度|政府保障事業

交通事故加害者が上記のような無保険などの場合について、(政府)は政府保障事業という救済措置制度を設けています。

政府保障事業は、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険(共済)の対象とならない「ひき逃げ事故」や「無保険(共済)事故」にあわれた被害者に対し、健康保険や労災保険等の他の社会保険の給付(他法令給付)や本来の損害賠償責任者の支払によっても、なお被害者に損害が残る場合に、最終的な救済措置として、法定限度額の範囲内で、政府(国土交通省)がその損害をてん補する制度です。

政府保障事業によるてん補金は、自賠責保険(共済)の支払基準に準じて支払われます

ただし、政府保障事業は、最終的な救済措置となりますので、

  • 法律による健康保険や労災保険などの他の法令に基づく給付額
  • 損害賠償責任者からの支払額

等を控除することとしています。

また、最終的な救済措置であることから

  • 被害車両の同乗者で被害車両にも過失がある場合等自賠責保険(共済)に請求できる場合
  • 複数の自動車事故で、そのうちのいずれかの自動車の自賠責保険(共済)に請求できる場合

にはてん補の対象になりません。

なお、被害者にてん補した額については、政府が加害者に求償します。

交通事故の被害者には、加害者側の事情で自賠責保険に請求できない場合も、自賠責保険と同等の保障を受けられる救済制度が与えられているといえます。

ただし、上記のように自賠責保険とは異なる点もあるので、その点には注意が必要です。

また、自賠責保険に比べて、支払までに時間が掛かる傾向にある点にも注意が必要です。

民間の救済|無保険車傷害保険

お伝えしたとおり、政府保障事業によるてん補金は、最低限度の保障を定めた自賠責保険(共済)の支払基準に準じて支払われます。

そのため、政府保障事業によるてん補金だけでは、交通事故被害者救済制度としては不十分な場合も多くあります。

また、政府保障事業によるてん補金は、支払までに時間が掛かるため、すぐにお金が必要な被害者の救済制度としては不十分な面もあります。

さらに、交通事故の加害者自賠責保険には加入していたものの、任意保険には未加入であるという場合もあります。

そういった場合の、被害者の救済措置として、民間の自動車任意保険には無保険車傷害保険という救済制度が設けられています。

無保険車傷害保険

事故加害者が任意保険未加入・又は賠償資力が不十分な場合で、その事故で被保険者が死亡又は後遺障害の認定を受けた場合に、本来加害者が負担すべき損害を補償することを内容とする任意保険。

通常、この無保険車傷害保険は、自動車保険に加入した場合に自動的に付帯されています。

ただし、この救済制度を利用できるのは、被害者が死亡又は後遺障害の認定を受けた場合に限られます。

さらに、本来加害者が負担すべき損害の補償を内容としているため、被害者にも過失がある場合にはその分は過失相殺により減額されます。

民間の救済|人身傷害保険

死亡又は後遺障害の認定を受けていない交通事故被害者にも、民間の自動車任意保険は人身傷害保険という救済制度を設けています。

人身傷害保険

自動車の任意保険の1つで、相手方の有無や過失割合に関係なく、被保険者の方が、車の事故により死亡あるいは傷病を負った場合に約款の基準額にしたがった保険金の支払を受けることができる保険。

上記のとおり、人身傷害保険では、被害者にも過失がある場合でも減額されず、約款の基準額にしたがった保険金の支払を受けることができます。

ただし、人身傷害保険は、無保険車傷害保険とは異なり、自動的に付帯されるわけではなく、自動車保険のオプション(特約)になります。

さらに、上記のとおり、約款の基準額にしたがった保険金の支払になるため、基本的に支払金額を争うことはできないことになります。

一方、本来加害者が負担すべき損害の補償を内容とする無保険車傷害保険では、支払金額を争う余地があるといえます。

このように、交通事故の加害者が無保険等の場合の救済制度は複数ありますが、それぞれの救済制度にメリット・デメリットがあります。

どの救済制度が利用できるかや救済制度を複数利用できる場合にどの制度を利用すべきかお悩みの方は、まず弁護士に相談してみるのがよいでしょう。

交通事故の加害者が無保険などの場合の救済制度
救済制度 メリット デメリット
政府保障事業 被害者の保険加入に影響されない ・支払は最低限度の保障
・支払までに時間掛かる
無保険車傷害保険 ・自動車保険に自動的に付帯※
・増額交渉の余地あり
・死亡又は後遺障害に限定
・過失相殺される
人身傷害保険 ・死亡又は後遺障害に限定されない
・過失相殺されない
・自動車保険の特約として別途契約必要
・増額交渉の余地なし※

※例外あり

交通事故の被害者に重度の後遺障害が残った場合の救済

交通事故の被害者に重度の後遺障害が残った場合の救済

交通事故被害者重い後遺障害が残ってしまった場合には、治療面・福祉面・経済面など様々な面での救済が必要になります。

もちろん、重い後遺障害が残ってしまった場合には、その分についての損害賠償金を受け取れますが、それだけでは救済として不十分な場合があります。

そこで、交通事故の被害者に重い後遺障害が残ってしまった場合の救済制度を、治療面・福祉面・経済面にわけてご紹介したいと思います。

治療面の支援を必要とする方

療護センター

交通事故被害者重い後遺障害が残ってしまった場合、症状によっては一般の病院の治療での対応が困難な場合もあります。

そういった場合の救済のため、独立行政法人の自動車事故対策機構(NASVA)という機関は、療護センターという専門病院を設置しています。

自動車事故対策機構では、自動車事故による脳損傷によって重度の後遺障害が残り、治療と常時の介護を必要とする方のうち、入院の要件に該当する方に入院していただき、社会復帰の可能性を追求しながら手厚い治療と看護並びにリハビリテーションを行う重度後遺障害者(遷延性意識障害者)専門の病院であるNASVA療護センターを国内4か所に、療護センターに準じた治療と看護を行うNASVA委託病床を国内3か所に設置・運営しています。

これらの療護施設への入院期間は概ね3年以内とし、入院の承認は、治療及び介護の必要性、脱却の可能性等を総合的に判断して行われます。

入院の要件を簡単にまとめると以下の表のようになります。

療護センター等への入院の要件
自動車事故による脳損傷
①により、治療と常時の介護を必要とする重度

の後遺障害(遷延性意識障害)を負った

「ナスバスコア(遷延性意識障害重症度評価表)」の合
計点が30点以上

「ナスバ(NASVA)スコア」とは

  • 運動機能
  • 摂食機能
  • 排泄機能
  • 認知機能
  • 発声発語機能
  • 口頭命令の理解

に着目し、遷延性意識障害の重症度を数値で評価したものであり、具体的な内容は以下に掲載されています。

国内4か所のNASVA療護センター及び療護センターに準じた国内3か所のNASVA委託病床の情報は以下に記載されています。

そして、療護センターの特色には、以下の3点が挙げられます。

①高度先進医療機器の活用

療護センターには、MRI、CT、PET等の高度先進医療機器が設置されています。

これらの機器を用いることにより、外観だけでは容易に判断できない脳内に隠れた意識の兆候を調べることが可能になります。

そして、その検査情報を基に、患者に合った治療やリハビリなどが行われます。

②ワンフロア病棟システム

病棟を一つのフロアに集中させるとともに、病室の仕切りを最小限にすることで、全ベッドから窓の外の様子や日照の変化を感じられるようにしています。

また、このシステムにより、患者を絶えず看護者の観察視野に置けるため、患者を注意深く観察することができます。

③プライマリー・ナーシング方式

これは、同じ看護師が一人の患者の入院から退院までを継続して受け持ち、その患者の看護に関して責任と成果を明確にするシステムのことをいいます。

このシステムにより、患者のそばで一番長く一緒に過ごし、患者の残存機能、回復兆候、変化等を見逃さないよう注意深く観察することができます。

短期入院協力病院

また、交通事故の被害者が、重度の後遺障害により、自宅介護が必要になる場合がありますが、その場合

  • 被害者の自宅での健康維持
  • 家族の介護の負担

が問題になります。

そこで、国土交通省は、家族の自宅介護を受ける重度後遺障害者の健康維持や、家族の負担軽減のため、

  • 医学的管理の下に、医師による診察、検査及び経過観察を受けることができる
  • 介護をしている家族が、専門家から在宅介護技術(病状観察法、入浴法、食事法など)及びケアの方法等の助言・指導を受けることができる

環境が整っている短期入院協力病院の指定という救済制度を設けています。

こちらでは、NASVAの介護料受給資格をお持ちの重度後遺障害者の方々の短期入院(1回の入院が原則2日以上14日以内)を積極的に受け入れています。

具体的な短期入院協力病院の一覧は以下のページに記載されています。

また、NASVAの介護料受給資格については、後ほど詳しくご紹介いたします。

短期入所協力施設

さらに、国土交通省では、重度後遺障害者を自宅介護している家族の方々の負担軽減のため、

夜間に喀痰吸引等の医療行為の対応可能な施設職員が確保されている

など安心して短期入所(ショートステイ)を依頼できる環境が整っている「短期入所(ショートステイ)協力施設」の指定という救済制度を設けています。

こちらでは、NASVAの介護料受給資格をお持ちの重度後遺障害者の方々の短期入所(1回の入所が原則2日以上14日以内)を積極的に受け入れています。

具体的な短期入所(ショートステイ)協力施設の一覧は以下のページに記載されています。

なお、NASVAの介護料受給資格については、後ほど詳しくご紹介いたします。

福祉面の支援を必要とする方

交通事故被害者が重度の後遺障害により、日常生活や社会生活が困難になった場合には、福祉面においても、救済する必要があります。

障害福祉サービス

障害者等の自立した生活を支援することを目的として、各市区町村では

  • 個別に必要な支援をする自立支援給付
  • 市町村等の創意工夫により実施する地域生活支援事業

という救済制度を設けています。

それぞれの具体的な内容については、以下の表のとおりです。

障害福祉サービスの具体的な内容
①自立支援給付
・介護給付
(ホームヘルプ、重度訪問介護、ショートステイ、施設入所支援など)
・訓練等給付
(自立訓練、就労移行支援、グループホームなど)

・自立支援医療
(更生医療、育成医療、精神通院医療)
・補装用具の給付

②地域生活支援事業
・相談支援
・地域活動支援センター、福祉センター
(社会との交流を図る)

障害福祉サービスを利用するには市区町村に申し出て、障害程度(支援)区分の認定を受けるなど、支給決定を受ける必要があります。

支給決定を受けると障害福祉サービス受給者証が交付されます。

障害者手帳

障害福祉サービスを利用するための受給者証とは別に、障害の程度によって障害者手帳の交付を受けることができます。

障害者手帳には

  • 身体障害がある方を対象とした「身体障害者手帳」
  • 知的障害がある方を対象とした「療育手帳」
  • 精神障害がある方を対象とした「精神障害者保健福祉手帳」

の 3 種類がありますが、交通事故の被害者が主に問題となるのは、身体障害がある方を対象とした「身体障害者手帳」になります。

障害者手帳の交付を受けることによって利用できる福祉サービスには、以下のようなものがあります。

障害者手帳取得により受けられるサービス(一例)
医療費などの助成
・医療費の助成
・車椅子や補聴器などの補装具の助成
・リフォーム費用の助成
税金の軽減
・所得税
・住民税
・自動車税など
公共料金の割引サービス
・公共交通機関の運賃割引
・高速道路の利用料金割引
・NHKの放送受信料割引
・携帯電話会社の料金割引
・美術館や博物館、動物園など公共施設の入場料割引
障害者雇用での就職
一般採用だけでなく、障害者雇用での募集にも応募可能

ただし、具体的なサービス内容は、各地域や手帳の種別・等級によって異なります。

そのため、詳しいことはお住まいの市区町村の障害福祉担当部署にご相談されるのが確実といえます。

なお、身体障害者手帳については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい!

経済面の支援を必要とする方

交通事故被害者は、重い後遺障害が残ることにより、経済的に困難を抱えることになる場合があります。

もちろん、その場合、加害者側に対し、損害賠償請求できますが、後遺障害は一生の問題のため、損害賠償金だけでは救済に不十分な場合もあります。

そこで、交通事故により重い後遺障害が残った被害者に対して設けられている経済面の救済制度についてご紹介したいと思います。

日本年金機構を主体とする救済

まず、日本年金機構では、重い後遺障害が残った交通事故被害者に対し、年金を支払うという救済制度を設けています。

具体的な救済制度は、後遺障害が残ってしまった被害者の方の加入している年金の種類によって異なります。

国民年金(障害基礎年金)

国民年金に加入している場合、

  • 初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日)のある病気やケガで
  • 障害認定日に法令により定められた障害等級表(1 級・2 級)による障害の状態にあり
  • 初診日の前日に保険料納付要件を満たしている

方に対しては、障害基礎年金が支給されます。

厚生年金

厚生年金に加入している場合、

  • 初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日)のある病気やケガで
  • 障害認定日に法令により定められた障害等級表(1 級・2 級・3級)による障害の状態にあり
  • 初診日の前日に保険料納付要件を満たしている

方に対しては、障害厚生年金が支給されます。

厚生年金は国民年金の上乗せとなる年金ですので、1級・2級の場合は、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されることになります。

また、初診日から 5 年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときには障害手当金(一時金)が支給されます。

受給要件の詳細や受給金額、申請の手続きについては、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい!

労働基準監督署を主体とする救済

また、労働基準監督署でも、後遺障害が残った交通事故被害者に対する金銭的な救済制度を設けています。

障害(補償)給付

業務中または通勤途中の交通事故の被害者の身体に障害等級に該当する障害が残った場合に、障害(補償)給付が支給されます。

具体的には、障害等級の程度に応じて、以下のとおり支給されます。

  • 障害等級第 1 級から第 7 級:障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金
  • 障害等級第 8 級から第 14 級:障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金

なお、国民年金(障害基礎年金)や厚生年金(障害厚生年金)と併給はできますが、労災年金が減額調整されて支給されることになります。

労災介護給付

さらに、障害(補償)年金の受給者のうち、障害等級が第 1 級、第 2 級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」の方が現に介護を受けている場合

介護(補償)給付

が支給されます。

受給要件、支給額等の詳しい情報については、下記に掲載されています。

自動車事故対策機構からの救済

自動車事故対策機構(NASVA)は、先ほどご紹介した治療面だけではなく、経済面においても、救済制度を設けています。

介護料の支給

まず、NASVAは、自動車事故が原因で、

  • 脳、脊髄又は胸腹部臓器を損傷し、
  • 重度の後遺障害を負い、移動、食事及び排泄など日常生活動作について常時又は随時の介護が必要となった

被害者の方に介護料を支給するという救済制度を設けています。

その月の介護に要した費用として自己負担した額に応じ、受給資格の種別ごとに以下の表の範囲内で支給されます。

自動車事故対策機構(NASVA)の介護料の支給額
種別 金額
最重度 特Ⅰ種 68,440円~136,880
常時要介護 Ⅰ種 58,570円~108,000
随時要介護 Ⅱ種 29,290円~ 54,000

介護に要した費用として自己負担した額が下限額に満たない場合には、下限額が支給されます。

なお、労災保険の介護給付等との併給は出来ません。

支給要件の詳細や申込方法については、以下のページに記載されています。

短期入院・短期入所費用助成制度

さらに、NASVAでは、介護料の受給資格を有する方(特Ⅰ種~Ⅱ種)が、短期入院・入所を利用した際に自己負担した額の一部を助成しています。

助成の対象には

  • 入退院・入退所時における移送費
  • 室料差額及び食事負担金
  • 短期入院・入所利用時のヘルパー等の付き添いに要した費用

などがあり、年間45日以内かつ年間45万円以内の範囲内で支給されます。

詳細については、以下のページに記載されています。

交通事故の被害者に重い後遺障害が残ってしまうと、被害者やそのご家族には治療面・福祉面・経済面など様々な面での負担が生じます。

そして、残念ながら加害者側に対する損害賠償請求だけでは、それらの負担から十分に救済されないことが多いのが実情です。

少しでも、重い後遺障害が残ってしまった被害者やそのご家族の負担を減らせるよう、上記の救済制度を有効利用できるようにしておきましょう。

交通事故の被害者の遺族に対する救済制度

交通事故の被害者の遺族に対する救済制度

交通事故で亡くなられた被害者が一家の大黒柱だった場合など、交通事故の遺族・遺児は経済的な困難を抱える場合も少なくありません。

もちろん、交通事故の加害者に対しては、損害賠償を請求できますが、それだけでは救済として不十分な場合があるのが実情です。

そこで、交通事故の遺族・遺児に対する様々な救済措置救済制度が設けられています。

日本年金機構を主体とする救済

まず、日本年金機構では、交通事故で亡くなられた被害者の遺族に対し、年金を支払うという救済制度を設けています。

具体的な救済制度は、亡くなられた被害者の方の加入していた年金の種類によって異なります。

国民年金(遺族基礎年金)

国民年金に加入中の方が亡くなった時、その方によって生計を維持されていた

「18歳到達年度の末日までにある子(障害者は 20 歳未満)のいる配偶者」

又は

「子」

遺族基礎年金が支給されます。

厚生年金(遺族厚生年金)

厚生年金に加入中の方が亡くなった時(加入中の傷病がもとで初診日から 5 年以内に亡くなった時)、その方によって生計を維持されていた

遺族(1. 配偶者または子、2. 父母、3. 孫、4. 祖父母の中で優先順位の高い方)

遺族厚生年金が支給されます。

子のある妻又は子には、遺族基礎年金も併せて支給されます。

受給要件、支給額等の詳しい情報については、以下のページに記載されています。

労働基準監督署を主体とする救済

また、労働基準監督署でも、交通事故被害者の遺族に対して、遺族(補償)給付という救済制度を設けています。

また、葬祭を行った遺族などに対しては、別途葬祭料(葬祭給付)が支給されます。

ここからは、具体的な遺族(補償)給付及び葬祭料(葬祭給付)の金額についてお伝えしていきたいと思います。

遺族(補償)給付の金額について

まず、遺族(補償)給付には

  • 遺族(補償)年金
  • 遺族(補償)一時金

という二つの給付の種類があります。

遺族(補償)年金

遺族(補償)年金は、下記の表の「受給資格者」のうちの最も先順位の者に支給されることになります。

なお、すべての順位の者につき

労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた

という要件が必要となりますが、この要件は、労働者収入によって生計の一部を維持していたいわゆる「共稼ぎ」の場合も含むことになります。

遺族(補償)年金の受給資格者の順位及び立場
順位 立場
1位 妻または60歳以上か一定障害の夫※1
2位 18歳に達する日以後の最初の331日までの間にあるか一定障害の子※1
3位 60歳以上か一定障害の父母※1
4位 18歳に達する日以後の最初の331日までの間にあるか一定障害の孫※1
5位 60歳以上か一定障害の祖父母※1
6位 18歳に達する日以後の最初の331日までの間にあるか60歳以上又は一定障害の兄弟姉妹※1
7位 55歳以上60歳未満の夫※2
8位 55歳以上60歳未満の父母※2
9位 55歳以上60歳未満の祖父母※2
10 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹※2

※1 一定の障害とは障害等級第5級以上の身体障害をいう

※2 60歳までは年金の支給は停止(若年停止)される

そして、遺族(補償)年金は、遺族数(受給権者及び受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数に応じて

  • 遺族(補償)年金
  • 遺族特別年金
  • 遺族特別支給金(一時金)

が支給されます。

支給金額については以下の表のとおりです。

遺族(補償)年金の金額について
遺族数 遺族(補償)年金 遺族特別年金 遺族特別支給金(一時金)
1人 給付基礎日額の153日分
(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある場合は175日分)
算定基礎日額の153日分
(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある場合は175日分)
300万円
2人 給付基礎日額の201日分 算定基礎日額の201日分
3人 給付基礎日額の223日分 算定基礎日額の223日分
4人 給付基礎日額の245日分 算定基礎日額の245日分

なお、給付基礎日額とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する金額のことです。

平均賃金とは、直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を日数で割った1日当たりの賃金額のことです。

また、算定基礎日額とは、原則として、事故前1年間に労働者が事業主から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った金額のことです。

特別給与とは、給付基礎日額の算定から除外されているボーナスなど3か月を超える金額ごとに支払われる賃金をいい、臨時で支払われた賃金は含まれません。

もっとも、特別給与の総額が給付基礎年額(給付基礎日額の365倍に相当する額)の20%に相当する金額を上回る場合には、給付基礎年額の20%に相当する金額が算定基礎年額になります。

ただし、150万円が限度額になります。

遺族(補償)一時金

もっとも、被災労働者の死亡当時、先ほどの遺族(補償)年金の「受給資格者」の要件を満たす遺族がいない場合も考えられます。

その場合には、遺族(補償)一時金が、下記の表の「受給資格者」のうちの最も先順位の者を受給権者として支払われることになります。

遺族(補償)一時金の受給資格者の順位及び立場
順位 立場
1位 配偶者
2位 労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母※
3位 その他の子・父母・孫・祖父母※
4位 兄弟姉妹

※1 同順位の中では子・父母・孫・祖父母の順

そして、遺族(補償)一時金として、

  • 遺族(補償)一時金
  • 遺族特別一時金
  • 遺族特別支給金

が支給されます。

具体的な支給金額については以下の表のとおりです。

遺族(補償)一時金の金額について
遺族(補償)一時金 遺族特別一時金 遺族特別支給金
給付基礎日額の1000日分 算定基礎日額の1000日分 300万円

なお、いずれの場合も被災労働者が亡くなった日の翌日から5年を経過すると時効により請求権が消滅するので、その点には注意しましょう。

葬祭料(葬祭給付)の金額について

葬祭料(葬祭給付)の支給対象は、実際に葬祭を執り行った者になります。

葬祭を執り行う者は必ずしも遺族には限られませんが、通常は葬祭を行うにふさわしい遺族が執り行うことになります。

もっとも、社葬として被災労働者の会社が葬祭を執り行う場合もあり、その場合には、その会社に対して葬祭料(葬祭給付)が支給されます。

葬祭料(葬祭給付)の金額

315,000円+給付基礎日額の30日分

になります。

ただし、上記の金額が給付基礎日額の60日分に満たない場合には給付基礎日額の60日分が支給額になります。

葬祭料(葬祭給付)の時効は、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年と遺族(補償)給付よりも短くなっている点には十分注意しましょう。

遺族年金との支給の調整について

なお、遺族(補償)給付は、国民年金(遺族基礎年金)・厚生年金(遺族厚生年金)と併給はできますが、労災年金が減額されて支給されます。

被害者の子供を対象とした救済

さらに、交通事故で亡くなられた被害者に子供がいた場合には、その子供に対する様々な救済措置救済制度が設けられています。

交通遺児等貸付

まず、交通事故対策機構(NASVA)は、交通事故で亡くなった被害者の中学校卒業までの子供に対し、育成資金の無利子貸付制度を定めています。

貸付金額は、20,000円/月で、1月、4月、7月、10月の各月に、振り込まれることになるようです。

その他、

  • 貸付の開始時に一時金:155,000円
  • 小学校・中学校への入学時に入学支度金:44,000円

が貸与されるということです。

貸付の対象者、申込方法等の詳しい情報については、以下のページに記載されています。

交通遺児育英会の奨学金貸与制度

また、公益財団法人の交通遺児育英会も、交通事故で亡くなった被害者の高校生以上の子供に対する奨学金の無利子貸与制度を定めています。

これは、交通事故により経済的に進学が困難となった交通遺児に対する援助を行うことで、将来、社会有用な人材を育成することを目的としています。

奨学金の種類、貸与額等の詳しい情報については、以下のページに記載されています。

交通遺児育成基金制度

交通事故で被害者が亡くなられた場合、その遺族は、加害者側の保険会社などから損害賠償金を受け取れることができます。

しかし、一時的に受け取れる損害賠償金だけでは、残された子供が自立できるまでの生活費等をすべて賄えない可能性があります。

そこで、公益財団法人の交通遺児等育成基金は、交通遺児育成基金という救済制度を設けています。

これは、交通事故で亡くなられた被害者の子供が、損害保険会社等から支払われる損害賠償金等の中から、拠出金を払い込んで基金に加入すると、

  • これに国や民間からの援助金を加えて安全・確実に運用し
  • 子供が満19歳に達するまで育成給付金の支給を受けることができる

制度になっています。

この救済制度により、交通事故で亡くなられた被害者の子供が満19歳に達するまでの生活費等をしっかりと確保することができます。

なお、支給は、3ヶ月ごとにまとめて行われ、給付金は非課税になるということです。

加入条件や支給金額、申込方法等の詳しい情報については、以下のページに記載されています。

生活資金等の支給

さらに、交通遺児等育成基金は、交通事故の被害者遺族のうち、中学校卒業までの子供を有する特に生計困窮度の高い家庭に対し、

  • 越年資金
  • 入学支度金
  • 進学等支援金

を支給するという救済制度も設けています。

具体的な支給金額等については、以下の表のとおりです。

交通遺児等育成基金から支給される種類及び金額
種類※ 内容 金額
越年資金 新年を迎えるに当たっての生活資金を必要とする場合に支給 児童1人につき25,000
入学支度金 義務教育を受けるために小学校又は中学校に入学する場合に支給 入学する児童1人につき20,000
進学等支援金 義務教育を終了して直ちに上級学校に進学又は就職する場合に支給 進学又は就職する児童1人につき50,000

※これ以外に緊急時見舞金という種類もある

支給要件、申込方法等の詳しい情報については、以下のページに記載されています。

交通遺児友の会

交通事故の被害者が亡くなられた場合、残されたお子様には、経済的にだけでなく精神的にも大きな負担が生じることになります。

そこで、自動車事故対策機構(NASVA)では、交通遺児とその家族を精神面で支援するための「交通遺児友の会」という救済制度を設けています。

交通遺児友の会では、現在7000人を超える交通遺児とその家族が会員となっており、

  • 会報「友の会だより」(四季報)の発行
  • 自然とのふれあいや体験学習等友の会の集いの実施
  • 絵画・書道等のコンテストの開催

といった活動を通じて、会員相互の連帯感を高め、交通遺児の健全な育成を図るための支援を行っています。

なお、会費は無料となっております。

入会資格、入会方法など詳しい情報については、以下のページに記載されています。

ここまでお伝えしてきた内容の詳細やお伝えしてきたもの以外の救済制度は、以下の記事に記載されていますので、興味のある方はぜひご覧下さい!

なお、お伝えしてきた救済制度の中には、死亡した場合だけでなく、重い後遺障害が残ってしまった場合にも利用できる救済制度があります。

交通事故でご家族を亡くされた方の苦しみやお悩みは計り知れないものであり、特に救済の必要性が高いと考えられます。

上記の救済制度を有効利用することにより、ご家族を亡くされた方の苦しみやお悩みが少しでも軽減できれば何よりです。

交通事故の被害者の救済を弁護士に相談されたい方へ!

交通事故の被害者の救済を弁護士に相談されたい方へ!

ここまで交通事故の被害者の救済についてお伝えをしてきましたが、読んだだけではわからないことがあった方もいるのではないでしょうか?

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人身事故にあわれた方は、お手元のスマホで弁護士に無料相談してみることができます

24時間365日、専属スタッフが待機するフリーダイヤル窓口で受付しているので、いつでも電話できるのは非常に便利ですね。

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※無料相談の対象は人身事故のみです。
物損事故のご相談はお受けしておりません。

また、交通事故によるケガが重症で、弁護士事務所に訪問できない方を対象に、無料出張相談も行っているそうです。

まずは、電話してみることから始まります。

きっと、被害者の方が取るべき対応について、適切なアドバイスをしてくれるはずです。

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何人かの弁護士と無料相談したうえで、相性が良くて頼みやすい弁護士を選ぶ、というのもお勧めの利用法です。

最後に一言アドバイス

それでは、最後になりますが、交通事故でお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。

交通事故の被害者の方には、加害者への損害賠償請求権がありますが、残念ながらそれだけでは十分に救済されない場合も多くあります。

交通事故の被害者の苦しみやお悩みは様々かと思いますが、ご紹介した救済制度が少しでも被害者の方のお役に立てばよいと思っております。

また、我々のような弁護士も被害者の方のお力になれることもあるかと思いますので、お悩みがある場合にはぜひ弁護士に相談してみて下さい。

まとめ

いかがだったでしょうか。

このページを最後までお読みの方は、

  • 交通事故の加害者が無保険などの場合の救済
  • 交通事故の被害者に重度の後遺障害が残った場合の救済
  • 交通事故被害者の遺族に対する救済制度

点について理解を深めていただけたのではないかと思います。

これを読んで弁護士に相談した方が良いと思った方も多いハズです。

自宅から弁護士と相談したい場合には、スマホで無料相談の機能を利用してみて下さい!

そうではなく、やっぱり直接会って話がしたいという場合は、全国弁護士検索を使って弁護士を探してみてください。

また、このホームページでは、交通事故に関する関連記事も多数掲載していますので、ぜひ参考にしてください!

皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。

交通事故被害者に対する救済措置・救済制度Q&A

加害者が無保険だと賠償金は諦めるしかないの?

政府保障事業無保険車傷害保険人身傷害保険など複数の救済制度があります。ただしそれぞれの救済制度にはメリット・デメリットがあります。「どの救済制度が利用できるか」や「救済制度を複数利用できる場合にどの制度を利用すべきか」などお悩みの方はまず弁護士に相談してみましょう。 交通事故の加害者が無保険等の場合の救済

国の救済制度「政府保証事業」って何?

交通事故加害者が無保険などの場合について、国(政府)が事故被害者の為に設けている救済制度です。ただし政府保障事業は最終的な救済措置となりますので、支払は最低限度の保障となります。また自賠責保険に比べて、支払までに時間が掛かる傾向にあります。 国の救済制度「政府保証事業」

民間の救済制度「無保険傷害保険」って何?

民間の自動車任意保険が交通事故被害者の為に設けている救済制度です。事故加害者が任意保険未加入、または、賠償資力が不十分な場合に本来加害者が負担すべき損害を補償することを内容とする任意保険になります。ただし利用できるのは、事故被害者が死亡または後遺障害の認定を受けた場合に限られます。被害者にも過失がある場合にはその分は過失相殺により減額されます。 民間の救済制度「無保険傷害保険」

民間の救済制度「人身傷害保険」って何?

民間の自動車任意保険が交通事故被害者の為に設けている救済制度です。事故の相手方の有無や過失割合に関係なく、被保険者が車の事故で死亡あるいは傷病を負った場合に約款の基準額にしたがって保険金の支払を受けることができる保険です。ただし自動的に付帯されるわけではなく、自動車保険の特約として契約が別途必要になります。また約款の基準額にしたがった保険金の支払になるため増額交渉の余地がありません。 民間の救済制度「人身傷害保険」

この記事の監修弁護士

岡野武志弁護士

アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。

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