高齢者の逸失利益|無職の場合一切否定!?年金は基礎収入に含まれる?
「交通事故で後遺障害が残ってしまったけど逸失利益は高齢者が無職だと一切認められる余地がないの?」
「高齢者の場合、逸失利益を算定するための基礎収入に何か違いはあるの?」
「高齢者の場合、逸失利益を算定するための労働能力喪失期間にも何か違いはあるの?」
交通事故にあわれて後遺障害まで残ってしまった方からすれば、せめてなるべく多くの損害賠償額を受け取りたいと思われるのではないでしょうか?
交通事故に巻き込まれるというのは、はじめての方が多いでしょうから後遺障害による逸失利益が高齢者の場合どうかなんて知らなくて当然かと思います。
しかし、後遺障害の逸失利益を理解しておかないと高齢者の方が最終的にもらえる賠償額が少なくなってしまう可能性があるんです!
このページでは、そんな方のために
- 逸失利益を高齢者が無職でも認められる場合
- 高齢者の基礎収入の算定の違い
- 高齢者の労働能力喪失期間の算定の違い
といった事柄について、徹底的に調査してきました!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
後遺障害による逸失利益は交通事故の損害賠償の中で大きな割合を占める損害の項目です。
しかし、高齢者の方の逸失利益は増額の可能性があるにもかかわらず、案外見過ごされがちです。
ここで、後遺障害の逸失利益をしっかり理解して、高齢者の方も適正な賠償額を受け取れるようにしましょう。
目次
交通事故で後遺障害が残ってしまった高齢者の方としては、たとえ無職でも、以下のツイートのような気持ちになるかもしれません。
「無職者の逸失利益ゼロは差別」
— ⋈ スチール罐 𝕏 (@Steelcan201) February 14, 2017
しかし、この方がおっしゃるように、無職の場合、本当に逸失利益はないのでしょうか?
そもそも、収入の有無と逸失利益とはどういう関係にあるのでしょうか?
まずは、逸失利益の定義などから確認していきたいと思います!
逸失利益は高齢者が無職だと一切否定?
逸失利益が無職でも認められるポイント
後遺障害の逸失利益・基礎収入の定義
後遺障害の逸失利益とは、
交通事故による後遺障害が残存しなければ被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害
をいいます。
そして、その逸失利益の計算項目の一つである基礎収入とは
後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入
のことをいいます。
無職者も将来収入が得られる可能性
この定義からすれば、無職者でも、将来働き、収入が得られる可能性があれば、逸失利益は認められることになります。
そして、無職者が将来働き、収入が得られる可能性があったかどうかを判断するポイントが
- 労働能力及び労働意欲
- 就労の蓋然性
になります。
通常、労働能力及び労働意欲があれば、仕事を選り好みさえしなければ何らかの働き口が見つかるため、就労の蓋然性ありと判断されやすいといえます。
高齢者が無職の場合、そのポイントは?
もっとも、高齢者が無職の場合、上記のポイントの判断に関し、通常と異なる点があります。
以下、各ポイントごとに検討していきたいと思います。
労働能力について
無職の高齢者の中には、相当な高齢者で、事故前から身体状況がすぐれないような方も一定程度いらっしゃいます。
そういった高齢者の方の場合には、残念ながら労働能力なしと判断されてしまうことが多いようです。
労働意欲について
若者の場合、就職活動を行っていなくても、将来的には働く意欲があるであろうということで、比較的労働意欲が認められやすいといえます。
それに対し、高齢者の場合、定年退職された後は、もう働くつもりがない場合も十分に考えられます。
そのため、高齢者が定年退職後、長期間全く就職活動を行っていなかったような場合には、労働意欲なしと判断されてしまうことが多いようです。
就労の蓋然性について
若者の場合、労働能力及び意欲があれば、仕事を選り好みさえしなければ何らかの働き口が見つかるため、就労の蓋然性ありと判断されやすいといえます。
それに対し、残念ながら、求人は年齢制限を設けているものも多いため、高齢者が無職の場合には、働き口が見つからないことも多いです。
そのため、高齢者の場合、労働能力及び労働意欲が認められても就労の蓋然性なしと判断されて、逸失利益が認められないことも多いようです。
とはいえ、定年退職後、長期間就職活動していなかった高齢者の逸失利益を認めている裁判例もあります。
高齢者が無職の場合でも逸失利益が認められる可能性はあるので、諦めずに弁護士に相談・依頼してみましょう。
最後に、無職者が高齢者と若者の場合の逸失利益が認められるかの判断ポイントの違いを表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
ポイント | 高齢者 | 若者 |
---|---|---|
労働能力 | 認められない場合も | 通常認められる |
労働意欲 | 就職活動していないと認めれらにくい | 就職活動していなくても認められやすい |
就労の蓋然性 | 労働能力・意欲あってもなしのことも | 労働能力・意欲あれば通常あり |
高齢者の後遺障害の逸失利益に年金は無関係
もっとも、高齢者の場合、たとえ無職であっても年金を受給している場合があります。
しかし、年金は後遺障害が残ってしまったことによる影響を受けずにそのまま受け取ることができる収入のため、
後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入
である基礎収入には含まれず、年金の受給の有無は後遺障害の逸失利益の判断に影響を及ぼさないことになります。
ただし、死亡事故の場合の高齢者の逸失利益には、受給している年金の性質にもよりますが、基礎収入に含まれることがあるので注意が必要です。
高齢者の逸失利益を計算する基礎収入は?
有職者の場合は原則どおり
これに対し、高齢者が有職者の場合、基礎収入は高齢者以外の場合と同じように判断されています。
具体的には、職種によって算定方法が異なるので、ここからは各職種ごとに見ていきたいと思います。
給与所得者の場合
給与所得者、いわゆるサラリーマンの方の場合、基礎収入は原則として事故前年度の年収となります。
この年収には、歩合給、各種手当、賞与なども含まれます。
ただし、先ほど見てきたとおり、基礎収入とは後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入であることから、
将来的に平均賃金程度の収入を得られる見込みが高い
といえる場合には、現実の収入額が平均賃金を下回っていても、例外的に賃金センサスの平均賃金を基礎収入とすることになります。
事業所得者の場合
次に、自営業者等の事業所得者の場合、基礎収入となるのは、収入ではなく、収入から経費を差し引いた事故前年度の所得となります。
そして、その所得は、所得税の申告所得とすることが原則です。
もっとも、事業所得者の方は、節税のため、実質的な所得よりも少なく所得を申告している場合も多いようです。
そのような場合、実際の所得を立証できれば、その所得が基礎収入となります。
ただし、その立証はかなり厳格なものが要求されるようです。
会社役員の場合
会社役員の場合、原則として基礎収入は認められないことになります。
先ほどみたとおり、基礎収入も、後遺障害が残ってしまったことによる影響を受ける収入だけになります。
しかし、役員報酬は
- 企業経営者として受領する利益配当的部分があり、この部分は後遺障害による影響を受けない
- 会社が一方的に減額できない
ものであり、後遺障害が残っても直ちに減額されるわけではないからです。
とはいえ、
- 役員報酬には労務提供の対価部分もある
- 後遺障害が残れば、将来的に役員報酬が減額される見込みが高い
ことから、労務対価部分を立証することができれば、その部分は基礎収入として認められます。
レポートにもあるとおり、高齢者が有職者の場合、原則として、基礎収入は高齢者以外の場合と同じように判断されます。
しかし、高齢者が親族が経営する会社に雇用されている場合、給与の一部は労働の対価ではないなどと争われる場合があります。
高齢者の基礎収入が争いになった場合には、一度弁護士に相談してみるのもいいかもしれません。
最後に、ここまで見てきた職種ごとの基礎収入の計算方法を表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
職種 | 原則 | 例外 |
---|---|---|
給与所得者 | 事故前年度の年収 | 平均賃金が得られる蓋然性 |
事業所得者 | 事故前年度の申告所得 | 実際の所得を立証 |
会社役員 | 基礎収入なし | 労務対価部分を立証 |
高齢者が家事労働をする場合は?
高齢者の家事従事者の基礎収入
家事従事者は無収入ですが、家事労働の経済的価値に着目し、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入に逸失利益が認められます。
そして、高齢者でも、家事労働の内容に変わりはないことから、同様に、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎に逸失利益を計算するのが原則です。
しかし、現実収入のある方は、高齢者になってくると次第に収入が減っていく場合が多くなります。
そのこととの均衡から、高齢者の場合には、全年齢平均よりも金額の低い年齢別平均賃金を基礎収入に逸失利益を計算する場合があります。
さらに、相当な高齢で身体状況などから通常の家事労働を行うことが困難と判断される場合には
平均賃金の金額から一定割合を減額した金額
を基礎収入に逸失利益を計算する場合もあるようです。
あくまで、女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入に逸失利益を計算するのが原則です。
任意保険から、それ以下の金額を基礎収入にした逸失利益が提示された場合には、すぐに示談せず、一度弁護士に相談してみましょう。
子供夫婦と同居している高齢者は?
子供夫婦と同居している場合、高齢者が負担する家事の割合は、身体状況や同居家族の生活状況によって様々です。
その場合には、負担する家事の割合に応じて、女性労働者の平均賃金の一定割合を基礎収入に逸失利益が計算されることになります。
高齢者の方はどの程度家事を負担していたかを立証するのは、中々難しいところもあります。
立証にお困りの場合には弁護士に相談して、アドバイスだけでも聞いてみるとよいでしょう。
一人暮らしの高齢者に逸失利益が認められることも
家事労働は他人のために行う場合にはじめて経済的・金銭的価値を有することになります。
そのため、一人暮らしの方が家事労働を行っても基礎収入とは認められません。
ただし、基礎収入が、後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入であることから
将来的に一人暮らしの高齢者が子供夫婦と同居して家事を負担
する可能性が高いことを証明できた場合には、例外的に基礎収入が認められ、逸失利益が受け取れる可能性があります。
ここまで見てきた高齢者の家事労働の基礎収入の問題について、表にまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
同居あり | 一人暮らし | |
---|---|---|
原則 | 負担する家事の割合に応じて | 否定 |
例外 | 年齢別平均賃金を基礎 | 将来的な同居の可能性 |
自賠責の逸失利益が高齢者だと有利?
ここまで見てきたとおり、高齢者の基礎収入は、様々な理由により、認められなかったり、減額されたりする場合があります。
しかし、自賠責の場合には、そういった様々な理由を考慮することなく、一律に
事故前1年間の収入額と後遺障害確定時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額
を基礎収入に逸失利益を算出するものと定めております。
その結果、自賠責の基準で計算した逸失利益の金額の方が高額になるケースが高齢者の場合多いといえます。
ただし、自賠責保険には限度額があるため、自賠責保険から受け取れる後遺障害の逸失利益は、計算上どんなに大きくなっても
各等級の限度額と後遺障害慰謝料の差額
までとなります。
計算上、逸失利益の金額が自賠責基準のほうが高くなっても、実際に受け取れる金額が高くなるとは限らないので、その点は注意が必要です。
高齢者の就労期間の算定に違いはある?
労働能力喪失期間の原則
労働能力喪失期間とは
後遺障害によって減収が発生する期間 のことをいいます。
そして、症状固定日までの減収は休業損害の項目で補填されるので、
労働能力喪失期間の始期は症状固定日
が原則となります。
また、後遺障害の逸失利益は
後遺障害が残らなければ将来得られたはずの収入の減少を補うための損害項目 であり、
働ける期間を補填すれば足りるので、労働能力喪失期間の終期は就労可能な年齢になります。
とはいえ、何歳まで働けるかは将来のことであり人によって様々ですよね。
そこで、迅速かつ公平に逸失利益を算出できるようにするため、原則として就労可能な年齢を67歳として終期を一律に定めています。
68歳以上の高齢者
しかし、この原則どおりですと、68歳以上の高齢者の労働能力喪失期間はゼロになってしまいます。
もっとも、実際のところ68歳以上でも働かれている人は大勢おり、その方たちの逸失利益が認められないのは不合理です。
そこで、68歳以上の高齢者の場合には原則として平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として逸失利益が計算されます。
平均余命とは、各年齢の人が平均してあと何年生きられるかについて厚生労働省が毎年発表している指標になります。
なお、平均余命は小数点以下の数字が定められていますが、平均余命の2分の1の小数点以下は切り捨てて計算します。
67歳以下の高齢者
しかし、そうなると今度は68歳以上の高齢者より67歳以下の高齢者の方が労働能力喪失期間が短い場合が出てきてしまいます。
そこで、67歳以下の高齢者の場合
- 症状固定時から67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
のいずれか長い方を労働能力喪失期間として逸失利益が計算されます。
高齢者の労働能力喪失期間の終期について、具体的な職種、地位、健康状態、能力等によっては67歳以上まで認められる可能性もあります。
大切なのは、具体的な被害者である高齢者がいつまで就労できる可能性が高いかということですね。
いずれにせよ、労働能力喪失期間について争いや疑問が生じた場合には、ひとまず弁護士に相談してみた方が良さそうですね!
最後に、ここまでご説明してきた労働能力喪失率の原則と高齢者の場合を表にまとめてみました。
場合 | 始期 | 終期 |
---|---|---|
原則 | 症状固定日 | 67歳 |
68歳以上の高齢者 | 平均余命の1/2 | |
67以下の高齢者 | ・67歳までの期間 ・平均余命の1/2 のいずれか長い方 |
※例外あり
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まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
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