交通事故の3つの責任|認知症でも責任あり?過失割合の比率で加害者の責任は変わる?

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交通事故の3つの責任|認知症でも責任あり?過失割合の比率で加害者の責任は変わる?

交通事故の責任3つある

それは民事・刑事・行政上の責任のことですが、具体的な内容は何でしょうか。

また、加害者の過失割合の比率によって問われる責任は変わるのか?

認知症や加害者の使用者でも責任は問われるのか?

そのような疑問を抱いている方も少なくないでしょう。

これから解説
  1. ① 交通事故の3つ責任
  2. ② 「過失割合の比率」と「問われる責任」の関係性
  3. 認知症・加害者の使用者などの責任の所在

などについて、これから解説していきます。

このページで交通事故の責任に関することをしっかりと学び、事故を起こしてしまったときでも適切に対処できるように備えておきましょう。

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岡野武志弁護士
交通事故と刑事事件を専門とするアトム法律事務所の代表弁護士。

交通事故3つの責任|民事・刑事・行政

交通事故3つの責任|民事・刑事・行政

上述したように、交通事故を起こすと以下3つの責任を問われます。

  1. 民事上の責任
  2. 刑事上の責任
  3. 行政上の責任

この章では、上記3つの責任の意味を解説していきます。

民事・刑事・行政上の責任とは

①民事上の責任

まずひとつめに、①民事上の責任について解説します。

民事上の責任とは?

⇒簡単に言うと被害者に対する損害賠償責任のことです。

加害者の民事上の責任に関しては以下の法令の条文で定められています。

  1. ① 民法709条
  2. ② 自動車損害賠償保障法(以下、自賠法)3条

民法709条には「人身・物損部分の賠償責任」が、自賠責法3条には「人身部分の賠償責任」が記載されています。

では、加害者の賠償責任について言及している条文を実際に見てみましょう。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。

上記より、損害を与えてしまった場合の賠償責任について記載があることがわかります。

なお、加害者が任意保険会社に加入している場合、賠償額の一部または全額を任意保険会社が肩代わりすることになります。

①民事上の責任

加害者が被害者に与えた損害を主に金銭で賠償すること

(民法709条・自賠法3条で定められている)

②刑事上の責任

次に、②刑事上の責任について解説します。

刑事上の責任とは?

⇒簡単に言うと刑罰(罰金・懲役等)を受ける責任のことです。

加害者が人身事故を起こした場合、主に以下の罪に問われる可能性があります。

1. 過失運転致死傷罪

2. 危険運転致死傷罪

また、人を死傷させていなくても、「建造物等損壊罪」や「器物損壊罪」などで罰せられる可能性があります。

簡単に説明すると、

1. 過失運転致死傷罪とは、主に不注意で事故を起こし、人を死傷させること。

2. 危険運転致死傷罪とは、悪質な運転態様で事故を起こし、人を死傷させること。

となります。

交通事故で問われる刑罰については以下のページで詳細に解説されているため、ぜひご参考にしてみてください。

なお、刑事上の責任を問われて刑罰に処された場合、「前科」が付くことになります。

弁護士に相談すれば「前科」を付きにくくするアドバイスをもらえる可能性があるため、お困りの方はぜひ弁護士にご相談ください。

②刑事上の責任
  • 加害者が刑罰(罰金・懲役等)を受けること
  • 人身事故だと「過失運転致死傷罪」・「危険運転致死傷罪」などに問われる可能性あり

③行政上の責任

最後に、③行政上の責任について解説します。

行政上の責任とは?

⇒簡単に言うと免許の取消・停止などの行政処分のことです。

交通違反をした場合、公安委員会と警察から行政処分を下される可能性があります。

たとえば「無免許運転」だと25点が加算されます。

行政処分前歴0回の人が「25点」加算されると、免許取消2年の行政処分を受けることになります。

なお、加害者が人身事故を起こし、人を死傷させた場合、以下の表の行政処分が下される可能性があります。

人身事故の行政処分
付加点数 見込まれる行政処分
死亡事故 20 免許取消し12
3カ月以上の治療期間または後遺障害が残る事故 13 免許取消し1
30日~3カ月未満の治療期間の事故 9 免許停止60
15日以上30日未満の治療期間の事故 6 免許停止30
15日未満の治療期間の事故 3

過去に行政処分歴がなく、加害者の一方的な過失による事故であることを前提にしています。

交通事故の加害者は民事・刑事上の責任だけではなく、行政上の責任も負う可能性がある点を覚えておきましょう。

もし処分内容に納得がいかない場合、「告知聴聞の手続」で意見を述べることができます。

場合によっては処分内容が軽くなる可能性があるため、しっかりと主張することをオススメします。

③行政上の責任
  • 免許の取消・停止などの処分を公安委員会と警察から下されること
  • 交通事故を起こした場合、行政処分が下される可能性あり

交通事故の責任は過失割合で変わるのか?

交通事故の責任は過失割合で変わるのか?

こちらの章では、以下4つの事例で問われる責任について解説していきます。

これから解説
  1. ① 過失割合が10対0のケース
  2. 飛び出し交通事故のケース
  3. ③ 非接触の誘発(誘因)事故のケース
  4. 死亡事故のケース

上記4例の場合、加害者は民事・刑事・行政上の責任を問われるのでしょうか。

【事例①】過失割合の比率が10対0のケース(玉突きなど)

過失割合と責任について

過失割合の比率が10対0加害者側の過失が10割の場合、どの程度の責任を問われるのでしょうか。

10対0の物損事故

物損事故の場合、行政上の責任を問われることはありません。

加えて、通常は刑事上の責任を問われることもありません。

ただし、加害車両の運転者本人が民事上の賠償責任を問われる可能性はあります。

10対0の場合であれば、過失相殺されないため、賠償額の10割を負担することになります。

補足として、物損事故であっても「当て逃げ」などをした場合は刑事・行政上の責任を問われる可能性があります。

物損事故で問われる責任や対応方法などについては以下のページで解説しているため、ぜひご参考にしてみてください。

では、加害者側の過失が10割の人身事故の場合、何の責任を問われるのでしょうか。

10対0の人身事故

民事・刑事・行政上の責任すべてに問われる可能性があります。

民事上の責任では、被害者に対する慰謝料・治療費などを賠償金として支払うことになります。

この場合、上述した通り過失相殺されないため、賠償額の10割を負担することになります。

人身事故の刑事・行政上の処分としては、前章で述べたように罰金・懲役や免許取消などに処される可能性があります。

なお、加入している任意保険の賠償上限額を無制限に設定していれば、任意保険会社が賠償金を全額支払ってくれる可能性があります。

賠償金の支払いに不安がある場合は、加入している任意保険の補償内容を確認してみると良いでしょう。

10対0の事故で問われる責任
物損事故 人身事故
民事 責任あり 責任あり
刑事 責任なし* 責任あり
行政 責任なし* 責任あり

*当て逃げなどの場合は刑事・行政上の責任を問われる可能性あり

【事例②】飛び出しで交通事故を起こしたケース

飛び出し事故の責任について

さて、人身事故を起こした場合でも、不起訴になれば刑事裁判が開かれることは無く、刑事罰に処されることもありません。

しかし、起訴されて刑事裁判が開かれた場合、上述したように罰金・懲役刑などの刑事罰に処される可能性があります。

いきなり飛び出してきた人を轢いてしまった、という事故状況で起訴された場合、必ず刑事罰に処されてしまうのか?

実は、そのようなケースの事故だと加害者側は刑事上の責任を問われない可能性があります。

実際に無罪判決となったニュース記事を見てみましょう。

(略)裁判官は、(略)被害者の飛び出し説を支持。その上で「衝突回避の可能性に合理的疑いがある以上、被告の過失は認められず、犯罪の証明がない」として無罪を言い渡した。

加害車両が道路に飛び出してきた自転車と衝突し、相手を死亡させていますが、無罪判決が言い渡されています。

このことから、飛び出し事故の場合は起訴されても刑事罰に処されない可能性があることがわかります。

しかし、飛び出し事故であっても「加害者側に過失が無い」と判断されることは難しい傾向にあります。

弱者である歩行者や自転車を保護するという観点からも、自動車側には大きな注意義務が課せられています。

そのため、飛び出し事故であっても、

「いきなり道路に飛び出してくる可能性を考慮して法定速度よりも遅い速度で走行すべきだった」

などと判断されて過失ありとみなされ、責任を問われる可能性があります。

飛び出し事故の過失割合は争うことが多い領域ではないでしょうか。

過失割合を適切なものにしたい場合は、交通事故に強い弁護士に相談すると良いでしょう。

弁護士に相談すれば、過失割合の根拠となる証拠の集め方や、主張の仕方などについてアドバイスをもらえる可能性があります。

飛び出し事故で問われる責任
飛び出し事故
民事 責任あり*
刑事 責任あり*
行政 責任あり*

*加害者側の過失割合などによって責任を問われない可能性あり

【事例③】接触なしの誘発(誘因)事故のケース

誘発(誘因)事故の責任について

被害者の身体や車両に直接接触していないものの、加害者の運転が原因で被害者が事故を起こしてしまうことを「誘発(誘因)事故」といいます。

誘発(誘因)事故の例
  • 停車中の自動車を突然後退させたことにより、後方の歩行者を驚かせ転倒させてしまった
  • 交差点角に違法駐車した自動車を追い越すために対向車線に侵入した自動車が、対向車と衝突してしまった

(「交差点角に違法駐車した自動車」の持ち主も責任を問われる)

上記の例のように、被害者と接触していなくても、事故との間に因果関係があると認められる可能性があります。

被害者と接触していない事故であっても、過失が認められた場合、通常の交通事故と同様に責任を問われます。

そのため、その場から立ち去るようなことはせず、

  1. 被害者の救護活動
  2. 危険防止措置
  3. 警察への報告

上記3つを行うようにしましょう。

これらを行わなかった場合、道路交通法に抵触して刑事罰に処される可能性があります。

しかし、下記ツイートのように、

そもそも「誘発(誘因)事故」の存在を知らなかった

ということが原因で被害者・加害者ともに警察への報告などをし忘れてしまう場合もあります。

たとえ被害者の方が軽傷に見えても、上記3つの対応を行う心がけましょう。

誘発(誘因)事故の責任
誘発(誘因)事故
民事 責任あり
刑事 責任あり
行政 責任あり

【事例④】死亡事故のケース

死亡事故の責任について

交通事故で被害者を死亡させてしまった場合、必ず責任を問われるのでしょうか。

実は、以下のニュースのように、裁判で無罪判決が下されて刑事責任を免れた事例があります。

乗用車で走行中に道路を自転車で横断していた男性をはねて死亡させたとして、(略)

「目撃者の証言に疑問があり、検察官の証明は十分でない」、「事故は直進中に被害者の信号無視で発生した可能性が高い」として、被告に無罪を言い渡した。

上記によると、

被害者が信号無視をして飛び出した結果、事故が発生した

とみなされ、加害者側に過失が認められず、無罪判決が言い渡されたようです。

重要

死亡事故の場合でも、加害者側が刑事上の責任を問われない可能性あり

ただし、刑事上の責任には問われなくても、民事・行政上の責任を問われる可能性はあります。

場合によっては被害者遺族の方から損害賠償請求をされたり、免許取消などの処分が下されることがある点をご留意ください。

死亡事故の責任
  • 死亡事故でも刑事上の責任を問われない可能性あり
  • 民事・刑事・行政の3つのうち一部の責任を負わなくても、他の責任を負う可能性あり

Q&A集|加害者が○○でも責任を問われる?

Q&A集|加害者が○○でも責任を問われる?

こちらの章では、以下5つの気になる点をQ&A形式で解説していきます。

これから解説
  1. 認知症の加害者は責任を問われるのか
  2. ② 加害者の使用者・会社は責任を問われるのか
  3. 派遣社員が事故を起こした際の責任の所在
  4. 未成年の加害者は責任を問われるのか
  5. てんかん患者でも責任を問われるのか

上記5例の場合、民事・刑事・行政上の責任はどのように問われるのでしょうか。

Q&A①|加害者が「認知症」でも責任を問われる?

Q1: 認知症の加害者

交通事故の加害者が認知症の高齢者だった場合、加害者本人が責任を負うことになるのでしょうか。

それとも、加害者の家族が責任を負うことになるのでしょうか。

認知症の加害者が自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態で損害を加えた場合、本人が民事上の責任を負うことはありません。

ただし、家族などの「監督義務者(及びその代行者)」が代わりに賠償責任を負う可能性はあります。

認知症の場合、民事上の責任を問われない可能性があることはわかりました。

では、刑事・行政上の責任はどうなのでしょうか。

民事と同様に問われない可能性があるのでしょうか。

加害者が心神喪失であると認められた場合、刑事上の責任に問われることもありません。

刑法第39条第1項「心神喪失者の行為は、罰しない。」という記載からもそのことがわかります。

なお、行政上の責任に関しては認知症の加害者本人が負うことになる点にご注意ください。

  • 民事責任:加害者本人に責任なし
  • 刑事責任:心神喪失なら責任なし
  • 行政責任:加害者本人に責任あり

簡単にまとめると、交通事故の認知症加害者が問われる各責任は上記のようになります。

では、認知症の加害者が抵触する可能性のある条文をそれぞれ見ていってみましょう。

認知症の加害者|民事上の責任

民事上の責任

まずは民事上の責任について民法713条と民法714条を確認してみましょう。

第713条

精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。(略)

第714条

1 (略)その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

認知症が原因で自己の行為の責任を弁識する能力を欠いているのであれば、賠償責任を問われることは無いでしょう。

しかし、第714条に定められている通り、その場合は加害者の「監督義務者(一般的には配偶者などの親族)」が賠償責任を負うケースがあります。

認知症の加害者|刑事上の責任

刑事上の責任

続いて、刑事上の責任について言及している刑法第39条を確認してみましょう。

第39条

1 心神喪失者の行為は、罰しない。

「心神喪失者」の行為は罰しない。

と、定められていることがわかります。

したがって、認知症の加害者が「心神喪失者」と認められると、刑事上の責任には問われません。

認知症の加害者|行政上の責任

行政上の責任

最後に、行政上の責任について道路交通法第103条を確認してみましょう。

第103条

(略)次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、(略)その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。(略)

一の二 認知症であることが判明したとき。

認知症であることを理由に、

  • 免許取り消し
  • 6ヶ月以内の免許停止

のどちらかに処される可能性があることがわかります。

認知症の加害者|まとめ

表でまとめると、認知症の交通事故加害者が問われる各責任は以下の通りとなります。

認知症加害者の責任
加害者本人 加害者の監督義務者
民事 責任なし*1 責任あり*3
刑事 責任なし*2 責任なし
行政 責任あり 責任なし

*1「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた場合」に限る
*2「心神喪失者である場合」に限る
*3「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき」は責任を問われない

Q&A②|加害者の「使用者・会社」は責任を問われる?

Q2: 加害者の使用者・会社

業務中に交通事故を起こした場合、加害者本人が責任を問われるのでしょうか。

それとも、加害者の使用者が責任を負うことになるのでしょうか。

使用者が民事・刑事・行政上の責任を負う可能性はあります。

後述しますが、自賠法第3条と民法第715条に定められているように、使用者が民事上の賠償責任に問われる場合はあります。

また、運転者が使用者に違反行為を命令あるいは容認されて運転させられた場合、使用者が刑事処分に処されるケースもあります。

違反行為の内容によっては、使用者が行政処分に処される可能性もあります。

交通事故を起こしたのが従業員であっても、その使用者が責任に問われる可能性はあるようです。

では、使用者が抵触する可能性のある条文をそれぞれ見ていってみましょう。

運転者の使用者|民事上の責任

民事上の責任

まずは民事上の責任について自賠法第3条と民法715条を確認してみましょう。

第3条

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。

ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

第715条

1 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。(略)

自賠法第3条の中にある「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは?

通常、加害自動車について「運行支配」と「運行利益」を有している者のことを指します。

運行支配とは

社会通念上、自動車の運行に対し支配を及ぼすことのできる立場にあり、運行を支配制御すべき責任があると評価されることです。

運行利益とは

客観的外形的に観察して運行による利益が帰属していることです。

会社の車を従業員が運転中に事故を起こした場合、使用者に「運行支配」と「運行利益」が認められ、運行供用者として賠償責任を問われる可能性があります。

同時に、使用者は民法715条の使用者責任も負う可能性があります。

運転手の使用者も民事上の責任を負うケースがあることがわかりました。

続いて、使用者が負う刑事上の責任を確認してみましょう。

運転者の使用者|刑事上の責任

刑事上の責任

使用者の刑事上の責任については、道路交通法第75条第1項で定められています。

第75条

(略)使用者(略)は、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認してはならない。

一 第84条第1項の規定による公安委員会の運転免許を受けている者(第107条の2の規定により国際運転免許証又は外国運転免許証で自動車を運転することができることとされている者を含む。以下この項において同じ。)でなければ運転することができないこととされている自動車を当該運転免許を受けている者以外の者(第90条第5項、第103条第1項若しくは第4項、第103条の2第1項、第104条の2の3第1項若しくは第3項又は同条第5項において準用する第103条第4項の規定により当該運転免許の効力が停止されている者を含む。)が運転すること。

二 第22条第1項の規定に違反して自動車を運転すること。

三 第65条第1項の規定に違反して自動車を運転すること。

四 第66条の規定に違反して自動車を運転すること。

五 第85条第5項の規定に違反して大型自動車、中型自動車若しくは準中型自動車を運転し、同条第六項の規定に違反して中型自動車若しくは準中型自動車を運転し、同条第7項の規定に違反して準中型自動車若しくは普通自動車を運転し、同条第8項の規定に違反して普通自動車を運転し、同条第9項の規定に違反して大型自動二輪車若しくは普通自動二輪車を運転し、又は同条第10項の規定に違反して普通自動二輪車を運転すること。

六 第57条第1項の規定に違反して積載をして自動車を運転すること。

七 自動車を離れて直ちに運転することができない状態にする行為(当該行為により自動車が第44条、第45条第1項若しくは第2項、第47条第2項若しくは第3項、第48条、第49条の3第3項、第49条の4若しくは第75条の8第1項の規定に違反して駐車することとなる場合のもの又は自動車がこれらの規定に違反して駐車している場合におけるものに限る。)

たとえば、

「飲酒している従業員に運転を命じた」

という場合、第75条第1項第3号「第65条第1項の規定に違反して自動車を運転すること。」に抵触します。

ここで第65条第1項を確認してみましょう。

何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。

上記の通り、第65条第1項で酒気帯び運転等を禁じられていることがわかります。

では、飲酒している従業員に運転を命じた場合、使用者に処される懲役・罰金刑はどういったものになるのでしょうか。

使用者の刑罰について言及している第117条の2を確認してみましょう。

第117条の2

次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。(略)

四 第75条(自動車の使用者の義務等)第1項第3号の規定に違反して、酒に酔つた状態で自動車を運転することを命じ、又は容認した者

道路交通法 第117条の2第4号

上記より、飲酒している従業員に運転を命じた場合、

使用者は5年以下の懲役か100万円以下の罰金に処される

ということがわかります。

道路交通法第75条などに抵触した場合、使用者も刑事上の責任を問われる可能性があることを覚えておきましょう。

運転者の使用者|行政上の責任

行政上の責任

使用者の行政上の責任については、道路交通法第75条の2で定められています。

第75条の2

1 (略)当該使用者に対し、三月を超えない範囲内で期間を定めて、当該自動車を運転し、又は運転させてはならない旨を命ずることができる。

2 (略)当該使用者が当該標章が取り付けられた日前六月以内に当該車両が原因となつた納付命令(同条第十六項の規定により取り消されたものを除く。)を受けたことがあり、かつ、当該使用者が当該車両を使用することについて著しく交通の危険を生じさせ又は著しく交通の妨害となるおそれがあると認めるときは、(略)当該使用者に対し、三月を超えない範囲内で期間を定めて、当該車両を運転し、又は運転させてはならない旨を命ずることができる。

第1項については、運転手が以下の行為を行った場合、使用者が行政上の責任を負う可能性があります。

  • 最高速度違反行為
  • 過積載をして自動車を運転する行為
  • 過労運転

第2項については、運転手が車両総重量750キログラム以上の車両(重被牽けん引車)を違反駐車した場合、状況によっては使用者にも責任が問われます。

第2項の内容を要約すると、

「違反行為を繰り返している重被牽けん引車が違反駐車をすると、使用者は行政上の責任を問われる」

ということです。

運転手の使用者|まとめ

表でまとめると、運転手の使用者が問われる各責任は以下の通りとなります。

使用者の責任
使用者
民事 責任あり*
刑事 責任あり*
行政 責任あり*

*該当する条文に抵触する場合に限る

Q&A③|加害者が「派遣社員」だと責任はどこに問われる?

Q3: 派遣社員の責任

派遣社員が業務中に事故を起こした場合、責任の所在はどこになるのか?

派遣先の企業か、派遣元か、それとも本人か。

派遣社員の場合でも、使用者責任はあるのでしょうか。

派遣社員が業務中に交通事故を起こした場合、派遣先・派遣元両方が使用者責任を問われる可能性があります。

たとえば賠償金の支払いに関しても、

派遣先と派遣元の企業が折半して賠償金を支払う

という対応になる場合がありえます。

ケースによりますが、派遣元・派遣先の両方とも責任を問われる可能性があるようです。

「使用者責任」に関しては前節Q&A②で言及したので説明は省略します。

派遣社員の「使用者責任」の所在については争いになりやすいため、不安がある方はぜひ弁護士までご相談ください。

派遣先・派遣元の責任
派遣先 派遣元
民事 責任あり* 責任あり*
刑事 責任あり* 責任あり*
行政 責任あり* 責任あり*

*該当する条文に抵触する場合に限る

Q&A④|加害者が「未成年」でも責任を問われる?

Q4: 未成年の責任

加害者が未成年でも責任を問われるのか?

たとえば未成年者が自動車で人身事故を起こしてしまった場合、責任の所在はどこになるのでしょうか。

加害者本人か、それとも親が責任を負うことになるのでしょうか。

未成年でも責任能力があれば「加害者本人」が責任を問われるでしょう。

自動車やバイクを運転している年齢(16~19歳)であれば「責任能力がある」とみなされる可能性が高いです。

ただ、自動車を親から借りて事故を起こした場合などは、自賠法第3条に基づき親が運行供用者責任を問われる可能性があります。

交通事故の加害者が未成年であっても、加害者本人が民事・刑事・行政上の責任を問われる可能性があります。

しかし、11~12歳程度未満の子供が自転車などで事故を起こした場合、親が賠償責任を負うケースもあります。

11~12歳が「責任能力があるか否か」を判断する目安の年齢となっている点を覚えておきましょう。

未成年(16~19歳)の責任
未成年(1619歳)
民事 本人に責任あり
刑事 本人に責任あり
行政 本人に責任あり

Q&A⑤|加害者が「てんかん」でも責任を問われる?

Q5: てんかん患者の責任

てんかんの発作で交通事故を起こしても責任を問われるのか?

てんかん患者の場合、運転中にてんかんの発作が起こって意識が無くなる可能性があります。

その際、交通事故を起こしてしまい加害者となってしまった場合、責任を問われるのでしょうか。

てんかんなど、精神上の障害が原因で他人に損害を加えた場合、民事上の賠償責任を問われない可能性があります。

上記は民法第713条にも定められています。

しかし、

処方されていたてんかんの薬を飲んでいなかったことが原因で事故を起こしてしまった

などの過失が認められた場合、責任を負う可能性があります。

てんかんなどの病気が原因で交通事故を起こした場合でも、責任を問われるケースがあるようです。

どのようなときに何の責任を問われることになるのでしょうか。

これから確認してみましょう。

てんかんの加害者|民事上の責任

上で触れた民法第713条を実際に見てみましょう。

精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。

ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

確かに、「精神上の障害」によって意識を喪失している場合、与えた損害の責任を負わない旨が定められています。

しかし、同時に「故意または過失」が無いことも条件として定められている点を忘れないようにしましょう。

てんかんの加害者|刑事上の責任

また、てんかんの発作で交通事故を起こした場合、以下のニュースのように刑事上の責任を問われるケースもあります。

(略)ワゴン車を運転中にてんかん発作を原因とする意識障害を起こし、3人を死傷させる事故を起こしたとして、危険運転致死傷の罪に問われた(略)裁判所は懲役10年の実刑を命じている。

人身事故を起こした場合、「過失運転致死傷」や「危険運転致死傷」の罪に問われる可能性があります。

てんかん発作の前兆を感じた際、ただちに停車させるなどして安全策を講じなければ過失があるとみなされる可能性がある点にご注意ください。

てんかんの加害者|行政上の責任

加えて、行政上の責任にも問われ、免許の取り消しや停止処分を下されることもあります。

行政処分の内容に関しては道路交通法第103条に定められています。

第103条

(略)次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、(略)その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。(略)

一 次に掲げる病気にかかつている者であることが判明したとき。(略)

ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であつて政令で定めるもの(略)

上記の通り、てんかんの場合は免許の取り消しか6ヶ月以内の免許停止処分を下される可能性があることがわかります。

なお、具体的な「運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について」については以下のページで解説がなされています。

てんかんの加害者|まとめ

表でまとめると、てんかんの加害者が問われる各責任は以下の通りとなります。

てんかんの加害者の責任
てんかんの加害者
民事 責任あり*
刑事 責任あり*
行政 責任あり

*てんかんの発作で事故を起こしたとしても、本人に故意または過失が無い場合、責任を問われない可能性あり

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という場合、こちらから全国の弁護士事務所を検索することができます。

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ここに掲載されているのは、

  • 刑事事件注力し、刑事事件の特設ページをネット上に持っている
  • 料金体系明確

という観点から選んだした弁護士事務所ばかりです。

ご自分に合った弁護士事務所を見つけるため、いくつかの事務所に問い合わせみてはいかがでしょうか。

最後に一言アドバイス

いかがでしたでしょうか。

最後に岡野先生からひと言アドバイスをお願いします。

交通事故責任は民事・刑事・行政の各分野から問われる可能性があります。

しかし、弁護士に相談すれば、各手続きについて適切なアドバイスをもらえる場合があります。

たとえば、被害者への賠償の仕方や、不起訴を獲得する方法などで加害者の力になってくれるかもしれません。

早めに相談すればより豊富で的確な助言をもらえる場合があるので、今すぐ弁護士にご相談ください。

まとめ

このページを最後までご覧になってくださった方は、

まとめ
  • 交通事故責任民事・刑事・行政の3つ
  • 加害者でも過失割合などによっては(一部)責任を問われない可能性あり
  • 認知症てんかんの場合、加害者本人の(一部)責任が免責される可能性あり

ということなどについて、理解が深まったのではないでしょうか。

弁護士に交通事故責任について相談をしたい場合、スマホで無料相談から相談することができます。

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このページが、交通事故の責任に関心を寄せられている方のお役に立てれば何よりです。

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