交通事故の自賠責基準|自賠責保険で支払われるもの・認められないもの

  • 自賠責基準

交通事故の自賠責基準|自賠責保険で支払われるもの・認められないもの

交通事故に遭ったけど、相手方が自賠責にしか入っていないようだ…」

「自賠責の基準は最低限の保障しかされないって聞いたけど慰謝料休業損害治療費などはしっかり払われるの?」

交通事故にあわれた被害者の方の中には、そんな不安やお悩みを抱いてらっしゃる方も多いのではないでしょうか?

交通事故に巻き込まれるというのは、人生でもそうはないことですので、自賠責の基準なんてわからなくて当然かと思います。

逆に、交通事故にあわれた被害者の方でも、相手方が任意保険に入っているので、自賠責の基準なんて関係ないと思っている方もいるかもしれません。

でも、相手方が任意保険に入っていても、自賠責の基準が問題となってくる場合があるんです!

このページでは、そんな方のために

  • 自賠責の基準ってどうなっているの?
  • 自賠責の基準って任意保険や裁判基準と何が違うの?
  • どういう場合に自賠責の基準が問題になってくるの?

といった疑問を解消すべく、徹底的に調査してきました!

専門的な部分や実務的な部分は、交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。

弁護士の岡野です。よろしくお願いします。

自賠責基準は交通事故の賠償の基礎となるものです。

自賠責の基準について理解しておけば、交通事故の賠償の見通しを立てることができます。

ここでは少しでも自賠責の基準について理解を深めて頂き、今後に役立てていただければと思っています。

車に乗って、加入しているから自賠責の存在は知っているけど、支払基準までは詳しく知らないという方も実は多いのではないでしょうか?

まずは、交通事故における自賠責の支払基準の基礎知識を押さえていきましょう!

交通事故における自賠責保険の支払基準の基礎知識

交通事故における自賠責保険の支払基準の基礎知識

自賠責保険の支払基準は国土交通省らが作成

車に乗られている方は、こういった自賠責保険の証明書を持っていらっしゃるかと思います。

Jidousha baisho sekinin hoken shomeisho

教習所などで教わったと思いますが、車を運転する際には、必ず自賠責保険に入らなければいけません。

自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。

これは、交通事故の加害者が無資力の場合に被害者を救済できないことを避けるため、被害者を確実かつ迅速、公平に救済するために設けられた制度です。

ちなみに、自賠責保険に入っていない自動車を運転すると1年以下の懲役又は50万円以下の罰金になってしまいますので、注意しましょう!

こういった強制保険の制度を設けている国は日本以外にはあまりないようです。

そして、自賠責保険が被害者保護という社会政策的な側面を持つ、強制保険であるため、任意保険とは以下の部分で大きく性質が異なります。

「保険料率は「能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内でできる限り低いものでなければならない」ことが法令で規定されており、利潤や損失が生じないように算出する必要があります。これを「ノーロス・ノープロフィットの原則」といいます。」
「基準料率の算出にあたっては、保険会社が支払う保険金にあてられる部分(純保険料率)と、必要な諸経費にあてられる部分(付加保険料率)のみを織り込むこととしています。」

つまり、任意保険と異なり、基準料率の算出にあたっては、利益を出すことを考えていないということです。

実際、2017年度の自賠責保険料は事故が減り、支出が少なくなった分、引き下げられることになりました。

金融庁は19日、自動車や二輪車の全保有者が加入を義務付けられている自動車損害賠償責任(自賠責)保険審議会を開き、2017年度の自賠責保険料を平均で6.9%引き下げることを決めた。

自家用車(2年契約、沖縄・離島を除く)は2万5830円に安くなる。

自動安全ブレーキなど運転支援技術の普及で事故が減り、保険収支が改善しているためだ。

保険料の引き下げは9年ぶりで6回目。

現在の保険料は自家用乗用車の場合2万7840円で、引き下げで2010円安くなる。

軽自動車は1300円安くなり2万5070円となる一方、原動機付き自転車は80円高い9950円となる。

(以下略)

これらの保険料により集められた金銭が、交通事故が発生した場合の保険金の支払いの原資となります。

そして、自賠責の保険金の支払基準は、法律上、国土交通交通大臣が作成することになっています。

1保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。

2国土交通大臣及び内閣総理大臣は、前項の規定により支払基準を定める場合には、公平かつ迅速な支払の確保の必要性を勘案して、これを定めなければならない。これを変更する場合も、同様とする。

この法律に基づき、国土交通省及び金融庁が作成した自賠責の支払基準が以下のものとなります。

個別の内容については、下で詳しく報告していきます!

自賠責保険には基準額や限度額がある

自賠責保険は、被害者の損害を最低限度保障するための保険だといわれます。

そのため、自賠責の基準額で計算した金額は最低限もらえると誤解されている方がいらっしゃいます。

しかし、自賠責保険は、法律で限度額が決まっており、限度額以上のお金は支払われません。

責任保険の保険金額は、政令で定める。

法第13条第1項 の保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。

一 死亡した者

イ 死亡による損害(ロに掲げる損害を除く。)につき三千万円

(略)

三  傷害を受けた者(前号に掲げる者を除く。)

イ 傷害による損害(ロからヘまでに掲げる損害を除く。)につき百二十万円

(以下略)

上の法律に記載されているとおり

  • 傷害:120万円
  • 死亡:3000万円

限度額ということになります。

この限度額は、慰謝料・休業損害・治療費など全ての損害を合わせた額となります。

また、下で詳しく説明しますが、後遺障害等級が認定された場合には等級ごとに限度額が決まっています。

なお、誤解されている方もいらっしゃいますが、物損事故では、自賠責保険は使えないので、注意が必要です。

なぜなら、自動車損害賠償保障法をよく読んでみると他人の生命又は身体を害したときの賠償責任に限定しているからです。

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

自賠責保険と任意保険や裁判との基準の違いは?

先ほどお伝えしたとおり、自賠責保険は最低限度の保障であり、支払基準限度額が決まっています。

そのため、自賠責保険の支払基準と限度額では、実際に裁判などで支払を命じられる賠償額をカバーしきれないことも多くなります。

任意保険

そういった、自賠責の基準を超える部分の支払に備えて、多くの方が自賠責保険とは別に任意保険に加入します。

お伝えしたとおり、任意保険は自賠責を超える部分をカバーするためのものですから、任意保険で支払われる金額は自賠責保険よりも高くなります。

また、契約の内容にもよりますが、限度額は無制限であることが多く、少なくとも自賠責保険よりは高額となります。

他方で、自賠責保険の基準の方が任意保険の基準よりも有利な部分があります。

それは、過失割合についての取扱いです。

詳しくは、下で説明しますが、自賠責保険の場合、被害者に過失割合が認められても、一定の割合以下であれば過失減額されません。

ここで、自賠責保険と任意保険や裁判との基準の違いを簡単に表にまとめてみましたので、参考にしてみてください。

自賠責保険と任意保険や裁判との基準の違い
基準 自賠責保険 任意保険・裁判
金額 最低保障 自賠責より高い
過失減額 一定の場合されない される
限度額※ 120万円 無制限

※自賠責の限度額は傷害分のみ・任意の限度額は例外あり

自賠責保険へ事故が発生した際に請求する方法

自賠責保険へ請求する二つの方法

自賠責保険事故が発生した際に請求する方法を、法律は二つ定めており、一つは自動車損害賠償保障法第15条による請求です。

被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。

条文を読んだだけでは、よくわからないと思いますので、解説します。

まず、「被保険者」とは加害者側の運転者又は車両の保有者のことになります。

自賠責保険は、事故の加害者が保険金を支払う代わりに、事故を起こしてしまった際に、代わりに保険から被害者に賠償してもらう責任保険です。

そのため、本来は保険の当事者である加害者が自賠責保険に保険金を請求することになります。

上の条文は、その場合の請求方法を規定したものです。

加害者側が請求することや根拠条文から

  • 加害者請求
  • 15条請求

などと呼ばれています。

そして、条文に記載されているとおり、自賠責保険に保険金を請求するためには、

被害者に対する損害賠償の支払をしたこと

が条件になっています。

これは、加害者が保険金を着服することを防ぎ、被害者の救済を確実に図るためです。

しかし、この請求方法だけだと、加害者がしっかり対応してくれない場合に、被害者の救済が図れなくなってしまいます。

そこで、自動車損害賠償保障法はもう一つの請求方法を定めています。

第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。

被害者保護という自賠責の目的を果たすため、保険契約の当事者ではない、被害者に直接請求する権利を認めたものです。

被害者は保険契約の当事者ではないため、条文上「保険金」ではなく「損害賠償額」の支払を請求することになっています。

上の条文は、その場合の請求方法を規定したものです。

被害者が請求することや根拠条文から

  • 被害者請求
  • 16条請求

などと呼ばれています。

被害者の請求ですので、当然、請求前の支払は条件となっていません。

15条請求と16条請求の検証
15条請求 16条請求
請求する人 保有者又は運転者 被害者
請求前の支払 必要 不要

被害者請求をする場合とは?

被害者請求をする場合とは、一般的に次のような場合と考えられています。

被害者請求する場合
  • 相手方が自賠責保険にしか加入していない場合
  • 自身の方が過失割合の大きい場合(相手方任意保険会社が対応しない場合)
  • 相手方と示談が成立しない場合

まず、相手方が自賠責保険にしか加入していない場合、相手方は保険金額を一旦立て替えるまとまったお金を持っていないことがほとんどです。

そのため、被害者請求の手続により自賠責保険から直接支払を受けることになります。

また、相手方が任意保険に入っていても、自身の方が過失割合の大きい場合、相手方保険会社は対応してくれない場合が多いです。

そんな場合には、自身で被害者請求の手続を取り、損害賠償額の回収を図ることになります。

さらに、自身が被害者で、かつ、相手方が任意保険に入っていても、示談が成立しないと、相手方から金銭を受け取ることはできません。

そんな場合でも、被害者請求の手続を取ることにより、相手方との示談成立前に、自賠責の基準の限度で金銭を受け取ることができます

岡野弁護士、実務上他に被害者請求をする場合はありますか?

相手方が任意保険に加入している場合、治療費は任意保険会社が治療機関に直接治療費を支払うことが通常です。

しかし、任意保険会社の一方的な判断により、任意保険会社が治療機関に直接治療費を支払う手続が打ち切られてしまうことがあります。

そんなとき、自賠責保険の限度額に達していない場合には、被害者で治療費を立て替えて治療し、後日被害者請求をすることがあります。

自賠責保険の傷害による損害の支払基準

自賠責保険の傷害による損害の支払基準

自賠責の支払基準ー慰謝料編ー

自賠責保険の支払基準の基礎知識を押さえたところで、ここからはみなさんが気になっているであろう具体的な支払基準を見ていきましょう!

まずは、一番気になっているであろう慰謝料の基準は次のようになっています。

3.慰謝料

(1) 慰謝料は、1日につき4,200円とする。

(2) 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする。

(以下略)

日額が4,200円というのは明確ですが、対象となる日数は基準を読んだだけではよくわかりませんね…。

実は通院慰謝料は、

  • 実際の通院の日数×2
  • 通院の期間

いずれか少ない方を対象日数として計算するといわれています。

支払基準に「実治療日数…を勘案」と記載されていることから上のツイートの方のように毎日通院したほうが慰謝料が上がると思われている方がいます。

しかし、30日の通院期間中に毎日通院した方と15日通院した方の慰謝料は同じとなります。

慰謝料のことだけでいえば、1日おきに通院すれば十分ということになります。

この自賠責の支払基準による慰謝料が全額払われるのは、傷害による損害の総額が120万円の限度額の範囲内の場合のみである点には注意しましょう。

自賠責の支払基準ー休業損害編ー

また、自賠責基準の中で、当面の生活に影響する休業損害がどうなっているか気になっている方も多いと思います。

休業損害の支払基準は次のようになっています。

2.休業損害

(1)休業損害は、休業による収入の減収があった場合・・・1日につき原則として5,700円とする。ただし、家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす。

(2)休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし・・・治療期間の範囲内とする。

(3)立証資料等により1日につき5,700円を超えることが明らかな場合は、自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額を限度として、その実額とする。

(略)政令で定める額は、一日につき一万九千円とする。

この基準から、

  • 日額は原則5,700円
  • 対象日数は実休業日数が基準
  • 日額は19,000円が上限

ということがわかりましたね。

また、「家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす」とは、主婦の方も休業損害が認められるということです。

なお、「実休業日数」の判断が難しい自営業の方や主婦の方は実通院日数を実休業日数の基準にすることが多いようです。

岡野弁護士、実務上、自賠責基準での休業損害について押さえておくべきポイントはありますか?

休業による収入減があった場合、上限がある反面、減収が日額5,700円以下でも5,700円として計算されるというのはメリットといえます。

任意保険の基準や裁判では、減収が日額5,700円以下の場合、その日額で計算されます。

また、任意保険の基準や裁判では、事故から時間が経過した後の休業は、休業の必要性がないとして休業損害の対象に含めないと争われることがあります。

それに対し、自賠責の基準では、限度額の範囲内なら、事故から時間が経過した後の休業も休業損害の対象に含めてくれることが多いです。

自賠責の支払基準ー治療費等編ー

さらに、自賠責基準の中で、実際の支出を伴う治療費などの積極損害がどうなっているか気になっている方も多いと思います。

積極損害の支払基準は次のようになっています。

多くが「必要かつ妥当な実費」と記載され、具体的な金額は記載されていませんが、具体的な金額が記載されているものとして、

  • 入院看護料:原則日額4,100円
  • 通院看護料:原則日額2,050円(近親者が付き添った場合)
  • 入院雑費:原則日額1,100円
  • 眼鏡(コンタクトレンズ):上限50,000円

という基準が定められています。

なお、治療費を接骨院が水増し請求したとして、詐欺罪で有罪判決を受けたというニュースがありました。

交通事故によるけがの通院日数を水増しし、保険会社から保険金をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた元接骨院長(略)に対し、山形地裁は9日、懲役3年執行猶予5年(求刑懲役4年)を言い渡した。

(略)

判決によると(略)患者6人の通院日数を計約700日水増しし、患者らに振り込まれた分も合わせて、保険金計約1千万円をだまし取った。

こういった不正請求の他にも、診療行為に対する報酬額が高額すぎるとしてトラブルになるケースがあります。

そのため、自賠責の治療に関する診療報酬の基準案が作成されていますが、医師に対する拘束力を持つものではありません。

慰謝料は通院日数が影響してくるため、治療機関から通院日数の水増しを持ちかけられることがあるかもしれませんが、必ず拒否して下さい。

また、治療費があまりに高額な場合、相手方保険会社や自賠責保険から治療費の一部を支払ってもらえない可能性もあるので注意しましょう。

自賠責保険の後遺障害による損害の支払基準

自賠責保険の後遺障害による損害の支払基準

自賠責の支払基準ー逸失利益編ー

自賠責保険は、後遺障害が認定された場合の支払基準も定めています。

後遺障害による損害は、大きく

  • 逸失利益
  • (後遺障害)慰謝料

に分けられます。

逸失利益とは

ここでいう逸失利益とは、

後遺障害が残らなければ、被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害

のことをいいます。

自賠責の基準では、逸失利益は次のように算出すると定められています。

複雑に定められていますが、大まかに言うと、年間収入額×労働能力喪失率×就労可能年数のライプニッツ係数で計算されます。

収入額は原則として、

  • 実際の事故前年の収入
  • 全年齢平均給与額(男子415,400円、女子275,100円)×12
  • 年齢別平均給与額×12

のうち最も高い金額ということになります。

また、労働能力喪失率は等級ごとに定められています。

岡野弁護士、自賠責基準での逸失利益の項目に関し、何か押さえておくべきポイントはありますか?

自賠責の基準では、逸失利益が任意保険や裁判の基準での金額より高くなる場合があります。

また、任意保険の基準や裁判では、収入額の立証が困難な場合、逸失利益は否定又はかなり低く算定されます。

これに対し、自賠責の基準では年齢別の平均給与額を収入額とするため、任意保険や裁判の基準での金額より高くなる場合が多いです。

もっとも、自賠責の基準は、この後お伝えする等級ごとの保険金額が上限となりますので、その点は注意が必要です。

ご自身では自賠責基準での逸失利益の額がうまく計算できないという方は、まず弁護士に相談してみましょう。

自賠責の支払基準ー慰謝料編ー

また、後遺障害が認定された場合、入通院慰謝料とは別に、後遺障害が残ったことに対する後遺障害慰謝料が発生します。

自賠責基準は、後遺障害に対する慰謝料につき、等級ごとに次のように定めています。

なお、基礎知識のところでお伝えしたとおり、任意保険は自賠責を超える部分をカバーするためのものです。

そのため、後遺障害慰謝料の任意保険基準は自賠責保険よりも若干高額になっております。

自賠責基準と任意保険基準の後遺障害慰謝料を表で検証してみましたので、参考にしてみてください。

自賠責基準と任意基準の後遺障害慰謝料の検証※1
後遺障害等級 自賠責基準※2 任意保険基準※3 (弁護士基準)
1級 1100 1600 2800
2級 958 1300 2370
3級 829 1100 1990
4級 712 900 1670
5級 599 750 1400
6級 498 600 1180
7級 409 500 1000
8級 324 400 830
9級 245 300 690
10級 187 200 550
11級 135 150 420
12級 93 100 290
13級 57 60 180
14級 32 40 110

※1 単位:万円

※2 被扶養者がいる場合や要介護の場合には金額が異なるケースもある。

※3 推定

なお、後遺障害の一つである高次脳機能障害の認定につき、自賠責は一定の基準を定めた報告書を作成しています。

岡野弁護士、自賠責基準での後遺障害慰謝料の項目に関し、何か注意すべきことはありますか?

一点、注意が必要なのは、任意保険はあくまで自賠責を超える部分をカバーするためのものだということです。

そのため、任意保険から支払われるのは、任意基準と自賠責基準の差額のみになります。

上の表を参考にすれば、14級が認定された場合、任意保険から支払われるのは、40万円-32万円=8万円のみです。

任意保険は、自賠責分もまとめて支払うことも多いですが、自賠責分は後に回収するので、任意保険が負担しているのは差額分のみです。

まれに、自賠責基準32万円とは別に任意基準40万円をもらえると誤解されている方がいらっしゃいますので、気をつけましょう。

後遺障害の保険金額(限度額)

基礎知識のところでお伝えしたとおり、自賠責基準には限度額があり、後遺障害による損害にも等級ごとに限度額が定められています。

そのため、自賠責の基準で計算した後遺障害による損害が限度額を超える場合でも、受け取れる上限は限度額になります。

等級ごとの後遺障害の限度額と労働能力喪失率を表にまとめてみましたので、よろしければ参考にしてみてください。

等級ごとの後遺障害の限度額と労働能力喪失率
後遺障害等級 限度額 労働能力喪失率
1級(別表第1) 4000万円 100%
2級(別表第2) 3000万円 100%
1級(別表第2) 3000万円 100%
2級(別表第2) 2590万円 100%
3級 2219万円 100%
4級 1889万円 92%
5級 1574万円 79%
6級 1296万円 67%
7級 1051万円 56%
8級 819万円 45%
9級 616万円 35%
10級 461万円 27%
11級 331万円 20%
12級 224万円 14%
13級 139万円 9%
14級 75万円 5%

自賠責保険基準での賠償額と任意保険基準での賠償額のどちらが高額になるかは、保険の限度額も考慮に入れて判断する必要があります。

どちらか高額になるかの判断がご自身ではできないという方は、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。

自賠責保険の死亡による損害の支払基準

自賠責保険の死亡による損害の支払基準

自賠責の支払基準ー葬儀費編ー

自賠責保険は、被害者が死亡した場合の支払基準も定めています。

死亡による損害は、大きく

  • 葬儀費
  • 逸失利益
  • (死亡)慰謝料

に分けられます。

自賠責の基準では、葬儀費は次のように算出すると定められています。

1.葬儀費

(1)葬儀費は、60万円とする。

(2)立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合は、100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費とする。

なお、いわゆる裁判基準では、葬儀費用は原則として150万円とされています。

自賠責の支払基準ー逸失利益編ー

ここでいう逸失利益とは、

被害者が死亡しなければ、被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害

のことをいいます。

自賠責基準では、逸失利益は次のように算出すると定められています。

複雑に定められていますが、大まかに言うと、(年間収入額-本人の生活費)×就労可能年数のライプニッツ係数で計算されます。

収入額は原則として、

  • 実際の事故前年の収入
  • 全年齢平均給与額(男子415,400円、女子275,100円)×12
  • 年齢別平均給与額×12

のうち最も高い金額ということになります。

※ 後遺障害との違い

なお、後遺障害の場合と異なり、被害者が亡くなられるとその後の年金等も受給できなくなるため、年金等の受給者は、

(年金等受給額-本人の生活費)×(死亡時の年齢の平均余命年数のライプニッツ係数-死亡時の年齢の就労可能年数のライプニッツ係数)

で計算された額も逸失利益として合算されます。

この場合の年金は、原則として被害者が保険料などを負担していた年金のことをいいます。

また、後遺障害の場合と異なり、被害者が亡くなられるとその後の生活費が掛からなくなるため、本人の生活費が控除されます。

本人の生活費

本人の生活費については、生活費の立証が困難な場合、

  • 被扶養者(被害者に養われていた人)がいるとき:年収の35%
  • 被用者がいないとき:年収の50%

を生活費として控除されることになります。

なお、被害者が死亡した場合は、労働能力は完全に失われているので、労働能力喪失率は問題になりません。

このように、後遺障害と死亡の逸失利益は基本的に同じような基準ではありますが、違いもあります。

その違いについては簡単に表にまとめてみましたので、よろしければ参考にしてみてください。

後遺障害と死亡との逸失利益の基準の違い
基準 後遺障害 死亡
年金分の加算
生活費控除
労働能力喪失率 等級ごと 常に100%

自賠責の支払基準ー慰謝料編ー

死亡本人の慰謝料

自賠責基準では、死亡した場合の慰謝料について

  • 死亡本人
  • 遺族

の二つに分けて基準を設けています。

死亡本人の慰謝料としては、以下のとおり、350万円と定められています。

「死亡本人の慰謝料は、350万円とする。」

遺族の慰謝料

また、遺族の慰謝料としては、以下のとおり定められています。

これを整理すると、請求権者は被害者の父母、配偶者、子となります。

金額は、

  • 1人の場合:550万円
  • 2人の場合:650万円
  • 3人の場合:750万円
  • 被害者に被扶養者(被害者に養われていた人)がいるとき:+200万円

となります。

自賠責基準による死亡慰謝料
被害者本人一律 遺族※ 遺族※ 被扶養者がいる場合
350万円+ 1人 550万円 +200万円
350万円+ 2人 650万円 +200万円
350万円+ 3人以上 750万円 +200万円

※ 被害者の両親、配偶者、子のみ

なお、いわゆる裁判基準においても、死亡慰謝料について、

  • 一家の支柱:2800万円
  • 母親、配偶者:2500万円
  • その他:2000万円〜2500万円

と定められていますが、これは本人と遺族の慰謝料を合わせた金額と考えられています。

裁判においては、本人と遺族の慰謝料を合わせた金額が上記基準を上回っている例も複数見られます。

また、自賠責の基準では請求権者に含まれていない被害者の祖父母や兄弟姉妹にも固有の慰謝料が認められている事例があります。

自賠責保険は過失割合や因果関係の基準が異なる

自賠責保険は過失割合や因果関係の基準が異なる

過失割合の扱いについての基準

基礎知識のところでも少し触れましたが、自賠責保険基準過失割合の扱いが任意保険や裁判の基準と異なるところに特色があります。

具体的には、

  • 過失が7割未満であれば過失相殺されない
  • 過失が7割以上ある場合でも、減額割合が過失割合に比べて低い

という点に特色があります。

これは、過失割合の大きい被害者であっても、損害が出ている以上、被害者として最低限は保障しようとする政策的判断に基づくものです。

その他ポイント

なお、追突事故など自身に100%過失があり、相手方に一切過失がない場合は、そもそも自賠責保険の支払対象外になります。

また、被害者の損害額が20万円以下の場合には、被害者に7割以上の重過失があっても減額されません

具体的な減額割合は表にまとめてみましたので、ご参考下さい。

自賠責保険における過失減額の取扱
被害者の過失割合 減額割合
後遺障害又は死亡 傷害
7割未満 減額なし 減額なし
7割以上8割未満 2割減額 2割減額
8割以上9割未満 3割減額
9割以上10割未満 5割減額

因果関係の扱いについての基準

また、自賠責基準では、因果関係の扱いについても、以下のとおり、任意保険や裁判の基準と異なる制度を設けています。

任意保険

任意保険の基準や裁判の場合、因果関係は被害者に立証する責任があります。

そのため、既往症等により、受傷と死亡や後遺障害との因果関係の有無の判断が困難な場合、

  • 立証できていないとして、損害賠償の請求を認めない
  • 因果関係は認めた上で、既往症等が損害に影響しているとして、一定割合減額する(素因減額)

のいずれかとなります。

自賠責保険

自賠責保険では、5割分の損害額を受け取れるという点に特色があります。

これは、因果関係の有無の判断が困難であっても、損害が出ている以上、被害者として最低限は保障しようとする政策的判断に基づくものです。

上記のとおり、この制度はあくまで被害者保護という政策的判断に基づくものです。

そのため、この制度により、5割の保険金をもらえたとしても、50%の因果関係が認められたり、素因減額が50%と判断されたことにはなりません。

自賠責保険で5割分の損害額を受け取れても、裁判などでは、賠償請求が一切認められなかったり、素因減額が50%を超える可能性があるということです。

自賠責保険の基準はどのような事故での請求に用いられる?

自賠責保険の基準はどのような事故での請求に用いられる?

ここまでで、自賠責保険の支払基準についてはお分かりいただけたかと思います。

しかし、自賠責は最低限の保障をするものということですが、一体自賠責の基準はどのような事故での請求に用いられるのでしょうか?

被害者請求をする事故

被害者請求は、被害者が自賠責保険に直接請求する制度ですので、被害者請求をする事故には、当然自賠責の基準が用いられます。

そして、上でも触れたとおり、被害者請求をする事故としては、一般的に次のような場合が考えられます。

  • 相手方が自賠責保険にしか加入していない場合
  • 自身の方が過失割合の大きい場合(相手方任意保険会社が対応しない場合)
  • 相手方と示談が成立しない場合

当然、被害者請求をした後でも、任意保険基準や裁判基準で計算すると差額が発生する場合、差額を相手方や任意保険会社に請求することは可能です。

過失割合の大きい事故

そうすると、

  • 相手方が任意保険に加入し、任意保険会社が対応している場合
  • 裁判をしようとしている場合

事故では、任意保険の基準や裁判基準で請求するため、自賠責基準は一切用いられないようにも思えます。

しかし、上で触れた、自賠責保険過失割合の扱いの特色上、被害者の過失が大きいと、自賠責保険の基準の方が高額になる場合があります。

具体例

具体的には、過失割合が40%の主婦のむちうち事故で、

  • 治療費40万円
  • 通院4か月(120日)
  • 通院日数60日

だった場合を想定してみましょう。

自賠責基準

慰謝料:4,200円×120日=504,000円

休業損害:5,700円×60日=342,000円

となります。

そうすると、総額は1,246,000円となりますが、過失割合は7割未満ですので、過失相殺はされません

もっとも、自賠責保険の傷害による損害の限度額は120万円ですので、自賠責の基準で受け取れる金額は1,200,000円となります。

裁判基準

慰謝料:いわゆる赤本別表Ⅱの通院4ヶ月の事故として670,000円

休業損害:10,307円(平成28年賃金センサス女性全年齢平均年収3,762,300円÷365日)×60日=618,420円

となります。

そうすると、総額は1,688,420円となりますが、過失割合が40%あるので、1,688,420円×40%=675,368円が過失相殺されます。

よって、裁判基準で受け取れる金額は1,013,052円となります。

このように、

  • 相手方が任意保険に加入し、任意保険会社が対応している場合
  • 裁判をしようとしている場合

の事故でも、自賠責保険の基準の方が高額になり、自賠責保険の基準で請求する場合があることになります。

自賠責保険の基準のほうが賠償額が高い場合
自賠責基準 裁判基準
治療費 400000 400000
慰謝料4ヶ月分 504000 670000
休業損害60日 342000 618420
総額 1246000 1688420
過失相殺 0 ▲675,368
限度額 1200000
賠償額 1200000 1013052

※過失割合が40%の主婦のむちうち事故を想定

反対に、単純に基準に基づいた計算額では、自賠責の基準の方が高く見えても、限度額の関係で、任意保険などの基準の方が高い場合もあります。

いずれにせよ、最低でも自賠責の基準での賠償額は受け取れることから、自賠責の基準を正確に把握することは、賠償の見通しを立てる上で重要です。

また、上でも触れたとおり、任意保険は自賠責を超える部分をカバーするためのもので、任意保険の負担分は自賠責を超える部分になります。

そのため、任意保険が対応している場合でも、自身の負担が生じる自賠責の基準の範囲を超えるかどうかで対応が変わってくることが多いです。

相手方の任意保険が対応している場合でも、任意保険の対応の見通しを立てるため、自賠責保険の基準の理解は重要といえます。

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最後に一言アドバイス

では、岡野先生、最後にまとめの一言をお願いします。

自賠責の基準での計算は、色々と複雑な部分があり、受け取れる金額の計算がお一人では難しい部分もあると思います。

誤った計算をしてしまっていると、今後の賠償の見通しが狂ってしまい、様々な問題が生じてしまう可能性があります。

そういった自体を避けるためにも、わからない部分がある場合には、すぐに弁護士に相談して、自賠責の基準を正確に理解しましょう。

まとめ

いかがだったでしょうか?

このページを最後までご覧になってくださった方は、

  • 自賠責の基準は、基準額や限度額が定められている
  • 自賠責保険は、過失割合や因果関係の扱いが任意保険や裁判の基準と異なる
  • 相手方が任意保険に入ってない場合はもちろん、入っている場合でも自賠責の基準は問題になってくる

ことなどについて、理解が深まったのではないかと思います。

このページだけではわからなかったことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。

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このページが、少しでも交通事故に遭われた方のお役に立てれば何よりです。

交通事故の自賠責基準についてのQ&A

自賠責保険に限度額があるの?

限度額があります。傷害:120万円/死亡:3000万円が上限です。自賠責保険の限度額は法律で定められていますので、計算した金額が必ずもらえるわけではないことの注意が必要です。また、限度額には慰謝料・休業損害・治療費など全ての損害を合わせた額となります。また物損事故では自賠責保険は使用できません。 自賠責保険の支払基準の基礎知識

保険会社と自賠責の休業損害の違いはある?

違いがあります。自賠責保険の休業損害の支払い基準は<日額:5700円>と定められています。実際にが生じた減収が5700円以下でも、1日あたり5700円の補償で計算されるメリットがあります。任意保険の基準や裁判基準では、日額が5700円以下の場合、その金額で計算し直されます。 自賠責保険の傷害による損害の支払基準

任意保険と自賠責の逸失利益の違いはある?

違いがあります。その違いのひとつは逸失利益の金額で重要な「基礎収入」にあります。任意保険の基準や裁判では、被害者の収入が困難な場合、逸失利益が否定またはかなり低く算定される可能性があります。一方、自賠責保険の基準では、年齢別の平均給与額を収入額とするため、比較して高くなることが多いのです。もっとも、自賠責保険の場合は、後遺障害等級ごとの上限額がありますので、注意が必要です。 自賠責保険の後遺障害による損害の支払基準

被害者が死亡した時の自賠責基準の慰謝料は?

自賠責保険では、死亡した場合の慰謝料について、死亡本人と遺族に分けて基準をつくっています。どちらも、死亡本人:350万円、遺族には550万円から950万円まで遺族人数や被養者の有無などで金額がそれぞれ定められています。もっとも、裁判では、本人と遺族の慰謝料を合わせた金額が基準を上回っている例も複数あります。また、被害者の祖父母や兄弟姉妹にも慰謝料が認められている先例もあります。 自賠責保険の死亡慰謝料

この記事の監修弁護士

岡野武志弁護士

アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階

第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。

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