逸失利益と損害賠償の関係|休業損害との違いは何?
「逸失利益の損害賠償は交通事故で一番重要って聞いたけれど本当なの?」
「逸失利益の損害賠償額はどうやって計算すればいいの?」
「労災から保険金を受け取った場合でも、逸失利益の損害賠償は請求できるの?」
交通事故の損害賠償の請求項目は数多くありますが、実は逸失利益の項目が一番高額な賠償項目になる可能性が高いといえます。
このページでは、そんな逸失利益の損害賠償請求の問題に関し、
- 逸失利益の損害賠償の基礎知識
- 逸失利益の損害賠償額の計算方法
- 労災からの保険金と逸失利益の損害賠償請求との関係
についてご紹介していきたいと思います!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
逸失利益は、交通事故の損害賠償請求において大きな割合を占めることになる非常に重要な損害賠償の項目です。
そのため、逸失利益の損害賠償額の計算方法を理解しておかないと、適正な損害賠償額かどうかの判断ができなくなってしまいます。
また、労災からの保険金と逸失利益の損害賠償との関係についても理解しておかないと、合計で受け取れる金額の正しい見通しが立てられません。
こちらで逸失利益の損害賠償についてしっかり理解し、交通事故による逸失利益について、適正な損害賠償を受けられるようにしましょう。
目次
そもそも、逸失利益とは何なのかがよくわからないという一般の方も多いかと思います。
また、逸失利益と損害賠償の関係や逸失利益と損害賠償の問題においてよく話題になる慰謝料との違いをご存知の方も少ないかもしれません。
そこで、まずは逸失利益の損害賠償の基礎知識について確認していきたいと思います!
逸失利益の損害賠償の基礎
逸失利益とは?
逸失利益とは、一般的には以下のように定義されています。
逸失利益
本来得られるべきであったにもかかわらず、損害賠償の対象となる事実が生じたことによって得ることのできなくなった利益
この逸失利益は「喪失利益」や「得べかりし利益」などと呼ばれることもある損害賠償の項目の一つになります。
逸失利益は、実際には利益が生じなくなるため、どこまでが本来得られるべきであった利益かの確定が難しく、争いになりやすい損害賠償の項目です。
民法上の損害賠償の逸失利益
そして、民法上、損害賠償の対象となる事実は大きく
- 債務不履行
- 不法行為
の二つに分けられ、損害賠償の項目の一つである逸失利益もこの二つに分けることができます。
債務不履行の損害賠償の逸失利益
債務不履行の損害賠償の逸失利益としては、主に
- 利用利益
- 転売利益
が考えられます。
利用利益
民法上、金銭の給付を目的とする債務不履行(履行遅滞)について、具体的損害の有無を問わず、法定利率分の損害賠償を認めています。
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。
ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
出典:民法第419条
これは、履行期に金銭の給付があれば、その金銭を利用(運用)して、利益が得られていたはずであるという考え方を前提にしています。
つまり、民法第419条に基づく損害賠償は、債務不履行の損害賠償の逸失利益(利用利益)の一つであるといえます。
転売利益
また、ある物の給付があれば、その物を転売して利益が得られたはずだったのに、債務不履行により転売できず、その利益が得られない場合があります。
このような転売利益も、債務不履行の損害賠償の逸失利益の一つであるといえます。
不法行為の損害賠償の逸失利益
また、本来得られるべきであったにもかかわらず、不法行為が生じたことによって得られなくなった利益がある場合も損害賠償請求ができます。
そして、不法行為が生じたことによって得られなくなった利益、つまり不法行為の損害賠償の逸失利益が生じる典型例として交通事故があります。
そこで、続いては、交通事故の損害賠償における逸失利益の位置付けについて確認していきたいと思います。
交通事故の損害賠償での逸失利益の位置付け
逸失利益は財産的損害
交通事故が発生した場合、様々な損害が発生しますが、損害賠償の種類は大きく
- 財産的損害
- 精神的損害
に分けられます。
交通事故が発生すると、お金の面で様々な不利益が生じることになります。
これを財産的損害といいます。
また、事故にあうと、けがの痛みに耐えなければならなくなるなどの不利益も生じます。
この不利益は、それ自体でお金の面での不利益が生じているわけではないですが、精神的な苦痛を負っているといえます。
これを精神的損害といいます。
そして、精神的損害は本来金銭では評価できないものですが、精神的苦痛をなぐさめるために支払われる金銭を慰謝料といいます。
逸失利益は慰謝料とは異なり、実際に経済的利益を失っているので財産的損害に当たります。
逸失利益は消極損害
さらに、財産的損害の種類の中でも大きく
- 積極損害
- 消極損害
に分けられます。
積極損害とは、交通事故によりせざるを得なくなった支出のことをいいます。
代表的なものとしては、治療費や通院交通費、車の修理費などがあります。
それに対して、消極損害とは、交通事故により本来得られるはずであった収入や利益を失ったことをいいます。
この消極損害の一つとして逸失利益があります。
つまり、逸失利益は、交通事故の損害賠償において、財産的損害の中の消極損害の一つに位置付けられます。
お伝えしてきた交通事故の損害の種類について表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
積極損害 | 消極損害 | |
---|---|---|
財産的損害 | 治療費など | 逸失利益など |
精神的損害 | 慰謝料 |
交通事故の損害賠償における逸失利益の種類
そして、交通事故の損害賠償における逸失利益には、以下のような種類のものがあります。
後遺障害による逸失利益
後遺障害による逸失利益とは、
交通事故による後遺障害が残存しなければ被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害
をいいます。
交通事故が発生した場合、残念ながら完治せず、後遺障害が残ってしまう場合があります。
そして、後遺障害が残ってしまった場合、交通事故前と同じようには働けなくなるため、その分の経済的利益が失われることになります。
この失われた「経済的利益」をどう考えるかについては争いがありますが、判例は以下のように判断しています。
かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。
(略)
現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難い(略)にもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべき(以下略)
出典:最高裁昭和56年12月22日判決
少し長いのでまとめると、判例は
- 原則として後遺障害の逸失利益の請求には収入の減少が必要である
- 場合によっては労働能力の喪失自体を失われた経済的利益とみることができる
と判断しています。
判断の難しい問題を含んでいますので、ここでは、後遺障害の逸失利益とは
後遺障害が残らなければ将来得られたはずの収入の減少を補うための損害項目
というようにひとまず理解しておけばよいでしょう。
死亡による逸失利益
死亡による逸失利益とは、
交通事故が原因で被害者が死亡した場合、死亡した被害者が生存していれば将来得られたであろう収入(ないし経済的利益)の減収分の損害
をいいます。
交通事故により被害者が死亡した場合、当然ながら被害者はその後の収入を得られなくなるため、その分の損害が発生することになります。
そのため、死亡事故においては、被害者は死亡後に発生する分の逸失利益の損害賠償を請求することができます。
休業損害も広義の逸失利益
また、交通事故の損害賠償の項目の中には、事故による影響で、休業せざるを得なくなったことによる収入の減少という損害を補填するための
休業損害
という項目があります。
この休業損害も、本来得られるべきだったにもかかわらず、交通事故により得られなくなった利益の損害として、広義の逸失利益に含まれます。
では、休業損害と狭義の逸失利益はどのように区別されているのでしょうか?
休業損害は広義の逸失利益になりますが、休業損害は、症状固定までの間に実際に休業により得られなかった収入減についての損害になります。
そして、症状固定後の交通事故を原因とする経済的利益の減少については、先ほどご紹介した後遺障害による逸失利益として補填されることになります。
つまり、休業損害と狭義の逸失利益は、症状固定の前後で区別されることになります。
症状固定前 | 症状固定後 | |
---|---|---|
身体侵害 | 休業損害 | 後遺障害逸失利益 |
生命侵害 | 死亡逸失利益 |
交通事故の逸失利益は原則的に課税されない
上記のような交通事故の逸失利益等を損害賠償請求し、賠償金を受領した場合、気になるのは以下の点かと思います。
@ld_blogos そうすると交通事故の賠償金も課税されるの?今まで課税された例は無いと思ったけどこれって後々問題が出てくる
— 週給二日 (@metabolicphoo) January 30, 2012
そこで、逸失利益の損害賠償金は、課税の対象となり税金を支払う必要があるのかについてお伝えしたいと思います。
所得税について
まず、逸失利益を含む交通事故の損害賠償金が所得税の課税対象になるかについて、国税庁は以下のように説明しています。
交通事故などのために、被害者が次のような治療費、慰謝料、損害賠償金などを受け取ったときは、これらの損害賠償金等は非課税となります。
(略)
1 心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料など
具体的には、事故による負傷について受ける治療費や慰謝料、それに負傷して働けないことによる収益の補償をする損害賠償金などです。
(以下略)
逸失利益は、心身に加えられた損害について支払を受ける損害賠償金なので、所得税法上非課税という扱いになります。
相続税について
また、交通事故の加害者から遺族が受領した損害賠償金が相続税の課税対象になるかについて、国税庁は以下のように説明しています。
被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません。
この損害賠償金は遺族の所得になりますが、所得税法上非課税規定がありますので、原則として税金はかかりません(略)。
なお、被相続人が損害賠償金を受け取ることに生存中決まっていたが、受け取らないうちに死亡してしまった場合には、その損害賠償金を受け取る権利すなわち債権が相続財産となり、相続税の対象となります。
死亡による逸失利益は、被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金の一部のため、非課税という扱いになり、税金は掛かりません。
ただし、後遺障害による逸失利益の受領が生存中決まっていたが、受領しない内に交通事故と別原因で死亡した場合、相続税の課税対象となります。
逸失利益は、交通事故の損害賠償項目の一つであり、財産的損害のうちの消極損害に位置付けられ、精神的損害である慰謝料とは別の損害になります。
そして、交通事故における逸失利益には複数の種類があります。
このような逸失利益の交通事故の損害賠償における位置付けや種類を頭に入れておけば、損害賠償請求を漏れがなくすることができると考えられます。
後遺障害の逸失利益の計算
逸失利益の損害賠償の基礎知識が確認できたところで、ここからは具体的な逸失利益の計算方法を確認していきたいと思います。
後遺障害の逸失利益の計算方法
まず、後遺障害の逸失利益の計算方法は以下のようになります。
(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)
計算方法を聞いただけでは、あまりイメージが付きませんね・・・。
やはり、素人では後遺障害の逸失利益を計算するのは難しいのでしょうか?
聞き慣れない単語が並んでいて難しそうに感じるかもしれませんが、計算方法自体は比較的単純なものです。
簡単に言えば、この計算式は働ける期間の収入の減少分を一括してもらうためのものです。
計算式で使われている各項目の意味さえ理解すれば、ご自身で計算することも十分可能です。
そうなんですね、安心しました!
各項目の詳しい内容は個別に見ていく予定ですが、とりあえず、簡単に表にまとめてみました。
項目 | 意味 | |
---|---|---|
① | 基礎収入 | 後遺障害が残らなければ、得られていたであろう収入 |
② | 労働能力喪失率 | 後遺障害が残ったことによる減収の割合 |
③ | 労働能力喪失期間 | 後遺障害によって減収が発生する期間 |
④ | ライプニッツ係数 | 逸失利益を症状固定時の金額にするための係数 |
基礎収入の計算方法について
それでは、後遺障害の逸失利益の計算方法の各項目について個別に確認していきたいと思います。
まず、基礎収入の項目についてですが、これは
後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入
のことをいいます。
具体的には、原則として事故前の現実収入を基礎とするようです。
そうすると、現実収入のない主婦や学生などは基礎収入がなく、逸失利益が認められないことになるのでしょうか?
事故前に現実収入のない方でも逸失利益は認められることがほとんどです。
ただし、基礎収入の算出方法が異なりますので、その点は注意が必要です。
そうなんですね・・・現実収入がない場合でも逸失利益が認められるとわかって安心しました!
基礎収入の算出方法は分かりにくい場合もあるので、より詳しく知りたいという方は以下のページをご覧になってみて下さい。
こちらのページには
- 基礎収入のより詳しい算出方法
- 基礎収入の項目で問題になる点
が記載されています!
労働能力喪失率の原則と例外
原則は後遺障害の等級ごとに判断
続いては、労働能力喪失率の項目についてですが、これは
後遺障害が残ったことによる減収の割合
のことをいいます。
先ほどお伝えしたとおり、後遺障害の逸失利益は
交通事故による後遺障害が残存しなければ被害者が得られたはずの収入の減少を補うための損害項目
であり、減収の割合分を補填すれば足りることになるからです。
とはいえ、後遺障害が残ったことによりどれだけ減収するかは将来のことですから、はっきりはわかりませんよね。
そこで、自賠責保険では、後遺障害の等級ごとに定められた喪失率を元に逸失利益が計算されます。
具体的な等級ごとの喪失率は以下の表のようになっています。
なお、自賠責保険は後遺障害慰謝料の額も等級ごとに定めているので、参考までにあわせて表に記載してみました。
等級 | 労働能力喪失率 | 慰謝料 |
---|---|---|
第1級(別表第1) | 100% | 1600万 |
第2級(別表第2) | 1163万 | |
第1級(別表第2) | 1100万 | |
第2級(別表第2) | 958万 | |
第3級 | 829万 | |
第4級 | 92% | 712万 |
第5級 | 79% | 599万 |
第6級 | 67% | 498万 |
第7級 | 56% | 409万 |
第8級 | 45% | 324万 |
第9級 | 35% | 245万 |
第10級 | 27% | 187万 |
第11級 | 20% | 135万 |
第12級 | 14% | 93万 |
第13級 | 9% | 57万 |
第14級 | 5% | 32万 |
この表に基づく労働能力喪失率は、原則として、任意保険との交渉や裁判の場においても用いられているようです。
実際に、後遺障害が残ったことにより、どれ位労働能力が失われたかを判断するのには時間がかかり、判断が難しいことも多いです。
そこで、迅速かつ公平に逸失利益を算出できるようにするため、自賠責保険は等級ごとに一律に労働能力喪失率を定めているといえます。
例外①後遺障害の内容
もっとも、任意保険との交渉や裁判の場においては、例外的に等級ごとに定められた労働能力喪失率が認められない場合もあるようです。
一般的に、後遺障害の等級は上位(数字が小さい)等級ほど症状が重いため、その分労働能力喪失率も高く設定されています。
しかし、後遺障害は同じ等級の中に様々な症状が「号」として規定されています。
その症状の中には、直ちに労働能力が失われるとは考えにくい症状も含まれています。
そういった症状の場合、任意保険会社や裁判所は
- 等級で定められた労働能力喪失率より低い喪失率で計算
- 労働能力が喪失されていないとして逸失利益を否定
する場合があります。
具体的に労働能力喪失率が争われやすい後遺障害の症状と等級・号数を以下の表にまとめてみましたので、ご参照下さい。
症状 | 等級・号数 | |
---|---|---|
① | 外貌醜状 | ・7級12号 ・9級16号 ・12級14号 |
② | 変形障害 | ・6級5号 ・8級相当 ・11級7号 ・12級5号 |
③ | 歯牙障害 | ・10級4号 ・11級4号 ・12級3号 ・13級5号 ・14級2号 |
④ | 嗅覚・味覚障害 | ・12級相当 ・14級相当 |
上記の表のような症状で労働能力喪失率が争われた場合でも、
- 職務内容
- 具体的な症状
などから実際の労働に支障が生じていることを具体的に主張立証することにより、提示されている逸失利益から増額できる場合があります。
労働能力喪失率が争われている方は、すぐに示談してしまわず、示談する前に弁護士に相談してみることをおすすめします。
例外②併合等級の内容
また、交通事故では、複数の箇所にケガをすることも多いため、二つ以上の後遺障害が認定される場合があります。
この場合、自賠責保険では併合という取り扱いがなされ、等級が繰り上げられることがあります。
後遺障害の併合については、以下の記事に詳しく記載されています。
上記記事にも掲載されていますが、後遺障害の併合が行われた場合の等級の繰り上げの有無及び程度については、以下の表のようになります。
次に重い等級 | 一番重い等級 | |||
---|---|---|---|---|
1~5級 | 6~8級 | 8~13級 | 14級 | |
1~5級 | 重い等級+3級 | ━ | ━ | ━ |
6~8級 | 重い等級+2級 | 重い等級+2級 | ━ | ━ |
8~13級 | 重い等級+1級 | 重い等級+1級 | 重い等級+1級 | ━ |
14級 | 重い等級 | 重い等級 | 重い等級 | 併合14級 |
※別表第一の後遺障害の場合除く
併合して等級が繰上げになった場合、労働能力喪失率も原則として繰上げされた等級に定められた割合で計算されることになります。
ただし、認定された後遺障害等級の中に、先ほどの労働能力喪失率が争われやすい症状が含まれている場合
任意保険会社や裁判所は
- 労働能力喪失率が争われやすい症状が軽い方の等級であれば繰上げ前の等級
- 労働能力喪失率が争われやすい症状が重い方の等級であれば軽い方単体の等級
に定められた労働能力喪失率で逸失利益を計算する場合があります。
単純に認定された併合等級を基礎に逸失利益を計算していると、賠償額の見込みが狂う場合があるので、その点は注意しましょう。
もっとも、例外①同様、労働能力喪失率が争われやすい症状が含まれている場合でも、
- 職務内容
- 具体的な症状
などから実際の労働に支障が生じていることを具体的に主張立証することで、繰上げ後の等級に定められた割合で計算できる場合があります。
併合で等級が繰上げられた場合の労働能力喪失率が争われている方は、すぐ示談せずに、示談する前に弁護士に相談してみることをおすすめします。
例外③現実の収入減との差
先ほどお伝えしたとおり、労働能力喪失率は
後遺障害が残ったことによる減収の割合
であるところ、後遺障害が残ったことによりどれだけ減収するかは将来のことですから、はっきりわからない部分があります。
とはいえ、症状固定後に減収が発生していないことが判明している場合があります。
そういった場合、後遺障害の症状は症状固定直後が一番重いと考えられることから、任意保険会社が
症状固定後に減収が発生していない以上、今後も減収は発生しないとして逸失利益を否定
してくる場合があります。
確かに、先ほど紹介されていた判例でも、現状において財産上特段の不利益がない場合には、原則として逸失利益は認められないと判断しています。
しかし、その判例にも記載されているとおり、現状において財産上特段の不利益がない場合でも
- 収入が減少していない理由が本人の努力や周囲の協力にあること
- 昇給が遅れるなど将来的に不利益が生じる可能性があること
などを具体的に主張立証することにより、逸失利益が認められる場合があります。
反対に、症状や実際の仕事への影響を具体的に主張立証することにより、等級に基づく喪失率以上の割合で逸失利益を計算した判例もあります。
現実の収入減と等級で定められた労働能力喪失率に差がある場合には、どちらの当事者も争う余地があるということですね。
なお、専門家からご指摘のあった等級に基づく喪失率以上の割合で逸失利益を計算した判例とは以下のような内容となっています。
交通事故による傷害のため、労働能力の喪失・減退を来たしたことを理由として、得べかりし利益の喪失による損害を算定するにあたつて、(略)労働能力喪失率表が有力な資料となることは否定できない。
しかし、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、被害者の職業と傷害の具体的状況により、同表に基づく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できることはいうまでもない。
出典:最判昭和48年11月16日
いずれにせよ、労働能力喪失率が争われた場合には、ひとまず弁護士に相談してみた方が良さそうですね!
労働能力喪失期間の計算方法
原則は症状固定日から67歳まで
続いて、労働能力喪失期間の項目についてですが、これは
後遺障害によって減収が発生する期間
のことをいいます。
そして、先ほどお伝えしたとおり、症状固定日までの減収は休業損害の項目で補填されるので、
労働能力喪失期間の始期は症状固定日
が原則となります。
また、後遺障害の逸失利益は
後遺障害が残らなければ将来得られたはずの収入の減少を補うための損害項目
のため、働ける期間を補填すれば足りるので、労働能力喪失期間の終期は就労可能な年齢になります。
とはいえ、何歳まで働けるかは将来のことであり人によって様々ですよね。
そこで、迅速かつ公平に逸失利益を算出できるようにするため、原則として就労可能な年齢を67歳として終期を一律に定めています。
例外①未就労者
しかし、上記はあくまでも原則であり、例外的な場合もあります。
まず、学生などの未就労者は症状固定の時点では働いておらず、減収が発生してないので、症状固定日を始期にすることはできません。
そこで、未就労者については、就労始期を一般的な高校卒業時の年齢である18歳を原則にしています。
ただし、症状固定時に大学生や大学進学の可能性が高い場合には就労始期を大学卒業時にしています。
例外②68歳以上の高齢者
そして、先ほどお伝えしたとおり、労働能力喪失期間の終期は原則として67歳となっています。
この原則どおりですと、68歳以上の高齢者の労働能力喪失期間はゼロになってしまいます。
もっとも、実際のところ68歳以上でも働かれている人は大勢おり、その方たちの逸失利益が認められないのは不合理です。
そこで、68歳以上の高齢者の場合には原則として平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として逸失利益が計算されます。
例外③67歳以下の高齢者
しかし、そうなると68歳以上の高齢者より67歳以下の高齢者の方が労働能力喪失期間が短い場合が出てきてしまいます。
そこで、67歳以下の高齢者の場合
- 症状固定時から67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
のいずれか長い方を労働能力喪失期間として逸失利益が計算されます。
例外④むち打ち症の場合
一般的に、後遺障害とは将来においても回復が困難と見込まれる症状とされているため、先ほどお伝えしたとおり、労働能力喪失期間は
症状固定時から67歳まで
が原則となっています。
しかし、むち打ち症による神経症状で
- 14級9号
- 12級13号
が認定された場合、むち打ち症による神経症状は一生続くものではないと考えられることから、労働能力喪失期間が制限されることが多いです。
具体的な労働能力喪失期間としては
- 14級9号の場合5年程度
- 12級13号の場合10年程度
に制限される場合が多いようです。
この年数は、裁判の場合の年数であり、任意保険会社からはこれよりさらに短い期間を主張されることも多いです。
また、裁判においても、上記の期間は絶対的なものではなく、これより長期の喪失期間が認められた裁判例も複数存在します。
さらに、任意保険会社がむち打ち症以外の神経症状の場合も労働能力喪失期間の限定を主張する場合があります。
しかし、むち打ち症以外の神経症状の場合には労働能力喪失期間の限定をするのが適当ではない場合も多いので注意が必要です。
なお、労働能力喪失期間の終期についても、具体的な職種、地位、健康状態、能力等によっては67歳以上まで認められる可能性もあります。
上記の例外も絶対的なものではなく、争う余地があるということですね。
いずれにせよ、労働能力喪失期間について争いや疑問が生じた場合には、ひとまず弁護士に相談してみた方が良さそうですね!
最後に、ここまでご説明してきた労働能力喪失率の原則と例外を表にまとめてみました。
場合 | 始期 | 終期 |
---|---|---|
原則 | 症状固定日 | 67歳 |
未就労者 | 18歳又は大学卒業時 | 67歳 |
68歳以上の高齢者 | 平均余命の1/2 | 平均余命の1/2 |
67以下の高齢者 | ・67歳までの期間 ・平均余命の1/2 のいずれか長い方 |
・67歳までの期間 ・平均余命の1/2 のいずれか長い方 |
むち打ち症 | ・14級9号:5年程度 ・12級13号:10年程度 |
※例外あり
ライプニッツ係数とは何か?
中間利息を控除
ここまで見てきた収入・減収の割合・減収が生じる期間を掛け合わせれば、逸失利益は計算できるようにも思えます。
しかし、収入・減収の割合・減収が生じる期間の単純な掛け合わせだと被害者が将来得られたはずの収入以上の利益を得る形になるんです!
詳しく説明しますと、逸失利益は将来得られたはずの収入分の金銭を先に一括で払われる形になります。
しかし、実際に金銭が手元にあれば、第三者に貸したり、預金したりすることで利息が得られることになります。
にもかかわらず、将来得られたはずの収入と同じ額の金銭を一括でもらってしまうと、被害者が利息分を余計に受領することになってしまいます。
このように利息分を余計に受領することを防ぐために、逸失利益が支払われる段階で、本来受け取る時期までの利息分を控除する必要があります。
このことを中間利息の控除といいます。
そして、この逸失利益から中間利息を控除し、一時金に換算するために用いられる数値がライプニッツ係数になります。
このライプニッツ係数は法定利率である年5%を複利計算した中間利息を控除するために用いられる係数です。
具体的な労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数の一部が以下の表になります。
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1 | 0.9524 |
2 | 1.8594 |
3 | 2.7232 |
4 | 3.546 |
5 | 4.3295 |
6 | 5.0757 |
7 | 5.7864 |
8 | 6.4632 |
9 | 7.1078 |
10 | 7.7217 |
20 | 12.4622 |
30 | 15.3725 |
※一部を抜粋
具体例で逸失利益を計算
後遺障害の逸失利益の計算方法は説明としては以上となります。
もっとも、説明だけではイメージが湧きにくいと思いますので、具体的な事例を用いて実際に計算してみたいと思います!
それでは、以下の方の逸失利益を計算してみましょう。
- 37歳 男性
- 年収600万のサラリーマン
- 後遺障害8級6号(上肢の1関節の用廃)が認定
この方の場合、労働能力喪失率は8級なので45%、労働能力喪失期間は67歳までの30年間になります。
そして、30年間に対応するライプニッツ係数は15.3725となります。
したがって、この方が受け取れる逸失利益は
600万×45%×15.3725=4150万5750円となります。
後遺障害慰謝料は、8級の場合、最も高額な弁護士基準でも830万円であり、上記の例ですと、逸失利益の方が5倍近く高額になっています。
このように、逸失利益は、年齢、年収、障害の程度によっては、数億にも上ることのある非常に非常に高額な損害賠償の項目となります。
そのため、後遺障害による逸失利益は、損害賠償において一番大きな割合を占める可能性の高い非常に重要な項目であるといえます。
死亡による逸失利益の計算
死亡による逸失利益の計算方法
続いて、死亡による逸失利益の計算方法は以下のようになります。
(基礎収入)×(1-生活費控除率)×(就労可能年数に対応するライプニッツ係数)
先ほどの後遺障害の計算方法に似ていますが、少し違う部分もあるようですね・・・。
ここからは、各項目について、後遺障害の場合との違いにも触れつつ、ご紹介していきたいと思います!
基礎収入の計算方法について
死亡による逸失利益における基礎収入は
交通事故により被害者が死亡しなければ、被害者が将来得られていたであろう収入
のことをいいます。
そして、事故前の現実収入を基礎とするのが原則である点は、後遺障害の場合と同様です。
また、現実収入のない主婦や学生などについても逸失利益が認められる点も後遺障害の場合と同様です。
しかし、死亡の場合には、後遺障害の場合には基礎収入に含まれないものが基礎収入に含まれることになります。
それは、年金です。
後遺障害が残っても、被害者がそれまで受け取っていた年金額が減少することはありませんが、死亡すると受給権者がいなくなってしまうからです。
ただし、この場合の年金は、原則として被害者が保険料などを負担していた年金のことをいいます。
遺族年金などの受給権者が保険料を負担しておらず、受給権者自身の生計維持という社会保障的な性質を持つ年金は、逸失利益性が否定されます。
逸失利益性が認められる年金かどうかの判断は、難しい部分も多いので、ご自身だけで判断せず、弁護士などの専門家への相談をお勧めします。
労働能力喪失率は常に100%
後遺障害の逸失利益の計算方法と死亡の逸失利益の計算方法を比較すると、死亡の場合労働能力喪失率の項目がないことがわかります。
死亡した場合、その後労働をして収入を得る可能性がないことは明らかなので、後遺障害の場合とは異なり、労働能力喪失率は常に100%です。
つまり、死亡による逸失利益の計算方法の「1」が後遺障害の逸失利益の計算方法の労働能力喪失率に該当することになります。
死亡の場合生活費控除が必要
一方、死亡による逸失利益の計算方法には、後遺障害の場合になかった生活費控除率という項目があることがわかります。
後遺障害の場合には、その後も被害者の生活費の支出が発生するため、その分につき、損害賠償から控除する必要はありません。
一方、死亡の場合、その後の収入が得られなくなった代わりに、将来の被害者の生活費の支出の必要もなくなるため、その分を控除する必要があります。
具体的な生活費控除率については、弁護士基準の場合
- 被扶養者が1人の場合 40%
- 被扶養者が2人以上の場合 30%
- 女性(主婦、独身、幼児などを含む)30%
- 男性(独身、幼児などを含む) 50%
を生活費として控除することになります。
ただし、年金部分についての生活費控除率は、こちらの割合よりも高くする例が多いようです。
就労可能年数に対応する係数
就労可能年数の終期が原則67歳であることや、未就労者や高齢者の例外的な取り扱いについては、後遺障害の場合も死亡の場合も変わりません。
また、逸失利益から中間利息を控除し、一時金に換算するために用いられる係数がライプニッツ係数であることも後遺障害の場合と同様です。
ただし、先ほどお伝えしたとおり、死亡の場合は、年金も逸失利益に含まれます。
そして、被害者が生きていた場合、年金を受け取れるのは67歳まででなく、被害者が生きている間の期間になります。
そのため、年金の逸失利益を計算する場合の期間の終期は、被害者の平均余命ということになります。
具体例で逸失利益を計算
死亡による逸失利益の計算方法は説明としては以上となります。
もっとも、説明だけではイメージが湧きにくいと思いますので、具体的な事例を用いて実際に計算してみたいと思います!
それでは、先ほどの後遺障害の場合の具体例と同様、以下の方の逸失利益を計算してみましょう。
- 37歳 男性
- 年収600万のサラリーマン
- 専業主婦の妻と7歳の息子の3人家族(妻と息子は被扶養者)
この方の場合、生活費喪失率は被扶養者が2人以上の場合なので30%、就労可能年数は67歳までの30年間になります。
そして、30年間に対応するライプニッツ係数は15.3725となります。
したがって、この方が受け取れる逸失利益は
600万×(1-30%)×15.3725=6456万4500円となります。
死亡慰謝料は、上記例のような一家の支柱の場合で、最も高額な弁護士基準でも2800万円であり、上記の例ですと、逸失利益の方が倍以上も高額です。
このように、死亡による逸失利益は、年齢、年収、障害の程度によっては、数億にも上ることのある非常に非常に高額な損害賠償の項目となります。
そのため、死亡による逸失利益は、損害賠償において一番大きな割合を占める可能性の高い非常に重要な項目であるといえます。
最後に、後遺障害の場合と死亡の場合との逸失利益の損害賠償の計算方法の違いを簡単に表にして比較してみましたので、ご覧になってみて下さい。
後遺障害 | 死亡 | |
---|---|---|
基礎収入 | ・原則事故前の現実収入 ・年金含まない |
・原則事故前の現実収入 ・年金含む※ |
労働能力喪失率 | 等級により違う | 常に100% |
生活費控除 | しない | する |
期間 | 原則症状固定日から67歳まで | ・原則死亡日から67歳まで ・年金の場合、平均余命の期間 |
※原則被害者が保険料などを負担していた年金のみ
逸失利益の計算機をご紹介!
この記事を読んで、逸失利益の損害賠償の計算方法はご理解いただけたのではないかと思います。
とはいえ、「自分で計算するのは正直面倒くさい」と思われる方も多いのではないでしょうか?
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益……保険種類や裁判所基準が様々で色々と算出しないといけない…。
この作業…大変。弁護士に相談…か??
— 羽田敬之 (@6haty3) August 24, 2015
その場合、このツイートをされた方がおっしゃるとおり弁護士に相談するのが一番です。
しかし、もっと気軽に逸失利益の金額を計算したいという方もいらっしゃると思います。
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労災からの保険金と逸失利益の損害賠償請求との関係
交通事故が勤務中や通勤中のものであった場合、労災から保険金を受け取ることができます。
そして、その後に逸失利益や慰謝料を損害賠償請求するという流れになります。
んー労災保険金給付がなされた後の慰謝料や逸失利益の損賠請求だよねたしか
— あおとび (@aotobi) October 31, 2012
では、労災から先に受け取った保険金分については、すべて逸失利益や慰謝料の損害賠償請求額から差し引かれてしまうのでしょうか?
労災から受け取れる保険金は慰謝料含まない
労災保険は、法律上、以下のように目的を定めています。
労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
出典:労働者災害補償保険法第1条
このように、労災保険はあくまで労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護などを目的に保険金が支払われています。
つまり、労災から受け取れる保険金には、精神的な損害を補填する慰謝料としての性質は含まれていないということになります。
そのため、労災から保険金を受け取ったとしても、その後の慰謝料の損害賠償請求額が差し引かれることはないという関係にあります。
後遺障害や死亡に関する労災の保険金の種類
では、労災から労働者やその遺族が受け取れる保険金にはどのようなものがあるのでしょうか?
後遺障害が残った場合と労働者(被害者)が死亡した場合それぞれで受け取れる保険金の種類は異なり、具体的には以下の種類になります。
後遺障害の場合
まず、労災で後遺障害の等級が認定された場合には、等級に応じて下記の種類の保険金が受け取れることになります。
- 障害(補償)給付
- 障害特別金
- 障害特別支給金
死亡事故の場合
一方、労災で死亡した場合、遺族などは下記の種類の保険金が受け取れることになります。
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
そして、遺族(補償)給付にはさらに以下の3種類の保険金があります。
- 遺族(補償)金
- 遺族特別金
- 遺族特別支給金
逸失利益から控除される労災の保険金の種類
逸失利益は、先ほどお伝えしたとおり、慰謝料とは異なり、財産的な損害賠償の項目になります。
では、慰謝料とは異なり、労災から保険金を受け取った場合、その分は逸失利益の損害賠償額からすべて差し引かれてしまうのでしょうか?
逸失利益は、具体的には、交通事故により得ることのできなくなった損害賠償の項目になります。
そのため、得られなかった財産的損害の補填の性質を持つ労災の保険金の種類については、二重取りを防ぐため、逸失利益から控除する必要があります。
そこで、逸失利益から控除される労災の保険金の種類について、労災の保険金の性質に触れつつお伝えしたいと思います。
後遺障害の場合
この場合の保険金種類のうち、障害(補償)給付は、後遺障害の残存により労働能力を喪失したことによる減収を補填する性質を有します。
そのため、障害(補償)給付は、得られなかった財産的損害の補填の性質を持つといえるので、二重取りを防ぐため、逸失利益から控除されます。
一方、障害特別金や障害特別支給金は、労働者の社会復帰促進という労働福祉事業の一環であり、労働者の損害を填補する性質のものではないです。
そのため、いわゆる二重取りの関係にはならないので、障害特別金や障害特別支給金は、逸失利益からは控除されないことになります。
つまり、労災の後遺障害で受け取れる保険金のうち、逸失利益の損害賠償額から控除されるのは障害(補償)給付の金額のみということになります。
労災\損害賠償 | 慰謝料 | 逸失利益 |
---|---|---|
障害(補償)給付 | × | 〇 |
障害特別金 | × | |
障害特別支給金 | × |
死亡事故の場合
この場合の保険金種類のうち、遺族(補償)金は、労働者の死亡により途絶える収入の一部を補填し、その収入で生活していた遺族を援護するものです。
そのため、遺族(補償)金は、得られなかった財産的損害の補填の性質を持つといえるので、二重取りを防ぐため、逸失利益から控除されます。
一方、遺族特別金や遺族特別支給金は、遺族の社会復帰促進という労働福祉事業の一環であり、労働者の損害を填補する性質のものではないです。
そのため、いわゆる二重取りの関係にはならないので、遺族特別金や遺族特別支給金は、逸失利益からは控除されないことになります。
つまり、労災の死亡の場合に受け取れる保険金のうち、逸失利益の損害賠償額から控除されるのは遺族(補償)金の金額のみということになります。
労災\損害賠償 | 慰謝料 | 逸失利益 |
---|---|---|
遺族(補償)金 | × | 〇 |
遺族特別金 | × | |
遺族特別支給金 | × |
なお、労災の葬祭料(葬祭給付)は、葬儀費用と同一の性質を有するため、損害賠償額から控除されるので、その点も覚えておきましょう。
上記のとおり、労災から保険金を受け取った場合、逸失利益の損害賠償額から差し引かれることになりますが、全額ではない点には注意が必要です。
労災から受け取った保険金のうち、控除されるものとされないものを正確に把握し、適正な逸失利益の損害賠償請求ができるようにしておきましょう。
逸失利益の損害賠償について弁護士に相談したい方へ!
ここまで逸失利益の損害賠償に関する事柄についてお伝えしてきましたが、読んだだけではわからないことがあった方もいるのではないでしょうか?
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、交通事故でお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。
この記事をご覧いただいてわかると思いますが、逸失利益は交通事故の損害賠償請求において非常に大きな割合を占めることになる項目になります。
そのため、加害者側も逸失利益の計算方法の各項目の数値について大きく争い、損害賠償金の総額を減らそうとしてくることが予想されます。
逸失利益につき、適切な主張立証を行い、適正な損害賠償を受けられるようにすべく、お悩みやお困りのことがあれば弁護士に相談してみましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 逸失利益の損害賠償の基礎知識
- 逸失利益の損害賠償額の計算方法
- 労災からの保険金と逸失利益の損害賠償請求との関係
について理解を深めていただけたのではないかと思います。
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皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
逸失利益と損害賠償の関係についてのQ&A
逸失利益とは何を意味している?
逸失利益とは、本来得られるべきであったにもかかわらず、損害賠償の対象となる事実が生じたことによって得ることのできなくなった利益のことをいいます。「喪失利益」や「得べかりし利益」などと呼ばれることもある損害賠償の項目の一つになります。 損害賠償の基礎「逸失利益」とは
労災から保険金を受け取ると逸失利益はどうなる?
受け取った保険金の分だけ逸失利益から控除される可能性があります。逸失利益は、具体的には、交通事故により得ることのできなくなった損害賠償の項目に当たります。そのため、得られなかった財産的損害の補填の性質を持つ労災の保険金については、二重取り防止の観点から控除される可能性があります。 逸失利益から控除される労災の保険金の種類
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この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。