交通事故の慰謝料を仮払い・先払いしてもらう方法|示談前にお金が必要な方必見!
「交通事故で色々とお金が必要になったのだけれど、示談前に慰謝料を仮払いや先払いをしてもらう方法はないの?」
交通事故の慰謝料は、相手方と示談をしたり、裁判で判決をもらわなければ受け取れないのが原則です。
しかしながら、相手方と示談をしたり、裁判で判決をもらうまでには、かなりの時間が必要となることがほとんどです。
その間に交通事故に伴う色々な出費がかさみ、示談までの生活費などに困る方も多いのではないかと思います。
このページでは、そんな方のために、
- 慰謝料などを自賠責保険から仮払い・先払いしてもらう方法
- 慰謝料などを任意保険から仮払い・先払いしてもらう方法
- 交通事故の慰謝料などの仮払い仮処分の請求
についてご紹介していきたいと思います!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
交通事故の慰謝料を相手方から受け取るまでには、かなりの時間が掛かってしまうことがほとんどです。
しかしながら、交通事故が発生すると色々と出費がかさむことになり、最終的な解決前の段階でお金が必要となることも多いかと思います。
そのため、交通事故の慰謝料の仮払い・先払いの方法を知っておくことは、実際に交通事故にあってしまった場合の生活の面で非常に重要といえます。
こちらで交通事故の慰謝料等の仮払い・先払いの方法についてしっかり理解し、示談や判決前でもお金に困ることがないようにしておきましょう。
目次
交通事故にあわれた方は、以下のツイートをされた方と同じようなお悩みを抱えてらっしゃる方も多いかと思います。
あ、今月交通事故してから仕事してないから給料ないんだった( ̄▽ ̄;)早く完治させて休業補償金と慰謝料貰わないと何も出来ん
— しいちゃん㌠コス博公式カメラマン (@hanihani3939) July 14, 2017
交通事故にあうと、仕事ができずに収入がなくなる一方で、払う必要のない支出が増えるため、示談までの生活費に困るという事態が生じることがあります。
しかし、交通事故の慰謝料などの損害賠償金を正式に受け取れるのはだいぶ先のことが多いため、その間のお金をどうするかという問題があります。
そこで、被害者の経済的困窮による二次被害を防ぐため、解決前に自動車保険などから慰謝料等のお金を仮払い・先払いしてもらう方法をご紹介したいと思います!
慰謝料を自賠責保険から仮払い・先払いしてもらう方法
①自賠責保険金の被害者請求
交通事故にあった場合慰謝料などは通常、加害者側が加入する保険の保険金から支払われることになります。
しかし、その保険金は加害者側と保険会社との保険契約に基づき支払われるものなので、保険契約の当事者でない被害者は請求できないのが原則です。
もっとも、自賠責保険では、被害者保護という目的を果たすため、保険契約の当事者でない被害者に直接請求する権利を特別に認めています。
第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
出典:自動車損害賠償保障法第16条第1項
被害者は保険契約の当事者ではないため、条文上「保険金」ではなく「損害賠償額」の支払を請求することになっています。
上の条文は、その場合の自賠責保険への損害賠償額の請求方法を規定したものです。
被害者が請求することや根拠条文から
- 被害者請求
- 16条請求
などと呼ばれています。
この被害者請求の制度により、交通事故の被害者は、相手方との示談や判決の前に自賠責保険から損害賠償額の支払を受けることができます。
つまり、被害者請求は、交通事故の被害者が慰謝料を自賠責保険から先払いしてもらうための方法の一つといえます。
なお、被害者請求により支払いを受けることができるのは、慰謝料だけではなく治療費、休業損害など様々な損害項目のものがあります。
自賠責保険では、各損害項目について支払基準が定められており、傷害分の慰謝料については以下のとおりです。
3.慰謝料
(1) 慰謝料は、1日につき4,200円とする。
(2) 慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする。
(以下略)
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
日額が4,200円というのは明確ですが、対象となる日数は基準を読んだだけではよくわかりませんね・・・。
実は傷害分の慰謝料は
- 入院日数と実際の通院日数の2倍の合計
- 総治療期間
のいずれか少ない方を対象日数として計算するといわれています。
このように、傷害分の慰謝料は入院や通院の日数・期間に応じて決められることから
入通院慰謝料
とも呼ばれています。
ただし、自賠責保険は最低限の補償を受けられるようにするための保険なので、法令上限度額が定められています。
具体的には傷害分については120万円と限度額が定められています。
責任保険の保険金額は、政令で定める。
出典:自動車損害賠償保障法第13条
法第13条第1項 の保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。
(略)
イ 傷害による損害(ロからヘまでに掲げる損害を除く。)につき
百二十万円
(以下略)
出典:自動車損害賠償保障法施行令第2条
注意すべきなのは、この限度額は慰謝料だけでなく、治療費や休業損害など傷害による全ての損害を合わせた金額であるということです。
特に、治療費を含むということが、自賠責保険から受け取れる慰謝料の金額に影響をあたえる場合があることには注意しましょう。
具体的な傷害分の慰謝料などの請求方法としては、加害者側の自賠責保険会社に
- 支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書
- 通院交通費明細書
- 休業損害証明書
といった書類を提出することになります。
提出書類の一つである支払請求書の書式は以下のようなものになります。
なお、後遺障害が残ってしまった場合には、その分の慰謝料などの損害賠償金も被害者請求で請求することができます。
つまり、被害者請求は、交通事故の被害者が後遺障害の慰謝料などの損害賠償金を自賠責保険から先払いしてもらうための方法でもあります。
なお、後遺障害の申請を被害者請求の方法で行う場合の必要書類は、上記の書類と異なる部分もあるので、注意が必要です。
②慰謝料等の仮渡金での仮払い
自賠責保険における仮渡金の制度
このように、交通事故の慰謝料は、自賠責保険から被害者請求の制度により先払いを受けることができます。
もっとも、上記のとおり、被害者請求を申請するには色々な書類が必要となり、その収集に時間が掛かってしまいます。
また、申請してからも、自賠責保険損害調査事務所の事故・損害の調査に平均1か月程度掛かることになります。
そのため、被害者が当座の生活費や治療費などを賄うためには、被害者請求の制度だけでは不十分といえます。
そこで、自賠責保険は、被害者がより迅速にお金を支払ってもらえるように、仮渡金の請求という制度を定めています。
1 保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、政令で定める金額を第十六条第一項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
2 保険会社は、前項の請求があつたときは、遅滞なく、請求に係る金額を支払わなければならない。
出典:自動車損害賠償保障法第17条1項及び2項
仮渡金の場合、より迅速に請求ができるよう、必要書類についても、上記の被害者請求の場合の必要書類のうち
- 支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書
だけで足りることにしています。
そして、仮渡金の場合は、請求から1週間~10日程度で支払われることになります。
迅速にお金が支払わるよう、仮渡金は、慰謝料や治療費、休業損害などの各損害項目を計算することなく、ある程度まとまったお金が支払われます。
このように、自賠責保険における仮渡金の制度は、交通事故の被害者が当座のお金に困っている場合に非常に便利な制度といえます。
ただし、仮渡金の制度を利用するにあたっては、以下のデメリットに注意する必要があります。
デメリット①仮渡金は一定の金額のみ
まず、自賠責保険から仮渡金として支払われる金額は、法令により以下のように定められています。
法第十七条第一項の仮渡金の金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。
一 死亡した者 二百九十万円
二 次の傷害を受けた者 四十万円
イ 脊(せき)柱の骨折で脊(せき)髄を損傷したと認められる症状を有するもの
ロ 上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの
ハ 大腿(たい)又は下腿(たい)の骨折
ニ 内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
ホ 十四日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が三十日以上のもの
三 次の傷害(前号イからホまでに掲げる傷害を除く。)を受けた者 二十万円
イ 脊(せき)柱の骨折
ロ 上腕又は前腕の骨折
ハ 内臓の破裂
ニ 病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が三十日以上のもの
ホ 十四日以上病院に入院することを要する傷害
四 十一日以上医師の治療を要する傷害(第二号イからホまで及び前号イからホまでに掲げる傷害を除く。)を受けた者 五万円
出典:自動車損害賠償保障法施行令第5条
先ほど、自賠責保険の傷害分の限度額は120万円とお伝えしましたが、仮渡金の場合、傷害の場合は5万円~40万円しか受け取れません。
交通事故で一番多いと思われるむちうちで入院を伴わない場合には5万円しか受け取れないということになります。
デメリット②仮渡金の請求は一回のみ
そして、自賠責保険に仮渡金を被害者が仮払い請求できるのは一回のみということになります。
この点は、限度額までであれば何回でも請求できる被害者請求の制度とは異なります。
そのため、仮渡金を請求する際には、そのタイミングについてよく考える必要があるといえます。
デメリット③仮渡金は要返金の可能性
さらに、自賠責保険から被害者が受け取れる仮渡金は、あくまで慰謝料などの損害賠償額の仮払いとなります。
そのため、受け取った仮渡金の金額が損害賠償額を超えた場合には、超えた分の差額について自賠責保険に返金しなければいけません。
保険会社は、第一項の仮渡金の金額が支払うべき損害賠償額を超えた場合には、その超えた金額の返還を請求することができる。
出典:自動車損害賠償保障法第17条3項
このように、仮渡金は返金しなければならなくなる可能性があるということを頭に入れておく必要があるといえます。
デメリット④一括対応が打ち切られる
仮渡金の法的なデメリットは以上のとおりになります。
しかし、仮渡金の利用には、実務上、もう一つデメリットがあります。
交通事故の加害者側が任意保険に入っていた場合、治療費を保険会社が病院に直接支払う一括対応が取られている場合が多くなります。
もっとも、この一括対応は、任意保険会社が後に自賠責保険に保険金を請求することを前提としたものになっています。
そのため、被害者が自賠責保険に仮渡金を請求すると、その前提が崩れるため、任意保険会社の一括対応は打ち切られることになります。
その結果、被害者は、仮渡金請求後は治療費を一旦立て替えなければならないということになってしまいます。
このように、一括対応中の場合には、仮渡金の制度を利用すると一括対応が打ち切られることを考慮した上で、利用を判断する必要があります。
自賠責保険金の内払請求は廃止
なお、自賠責保険では、交通事故の被害者の治療が長期にわたる場合の経済的負担を軽減するために内払い金の制度を定めていました。
これは、治療費や休業損害などの損害額が10万円を超えるたびに限度額の120万円までは何度も内払請求できるという制度でした。
しかし、治療継続中でも被害者請求が可能であることなどから、平成20年10月1日に内払請求の制度は廃止されました。
このように、交通事故の慰謝料などは、相手方との示談前でも自賠責保険から先払い・仮払いを受けることができます。
具体的な方法として、現在では被害者請求と仮渡金請求という二つの方法がありますが、それぞれの方法にはメリット・デメリットがあります。
慰謝料等の先払い・仮払いを自賠責保険から受ける場合、そのメリット・デメリットを考慮した上で、どちらの方法を用いるかを決める必要があります。
被害者請求 | 仮渡金請求 | |
---|---|---|
メリット | ・限度額仮渡金より高額 ・限度額まで何回も請求可 ・返金の可能性なし |
・必要書類仮渡金より多少ない ・支払仮渡金より早い |
デメリット | ・必要書類仮渡金より多い ・支払仮渡金より遅い ・一括対応中なら一括対応解除 |
・限度額仮渡金より定額 ・請求1回のみ ・返金の可能性あり ・一括対応中なら一括対応解除 |
慰謝料を任意保険から仮払い・先払いしてもらうには?
このように、交通事故の被害者は、慰謝料などの先払い・仮払いを自賠責保険に被害者請求・仮渡金請求ができます。
しかし、先ほどお伝えしたとおり、その請求が交通事故の加害者側の任意保険が一括対応中だった場合には、一括対応が打ち切られてしまいます。
では、その問題を避けるために、慰謝料などの損害賠償金を任意保険から仮払い・先払いしてもらうことはできないのでしょうか?
治療費・交通費や休業損害の先払いは認められやすい
まず、先ほどお伝えした一括対応という制度は、任意保険による治療費の先払いの一種といえます。
また、被害者から交通費の請求があった場合、任意保険会社は示談前でも先払いに応じてくれることが多いようです。
さらに、被害者から休業損害の請求があった場合も、任意保険会社は示談前の先払いに応じてくれることが比較的多いようです。
治療費や交通費は実際の出費を伴うものであり、休業損害は本来の収入がなくなるものであるため、直ちにお金が必要と認められやすいからと考えられます。
ただし、注意しなければいけないのは、任意保険による上記の先払いはあくまで「仮払い」であるということです。
そのため、最終的な示談交渉の段階では、先払いされた分の治療費・交通費や休業損害の必要性・相当性について保険会社が争ってくる場合があります。
つまり、先払いをうけた金額についても、慰謝料などで補填する必要が出てくる可能性があるということは頭に入れておく必要があります。
慰謝料の前払いは相手方任意保険との交渉次第
一方で、慰謝料については任意保険会社は前払いを容易には認めてくれないようです。
慰謝料は、治療費や休業損害と異なり、目に見える金銭的な損失がないため、慰謝料の前払いが必要な状況とは直ちには判断できないからです。
もっとも、交通事故の被害者は、事故により治療費や休業損害などの損害賠償の項目としては請求しにくい金銭の出費が生じることも多いようです。
そのため、交通事故の被害者がお金が直ちに必要なことを任意保険会社にわかってもらえれば、慰謝料の前払いが認められる余地はあります。
ただし、その金額としては、請求があった時点までの任意保険基準で計算された慰謝料が限度になると考えられます。
自身の任意保険から慰謝料が前払いされる!?
お伝えしてきた任意保険による慰謝料などの仮払い・先払いは自賠責保険の場合と違い、法的に認められた権利ではないです。
そのため、任意保険会社が最終的に慰謝料などの仮払い・先払いを拒否した場合、後ほどお伝えする仮払い仮処分以外に強制する方法はありません。
もっとも、交通事故の慰謝料などは、被害者自身が加入する任意保険会社から前払いを受けられる場合があります。
具体的には、被害者が加入する任意保険に人身傷害保険などが付帯されている場合には、加害者側との示談や判決前に慰謝料などを受け取れます。
加害者側の任意保険からの慰謝料などの仮払い・先払いが受けられない場合には、被害者自身が加入する任意保険の内容をよく確認してみましょう。
人身傷害保険から支払われる慰謝料は、約款により金額が定められているので、その点は注意しましょう。
また、人身傷害から先払いを受けた金額は、保険会社による被害者の加害者に対する損害賠償請求権の代位の対象になるので、その点も注意しましょう。
なお、被害者にも過失がある場合のその代位の範囲に関しては、専門的な問題を含みますので、弁護士への相談をおすすめします。
仮払い・先払いの可否 | 慰謝料額 | |
---|---|---|
自賠責保険 | 〇 | 自賠責基準や法令で定められた額 |
加害者側任意保険 | △※1 | 任意保険基準の額※3 |
被害者側任意保険 | 〇※2 | 約款で定められた額 |
※1 法的に認められた権利でない
※2 人身傷害保険特約付帯の場合
※3 上限の目安にすぎず、それ以下のケースもある
交通事故の慰謝料の仮払い仮処分の請求は認められる?
ここまで、交通事故の慰謝料などの仮払い・先払いを自賠責保険や任意保険に請求する方法をお伝えしてきました。
しかし、
- 被害者請求や仮渡金請求を既に利用したけど依然として経済的に苦しい
- 加害者側の任意保険会社が慰謝料などの仮払い・先払いに応じない
- 自身の任意保険に人身傷害保険などが付帯されていなかった
などの場合に慰謝料などの仮払い・先払いを求める方法はないのでしょうか?
実は、そのような場合に慰謝料などの仮払い・先払いを求める方法として、仮払い仮処分の命令の申立というものがあります。
交通事故の仮払い仮処分の書式
仮払い仮処分とは
交通事故の被害者と加害者との慰謝料などの損害賠償の話がまとまらない場合、被害者は損害賠償請求の訴訟を提起する必要があります。
しかし、訴訟を提起しても、判決が出るまでには最低でも数ヶ月、場合によっては数年程度かかることになります。
その間、被害者が一切の賠償を受けられないとすると、被害者が生活費や治療費に困窮してしまうおそれがあります。
そこで、一定の条件を満たした場合に、裁判所が加害者に対し、治療費や生活費について仮の支払いを命じる制度が設けられています。
これを仮払い仮処分といいます。
この仮払い仮処分の申立がなされると、裁判所は、原則として当事者双方を裁判所に呼び出し、双方の主張・立証を踏まえて、短期間で決定をします。
相手方が仮処分決定に従えば目的は達成されますし、相手方が仮処分決定に従わなければ、強制執行を申し立てて、目的を達成することができます。
実務上は、裁判所の和解勧告により、仮払いについての和解がまとまることも少なくありません。
なお、任意保険にも約款上直接請求権が認められており、この権利に基づき、任意保険会社を相手に仮処分申請をすることも多くなっております。
任意保険会社は、仮払い仮処分の決定が下されれば、それに従い、直ちに内払をするのが実情のようです。
仮払い仮処分の条件
この仮払い仮処分命令の申立は、保全命令の申立の一種であるところ、保全命令が発せられる条件として、法律上は以下のように定められています。
1 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
出典:民事保全法第13条
つまり、保全命令が発せられるためには
- 被保全権利の疎明
- 保全の必要性の疎明
が必要ということになります。
さらに、仮払い(仮の地位)の仮処分命令が発せられる条件として、法律上、以下のような規定があります。
仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
出典:民事保全法第23条2項
つまり、仮の地位を定める仮処分命令の場合は、保全の必要性につき、「著しい損害又は急迫の危険を避けるため」という高度な必要性が求められます。
また、仮処分はあくまで仮のものであり、後に訴訟で覆される可能性があり、相手方に損害を与えてしまう可能性があります。
そのため、請求額の一定割合を保証金(担保)として供託することを条件とする場合があります。
保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。
出典:民事保全法第14条1項
もっとも、交通事故の場合、生活費や治療費に困窮している被害者に高額の保証金を求めるのは本末転倒なので、保証金も低い金額に抑えられます。
一方で、交通事故の場合、被害者は受け取ったお金を生活費や治療費として使ってしまうことが確実であるといえます。
そうすると仮に将来的に判決で損害賠償義務が否定された場合、保証金も低額なため、加害者が仮払いした金額を回収できなくなる可能性が高まります。
そこで、交通事故の場合には、被保全権利の疎明についても、裁判所としては慎重に判断するといえます。
このように、仮払い(仮の地位)の仮処分命令が発せられる条件は、交通事故の場合、通常の保全命令よりも厳しくなっているということができます。
交通事故の仮払い仮処分の書式
そして、具体的な交通事故の仮払い仮処分の書式に記載する被保全権利は
不法行為(及び自動車損害賠償保障法第3条)に基づく損害賠償請求権
ということになります。
そして、被保全権利の疎明については、通常の保全命令の場合よりも高度なものが要求され、本案と同程度の記載が要求されることになります。
さらに、保全の必要性については、治療に必要な具体的金額や生活費の収支状況などを具体的な証拠と一緒に主張することで、
被害者が事故による負傷で生活費、治療費などに困窮しており、仮払いを受けられないと生活や治療に支障をきたすこと
を明らかにする必要があります。
治療費や休業損害は仮払い仮処分を求めやすい
そして、治療費や休業損害については、仮払い仮処分の保全の必要性が認められやすく、命令の発令を求めやすい傾向にあるといえます。
治療は適切な時期に実施する必要があり、治療費が払えず適切な時期に治療ができないという著しい損害を避ける必要性があると主張しやすいからです。
また、休業損害は生活費の基礎となる被害者の収入の補填であり、その支払いがないと生活がままならないという著しい損害が生じるからです。
慰謝料の仮払い仮処分の請求は認められない?
一方で、慰謝料については、仮払い仮処分の保全の必要性が認められにくい傾向にあるといえます。
精神的な苦痛に対する補償である慰謝料については、直ちに支払いを受けられなくても著しい損害又は急迫の危険が生じるとは通常いえないからです。
ただし、慰謝料を困窮している生活の当面の生活費に充てることを主張立証できれば、慰謝料についても保全の必要性が認められる可能性があります。
このように、仮払いの仮処分が交通事故で認められるには、要件を満たす十分な書面を作成し、審尋期日での裁判所で適切な主張を行う必要があります。
しかしながら、被害者一人では、十分な書面の作成や審尋期日での裁判所で適切な主張をするのは中々難しいと考えられます。
交通事故の慰謝料などの仮払い仮処分命令の申立を検討されている方は、まず交通事故に強い弁護士に相談するといいでしょう。
保全命令の要件 | 交通事故の仮払い仮処分の特色 | |
---|---|---|
① | 被保全権利の疎明 | ・通常の保全命令よりも高度な疎明が必要 |
② | 保全の必要性 | ・著しい損害又は急迫の危険を避けるという高度な必要性 ・慰謝料については特に詳細な必要性の説明が必要 |
交通事故の慰謝料の仮払いを弁護士に相談したい方へ!
ここまで交通事故の慰謝料の仮払いについてお伝えしてきましたが、読んだだけではわからないことがあった方もいるのではないでしょうか?
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、交通事故でお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。
お伝えしてきたように、交通事故の慰謝料などの仮払い・先払いをしてもらうには様々な方法が考えられます。
しかしながら、どの方法を選択すべきかや実際に慰謝料などの仮払い・先払いを受けるにはどうすべきかについては専門的な判断が求められます。
交通事故の慰謝料などの仮払い・先払いが受けられずお悩みの方は、お一人で抱え込まず、まずは専門家である弁護士に一度相談してみましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 慰謝料などを自賠責保険から仮払い・先払いしてもらう方法には被害者請求と仮渡金請求がある
- 慰謝料などを相手方任意保険から仮払い・先払いしてもらう方法
- 交通事故の慰謝料などの仮払い仮処分の請求
について理解を深めていただけたのではないかと思います。
これを読んで弁護士に相談した方が良いと思った方も多いハズです。
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皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
慰謝料の仮払い・先払いについてのQ&A
自賠責保険に先払い・仮払いをしてもらうには?
自賠責保険に慰謝料を先払いしてもらいたい場合は、加害者側の自賠責保険に対して直接慰謝料を請求しましょう(被害者請求)。これにより示談前でも申請から1カ月程度で自賠責保険からの慰謝料を受け取れます。仮払いしてほしい場合には、加害者側保険会社に対して必要資料を提出することで、示談前でも申請から1週間~10日程度でけがの状態に応じた金額をさらに速やかに受け取ることができます。 自賠責保険への先払い・仮払い請求方法
任意保険に先払い・仮払いを求める方法は?
加害者側の任意保険の場合、治療費・通院にかかる交通費・休業損害は示談前に先払いしてもらえることが多いです。慰謝料については、先払いしてもらえるかどうかは交渉次第となります。なお、加害者側の任意保険ではなく被害者側の任意保険から、示談前に保険金を受け取るという方法もあります。 任意保険会社への先払い・仮払い請求方法
裁判所が仮払いを命じてくれることがある?
裁判のため賠償金の支払いが遅れるなどの理由で被害者の経済的困窮が著しい場合、裁判所が加害者側に仮払いを命じることがあります(仮払い仮処分)。仮払い仮処分の命令を下してもらうためには、①仮払い仮処分の申し立てをすること②裁判所で主張・立証を行うことが必要です。なお、治療費や休業損に比べ、慰謝料の仮払い仮処分は認められにくい傾向にあります。 仮払い仮処分の条件と申立の流れ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。