後遺障害逸失利益の基礎収入|税金込みで計算?賃金センサス利用する?
「交通事故で後遺障害の逸失利益は基礎収入が重要になるって聞いたけど、基礎収入って一体何なの?」
「基礎収入ってどうやって計算するの?」
「働き始めたばかりで収入が少なかったのだけれど、これを基礎収入にするしかないの?」
交通事故にあわれて後遺障害まで残ってしまった方からすれば、せめてなるべく多くの損害賠償額を受け取りたいと思われるのではないでしょうか?
交通事故に巻き込まれるというのは、はじめての方が多いでしょうから後遺障害による逸失利益の基礎収入が何かなんて知らなくて当然かと思います。
しかし、後遺障害の逸失利益の基礎収入を理解しておかないと最終的にもらえる賠償額が少なくなってしまう可能性があるんです!
このページでは、そんな方のために
- 基礎収入とは何か
- 基礎収入の計算方法
- 実収入以上の基礎収入が認められる場合はあるのか
といった事柄について、徹底的に調査してきました!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
後遺障害による逸失利益は基礎収入をいくらで計算するかで金額が大きく変わる可能性があります。
基礎収入の計算方法は複雑な部分もありますが、適正な賠償金獲得のために、しっかり理解していきましょう。
目次
そもそも、基礎収入という言葉は何となくのイメージはつくかもしれませんが、正確なところまではわからない方が多いと思います。
まずは、基礎収入とは何かという基礎的なところから確認していきましょう!
基礎収入とは何か
基礎収入は逸失利益の計算項目の一つ
交通事故により後遺障害が残ると、その影響により、被害者は後遺障害が残らなければ得られたであろう経済的利益を失うことになります。
このような利益の損失を補うために、認められている損害賠償の項目を逸失利益といいます。
そして、この逸失利益を算出するための計算方法は以下のようになります。
(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数)
つまり、基礎収入とは、後遺障害の逸失利益の計算項目の一つということになります。
逸失利益の計算方法の各項目と簡単な意味は、以下の表のようになります。
項目 | 意味 | |
---|---|---|
① | 基礎収入 | 後遺障害が残らなければ、得られていたであろう収入 |
② | 労働能力喪失率 | 後遺障害が残ったことによる減収の割合 |
③ | 労働能力喪失期間 | 後遺障害によって減収が発生する期間 |
④ | 中間利息控除係数 | 逸失利益を症状固定時の金額にするための係数 |
基礎収入は将来得られていたであろう収入
そして、基礎収入とは具体的には
後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入
のことをいいます。
具体的には、原則として事故前の現実収入を基礎とするようです。
そうすると、現実収入のない主婦や無職の方、学生などは基礎収入がなく、逸失利益が認められないことになるのでしょうか?
事故前に現実収入のない方でも逸失利益は認められることが多いです。
ただし、基礎収入の算出方法が異なりますので、その点は注意が必要です。
そうなんですね・・・現実収入がない場合でも逸失利益が認められる場合があるとわかって安心しました!
現実収入のない主婦や無職の方、学生などの基礎収入については、以下のページに詳しく記載されていますので、ご参照ください。
また、先ほど原則として事故前の現実収入が基礎になると説明しましたが
- 年金
- 家賃収入などの不動産所得
- 株式の配当
などは基礎収入に含まれないので注意が必要です。
これらの収入は後遺障害が残ってしまったことによる影響を受けずにそのまま受け取ることができる収入だからです。
後遺障害による逸失利益は、後遺障害が残ってしまったことにより得られなくなった利益を補うためのものです。
そのため、その計算項目である基礎収入も、後遺障害が残ってしまったことによる影響を受ける収入だけになるということは覚えておきましょう。
基礎収入は税込金額
また、「現実収入」という言葉は
- 額面上の収入
- 税金等が引かれた後の手取額
の二通りの意味で使われることがあります。
では、基礎収入でいうところの「現実収入」とはどちらの意味なのでしょうか?
将来得られていたであろう収入があれば、その分についても課税され、税金分は手元に入らなかったはずであることからすれば後者とも思われます。
しかし、現状、基礎収入は税金等を控除しないいわゆる税込金額として取り扱われています。
裁判例においても、同様の判断が下されています。
逸失利益算出に際しては現実の手取収入ではなく、労働能力の評価としての収入すなわち税額を控除する以前のより抽象的な収入が問題なのであり、これを以て収益と解するのが相当である。
出典:東京地判昭和44年8月25日
税金を控除しない理由としては他に
- 税金は法律で定められた要件に従って納付義務を負担するもので課税額相当額の利得は不法行為を直接の原因として生じたものではない
- 逸失利益は所得税の対象となる「所得」ではない
- 所得税法上、損害賠償金は非課税となっている
- 将来的な税額の予測が極めて困難
なことなどが挙げられています。
理論的な争いはありますが、ここでは基礎収入は税金を控除しない税込金額であるという結論だけ覚えておけば大丈夫です。
基礎収入の計算方法を職種別にご紹介!
基礎収入とは何かを学んだところで、ここからは具体的な基礎収入の計算方法を確認していきたいと思います。
実は、実収入のある方の中でも、職種によって基礎収入の計算方法は異なるんです。
ここからは、各職種ごとに見ていきましょう!
給与所得者の場合
給与所得者、いわゆるサラリーマンの方の場合、基礎収入は原則として事故前年度の年収となります。
この年収には、歩合給、各種手当、賞与なども含まれます。
ただし、先ほど見てきたとおり、基礎収入とは後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入であることから、
将来的に平均賃金程度の収入を得られる見込みが高い
といえる場合には、現実の収入額が平均賃金を下回っていても、例外的に賃金センサスの平均賃金を基礎収入とすることになります。
実務的には、事故前年度の源泉徴収票記載の金額を基礎収入として、逸失利益を計算することが多いです。
なお、公務員の方は、給与所得者ではありますが、他の給与所得者とは異なる特色があります。
詳しくは以下のページに記載されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
事業所得者の場合
自営業者等の事業所得者の場合、基礎収入となるのは、収入ではなく、収入から経費を差し引いた事故前年度の所得となります。
そして、その所得は、所得税の申告所得とすることが原則です。
もっとも、事業所得者の方は、節税のため、実質的な所得よりも少なく所得を申告している場合も多いようです。
そのような場合、実際の所得を立証できれば、その所得が基礎収入となります。
ただし、その立証はかなり厳格なものが要求されるようです。
岡野弁護士、その他に何か実務的な注意点はありますか?
実務上、事故前年度の確定申告書を証拠とすることが多くなっています。
ただし、青色申告控除がされている場合には、その控除前の金額が基礎収入となるので、その点はよく確認が必要です。
会社役員の場合
会社役員の場合、原則として基礎収入は認められないことになります。
先ほどみたとおり、基礎収入も、後遺障害が残ってしまったことによる影響を受ける収入だけになります。
しかし、役員報酬は
- 企業経営者として受領する利益配当的部分があり、この部分は後遺障害による影響を受けない
- 会社が一方的に減額できない
ものであり、後遺障害が残っても直ちに減額されるわけではないからです。
とはいえ、
- 役員報酬には労務提供の対価部分もある
- 後遺障害が残れば、将来的に役員報酬が減額される見込みが高い
ことから、労務対価部分を立証することができれば、その部分は基礎収入として認められます。
役員報酬の労務提供の対価分がどの程度かは判断の難しい問題となります。
役員報酬は高額なことも多く、労務提供の対価分が占める割合により、逸失利益の金額が大きく変わる可能性もあります。
役員報酬の基礎収入で争いがある場合には、一度弁護士に相談してみた方がいいでしょう。
最後に、ここまで見てきた職種ごとの基礎収入の計算方法を表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
基礎収入の計算方法
職種 | 原則 | 例外 |
---|---|---|
給与所得者 | 事故前年度の年収 | 平均賃金が得られる蓋然性 |
事業所得者 | 事故前年度の申告所得 | 実際の所得を立証 |
会社役員 | 基礎収入なし | 労務対価部分を立証 |
実収入以上の基礎収入が認められるケース
①若年労働者
ここまで見てきたとおり、基礎収入は事故前年度の収入を基礎とすることを原則としています。
これは、少なくとも後遺障害がなければ事故前の収入は得られたであろうという考えに基づくものです。
しかし、本来、基礎収入は後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入のことをいいます。
そうすると、
新入社員のように現時点では収入が低いものの、将来的により高額な収入が得られる可能性が高い場合
原則どおり、事故前年度の給与を基礎収入にするのは合理的とはいえません。
そこで、概ね30歳未満の若年労働者の場合には、事故前年度の収入ではなく、全年齢平均の賃金センサスを基礎収入とすることとされています。
ただし、最近では、若年労働者でも非正規労働者の場合には、全年齢平均の賃金センサス以下で基礎収入を計算することもあるようです。
パートや派遣として働く若い非正規労働者が交通事故で亡くなったり、障害を負ったりした場合、将来得られたはずの収入「逸失利益」は正社員より少なくするべきではないか――。こう提案した裁判官の論文が波紋を広げている。
(略)
具体的には、非正規労働者として働き続けても収入増が期待できるとはいえず、雇用情勢が好転しない限り、正社員化が進むともいえないと指摘。
(1)実収入が相当低い(2)正社員として働く意思がない(3)専門技術もない――などの場合、若い層でも逸失利益を低く見積もるべきだとした。
そのうえで、逸失利益を計算する際に用いられる「全年齢平均賃金」から一定の割合を差し引いて金額を算出する方法を提案した。
(略)
逸失利益をめぐっては、東京、大阪、名古屋3地裁のベテラン裁判官が(略)「共同提言」を発表。
おおむね30歳未満の人が交通事故で亡くなったり重い後遺症が残ったりした場合、事故前の実収入が同年代の平均より相当低くても、将来性を考慮したうえで全年齢平均賃金などに基づき原則算出する統一基準を示した。
2000年1月以降、この基準が全国の裁判所に浸透したが、長引く不況による非正規労働者の増加に伴い、事故の加害者側が「平均賃金まで稼げる見込みはない」として訴訟で争うケースが増えている。
交通事故訴訟に携わる弁護士らによると、実際に非正規労働者の逸失利益が正社員より低く認定される司法判断も出てきているという。
こうした中で発表された徳永裁判官らの論文。
非正規労働者側は、交通事故訴訟に精通した裁判官の考えが他の裁判官にも影響を与え、こうした動きを後押しする可能性があると不安視する。
出典:朝日新聞デジタル 2010/9/18 05:02
このように、若年労働者の基礎収入については近時争いがあります。
しかし、少なくとも
実収入を基礎収入として逸失利益が計算されている若年労働者の方
は、逸失利益が増額する可能性がありますので、ひとまず弁護士に相談してみましょう。
②自賠責保険
また、後遺障害の逸失利益は、自賠責保険にも請求できるところ、自賠責保険では以下のように支払基準が定められています。
この支払基準では、実際の収入よりも
- 35歳未満の場合、全年齢平均平均給与か年齢別平均給与
- 35歳以上の場合、年齢別平均給与
の方が高い場合には、そちらを収入額として逸失利益を計算することになります。
その結果、自賠責基準で逸失利益を計算したほうが金額が高くなる場合があります。
ただし、自賠責保険には限度額があるため、自賠責保険から受け取れる後遺障害の逸失利益は、計算上どんなに大きくなっても
各等級の限度額と後遺障害慰謝料の差額
までとなります。
14級で計算すると
- 14級の限度額は75万円
- 14級の後遺障害慰謝料は32万円
のため、自賠責保険から支払われる後遺障害の逸失利益は、75万円-32万円=43万円までです。
計算上、受け取れる金額が自賠責基準のほうが高くても、実際に受け取れる金額が高くなるとは限らないので、その点は注意が必要です。
③将来の昇給を立証
先ほども確認したとおり、本来、基礎収入は後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入のことをいいます。
そのため、30歳以上の労働者であっても、将来昇給する確実な根拠を主張・立証できれば、
昇給後の収入を基礎収入
として、逸失利益を計算することが可能です。
一般的に昇給の可能性が高いとはいえないので、若年労働者の場合とは異なり、各人に昇給の根拠の主張・立証を求めているということです。
なお、昇給の根拠はかなり高度なものが要求され、一般の方では困難な場合が多いので、
昇給後の収入を基礎収入として計算することを求める場合には弁護士に相談・依頼した方がいいでしょう。
最後に、ここまで見てきた実収入以上の基礎収入が認められるケースを表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
ケース | 条件 | 金額 |
---|---|---|
若年労働者 | 事故時概ね30歳未満 | 全年齢平均の賃金センサス※ |
自賠責保険 | なし | 35歳未満: ・自賠責の全年齢平均給与 ・自賠責の年齢別平均給与 いずれか高い方 35歳以上: 自賠責の年齢別平均給与 |
将来の昇給を立証 | 昇給の確実な根拠 | 昇給後の収入 |
※近時非正規労働者等の場合で例外あり
後遺障害の逸失利益を自分で計算するなら
この記事を読んで、後遺障害の逸失利益の基礎収入のことはご理解いただけたかと思います。
とはいえ、基礎収入以外にもいろいろな項目があり逸失利益を「自分で計算するのは正直面倒くさい」と思われる方も多いのではないでしょうか?
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益……保険種類や裁判所基準が様々で色々と算出しないといけない…。
この作業…大変。弁護士に相談…か??
— 羽田敬之 (@6haty3) August 24, 2015
その場合、このツイートをされた方がおっしゃるとおり弁護士に相談するのが一番です。
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とはいえ、見てきたとおり後遺障害の逸失利益の基礎収入は複雑な部分もあります。
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最後に一言アドバイス
岡野弁護士、読者の方に、最後にアドバイスをお願いします。
冒頭でもお伝えしたとおり、後遺障害による逸失利益は基礎収入をいくらで計算するかで金額が大きく変わる可能性があります。
その後遺障害による逸失利益の基礎収入を理解せずに安易に示談をしてしまえば、大幅な増額の可能性を失うおそれがあります。
後遺障害の逸失利益の基礎収入で少しでも疑問があれば、示談する前に必ず弁護士に相談しましょう。
まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
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