物損事故ガイド|慰謝料・治療費・修理代・迷惑料の請求について弁護士が解説【決定版】

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物損事故ガイド|慰謝料・治療費・修理代・迷惑料の請求について弁護士が解説【決定版】

相手の不注意で交通事故が起きてしまったとき、色々な感情が生じてくると思われます。

愛車が傷ついて悲しい…加害者や保険会社との対応や処理が面倒…相手がごねるので腹立たしい…。

ここでは、そのような物損事故被害者の方が持つ疑問について徹底調査し、報告していきます。

  • 物損の慰謝料もらえる
  • 物損事故のまま治療費通院慰謝料を請求するには?
  • 物損事故修理代請求の注意点は?
  • 物損事故の示談で迷惑料(見舞金)は請求できる?
  • 物損事故の過失割合に関して争いがある場合の対応は?

物損事故の対応処理をする上で役立つ情報を沢山お届けしていきますので、最後までお付き合いください!

なお、専門的な解説は、テレビや雑誌でお馴染みの岡野武志弁護士にお願いしています。

よろしくお願いします。

物損事故は起こる頻度が高く、当事者となった経験がある人も多いトラブルであるため、ウェブ上で多くの人から情報が提供されています。

しかし、残念ながら、その中には、不正確な情報も含まれているように見受けられます。

物損事故に関する正確な情報をお伝えすることができればと思っています。

物損事故(ぶっ損事故)とは

物損事故(ぶっ損事故)とは

物損事故(ぶっ損)の意味・定義

物損事故(ぶっ損事故)とは、交通事故のうち、人の死傷がなく、器物の損壊のみが生じた事故のことをいい、物件事故と呼ばれる場合もあります。

ここでいう器物には、車両のみならず、家屋や電柱、ガードレール、縁石、フェンスなども含みます

人の死傷が生じた事故の場合、同時に器物の損壊も生じる事が多いですが、その場合には、物損事故とは呼ばれません。

つまり、器物の損壊のみであることが物損事故と呼ばれる事故のポイントといえます。

物損事故と人身事故の違いと切り替えについて

交通事故のうち、人の死傷を伴うものは、人身事故と呼ばれます。

人の死傷を伴わないものが物損事故、伴うものが人身事故ということで、言葉の意味としては単純明解ですね。

では、このような場合は、どう扱われるでしょうか?

このように、大きな外傷はないけれど、軽いむちうちを感じるような場合。

警察には、物損事故として申告する方が多いでしょう。

しかし実際には、人に痛みが生じているので人身事故ということになりそうですが、警察や保険会社からは以後、物損事故として扱われる点に注意が必要です。

なかなか痛みがひかない場合や、最初は痛みがなかったけど後から生じてきた場合は、速やかに物損事故から人身への切り替え手続きをしておいた方が良いでしょう。

人身事故に切り替えていない場合のリスク

人身事故切り替えしていないと、

  • 自賠責保険から治療費や慰謝料などを受け取れないおそれがある
  • 実況見分調書が作成されず、事故状況につき争いが出てきた場合に困ることがある
  • 自賠責保険が使えても、軽微な事故とみなされて、治療の終了時期の判断や後遺障害の認定で不利に働くことがある

といったリスクがあるからです。

物損事故(物件事故)扱いのままですと、道路交通法違反がない限り、行政処分上は無事故扱いとなり、ゴールド免許の方は、それを維持できます。

また、故意による事故や建造物を損壊した場合でない限り、刑事罰を受けることもありません。

そういったことが理由で、加害者の中には、人身事故への切り替えをしないよう依頼してくる方もいます。

また、人身事故への切り替えには、警察署などに行く手間も掛かります。

よって、切り替えをしなくても、加害者側の保険会社が治療費や慰謝料などの支払に応じることも多いそうです。

そのため、人身事故への切り替えをしていない方もいるかと思いますが、切り替えをしない場合、上記のようなリスクがあることには注意が必要です。

人身事故への切り替えをしない場合のリスク
リスク① 自賠責保険から治療費や慰謝料などを受け取れないおそれがある
リスク② 実況見分調書が作成されず、事故状況につき争いが出てきた場合に困ることがある
リスク③ 軽微な事故とみなされて、治療の終了時期の判断や後遺障害の認定で不利に働くことがある

愛車破損に対する慰謝料の相場とは

愛車破損に対する慰謝料の相場とは

愛車が傷ついたことに対する慰謝料は請求できない?

もらい事故で、愛車がへこんだり、傷ついたりしたら、持ち主である人の気持ちもへこんでしまうのものです…。

https://twitter.com/3swYUuWS0pErglT/status/1128300829931270145

新車で買って、一度もぶつけないできたのに、傷がついてしまったら、事情はどうあれ、悲しいものです。

そのため、たとえ修理して直るとしても「相手に慰謝料請求をしたい、慰謝料相場はいくらなのか?」と考えることも自然なことです。

しかし、残念ながら、基本的には、物損事故の被害者が、愛車が傷ついたことに対する慰謝料を相手に請求することはできません

慰謝料は、精神的苦痛を金銭で填補するものです。

しかし通常、財産権侵害に伴う精神的苦痛は、財産的損害の填補により同時に填補されるものと考えられているからです。

【限定的】物損に対する慰謝料を認めた裁判例

実際に、裁判で争われたケースはないのでしょうか?

裁判所は、物損に関連する慰謝料は、原則として否定しており、例外的に慰謝料を認めた裁判例も限定的です。

具体例としては、

  • 飼い犬が後遺障害の残るけがを負った事案(名古屋高判平成20年9月30日)
  • 墓石が倒壊した事案(大阪地判平成12年10月12日)

などがあります。

前者の裁判例は、飼い犬につき、

「飼い主との間の交流を通じて、家族の一員であるかのように、飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくない」

ことを公知の事実としています。

また、後者の裁判例は、

「墓石等は、先祖や故人が眠る場所として、通常その所有者にとって、強い敬愛追慕の念を抱く対象となる」

としております。

これらのことから、裁判所は、目的物が被害者にとって特別の愛着をいだかせることが一般的に争いのない場合に限って物損の慰謝料を認めているものと考えられます。

この点、については、家族同様の強い愛着を持たれている方もいらっしゃいます。

しかし、そのことが「一般的に争いがない」とまではいえないため、残念ながら現状では慰謝料請求は困難と考えれられます。

ただし、新車を傷つけられて修理した場合、修理費とは別に評価損というものを請求できる余地があります。

その評価損が慰謝料的な側面を果たしているともいえます。

物損事故における治療費と通院慰謝料の扱いとは!?

物損事故における治療費と通院慰謝料の扱いとは!?

物損事故のまま治療費・通院費を請求できる?

ところで、最初は痛みがなかったけど後から生じてきた場合などは、速やかに人身事故への切り替えを希望した方が良いという話でしたね。

しかし、人身事故へ切り替えせず、物損事故として処理されてしまったけれど、結果治療に通うことになった場合…。

その治療費や通院費を請求することはできないのでしょうか?

やはり、物損事故のままだと治療費を請求することは不可能なのでしょうか?

交通事故証明書上、物損(物件)事故扱いのままでも、人身事故証明書入手不能理由書という書類を添付すれば、自賠責保険に治療費・通院費を請求できます。

そのことを前提として、加害者側の保険会社も、物件事故扱いのまま、治療費や通院費の支払いに応じてくれることもあります。

ただし、あくまで事故と治療(けが)との因果関係が認められることが前提であることには注意が必要です。

  • ごく軽微な物損事故の場合
  • 事故から初診時までの期間が空いている場合

などは因果関係が否定され、治療費・通院費を請求できない可能性があります。

なお、加害者側の保険会社から物損事故扱いのままにしてくれれば、賠償額で考慮するという話を持ちかけられたという話を耳にすることがあります。

しかし、少なくとも、そのことを明示的な理由として賠償額が増えることはありません。

また、賠償の段階で、そのような話はしていないと言われてトラブルになっているという話もよくあるそうです。

保険会社に惑わされず、物損事故として扱われている場合に、治療を受ける際には、診断書を警察に持参して、人身事故切り替えておいた方が良いでしょう。

ただし、人身事故に切り替えても、事故と治療(けが)との因果関係が問題となる可能性はあります。

物損事故のまま通院慰謝料も請求できる?

先ほど、物損事故では、愛車が傷ついたことに対する精神的損害の償いとしての慰謝料はもらえないことを確認しましたね。

一方で、通常の人身事故では、通院をした場合、治療による精神的苦痛に対する慰謝料を受け取ることができます。

通院慰謝料

交通事故によって通院をすることになった場合に精神的苦痛に対して支払われるもの

物損事故扱いである場合でも、通院を要したのであれば、この通院慰謝料を受け取ることはできるのでしょうか?

専門的な内容になってきたので、岡野弁護士に解説をしてもらいましょう。

治療費や通院費同様、交通事故証明書上、物損(物件)事故扱いのままでも、一定の書類を添付すれば、自賠責保険から通院慰謝料を受け取ることができます。

そのことを前提として、加害者側の保険会社から、物損(物件)事故扱いのまま、通院慰謝料を受け取れることもあります。

ただし、治療費や通院費同様、あくまで事故と治療(けが)との因果関係が認められることが前提となります。

通院慰謝料は、通常の人身事故の場合同様、用いる基準によって金額は異なりますが、原則として通院期間を基準として金額が決められます。

物損事故の修理代請求について徹底調査!

物損事故の修理代請求について徹底調査!

修理代請求をするうえでの注意点

物損事故に遭ってしまった場合、まず気になるのは、車両の修理代がどうなるかですよね。

相手方に修理代を払ってもらう場合、相手方が指定した工場で修理しなければいけないと思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

事故に遭われた方は、自分の信頼できる好きな修理工場で修理してもらうことができます。

もっとも、支払われる修理代は、あくまで、事故によって損傷した箇所を修理するために必要となる妥当な修理代になります。

そのため、

  • 事故以前に損傷していた箇所の修理が含まれている場合
  • 相場からかけ離れた高額な修理費の場合

は全額を支払ってもらえないことになります。

修理した後に、そういった修理費の争いが起こるのを避けるため、修理工場を決めた場合、事前に相手方に連絡するのが通常です。

そして、相手方が任意保険に加入している場合、相手方保険会社側のアジャスターという方が修理工場に行くことになります。

アジャスターとは、自動車の損傷状態を調査し、損害額の認定を行う専門家のことです。

修理工場の担当者とアジャスターが、修理の範囲や金額について協議し、折り合いが付けば協定を結んだ上で、修理に入ることが多いです。

なお、被害者の方でも、過失割合が認められる場合には、ご自身の過失割合分が差し引かれた修理費しか受け取ることができません。

「修理しない」場合に修理代を請求できる?

  • 相手の不注意による物損事故で車が破損したので、修理代は請求したい。
  • 破損したとは言え、走りに影響はないので、今回は修理しないでいいと思っている。

そのようなケースでは、相手方に修理代を請求できるものでしょうか?

自動車の修理屋で見積もりを取り、保険会社に修理屋ではなく自分の口座に賠償金を入金してもらい、修理せずに次の車の購入費用にあてることは合法ですか?

また、最初から直す気はないのに見積もりを取ってもらうことは法的に問題ないのでしょうか?

このサイト以外でも、インターネット上では、同種の質問に対して、違法、合法、グレー、さまざまな答えや意見が飛び交っています。

法律家の専門家に聞いてみましょう!

法律上、損害賠償は金銭賠償を原則としております。

そのため、交通事故により車の修理が必要となった場合、相手方が負う賠償義務は、修理をすることではなく、修理に必要となる金銭の支払となります。

よって、賠償金として受け取った修理に必要となる額の金銭をどのように使うかは被害者の自由であり、修理せずに次の車の購入費用にあてることも合法です。

ただし、実際に修理をしない場合には、消費税相当額が賠償の対象になるか争われることがあります。

また、損害額算定のためには修理見積もりを取る必要があるので、修理をする意思がなくても、修理見積もりを依頼することは法的に問題ありません。

もっとも、修理工場の中には、自社で修理をする場合には見積もり無料だが、修理をしない場合には見積もり作成料を請求するところもあるようです。

そういった点には注意が必要ですね。

自賠責保険に対して物の修理代を請求できる?

結論から申し上げると、車両の修理費など物に関する損害は、自賠責保険では補償されておらず、自賠責保険に請求することはできません

なぜなら、自動車損害賠償保障法をよく読んでみると他人の生命又は身体を害したときの賠償責任に限定しているからです。

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

一点注意が必要なのは、交通事故によって身体にけがを負った際に、身体の機能を補完する物に損害が生じた場合には、自賠責保険において補償されます。

身体の機能を補完する物は、身体の一部とみなされるからです。

身体の機能を補完する物とは、眼鏡(メガネ)、コンタクトレンズ、補聴器、松葉杖、義肢、義眼などのことをいいます。

損害賠償してもらえる示談金の総額は?

損害賠償してもらえる示談金の総額は?

これまで、物損事故の被害者が、慰謝料、治療費、修理代を請求できるのか、ということを見てきました。

加害者に請求したい費用は、他にもいろいろあると思います。

一つ一つ、確認していきましょう!

修理歴による評価損は請求できる?

愛車の修理が必要となったとき、精神的損害としての慰謝料としてではなく、修理代とも別の費用を請求したくなることもあるでしょう。

このツイートのように、車両を修理すると、見た目は元通りになっても、事故歴がある車ということで、査定価格が下がるなどその車両の交換価値が下落します。

このように、交通事故により車両を修理したことによる交換価値の下落を補填するために評価損というものを、加害者に請求することが可能です。

評価損は、精神的な損害である慰謝料的な側面もありますが、あくまで車両の交換価値の下落という財産的な損害といえます。

裁判上は、

  • 初度登録からの期間
  • 走行距離
  • 損傷の部位
  • 車種

などを総合的に考慮して評価損が認められるか判断しているようです。

そして、評価損を認める場合、裁判所では、修理費の30%程度の金額を認めることが多いようです。

「原告車両はメルセデスベンツであること、初度登録が平成5年9月の車両であること、本件事故時までの走行距離が2227kmであること、本件事故直前の時価が約1800万円であることが認められる。

そして(略)本件事故による損傷のため(略)より低い金額でしか譲渡できなかったこと(略)によると、右車両評価損を修理費用の30%である金78万円であると認めるのが相当」

但し、先ほどお伝えしたとおり、評価損は車両を修理したことによる交換価値の下落の補填ですので、いわゆる全損で買い替えが必要な場合には認められません

また、裁判上は、上記の考慮要素が、

  • 初度登録からの期間→外国車、国産の人気車種:5年以上/国産車:3年以上
  • 走行距離→外国車、国産の人気車種:6万km以上/国産車:4万km以上
  • 損傷の部位→社団法人日本自動車査定協会が示す修復歴判断基準を満たさない
  • 車種→国産大衆車・原動機付自転車

の場合は評価損が認められにくい傾向にあるようです。

休業補償は受けられる?

タクシーやトラックのように、自動車を使って仕事をしている人が物損事故の被害者になり、修理に出したとき、仕事ができない間の休業補償は出るのでしょうか?

物損事故のときは休業補償は出ない…という情報もあるようです。

実際のところはどうなのか?岡野弁護士にお尋ねしてみましょう。

治療費や慰謝料同様、交通事故証明書上、物損(物件)事故扱いのままでも、一定の書類を添付すれば、自賠責保険から休業損害を受け取ることができます。

そのことを前提として、加害者側の保険会社から、物損(物件)事故扱いのまま、休業損害を受け取れることもあります。

ただし、あくまで事故により、休業せざるを得なくなったけがを負ったことが前提となります。

なお、けがのない物損事故であっても、代車では対応できない営業車を修理に出し、その間営業ができなかった場合、その損失を補填するための休車損害が請求できます。

物損事故の迷惑料は請求できる?

営業車が事故で使えなくなった場合には、「休業損害」が請求できることはわかりました。

しかし、車を仕事で使っていなくても、休日に車で出かけようと思っていたのに、それが叶わなくなれば一種の被害と言えますよね。

車が直ってから行けばいいと言われても、日程の調整や宿泊の予約など…それがすべてキャンセルになったとすれば…。

精神的被害である慰謝料とは別に、迷惑料を請求できても良いような気がします。

被害者からすれば、修理中に愛車乗れないのは困りますし、修理工場へ出向いたりと時間を取ったのに償いがないのはおかしいと感じるところです。

しかし、残念ながら、物損事故では迷惑料は請求できないそうなのです…。

法律上、賠償義務が発生するのは、あくまで生じた損害に対してです。

そして、修理中に愛車に乗れなかったことや物損の処理に時間を取られたことへの償いを求めることは、実質的には精神的苦痛への補填を求める慰謝料請求と重なります。

しかし、上で記載されているとおり、通常、財産権侵害に伴う精神的苦痛は、財産的損害の填補により同時に填補されるものと考えられております。

そのため、物損事故で、迷惑料見舞金を請求することはできません

なお、物損の処理に時間を取られたことで収入が減った場合、理論的には休業損害を請求する余地はあります。

しかし、実務上、けがのない物損事故で休業損害は認められていません。

もっとも、加害者側が誠意を示すために、自発的迷惑料見舞金を支払うケースはわずかながらあります。

一概にどのようなケースで払われるとはいえませんが、

  • 当事者が顔見知りのケース
  • 加害者が勤務中の事故で勤務先から支払われるケース

などが考えられます。

また、金額の相場があるわけではないですが、被害者にけがのない物損事故の場合は、人身事故の場合に比べて低額なものが多いと思われます。

なお、金額や支払の趣旨によっては、迷惑料や見舞金名目で支払われたものであっても、最終的な損害賠償額から控除される可能性がある点には注意が必要です。

【まとめ】示談金の金額や内訳

慰謝料、損害賠償、示談金の違い

その前に、慰謝料、損害賠償、示談金。

一般用語的には、皆、同じようにも思えてきます。

慰謝料と損害賠償の違いは、法学部生でも紛らわしい、という話もあります。

この記事の中では、何度か触れてきましたが、もう一度、おさらいをしておくと、慰謝料とは精神的損害に対する賠償金のことです。

一方、損害賠償とは違法行為によって他人に与えた損害を填補(埋め合わせ)することをいいます。

交通事故による損害は大きく財産的損害と精神的損害に分けられ、慰謝料は、交通事故による損害賠償の一項目といえます。

なお、示談金とは、当事者間の合意の上で、事件が解決したことを確認するために加害者から被害者に支払われる金銭のことをいいます。

交通事故の示談金とは、基本的に交通事故による損害賠償金の意味合いを持ちますが、当事者間が合意さえすれば、その金額はいくらでも構いません。

実際、当事者間で、交通事故によって生じた損害額に争いが生じることは多いですが、一度示談してしまえば、その後は争うことができなくなります。

示談金の内訳

それでは、この記事で見てきた色々な費用について、加害者側・保険会社に請求できるかどうかまとめました。

ご覧になってみてください。

まとめ

物損事故に関わる費用

加害者・保険会社への請求 被害者の出費
慰謝料※ × なし
通院慰謝料 なし
治療費 あり
車の修理代 あり
車の評価損 なし
休業補償 なし
迷惑料 × なし

※通院慰謝料を除く

【参考】物損事故の示談書にサインする際の注意点

示談金の内容についてはだいぶ詳しくなることができました。

しかし、示談をするにあたっては、示談書が必要だと聞きました。

示談書には、示談内容を記載して、加害者・被害者側双方の署名と捺印があれば成立するとは聞きましたが…。

被害者側としては、盛り込んでもらった方が良い内容や、何か気を付けるべき点はあるのでしょうか?

物損事故の示談の際に過失割合が問題になることがあります。

そして、物損の示談の際の過失割合は、同一の交通事故であるため、通常人身分の示談の際にも同じ過失割合で計算されることになります。

そのため、物損事故の示談書に過失割合を明記しておけば、人身分の示談の際に過失割合で争いになることを防げることになります。

一方で、早期に物損事故を解決するために、過失割合を譲歩する場合があります。

お伝えしたとおり、物損の示談の際の過失割合は、通常人身事故の示談の際にも同じ過失割合で計算されてしまうため、そのような場合には

物損事故の示談書に人身分に関しては過失割合を別途協議する旨の一文

を入れておかないと、人身分の示談の際に不利益が生じる可能性があるので、その点は気を付けましょう。

物損事故の過失割合

物損事故の過失割合

過失割合の決め方

物損事故に限らず、交通事故における過失割合に関しては、大量の同種事案を公平・迅速に処理するために、事故の類型ごとに基本的な過失割合の基準が定められています。

その過失割合の基準としては、東京地裁で民事交通訴訟を集中して担当している専門部の裁判官が中心となって作成された認定基準が実務上用いられています。

その認定基準は、「別冊判例タイムズ 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という書籍において公表されています。

こちらの書籍は、弁護士をはじめとする専門家向けの本で、一般の方が読むには少々難しいものです。

保険会社が説明する過失割合に不満や疑問があるときは、弁護士に相談し、あなたの交通事故の状況を詳しく伝えるといいでしょう。

こちらの書籍で公表される基準にもとづいて、過失割合が適正か否か、教えてもらうことができます。

車対車の物損事故で過失割合10対0のケース

交通事故の過失割合に関しては、思っているのは違うこともあるようですね…。

相手が全面的に悪いようにも思える、横からの追突事故でも、過失割合が10対0と認められることは基本的にありません

例外的に、過失割合が10対0となるのは、車対車の物損事故で言うなら、以下のようなケースです。

  • 停車中の追突事故
  • 対向車両がセンターラインを超えて衝突してきた事故
  • 相手方車両が赤信号で進入してきた事故

自分にも過失ある場合は自己負担もある?

物損事故で、過失割合が大きい相手の車も、小さい自分の車も修理が必要になったら、修理費の一部は自己負担となるか?

答えはイエスです。

仮に過失割合が相手9:自分1で、双方車の修理が必要になった場合、相手方には自分の車の修理費の9割までしか請求できず、1割は自己負担となります。

反対に、相手方には相手の車の修理費の1割を支払う必要があります。

そして、上のツイートのように、相手の車の修理代が高額な場合、自分の方が過失割合が小さいにもかかわらず、自分がお金を支払わなければならないケースが出てきます。

仮に相手方の修理費が100万円、自分の車の修理費が10万円だとします。

そうすると、相手には10万円の9割である9万円しか請求できない一方、こちらは100万円の1割である10万円を支払う必要があります。

その結果、差し引き(相殺して)こちらが相手方に1万円を支払わなければならなくなり、実質的に自分の車の修理費が全額自己負担ということになります。

物損事故から示談までの流れ

物損事故から示談までの流れ

ここまで、物損事故に関する様々なことをお伝えしてきました。

ここで物損事故が発生してから示談までの大まかな流れについてお伝えしたいと思います。

事故直後

まず、物損事故に遭ってしまったら、車両を止めて、警察に事故の報告をしましょう。

警察が現場に来るまで、ある程度時間が掛かることも多いので、その間に加害者と連絡先を交換しておきましょう。

任意の自動車保険に加入している場合には、ご自身の保険会社に事故に遭ったことの報告もしましょう。

また、後の争いに備えて、余裕があれば、事故現場の状況や車両など物の写真を撮影しておくのが望ましいです。

警察が現場に到着後

警察が現場に到着すると、警察官から事故状況などを聴取されることになります。

聴取が終われば、その日は解散となりますが、事故により車両が自走不能となった場合は、レッカーの手配をする必要があります。

当日~数日後

痛みがある場合はもちろん、事故直後は痛みを感じなかった場合でも、事故当日か遅くとも数日以内には病院で診察を受けましょう。

事故後に痛みが出てきて、通院が必要となった場合には、なるべく早く診断書を持って警察署に行き、人身事故切り替えをする必要があります。

当日~1週間後

車両の修理をする場合には、修理工場を決めて車両を入庫し、相手方に連絡をする必要があります。

相手方が任意保険に入っている場合、相手方のアジャスターが、修理工場に行って、修理の範囲や金額について協議し、折り合いが付けば、協定を結びます。

修理工場は、協定に従って修理をします。

車両の修理中、代車が必要となる場合には、代車を借り入れします。

評価損など、車両の修理費以外の物的損害がある場合には、相手方と交渉をします。

過失割合に争いがある場合には、同時に過失割合についても相手方と交渉をします。

1週間後以降

相手方と交渉の上、双方が合意すれば示談となり、修理費などの示談で決められた金額が支払われます

事案によって様々ですが、スムーズに進めば、物損事故発生から示談・入金まで2ヶ月以内に終わることもあります。

一連の流れについて、簡単に表にまとめたものが下にありますので、参考にしてみてください。

上記の期間は、あくまで争いの少ないケースを想定しており、修理費などの損害や過失割合に争いがある場合には、より時間がかかることも珍しくありません。

また、修理の範囲や金額について折り合いがつかないことを理由に修理に入らないケースがありますが、その期間の代車は認められない場合があることに注意が必要です。

なお、当然のことですが、人身事故に切り替えをした場合には、別途人身についての示談が問題となります。

まとめ

物損事故発生から終了まで

期間 流れ 他にすべきこと
事故当日 ・警察に報告
・連絡先交換
・保険会社に報告
・警察官から聴取
・レッカーの手配
現場や物の撮影
当日〜数日後 病院で診察 人身切り替え
当日〜1週間後 ・修理工場選定
・修理工場入庫
・相手方に連絡
代車借り入れ
1週間〜2週間後 協議・協定
2週間〜4週間後 修理
4週間〜6週間後 交渉
6週間〜8週間後 示談・入金

※修理をする場合を想定・期間はおおよその目安

物損事故の不満を弁護士に相談

物損事故の不満を弁護士に相談

ここまで、物損事故の被害に遭われた方に向けての情報を調査・報告してきました。

物損事故では、事故における当事者の過失割合や修理費用・代車費用の負担について争いになることが多いようです。

とくに、事故態様について当事者の言い分が食い違うと、過失割合について深刻な紛争に発展してしまうことも少なくない。

そんなとき、弁護士に示談交渉を依頼することができれば、心理的負担からも解放されますし、自分にとって有利な過失割合や損害額での合意ができる可能性が高まります。

弁護士費用や裁判費用は?

一方で、物損事故は損害額が少額にとどまるケースも多いです。

しかし、弁護士に示談交渉を依頼した場合、最低でも20~30万円程度の弁護士費用がかかります。

よって、物損事故の場合、被害者が弁護士費用を自己負担すると、費用倒れになってしまうことがほとんどのようです。

物損のみの場合は、人身の慰謝料などと異なり、弁護士が介入することにより、用いられる基準が変わるわけではなく、賠償額の大幅な増額は望めないことも多いです。

もっとも、高級車の評価損など、弁護士費用が賄える程度の賠償額の増額が見込めるケースも存在します。

また、評価損など請求できる可能性がある項目が存在するのに、そのことを知らずに示談してしまうこともあります。

物損のみで、弁護士特約が付いていない場合でも、何か疑問がある場合には、示談する前に弁護士にまずは相談してみるとよいでしょう。

また、相手方とどうしても折り合いがつかない場合、裁判以外に交通事故紛争処理センター法律相談、和解あっ旋を申し立てるという方法があります。

交通事故紛争処理センターでは、無料で中立な相談担当弁護士が双方の主張を聴いた上で和解のあっ旋をしてくれます。

保険の弁護士費用特約を使う

しかし、最近では自動車保険に弁護士費用特約がついていることがほとんどです。

弁護士費用特約がついている場合、物損事故でも損害額にかかわらず300万円を上限として保険会社から弁護士費用が支給されることがほとんどです。

物損事故で相手方とトラブルを抱えている方や不満がある方は、保険証や書類を確認してみるといいでしょう。

このように、弁護士特約がついている人からは、弁護士に保険会社との交渉を任せられ、面倒から解放された、との声もあります。

まとめ

ここまで、物損事故の被害者側に関する疑問を調査・報告してきました。

しかし、読んだだけではわからない疑問が残っているという方もいらっしゃるかもしれません。

弁護士に相談したいという方もいらっしゃるはずです。

そのような場合、日本弁護士連合会の法律相談センターに相談してみると良いかもしれません。

全国に窓口があるようなので、連絡して、対応できる弁護士を探してみてください。

最後に一言アドバイス

では、岡野先生、最後にまとめの一言をお願いします。

物損事故は起こる頻度が高いものではありますが、その後の対応や流れについて詳しい方は少ないはずです。

また、保険の内容も複雑であり、本来使える有益な保険を見逃して、誤った判断をしてしまう可能性があります。

そうならないためにも、まずは弁護士に相談するなどして、保険証券や保険の内容をよく確認してみましょう。

いかがだったでしょうか?

このページを最後までご覧になってくださった方は、

  • 物損事故の慰謝料
  • 治療費通院慰謝料を請求する方法
  • 物損事故に対する示談金の内訳
  • 物損事故の過失割合
  • 物損事故の示談書にサインする際の注意点

などについて、理解が深まったのではないかと思います。

このページだけではわからなかったことがあるという方は、下の関連記事もぜひ利用してみてください。

交通事故に遭われた方の少しでもお役に立てれば何よりです。

物損事故の損害請求についてのQ&A

痛みがあっても外傷がなければ物損事故になる?

「大きな外傷がないけど軽いむちうちを感じる」というような場合、物損事故として申告する人も多いです。その場合、警察や保険会社からは以後、物損事故として扱われるので注意が必要です。充分な治療費や慰謝料を受け取れないなどのリスクがありますので、なかなか痛みがひかない場合や、最初は痛みがなかったけど後から生じてきた場合は、速やかに物損事故から人身への切り替え手続きをしておいた方が良いでしょう。 物損事故と人身事故の違いについて

愛車が傷ついたことに対する慰謝料は請求できる?

残念ながら、基本的には、物損事故の被害者が、愛車が傷ついたことに対する慰謝料を相手に請求することはできません。慰謝料は精神的苦痛を金銭で填補するものですが、財産権侵害に伴う精神的苦痛については、財産的損害の填補により同時に填補されるものと考えられているからです。しかし、飼い犬が後遺障害の残るけがを負ったケースなどごく一部の事例では、物損に対する慰謝料を認めた裁判例もあります。 愛車破損に対する慰謝料の相場とは

物損事故でも治療費や通院費などは請求できる?

物損(物件)事故扱いのままでも、一定の書類を添付すれば、自賠責保険に治療費・通院費を請求できます。また、通院慰謝料も受け取ることができます。しかし、あくまで事故と治療(けが)との因果関係が認められることが前提となるので注意が必要です。ごく軽微な物損事故の場合、事故から初診時までの期間があいている場合などには因果関係が否定され、治療費・通院費を請求できない可能性があります 物損事故のまま治療を受けたい

賠償金を受け取ったら必ず車を修理しなきゃダメ?

賠償金として受け取った金銭をどのように使うかは被害者の自由であり、傷ついた車を修理せずに次の車の購入費用にあてることも合法です。ただし、実際に修理をしない場合には、修理工場に支払う消費税が発生しないので、消費税相当分は差し引かれることがあります。 「修理しない」場合に修理代を請求できる?

この記事の監修弁護士

岡野武志弁護士

アトム法律事務所弁護士法人
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第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。

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