警備員の誘導ミスによる事故|責任や過失割合を事例・判例も交えて紹介

  • 警備員,事故

この記事のポイント
  • 警備員の誘導は、法律上特別な権限を与えられて実施されているものではない
  • 警備員の誘導ミスが事故発生の原因の場合、民事責任は運転手と警備員双方が負うが、具体的な過失割合は事例により異なる
  • 警備員の誘導ミスが事故発生の原因の場合、刑事責任は運転手が負い、警備員は刑事責任を問われないケースが多い

警備員の誘導ミスが原因で事故に遭われた被害者の方、車両や他人を傷つけてしまった運転手の方に有益な情報をお伝えします。

岡野武志弁護士
交通事故と刑事事件を専門とするアトム法律事務所の代表弁護士。

施設駐車場や道路の工事現場などで、警備員が交通誘導をしている場面に出くわすことがあるかと思います。

これは、駐車場内の歩行者通行時に車に止まるよう指示したり、工事車両の出入りの際の安全確認をしたりして事故を防ぐ仕事です。

もっとも、警備員も人なので、当然誘導ミスをしてしまうこともあり、それが原因で事故が発生してしまうケースもあります。

この動画のような事故原因が誘導ミスの事例では、事故の責任は運転手と警備員のどちらが負うことになるのでしょうか?

警備員と警察官の交通誘導の違いとは?

警備員と警察官の交通誘導の違いとは?

警備員の交通誘導は警備業務の一つ

警備業法という法律上、警備員とは、警備業者(警備会社など)の使用人・従業員として警備業務に従事するものをいいます。

そして、この法律では「警備業務」の内容について、以下のように定義されています。

この法律において「警備業務」とは、次の各号のいずれかに該当する業務であつて、他人の需要に応じて行うものをいう。

一 事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等(以下「警備業務対象施設」という。)における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務

二 人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務

(以下略)

このように、交通誘導警備業務(2号)は、施設警備業務(1号)と並ぶ警備員の重要な仕事の一つです。

警備員には誘導を行う権限がない

もっとも、注意しなければいけないのは、警備員の誘導は、法律上特別な権限が与えられて実施されているものでないという点です。

警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。

この点において、似たような制服を着て実施されることも多い警察官が実施する交通誘導(交通整理)とは違いがあります。

警察官には、道路交通法に基づいて交通誘導(交通整理)を実施する権限が与えられているからです。

警察官(略)は、手信号(略)により交通整理を行なうことができる。

この場合において、警察官等は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため特に必要があると認めるときは、信号機の表示する信号にかかわらず、これと異なる意味を表示する手信号等をすることができる。

つまり、警備員と警察官の交通誘導には

法令上の権限の有無

という違いがあります。

警備員の誘導<道路交通法上の義務

警備員の誘導に法律上特別な権限が与えられていないということは

誘導に従う義務はなく、従うかは運転手個人の判断に委ねられる

ということです。

そのため、赤信号の状況で走行すれば、それが警備員の誘導によるものでも関係なく道路交通法違反になってしまいます。

一方で、それが警察官の誘導によるものである場合には道路交通法違反にはなりません

道路を通行する歩行者又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等(略)に従わなければならない。

上記のとおり、道路交通法では、警察官等の手信号(交通整理)に従うよう義務付けられているからです。

ここまでの内容を表にまとめると以下のようになります。

警備員と警察官が実施する交通誘導の比較
警備員 警察官
法律上の権限 なし あり
誘導に従い赤信号走行 違反 無違反

なお、赤信号を無視して走行してしまった運転手は

  • 3月以下の懲役または5万円以下の罰金(故意の場合)
  • 10万円以下の罰金(過失の場合)
  • 免許の違反点数2点の加算

といった責任を法令上負うことになります。

警備員には交通事故の民事責任がある?

警備員には交通事故の民事責任がある?

では、警備員の誘導ミスが原因で交通事故が発生した場合、被害者に対する損害賠償義務(民事責任)は誰が負うのでしょうか?

誘導ミスが事故原因なら責任あり!

まず、警備員は、誘導ミスが事故の原因であれば、民事責任を負うことになります。

民事責任とは、事故発生の原因となった者に損害賠償義務を負わせる制度だからです。

警備員に誘導する法律上の権限が与えられてないことと、誘導ミスをした場合に損害賠償義務を負うことは何ら関係がありません。

なお、警備員が民事責任を負う場合は、警備会社にも使用者責任があり、被害者は

警備員個人よりも財力のある企業に対して損害賠償請求できる

ことになります。

警備員が全責任を負うわけではない

もっとも、たとえ誘導ミスが事故の原因だとしても、運転手が民事責任を負わないということはまずありません

先ほどお伝えのとおり、運転手は警備員の誘導に従う義務はなく、誘導に従い安全確認を怠ったのも運転手自身の責任だからです。

つまり、警備員の誘導ミスが原因で事故が発生した場合、民事責任は警備員と運転手の双方が負うことになります。

実際の誘導ミスの事例での過失割合

警備員と運転手の双方が民事責任を負うとしても、その責任の程度(過失割合)は、具体的な状況により異なります。

ここからは、実際の誘導ミスの事例(裁判例)で双方の過失割合がどの程度認められたかをご紹介していきます。

駐車場での警備員の不十分な誘導による単独事故

東京地裁平成20年7月22日判決の事故状況は、以下のとおりです。

  • 駐車場で警備員の誘導に従い駐車しようとした自動車の単独事故
  • 自動車が、移動式駐車場所の外側に設置されたポールに接触
  • ポールと車両との間隔は10㎝程度

この事例で、運転手は、車と駐車場所の位置関係を認識しており、一次的には運転者において位置関係を調整すべきと認定しました。

一方で、警備員にも車がポールと接触しないよう、運転者に対し、通常よりきめ細かく配慮を促す注意義務があったと認定しました。

その結果、警備員と運転手の過失割合を3対7と認定しました。

交差点での警備員の信号と違う誘導による衝突事故

東京地裁平成15年9月8日判決の事故状況は、以下のとおりです。

  • 交差点において対面信号は直進及び左折の青矢印の表示であった
  • 警備員が右折進行をしても構わない旨の合図を出した
  • 合図に従い右折しようとした車両と対向車線の直進車両が衝突

この事例で、裁判所は、警備員が信号と違う誘導をしたことと事故の発生との間には因果関係が認められると認定しました。

一方で、誘導に従うかは、運転手の規範意識に委ねられるところ、鵜呑みにしたこと自体、慎重さを欠く運転態度であり、運転手には

信号に従うという道路交通法上の運転者の基本的な義務に違反

するという重大な過失があったと認定しました。

その結果、警備員と運転手の過失割合を3対7と認定しました。

片側交互通行の道路での工事車両誘導時の衝突事故

山口地裁平成4年5月25日判決の事故状況は、以下のとおりです。

  • 片側交互通行にして、両端に工事用信号機を設置して改修工事を行っていた道路が事故現場
  • 片側交互通行の区間途中に工事車両の出入り口を設けていた
  • 警備員が白旗合図を出して工事車両の搬出を誘導していた
  • 運転手は警備員の白旗を、自分に対する進行の合図と誤信した
  • 運転手は赤信号を見落とし、高速度で走行していた

この事例で、裁判所は、警備員には安全確認を十分せず、信号にのみ頼つて、発進の合図をした過失があると認定しました。

一方で、運転手には赤信号の見落としという重大な過失に加えて、高速度の走行、合図の意味の取り違いという過失も認定しました。

その結果、警備員と運転手の過失割合を1対9と認定しました。

このように、警備員の誘導ミスが原因で事故が発生した時の警備員と運転手の具体的な過失割合は、状況により大きく異なります。

保険会社側から提示される過失割合が妥当なものかどうかを判断するには、過去の類似事例の調査が不可欠です。

この調査は、交通事故に強い弁護士に依頼するのが確実です。

参考:ガソリンスタンドの誘導事故

なお、警備員以外にも、ガソリンスタンドで従業員が誘導する際に事故が発生してしまうケースがあります。

東京地裁昭和52年8月30日判決の事故状況は、以下のとおりです。

  • 運転手はガソリンスタンドで給油後、公道に出ようとしていた
  • ガソリンスタンドの従業員が公道への発信を誘導した
  • その際に車両の左後後部を計量機に接触させ、破損させた

この事例で、本件事故は、運転手が誘導に気を取られ、自車後方の安全確認をする義務を怠つた過失に起因すると認定しました。

一方で、誘導員の停止の合図が遅れたなど、その誘導指示についてやや適切を欠く点があったものと認定しました。

その結果、誘導員と運転手の過失割合を2対8と認定しました。

なお、警備員同様、ガソリンスタンドの従業員にも、誘導を実施する特別な法的権限は与えられていません。

警備員には交通事故の刑事責任もある?

警備員には交通事故の刑事責任もある?

誘導ミスが事故原因でも責任ない!?

一方で、警備員の誘導ミスが原因で交通事故が発生したとしても、刑事責任は運転手が負い、警備員は刑事責任を通常問われません。

道路交通法や自動車運転処罰法は、運転行為やその結果に対しての刑罰を規定するものであり、運転手に過失があるかが問われます。

そして、先ほどお伝えのとおり、運転手は警備員の誘導に従う義務はありません。

そのため、誘導に従ったことも含めて、運転手の過失の有無が判断され、通常は運転手自身の安全確認不足が認められるからです。

つまり、刑事責任の判断においては、警備員の誘導ミスは、運転手の過失を検討する際の一要素に過ぎないことがほとんどです。

警備員の刑事責任を認めた裁判例

もっとも、誘導ミスの程度が大きく、その結果重大な結果が生じたような場合には、警備員も刑事責任を問われる可能性があります。

実際に、横浜地裁川崎支部平成25年3月4日判決は、水道工事現場で交通整理をしていた警備員の誘導ミスで子どもが死亡した事例で

警備員にも運転手に準じる責任がある

と判示し、禁錮1年(執行猶予4年)の有罪判決を言い渡しました。

(警備員とは別に運転手にも禁錮1年8か月(執行猶予5年)の有罪判決が言い渡されている)

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最後に一言アドバイス

それでは、最後に、警備員が関与する事故について、アドバイスを一言お願いします。

ドライバーの方も、歩行者の方も、警備員の誘導があったとしてもそれを軽信せず、自分で安全確認することが大切です。

また、誘導ミスによる交通事故の被害者となってしまった場合は、誰に対して損害賠償請求していくかが問題となります。

本記事を読んだだけではよく分からない部分があった方は、気軽に弁護士に相談だけでもしてみて下さい。

まとめ

いかがだったでしょうか。

このページを最後までお読みの方は、

  • 警備員の誘導に法律上の権限が与えられているか
  • 警備員の誘導ミスが原因で発生した交通事故の民事責任
  • 警備員の誘導ミスが原因で発生した交通事故の刑事責任

などについて理解を深めていただけたのではないかと思います。

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