後遺障害12級14号・9級16号|慰謝料や逸失利益は?面接が等級認定のカギ!?
「後遺障害の12級14号や9級16号ってどういう場合に認定されるの?」
「後遺障害の12級14号や9級16号が認定された場合に受け取れる慰謝料の金額の相場はいくらくらいなの?」
「後遺障害の12級14号や9級16号が認定された場合の逸失利益にはどんな問題があるの?」
交通事故により、顔面に大きな傷等が残った場合、12級14号や9級16号が認定されるかやどちらが認定されるかで受け取れる金額は大きく違います。
そこで、このページでは、
- 後遺障害等級12級14号と9級16号の認定基準の違い
- 後遺障害等級12級14号や9級16号の慰謝料の金額の相場
- 後遺障害等級12級14号や9級16号の逸失利益の問題点
についてご紹介していきたいと思います!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
交通事故で顔面部に醜状障害が残った場合に、適切な補償を受けるには、12級14号や9級16号の認定基準をしっかりと理解しておく必要があります。
また、後遺障害等級12級14号と9級16号のどちらが認定されるか又は非該当かで、受け取れる慰謝料の金額には大きな違いがあります。
さらに、後遺障害等級12級14号や9級16号が認定された場合に争いが予想される逸失利益の問題をあらかじめ知っておくことは有益と考えられます。
こちらで、後遺障害等級12級14号や9級16号についてしっかりと理解し、適切な慰謝料や逸失利益の金額を受け取れるようにしましょう。
交通事故に遭った場合、顔面部に傷を負ってしまうことはよくあるようです。
https://twitter.com/halsan0802/status/952551074526736384
その後の治療により傷が無くなることも多いですが、残念ながら治療をしても顔面部に傷などが残ってしまう場合もあります。
その場合、後遺障害の等級の認定を求めて申請をすることになります。
この場合には、主に12級14号や9級16号が認定されるかどうかが問題となってきます。
そこで、まずは後遺障害等級12級14号や9級16号がどんな認定基準になっているかについてお伝えしていきたいと思います。
後遺障害等級12級14号及び9級16号の認定
12級14号も9級16号も醜状障害
まず、後遺障害の12級14号は、
「外貌に醜状を残すもの」
と自賠責では定められています。
また、後遺障害の9級16号は、
「外貌に相当程度の醜状を残すもの」
と自賠責では定められています。
「外貌」とは、具体的には頭部、顔面部、頸(首)部のような、上肢及び下肢以外の日常的に露出している部分のことをいいます。
つまり、後遺障害の12級14号も、9級16号もともに頭部、顔面、頸部の醜状障害に区分されます。
なお、後遺障害の12級14号や9級16号より上位の等級として7級12号の「外貌に著しい醜状を残すもの」というものがあります。
これらの自賠責の頭部、顔面、頸部の醜状障害について表にまとめてみましたので、よろしければ参考にしてみてください。
等級 | 障害の程度 |
---|---|
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの |
9級16号※ | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの |
※労災の場合後遺障害9級の11の2
12級14号と9級16号の認定基準の違いについて
お伝えしたとおり、後遺障害の12級14号も9級16号も同じ頭部、顔面、頸部の醜状障害に区分されます。
そして、自賠責の文言上、両者の違いは外貌の醜状が「相当程度」かどうかになりますが、具体的な認定基準の違いはわからないかと思います。
そこで、12級14号と9級16号のそれぞれの具体的な認定基準及びその違いを確認していきたいと思います。
12級14号の認定
まず、「外貌」とは、具体的には頭部、顔面部、頸(首)部のような、上肢及び下肢以外の日常的に露出している部分のことをいいます。
そして、12級14号に該当する「醜状」とは、原則として、以下のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
- 頭部の場合はニワトリの卵大以上の大きさの瘢痕や頭蓋骨の欠損
- 顔面の場合は10円玉の大きさ以上の瘢痕や3㎝以上の傷跡(線状痕)
- 頸(首)部の場合はニワトリの卵大以上の大きさの瘢痕
- 耳介軟骨部の一部(1/2未満)の欠損や鼻軟骨部の一部又は鼻翼(小鼻)の欠損
上記のとおり、12級14号が認定されるかどうかは、醜状の大きさや長さで明確に基準が設けられています。
9級16号の認定
そして、9級16号についても、「外貌」の内容は12級14号と違いはありません。
一方、「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5㎝以上の線状痕で、人目につく程度以上のもののことをいいます。
つまり、後遺障害12級14号と9級16号の認定基準の違いは、線状痕の長さということになります。
7級12号の認定
なお、先ほど後遺障害の12級14号や9級16号より上位の等級として、7級12号の「外貌に著しい醜状を残すもの」があることをお伝えしました。
この7級12号に該当する「著しい醜状」とは、原則として、以下のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
- 頭部の場合は手のひら大(指の部分は含まない)以上の大きさの瘢痕や頭蓋骨の欠損
- 顔面の場合はニワトリの卵大以上の瘢痕や10円玉の大きさ以上の組織陥没
- 頸(首)部の場合は手のひら大(指の部分は含まない)以上の大きさの瘢痕
- 耳介軟骨部の1/2以上の欠損や鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損
なお、お伝えしてきた醜状障害の等級ごとの具体的な認定基準について、以下のとおり表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
部位\等級 | 12級14号 | 9級16号 | 7級12号 |
---|---|---|---|
頭部 | ニワトリの卵大以上の大きさの瘢痕や頭蓋骨の欠損 | ー | 手のひら大(※)以上の大きさの瘢痕や頭蓋骨の欠損 |
顔面部 | ・10円玉の大きさ以上の瘢痕 ・3㎝以上の線状痕 |
5㎝以上の線状痕 | ・ニワトリの卵大以上の瘢痕 ・10円玉の大きさ以上の組織陥没 |
頸(首)部 | ニワトリの卵大以上の大きさの瘢痕 | ー | 手のひら大(※)以上の大きさの瘢痕 |
耳・鼻 | ・耳介軟骨部の1/2未満の欠損 ・鼻軟骨部の一部又は鼻翼(小鼻)の欠損 |
ー | ・耳介軟骨部の1/2以上の欠損 ・鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損 |
※指の部分は除く
12級14号や9級16号が認定されるポイントは?
では、実際に後遺障害の12級14号や9級16号が適正に認定されるには、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか?
後遺障害診断書
まず、後遺障害の12級14号や9級16号が適正に認定されるために注意すべきポイントは、後遺障害診断書の記載内容です。
後遺障害の12級14号や9級16号のような醜状障害の場合、自賠責でも例外的に面接が行われますが、あくまで認定が問題と判断された場合です。
つまり、後遺障害診断書上、醜状についての記載がなかったり、明らかに認定基準を満たしていないような記載であった場合には面接が行われません。
そのため、後遺障害の12級14号や9級16号が適正に認定されるにはまず、後遺障害診断書上、認定基準を満たす記載になっているかがポイントです。
もっとも、大きさや長さが形式上認定基準を満たしていても、醜状の場所によっては、認定基準を満たしていないと判断される可能性があります。
先ほどお伝えしたとおり、認定の対象となる「醜状」は人目につく程度以上のものでなければなりません。
そのため、瘢痕、線状痕、組織陥没が、眉毛や頭髪等に隠れる部分については、醜状として取り扱われない可能性があるからです。
後遺障害診断書に図示された醜状の場所が、一般的に眉毛や頭髪等に隠れる部分の場合、醜状と扱われず、面接が行われない可能性があります。
このような事態を防ぐためのポイントとしては、後遺障害診断書に写真を添付することです。
その際には、醜状が人目につくような写り方になっているかを確認することもポイントになります。
面接調査の対応
先ほどお伝えしたとおり、醜状が後遺障害として認定されるかどうかは、醜状の大きさや長さで明確に基準が設けられています。
例えば、線状痕では、3㎝より少しでも短ければ非該当になりますし、5㎝より少しでも短ければ12級14号にとどまり、9級16号は認定されません。
後ほどお伝えするとおり、後遺障害の認定結果が、非該当か12級14号か9級16号かで、受け取れる慰謝料などの金額には大きな違いがあります。
しかし、どこからどこまでが傷か明確に判断しにくい場合もあり、計測する人の主観で傷の長さや醜状の大きさの判定が変わる可能性があります。
そのため、面接調査時に、どこからどこか傷になっているかや醜状の場所をはっきりと示し、正しく計測してもらうことがポイントになります。
2個以上の醜状根
交通事故により、外貌に残ってしまう瘢痕や醜状根は必ずしも一つとは限りません。
そして、自賠責の認定基準では
2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し、又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合算
して等級を認定するものと定めています。
もっとも、「相隣接し、又は相まって」いるかどうかは、判断する人の主観によって評価に違いが出てくる可能性があります。
そのため、2個以上の瘢痕又は線状痕がある場合、両者が相隣接し、又は相まっているため、合算して等級認定するよう求めるのがポイントです。
その際には、2つの瘢痕又は線状痕は〇㎝しか離れていないなど、できるだけ客観的な根拠を示すこともポイントになります。
醜状障害が後遺障害として認定されるかどうかは、醜状の大きさや長さ等の基準が明確に規定されているため、まずはその基準を理解するのが重要です。
そして、実際に適正な認定を受けるには、診断書や面接において、自身の醜状を適正に評価してもらえるように主張・立証する必要があります。
弁護士にご依頼頂ければ、必要に応じた面接への同席も含め、醜状を適正に評価してもらう主張・立証のお手伝いができるので、ご検討してみて下さい。
番号 | ポイント | 理由 |
---|---|---|
① | 後遺障害診断書 | 診断書上認定基準を満たしていないと面接行われない可能性 |
② | 面接調査の対応 | 醜状の大きさや長さは面接する人の主観で左右される可能性 |
③ | 2個以上の醜状根 | 相隣接、相まっていると評価できる場合は合算して認定 |
※自賠責でも醜状障害の場合面接行われる場合あり
後遺障害等級12級14号・9級16号の慰謝料
交通事故により残ってしまった醜状につき、後遺障害の等級の認定を求めて申請をすると、一定期間経過後、その結果が返ってきます。
https://twitter.com/KazuyaSakaibara/status/325076197333692416
上のツイートをされた方のように、後遺障害の12級14号が認定されると、その等級に応じた慰謝料を受け取ることができます。
もっとも、具体的な後遺障害12級14号が認定された場合の慰謝料の金額の相場は、用いられる基準によっても違いがあります。
そこで、ここからは、代表的な後遺障害の12級14号の慰謝料の基準の種類及び基準ごとの金額の相場をご紹介したいと思います。
後遺障害12級14号の慰謝料相場
自賠責基準
まず、加入が義務付けられている自賠責保険から支払われる保険金額を算出する際に用いる自賠責基準というものがあります。
自賠責保険は、被害者の損害を最低限度保障する保険のため、自賠責基準で計算された後遺障害の慰謝料の相場は低額になっています。
具体的には、後遺障害の12級14号が認定された場合に、自賠責保険から受け取れる慰謝料の金額は93万円になっています。
後遺障害の等級が12級14号の場合には、自賠責保険から上記の金額以上の慰謝料を受け取ることはできません。
後遺障害12級14号は醜状障害の中では一番軽いとはいえ、一生醜状が残る被害者の方からすれば、上記の金額では少ないと思われるかもしれません。
任意保険基準
次に、各任意保険会社が慰謝料などの損害賠償の金額の提示額を計算する際に用いる任意保険基準というものがあります。
任意保険基準は、保険会社ごとに基準が異なり、かつ非公開とされているので、詳細はわかりません。
もっとも、かつては各任意保険会社共通の基準が存在し、現在もその基準が基礎になっていると考えられています。
旧統一任意保険基準では、自賠責基準で計算された金額よりも若干高い程度の相場になっていました。
後遺障害が12級14号の場合の慰謝料の旧統一任意保険基準の金額の相場は100万円になっています。
自賠責基準の慰謝料の相場よりは増額していますが、その増額幅が7万円ではまだまだ不十分と思われる方もいるでしょう。
ただし、後ほどお伝えしますが、12級14号の場合、逸失利益を認めない代わりに上記の慰謝料金額を上回る金額が提示されることもあるようです。
裁判(赤本)基準
そして、交通事故の後遺障害の慰謝料などについて裁判で認められる相場である裁判基準というものがあります。
この裁判基準は、通称赤い本(赤本)と呼ばれている本に掲載されています。
交通事故の赤本については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい!
この裁判基準は、弁護士が相手方任意保険会社と交渉する際にも用いられているため、弁護士基準とも呼ばれます。
そして、後遺障害が12級14号の場合の慰謝料の裁判基準(弁護士基準)の相場は290万円になっています。
比較していただければわかりますが、自賠責基準の3倍以上、任意保険基準の3倍近くの高額な相場になっています。
基準 | いつ用いられるか | 金額の相場 |
---|---|---|
自賠責基準 | 自賠責への請求 | 93万円 |
任意保険基準※ | 任意保険の提示 | 100万円 |
裁判基準 (弁護士基準) |
・裁判 ・弁護士の交渉 |
290万円 |
※ 旧統一任意保険基準
後遺障害9級16号の慰謝料相場
では、後遺障害の9級16号が認定された場合の慰謝料の金額の相場はいくら位になるのでしょうか?
後遺障害9級16号が認定された場合の慰謝料の金額の相場は、12級14号の場合同様、用いられる基準によっても違いがあります。
具体的な後遺障害9級16号が認定された場合の慰謝料の金額の相場は、以下の表のとおりです。
基準 | 金額 |
---|---|
自賠責基準 | 245万円 |
任意保険基準※ | 300万円 |
裁判基準 (弁護士基準) |
690万円 |
※ 旧統一任意保険基準
そして、後遺障害12級14号と9級16号の慰謝料の金額の相場を比較したものが以下の表になります。
なお、醜状障害における12級14号と9級16号の上位等級である7級12号の慰謝料の金額の相場も参考までに併せて記載してあります。
基準\等級 | 12級14号 | 9級16号 | 7級12号 |
---|---|---|---|
自賠責基準 | 93万円 | 245万円 | 409万円 |
任意保険基準※ | 100万円 | 300万円 | 500万円 |
裁判基準 (弁護士基準) |
290万円 | 690万円 | 1000万円 |
※ 旧統一任意保険基準
先ほどお伝えしたとおり、傷跡(線状痕)の長さが5㎝に数㎜満たない場合、9級16号は認定されず、12級14号の認定にとどまります。
しかし、後遺障害の認定が、9級16号か12級14号かで、受け取れる慰謝料は一番高額な裁判基準だと400万円も違いが出てきます。
傷跡のたった数㎜の違いで400万円も受け取れる慰謝料に違いが出ることから、適正な等級の認定を受けることの重要性がわかるかと思います。
12級14号・9級16号で慰謝料が増額された判例
お伝えしてきたとおり、後遺障害の慰謝料は、認定された等級ごとに相場の金額が定められています。
もっとも、12級14号や9級16号等の醜状障害の場合、この後お伝えする逸失利益との関係で、慰謝料が相場より高額な場合があります。
実際に、等級ごとの慰謝料の相場以上の金額が認められた判例としては、以下のようなものがあります。
原告に後遺障害等級第12級14号に該当する顔面醜状の後遺障害が残存したことについては当事者間に争いがない。
(略)
(5)逸失利益 0円
弁論の全趣旨によれば,原告は,主婦であると認められるところ,顔面醜状が直接労働能力に影響を及ぼすものとは考えられず,原告の顔面醜状の程度,原告の年齢に照らしても,労働能力の低下があるとは認められない。
したがって,逸失利益は生じないというべきである。
(6)後遺障害慰謝料 350万円
原告の上記後遺障害の内容,これに伴う日常生活への影響,本件事故により,自賠責保険の後遺障害等級には該当しないものの右肘頭骨折後の手術痕等が残存していることなどに照らし,後遺障害慰謝料については350万円が相当と認める。
(以下略)
出典:東京地判平成24年4月25日
原告には,右鼻翼部横右頬部から口唇部右上にかけて長さ5.4センチメートル,太さ3ミリメートルの線状痕が残存していたほか,口唇部左下から下あご部にかけて長さ1.4センチメートル,太さ2ミリメートルと長さ2センチメートル,太さ2ミリメートルの色素を有する線状痕が残存していた。
イ 原告は,前項の線状痕につき,自動車損害賠償責任保険において,面接調査の結果,人目につく程度以上のものと認められ,右鼻翼部横から口唇部右上にかけての線状痕は長さ5センチメートル以上と捉えられ,「外貌に相当程度の醜状を残すもの」として,自賠法施行令別表第二第9級16号(以下「9級」という。)に該当すると判断された(争いがない。)。
(略)
カ 後遺障害逸失利益について
(略)
原告の線状痕がその就労に不利な影響を及ぼすことは認められるものの,労働能力喪失が割合として評価できるほどに至っているとまでは認められず,後記キのとおり,後遺障害慰謝料の算定に当たって考慮するのが相当である。
キ 後遺障害慰謝料について
(略)原告の醜状痕が9級に相当するものである上,前項のとおり,労働能力喪失を割合として評価できるほどに至っているとまでは認められないものの,就労に影響を与えること自体は否定できないことを考慮すると,後遺障害慰謝料は900万円とするのが相当である。
(以下略)
出典:大阪地判平成27年7月17日
上記の判例のように、醜状障害の場合、逸失利益を認めない代わりに、後遺障害慰謝料の金額を増額することで調整を図る場合があります。
しかし、この場合、後遺障害12級14号や9級16号が認定された場合に受け取れる金額の総額としては、少なくなってしまう場合がほとんどです。
後遺障害12級14号や9級16号が認定された場合に受け取れる金額が妥当なものかは、慰謝料だけでなく、あくまで総額で判断する必要があります。
後遺障害第12級14号・9級16号の逸失利益
後遺障害12級の逸失利益の計算
後遺障害の12級14号が認定された場合、自賠責からは上記の後遺障害慰謝料とは別に逸失利益の金額も受け取れます。
そして、逸失利益の計算方法は、基本的に以下のようになっています。
後遺障害の逸失利益の計算方法
(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)
上記の逸失利益の計算方法の各項目の簡単な意味は以下の表のとおりです。
項目 | 意味 | |
---|---|---|
① | 基礎収入 | 後遺障害が残らなければ、得られていたであろう収入 |
② | 労働能力喪失率 | 後遺障害が残ったことによる減収の割合 |
③ | 労働能力喪失期間 | 後遺障害によって減収が発生する期間 |
④ | 中間利息控除係数 | 逸失利益を症状固定時の金額にするための係数 |
そして、自賠責では、労働能力喪失率について、等級ごとに定められており、12級の場合は14%と定められております。
また、労働能力喪失期間は、症状固定時の年齢から一般的な就労可能年齢の上限である67歳になるまでの期間で計算するのが原則です。
後遺障害9級の逸失利益の計算
そして、後遺障害が9級の場合にも、上記の逸失利益の計算方法や喪失期間の算出方法に違いはありません。
また、等級ごとに定められている労働能力喪失率は、9級の場合35%になります。
ただし、後遺障害の12級や9級が認定された際に自賠責から受け取れる金額は、上記の基準で計算した慰謝料と逸失利益の合計とは限りません。
自賠責保険の後遺障害による損害につき支払われる保険金額には限度額が法令上定められているからです。
責任保険の保険金額は、政令で定める。
出典:自動車損害賠償保障法第13条1項
法第十三条第一項の保険金額は、死亡した者又は傷害を受けた者一人につき、次のとおりとする。
(略)
三 傷害を受けた者(略)
ヘ 別表第二に定める等級に該当する後遺障害が存する場合(略)における当該後遺障害による損害につき
当該後遺障害の該当する等級に応ずる同表に定める金額
出典:自動車損害賠償保障法施行令第2条3号
そして、自賠責保険から後遺障害の12級が認定された場合に支払われる保険金額の限度額は224万円になります。
また、自賠責保険から後遺障害の9級が認定された場合に支払われる保険金額の限度額は616万円になります。
この限度額があることにより、自賠責保険から受け取れる後遺障害の逸失利益は、計算上どんなに大きくなっても
各等級の限度額と後遺障害慰謝料の差額
までとなります。
具体的には、12級の場合は224万円-93万円=131万円、9級の場合は616万円-245万円=371万円が自賠責から受け取れる逸失利益の限度額です。
年収や年齢にもよりますが、自賠責保険の後遺障害の慰謝料及び逸失利益を支払基準で計算した金額は限度額を超えることがほとんどになります。
なお、醜状障害で認定される可能性のある12級・9級・7級の自賠責保険の等級ごとの労働能力喪失率及び限度額を比較した表は以下のとおりです。
等級 | 12級 | 9級 | 7級 |
---|---|---|---|
労働能力喪失率 | 14% | 35% | 56% |
限度額 | 224万円 | 616万円 | 1051万円 |
醜状障害では労働能力喪失率・喪失期間が争点
後遺障害の逸失利益は、任意保険との交渉や裁判の場合でも、上記の自賠責の計算方法で算出された金額になるのが原則です。
しかし、後遺障害の12級14号や9級16号のような醜状障害の場合、任意保険との交渉や裁判の場合、逸失利益の有無自体が争点になります。
醜状障害は、モデルなどのような他人に体を見られる仕事でない限り、必ずしも仕事への支障はないとも考えられるからです。
しかし、「醜状障害であるから逸失利益は認められない」という主張が妥当とはいえないケースも数多くある点には注意が必要です。
具体的には、醜状障害であっても
- ① 醜状が残った部分に痛み等の神経症状も残存すること
- ② 接客や仕事上の対人関係の構築に消極的になるなどの悪影響を及ぼす可能性があること
- ③ 勤務場所が内勤に限定されたり、転職の際に不利に働く可能性があること
などから、将来の収入に対する影響があるとして、後遺障害逸失利益が認められる場合も多いようです。
ただし、醜状障害の場合、逸失利益自体が認められても、労働能力喪失率や喪失期間を通常より制限するか別途争点になることが多いようです。
交通事故、顔面の傷で後遺障害は認定されました。逸失利益は降りず。さてどうしよう。とりあえず明日、弁護士さんの無料相談に電話してみて見解聞いてみる。
— miyu (@caseinnaeba) April 3, 2018
醜状障害の逸失利益に関する弁護士としての見解はどのようなものになるのでしょうか?
上記のとおり、後遺障害12級14号や9級16号のような醜状障害の場合でも、逸失利益が認められる余地は十分あるといえます。
もっとも、醜状障害で逸失利益が認められるには、現在又は将来希望する職務との関係で、具体的にどんな支障があるか主張・立証する必要があります。
この主張・立証は一般の方では困難なことも多いので、弁護士などの専門家に依頼して行うのが確実と考えられます。
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、後遺障害の12級14号等の問題についてお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。
醜状障害は、ほんのわずかな差で、12級14号と9級16号のどちらが認定されるかが違い、受け取れる慰謝料の金額にも大きな違いがあります。
また、後遺障害12級14号や9級16号のような醜状障害の場合には、逸失利益が争われることが予想されるため、予め対策を考えておくべきといえます。
こちらで覚えた後遺障害等級12級14号や9級16号の知識や弁護士への依頼を活用し、適切な慰謝料や逸失利益の金額を受け取れるようにしましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 後遺障害等級12級14号と9級16号の認定基準の違いは線状痕の長さ
- 後遺障害等級12級14号や9級16号の慰謝料の金額の相場
- 後遺障害等級12級14号や9級16号等の醜状障害は逸失利益の有無が争われやすい
点について理解を深めていただけたのではないかと思います。
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後遺障害12級14号・9級16号についてのQ&A
後遺障害12級14号と9級16号の認定基準の違いは?
後遺障害12級14号・9級16号は、どちらも頭部、顔面、頸部の醜状障害に区分されます。両者の違いは、外貌の痕が「相当程度」かどうかです。9級16号では、原則として「相当程度の醜状」を顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。一方の12級14号では、顔面部の3センチメートル以上の線状痕と規定されています。つまり、線状痕の長さが認定基準の違いということになります。 後遺障害等級12級14号及び9級16号の認定
12級14号・9級16号の慰謝料で注意すべきことは?
慰謝料の総額を確認することがポイントです。醜状障害の場合、逸失利益を認めない代わりに、後遺障害慰謝料の金額を増額することで調整を図る判例があります。しかし、後遺障害12級14号や9級16号認定でこのような調整が行われた場合、受け取れる総額が少なくなってしまうことがほとんどです。そのため慰謝料だけでなく、あくまで総額で判断する必要があります。 後遺障害等級12級14号・9級16号の慰謝料
後遺障害12級の逸失利益の計算は?
逸失利益の計算は「(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)」となります。労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに目安が設けられており、12級は労働能力喪失率が14%とされています。また、労働能力喪失期間は症状固定時の年齢から一般的な就労可能年齢の上限である67歳になるまでの期間で計算します。 後遺障害第12級14号・9級16号の逸失利益
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
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