交通事故示談書の書き方|テンプレートの有無・文例・公正証書で作成すべきか
「交通事故で示談した場合に作成する示談書の書き方の文例が知りたい…」
「交通事故の示談書は公正証書の形式で作成したほうがいいって聞いたけど、そうするとどんな効力があるの?」
「交通事故の示談書の作成はやっぱり弁護士に頼む必要があるの?」
交通事故で示談が成立した場合、通常示談書を作成することになりますが、詳しい内容についてまではご存じでない方も多いかと思います。
このページでは、そんな方のために
- 交通事故の示談書の書き方や文例
- 交通事故の示談書を公正証書の形式で作成した場合の効力
- 交通事故の示談書の作成などを弁護士に依頼する必要性
についてご紹介していきたいと思います!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
交通事故の示談書は、最終的な解決の内容を記す重要な書類になります。
そのため、示談書の書き方次第では、適切な損害賠償金を受け取れなくなってしまう可能性があります。
また、示談書の書き方や作成方法次第では、加害者が示談金を支払わなかった場合に備えることができます。
こちらの記事で、交通事故の示談書についてしっかりと理解し、適切な金額の示談金を確実に受け取れるようにしましょう。
ご存知の方もいるかもしれませんが、交通事故に限らず、示談とは、法的には書類を取り交わさない口頭の形でも有効に成立します。
https://twitter.com/shigeta_kazu/status/520164341622919168
しかし、実際のところ、交通事故で示談する場合には、示談書という書類を作成することがほとんどです。
本日交通事故示談成立。事故に合った80才の実母、示談書署名に当たり震える手。2/13だったにも関わらず今だあの交差点を避けて通る。3月渋谷にて大地震に遭遇こちらもまだ行けず…改めて大震災に合った方々を思うと………
叔母は存命だろうか…— ikaika3 (@ikaika3) April 4, 2011
では、交通事故において、示談書とはなぜ作成が必要になるかをまずは確認していきたいと思います!
交通事故の示談書とは何か
交通事故の示談書の作成はなぜ必要か?
まず、交通事故の示談とは一般的に以下のように定義づけられます。
裁判によらず、当事者間の話し合いにより、一定額の金銭を支払い、その後、それ以上の損害賠償請求をしないと当事者間で合意し、紛争を解決すること
そして、先ほどお伝えしたとおり、交通事故に限らず、示談とは、法的には書類を取り交わさない口頭の形でも有効に成立します。
しかし、口頭だけだと、加害者と被害者との間で、示談した内容の認識に食い違いが生じ、示談後にトラブルが起こりかねません。
そのような示談後のトラブルを防ぐため、加害者と被害者との間で合意した内容を記載した示談書という書類の作成が必要になります。
交通事故の示談書の作成は、示談後のトラブルを防ぐために必要
また、交通事故の民事上の示談が成立したことは、加害者の刑事手続上有利な影響を及ぼす可能性があります。
そこで、示談の内容を示談書という形で証拠化し、加害者が検察庁や警察に郵送する場合があります。
つまり、交通事故の示談書の作成は、加害者にとっては、刑事手続上の証拠とする上でも必要といえます。
なお、交通事故の示談書は軽微な物損事故等で、双方に保険会社が入っている場合などには、簡易なものにとどまる場合もあります。
そのような場合には、示談後のトラブルが生じる可能性が低いと考えられるため、正式な示談書までは不要と考えられるからです。
交通事故の示談書は、示談後のトラブルを防ぐという必要性から作成されるものですから、紛失しないよう、大事に保管しておく必要があります。
示談書の保管期間に決まりがあるわけではないですが、損害賠償請求権の時効の期限が3年であるため、最低3年は保管が必要といえます。
もっとも、損害賠償請求権の時効の起算点に争いが生じる場合があるため、3年が経過した後も保管しておくのがトラブルを防ぐにはよいでしょう。
交通事故の示談書は原則無効にできない
そして、交通事故の示談書は、原則として後日無効であると主張することはできません。
簡単に後日無効であると主張できてしまうと、示談後のトラブルを防ぐという示談書の作成の目的を果たせないからです。
示談とは、民法上、和解契約という法律行為の一種であり、民法上、法律行為の無効を主張できるのは
- 公序良俗に反する場合
- 虚偽表示の場合
- 法律行為の要素に錯誤がある場合
などに限られています。
公序良俗に反する示談
まず、交通事故の示談書の内容が公序良俗に反する場合は無効とされます。
(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
出典:民法第90条
「公の秩序又は善良の風俗」とは、国家や社会の一般的な秩序や倫理道徳・社会通念のことをいいます。
具体的には、被害者の無知や窮状に付け込み、被害の程度に比べ著しく低い賠償額で示談したような場合などが考えられます。
虚偽表示の示談
また、相手方と共謀して虚偽の示談をした場合も、その示談は無効となります。
(虚偽表示)
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
出典:民法第94条1項
具体的には、加害者の刑事裁判において、情状酌量されるためだけに虚偽の示談書を作成したような場合が考えられます。
ただし、そのような場合でも、示談の有効性を認めた判例もあるので、注意が必要です。
加害者の情状酌量を求めるには嘆願書という書類を作成すれば足り、あえて虚偽の示談書を作成する必要はないと考えられます。
法律行為の要素に錯誤のある示談
さらに、示談の前提となった重要な事実関係について要素の錯誤があった場合には無効となります。
(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。(以下略)
出典:民法第95条本文
「法律行為の要素に錯誤があったとき」とは、法律行為の重要な部分で、その点に錯誤がなければ、通常そのような法律行為をしないといえる場合です。
交通事故の示談を撤回できる場合
そして、交通事故の加害者に騙されて示談したとか、脅されて示談に応じたという場合の示談書は撤回する(取り消す)ことができます。
(詐欺又は強迫)
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
出典:民法第96条1項
この場合は、無効の場合とは異なり、撤回しない(取り消さない)限り有効なものとして扱われる点には注意する必要があります。
上記のような例外もありますが、交通事故の示談書は一度作成してしまうと原則として無効を主張することはできなくなります。
そのため、示談書の作成には慎重を期す必要があります。
示談書の内容について、少しでも疑問のある方は、作成する前に弁護士に相談だけでもしてみることをおすすめします。
交通事故の示談書が届くまでの期間は?
損害賠償の支払いと示談書の関係
交通事故の損害賠償金は通常、示談書が加害者や保険会社に郵送されたことが確認されてから支払いが行われます。
そのため、下記のように交通事故の示談書を書かない・サインしない・返送しない場合には慰謝料などを受け取ることができません。
交通事故の加害者側の保険会社から示談の書類ができたから家に届けると電話が来たけど、加害者(未成年)とその保護者は一度も謝りに来ないから、しばらく示談書には署名しないで放置しよう。
— あ (@amiba___) February 15, 2010
基本的に示談書に有効期限はありませんが、作成せず、長期間放置していると、加害者や保険会社が撤回してしまう可能性があります。
示談書が届くまでの期間は?
反対に、被害者は早く示談して損害賠償金の支払いを受けたいのに、示談書が来ないという場合も考えられます。
では、交通事故の示談書はいつ届くのが通常といえるのでしょうか?
この点、損保ジャパン等の保険会社が示談代行している場合、双方で示談の内容を合意してから1週間以内には送られてくるのが通常です。
そのため、上記の期間を経過しても示談書が届かない場合、一般的に遅いといえるので、いつごろ郵送されるか保険会社に確認すべきです。
一方、加害者が直接示談交渉している場合、示談書の作成に上記の期間以上の日数を要する場合もあります。
交通事故の示談書を省略する場合
先ほどお伝えしたとおり、交通事故の損害賠償金は、示談書が被害者から加害者や保険会社に郵送されたことが確認されてから支払いが行われます。
しかし、示談書が被害者から加害者や保険会社に郵送されるまでには、示談書の作成、被害者への郵送、署名・捺印等に一定の期間を要します。
そこで、被害者が早く保険金を受け取りたい場合には、示談書の作成が省略される場合があります。
具体的には、被害者の過失割合がなく、保険会社が契約者(加害者)、相手方(被害者)双方に示談書なし(省略)の了承を得た場合です。
ただし、示談書を省略した場合でも、後日、保険会社から契約者(加害者)、相手方(被害者)双方に示談内容の確認書が郵送されるのが通常です。
このように、交通事故の損害賠償金の支払いを実際に受けるまでには、示談書作成のやり取りに一定の期間を要することになるのが通常です。
早期にお金が必要な方は、通常、そのような期間を要することになることも念頭に置いておく必要があります。
また、どうしても早期にお金が必要な方は、示談書の作成を省略することで、支払いまでの期間を短縮できるということも覚えておくといいでしょう。
① | 目的 | 示談後のトラブルを防ぐ |
---|---|---|
② | 効力 | 原則無効にできない※1 |
③ | 期間 | 示談内容合意してから1週間以内※2 |
※1 例外的に無効・撤回できる場合もある
※2 保険会社が示談代行している場合
交通事故の示談書の書き方・文例について
交通事故の示談書の書き方の決まりは?
交通事故の示談書とは何かについて確認したところで、続いては、実際の交通事故の示談書の書き方についてお伝えしたいと思います!
まず、示談書には特に決められたフォーマットは存在しません。
そのため、パソコンのwordではなく手書きで作成しても問題はありません。
ネットや書籍などには示談書のサンプルや様式が記載されているものが数多くありますので、それらを見本に作成してもよいでしょう。
さらには、示談書のテンプレートや雛形のエクセルをダウンロードし、それを印刷して利用するという方法も考えられます。
交通事故の示談書の作成上の注意点は?
もっとも、交通事故の示談書には示談後のトラブルを防ぐという目的を達するため、いくつかの作成上の注意点があります。
加害者と被害者双方の署名・捺印
まず、交通事故の示談書には、原則として、加害者と被害者双方の署名・捺印が必要となります。
それは、
- 示談書の作成者が加害者及び被害者本人であること
- 示談書に記載された内容に加害者及び被害者双方が合意したこと
を確認するためです。
加害者や被害者が未成年の子供の場合には、両親の署名・捺印が必要となります。
また、加害者や被害者が複数人いる場合には、原則として、その全員の署名・捺印が必要となります。
さらに、加害者や被害者である車両の運転者とその所有者が違う場合は、自賠責への請求の関係上、その所有者の署名・捺印も必要となります。
車両の所有者が法人の場合には、原則として、その法人の法人印の捺印が必要になります。
被害者の署名・捺印で足りる場合
ただし、追突など被害者の過失割合が0で、被害者側に支払い義務が生じない場合もあります。
その際、保険会社からは示談書という名称ではなく、承諾書(免責証書)という名称の書類が送られてくることがあります。
上記の場合は、保険会社から被害者に直接支払われる示談金についてのみが問題となるため、署名・捺印も被害者のものだけで足りることになります。
使用する印鑑について
捺印に使用する印鑑は、万全を期すのであれば、印鑑証明書が取れる実印が望ましいといえるでしょう。
実印を使用しない場合でも、いわゆる「シャチハタ」を使用するのは避けた方がいいでしょう。
ゴム製のシャチハタは、劣化等によるハンコの印影が変わる可能性があるため、本人確認としての信用性が乏しいからです。
交通事故の内容
また、交通事故の示談書には、示談の対象となる交通事故を特定するために、交通事故の内容を記載する必要があり、具体的には
- 交通事故の発生日時
- 交通事故の発生場所
- 交通事故の発生状況(追突、出合い頭に衝突など)
- 加害者及び被害者が運転していた車両の登録番号
等を記載する必要があります。
上記の事項については、警察の交通事故証明書を見本に作成するのが確実です。
記載すべき金額
まず、交通事故の示談書には、支払われる金額を最低限記載する必要があります。
もっとも、示談後のトラブルを防ぐという示談書の作成の目的をより果たすためには、それ以外の金額も記載しておいた方がいいといえます。
具体的には、支払われる金額の内訳を記載しておいた方がいいといえます。
支払われる金額の内訳は、まず大きく物損と人身(人損)に分けられます。
物損ならレンタカー代や修理代など、人損なら慰謝料や休業損害など、各項目ごとに示談書に記載すると、より望ましいといえます。
さらに、自賠責や損保ジャパンなどの任意保険、労災などからの既払金がある場合には、その金額も記載しておくとよいでしょう。
また、支払いの金額に影響する過失割合も記載しておいた方がいいでしょう。
支払期日・方法
交通事故の示談書には、通常支払期日も記載します。
ただし、保険会社が示談書記載の金額の支払いをする場合、確実かつ早期の支払いが見込めるため、支払期日の記載を省略することもあります。
示談書に記載する支払い方法については、具体的には
- 一括か分割か
- 振込か手渡しか
- 被害者・加害者双方の過失割合相当分の支払い金額を互いに支払うか相殺して支払うか
などがあります。
分割の場合には、各回ごとの支払期日を記載する必要があります。
また、支払い方法が振込の場合には、入金先の口座情報や振込手数料を加害者・被害者のどちらが負担するかも記載する必要があります。
なお、支払い方法が振込の場合は、示談書と振込明細により、支払いを証明できるので、領収書が作成されないことも多いです。
支払いが行われない場合について
交通事故の示談書を作成した場合でも、加害者から支払期日に、示談書記載の金額の支払いが行われない場合もあります。
そのような場合に備えるためには、示談書に違約金や遅延損害金の利率を記載しておくのが望ましいです。
さらに、連帯保証人の記載がある場合、その連帯保証人は、加害者が支払期日の支払いをしなかった場合、被害者からの請求を拒否できません。
清算条項の記載
先ほどお伝えしたとおり、示談とは、一定額の金銭を支払い、その後、それ以上の損害賠償請求をしない旨の当事者間の合意になります。
そのため、交通事故の示談書にも、そのような合意が当事者間でなされたことを記載する必要があります。
そのような作成した示談書記載の内容以外には、被害者と加害者間に債権債務がなく、今後一切の請求をしない旨の合意を「清算条項」といいます。
示談成立後の後遺障害(後遺症)
上記のように、示談書には清算条項が記載されるため、示談成立後には、追加の損害賠償請求は原則として認められません。
しかし、示談成立後に予想外の後遺障害(後遺症)が発生してしまう場合も考えられます。
そのような場合にまで、被害者が、示談金とは別に後遺障害による損害賠償請求をできないとしてしまうのは、被害者にとって酷です。
この点、最高裁は、「示談当時予想できなかった後遺症等については、被害者は、後日その損害の賠償を請求することができる」との判断をしています。
全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。
出典:最判昭和43年3月15日
そのため、上記のような場合、例外的に追加の損害賠償請求が可能ですが、後のトラブルを防ぐため、この点を示談書に記載しておくのが望ましいです。
https://twitter.com/matsuikei/status/905675476143714304
示談書の訂正をする場合の注意点
交通事故の示談書は重要な書類ですので、間違いのないように作成するのが当然望ましいといえます。
しかし、どうしても間違いはありますし、署名・捺印のタイミングで内容を変更することになる場合もあります。
その場合にすべて一から作成するのは負担が大きいため、多少の間違いや変更であれば訂正印を押した上で訂正をするのが一般的です。
示談書を訂正するための訂正印については、具体的には以下の三種類が考えられます。
- 文言を削除するときに押す抹消印
- 文言を追加するときに押す加入印
- 文言を訂正するときに押す訂正印
訂正する際に使う印鑑は、示談書を作成した当事者による訂正であることを明確にするため、契約に使用するものと同じ印鑑を使用する必要があります。
具体的な訂正の方法としては、訂正箇所に二本線を引いた上で、その部分に印鑑を押すことになります。
このとき、後々何を修正したか分かるよう、元の文字が読めるようにした上で、その欄外に「削除○字」や「加入○字」と記載する必要があります。
番号 | 記載事項 | 主な注意点 |
---|---|---|
① | 署名・捺印 | ・原則加害者・被害者双方必要 ・使用する印鑑はシャチハタ以外 |
② | 交通事故の内容 | ・示談の対象の特定に必要 ・交通事故証明書を見本に記載 |
③ | 金額 | ・支払金額の記載はマスト ・内訳や既払金も記載するのがベター |
④ | 支払期日・方法 | ・保険会社が支払う場合は期日省略の場合あり ・振込なら口座情報も記載 |
⑤ | 支払いが行われない場合 | ・違約金や遅延損害金の記載 ・連帯保証人付けられればより確実 |
⑥ | 清算条項 | 必ず記載必要 |
⑦ | 後遺障害 | 示談後の予期せぬ後遺症は請求できる旨記載しておくのが確実 |
⑧ | 訂正 | ・訂正印は契約に使用する印鑑と同一 ・訂正前の文言読めるようにしておく |
交通事故の示談書の具体的文例
交通事故の示談書の作成上の注意点は以上のとおりです。
しかし、中には、上記の文章だけでは、具体的に示談書にどう記載すればいいかイメージが付きにくいものもあるかと思います。
そこで、交通事故の示談書の具体的な文例をいくつかご紹介したいと思います。
当事者が未成年の場合の署名文例
お伝えしたとおり、加害者や被害者が未成年の子供の場合、両親が署名することになりますが、具体的な文例は以下のとおりです。
(当事者の未成年の氏名)法定代理人親権者(当事者の未成年の両親の氏名)
上記の場合に、両親が署名することになるのは、法的に親権者である両親が法定代理人として、未成年の子供の法律行為を代理する権限があるからです。
そのため、署名欄にも「法定代理人親権者」と記載する必要があります。
支払い金額の具体的文例について
支払いの金額だけでなく、内訳や自賠責からの既払金も記載する場合の文例は以下のとおりです。
1 加害者(以下「甲」という)は被害者(以下「乙」という)に対し、乙が自賠責保険から受領した120万円を除き、物損分として15万円(レンタカー代5万円、修理代10万円)、人身分として100万円(慰謝料89万円、休業損害11万円)、合計115万円の支払い義務のあることを認める。
なお、示談書には、すべて加害者・被害者と記載するのは面倒なので、省略のため甲乙という表記が用いられることが多いです。
支払期日及び方法の具体的な文例
支払期日及び支払いを一括の振込にした場合の文例は以下のとおりです。
2 甲は乙に対し、前項記載の115万円を、平成○○年11月30日限り、乙指定の下記口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
なお、口座情報としては、支店番号や口座名義人のフリガナも記載するのが丁寧です。
遅延損害金についての具体的文例
示談書記載の金額の支払いが行われない場合に備えて、示談書に遅延損害金を記載する場合の文例は以下のとおりです。
3 甲が、前項の支払を怠ったときは、甲は、乙に対し、既払額を控除した残額及びこれに対する平成○○年12月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を直ちに支払う。
なお、支払い方法が分割の場合には、どういった場合に遅延損害金を支払うことになる(期限の利益を喪失する)かも記載する必要があります。
清算条項の文例
交通事故の示談書に記載する「清算条項」の文例は以下のとおりです。
甲及び乙は、甲乙間に、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを相互に確認し、今後いかなる事情が生じても、双方とも裁判上、裁判外を問わず、一切の請求、異議申立をしないことを確約する。
「何らの債権債務がないこと」と「今後一切の請求をしない」点を記載するのがポイントになります。
示談成立後の後遺症に関する文例
示談成立後に予想外の後遺障害(後遺症)が発生した場合に、損害賠償請求が可能であることを明確にするための文例は以下のとおりです。
本示談後に、本件交通事故に起因する後遺障害が発生した場合の損害賠償については、別途協議するものとする。
先ほどお伝えしたとおり、この条項がなくても損害賠償請求することは可能ですが、不要なトラブルを回避するには入れておいた方が無難といえます。
交通事故の示談書の書き方に決まりはありませんが、記載しておくべき事項というものは存在します。
交通事故の示談書の作成にあたり、テンプレートや雛形を利用するとしても、具体的な事情に合わせて修正が必要な場合もあります。
交通事故の示談書を当事者個人間で作成する場合には、署名・捺印の前に、弁護士などの専門家に相談するのが望ましいといえます。
交通事故の示談書は公正証書で作るべき?
交通事故において示談書を作成したものの、加害者が支払期日に示談書記載の金額の支払いを行わない可能性もあります。
そのような場合に備え、先ほど、示談書に遅延損害金などや連帯保証人を記載する方法をお伝えしましたが、これでは不十分な場合もあります。
そこで、交通事故の示談書記載の内容の支払いをより確実にする手段として、公正証書の形式での示談書の作成をご紹介したいと思います!
公正証書とは?
そもそも、公正証書とは何なのかをよく知らないという方もいらっしゃるかと思います。
公正証書
公証人などの法律に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書
公証人とは、裁判官や検察官、法務局長などを長年勤めた法律の専門家の中から任命される人物であり、準公務員という扱いになります。
示談書を個人間で作成する場合は、私文書となるため、公正証書の形式で作成する場合、公文書になる点が大きな違いといえます。
示談書を公正証書で作成した場合の効力
このように、交通事故の示談書を公正証書の形で作成し、公文書となることにより、以下のような効力にも違いが出てきます。
証拠能力が高い
公正証書は、法律の専門家である公証人が、作成当事者の身元を印鑑証明書等で確認し、書面の記載内容に法令違反がないかを確認してから作成します。
そのため、示談書作成後に、文書としての真正性や内容の正確性が争われる可能性はほとんどなくなります。
つまり、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成した場合は、通常の場合よりもより証拠能力が高まるという効力が認められます。
執行力について
交通事故の示談書記載の金額を加害者が支払わない場合、支払いを強制する手段として、「強制執行」という手続があります。
強制執行とは、裁判所を通じて強制的に給料や預金等の債務者の財産を差し押さえる手続きになります。
本来、示談書を作成していても、強制執行をするには、裁判所に訴訟を提起し、勝訴の判決を受け、その判決を確定させる必要があります。
しかし、示談書を公文書である公正証書の形式で作成した場合、加害者が支払いを行わなかった時に裁判手続を経ず、すぐに強制執行の手続が行えます。
つまり、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成した場合、執行力を付与できるという効力が認められます。
ただし、この裁判手続を経ない強制執行の手続を可能にする執行力を付与するためには、示談書の内容にある注意点があります。
それは、示談書に「強制執行認諾約款」や「執行承諾文言」といった条項を設ける必要がある点です。
「強制執行認諾約款」とは「支払いを実行しない場合、強制執行されても異議がない」という強制執行にあらかじめ同意する旨の条項になります。
ただ単に示談書を公正証書化するだけでは執行力は付与されず、裁判手続を経ない強制執行はできないのが注意点になります。
安全性が高い
示談書は加害者と被害者の個人間で作成できますが、個人間の作成だと、内容に間違いがあっても気付かない可能性があります。
しかし、公正証書の形式で作成する場合、法律の専門家である公証人が内容を確認しますので、内容の間違いの心配はまずなく、安全性が高いです。
そして、作成された公正証書の原本は、公証役場で20年間保管されるため、改ざんや変造の心配もなく、その点においても安全性が高いといえます。
さらに、万が一、交付された正本や謄本を紛失や盗難、破損などしても、再交付を受けられるという点においても安全性が高いといえます。
以上のとおり、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成した場合は、通常の場合よりもより安全性が高まるという効力が認められます。
示談書を公正証書で作成するデメリット
交通事故の示談書を公正証書の形式で作成することには、上記のような効力が認められるというメリットがあります。
しかし、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成することには、上記のようなメリットだけではなく、デメリットも存在します。
そこで、ここからは、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成するデメリットについてお伝えしたいと思います。
作成に手数料の支払いが必要な点
交通事故の示談書を通常の形式で作成する場合には、無料で作成することができます。
しかし、公正証書の形式で作成する場合には、一定金額の手数料の支払いが必要になります。
具体的な手数料の金額は、目的価額により、以下の表のように定められています。
目的の価額 | 手数料(税込) |
---|---|
100万円以下 | 5500円 |
100万円を超え200万円以下 | 7700円 |
200万円を超え500万円以下 | 12100円 |
500万円を超え1000万円以下 | 18700円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 25300円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 31900円 |
5000万円を超え1億円以下 | 47300円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万7300円に5000万円までごとに1万4300円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 10万4500円に5000万円までごとに1万2100円を加算 |
10億円を超える場合 | 27万3900円に5000万円までごとに8800円を加算 |
公証人手数料令第9条別表参照
作成の期間が通常より長くなる点
交通事故の示談書を公正証書の形式で作成する場合、公証人が内容に間違いがないかチェックしながら作成するため、その分作成に時間がかかります。
また、公正証書の形式で作成するには、加害者・被害者双方が公証役場へ出頭する必要があるため、その日程調整に時間を要します。
その結果、示談書の作成の期間が通常より長くなるという点も、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成するデメリットの一つといえます。
交通事故の示談書を公正証書の形式で作成すべきかどうかは、上記のメリットとデメリットを比較した上で決める必要があります。
もっとも、通常の形式で作成した場合に、加害者が支払いを怠り、強制執行が必要になると、かえって費用も期間も掛かることになってしまいます。
そのため、交通事故の示談書を公正証書の形式で作成すべきかどうかは、加害者に強制執行する可能性を一番重視して検討すべきといえます。
最後に、示談書を通常の形式で作成する場合と公正証書の形式で作成する場合とを比較して表にまとめてみましたので、参考にしてみてください。
通常 | 公正証書 | |
---|---|---|
証拠能力 | 高い | 特に高い |
執行力 | なし | あり※1 |
安全性 | ・内容に誤りの可能性 ・改ざん・変造の可能性 ・紛失などの可能性 |
・内容の誤りまずない ・改ざん・変造のおそれなし ・紛失しても再交付 |
金額 | 無料 | 有料 |
期間※2 | 公正証書より短期間 | 通常より長期間 |
※1 「強制執行認諾約款」等が設けられている場合
※2 一般的な傾向
交通事故の示談書の作成に弁護士は必要?
交通事故の示談書の作成については以上のとおりです。
そして、示談書は加害者と被害者の個人間でも作成することができます。
それでは、交通事故の示談書の作成を弁護士に依頼する必要はないのでしょうか?
示談書の作成を弁護士に頼んだ際の利点
交通事故の示談書は弁護士に依頼しなければ作成できないわけではありませんが、依頼すれば、以下のようなメリットがあります。
適切な内容の示談書が作成できる
示談書を法的知識が不十分な加害者と被害者の個人間で作成した場合、内容に間違いがあっても気付かない可能性があります。
この点、法的知識が豊富な弁護士に作成を依頼することにより、そのような間違った内容を含んだ示談書の作成を防ぐことができます。
それだけでなく、弁護士に作成を依頼すれば、被害者からの相談を踏まえ、被害者の要望に沿った条項を示談書に盛り込むことも可能になります。
公正証書で作成するか適切に判断
また、先ほどお伝えしたとおり、交通事故の示談書を公正証書で作成すべきかは、そのメリットとデメリットを比較した上で決める必要があります。
しかし、法的知識が不十分な被害者の方では、メリットとデメリットを比較した適切な判断が困難な場合もあります。
この点、法的知識が豊富な弁護士に作成を依頼した場合、相手方の加害者の具体的事情を考慮した適切な判断を行える可能性が高いといえます。
作成する手続の負担を軽減できる
仮に、加害者と被害者の個人間で適切な内容の示談書が作成できるとしても、その実現にはかなりの手続的負担が掛かることが想定されます。
この点、交通事故の示談書の作成を弁護士に依頼した場合、そのような被害者の手続的負担を大きく軽減できるという点もメリットの一つといえます。
さらに、弁護士に依頼すれば、公正証書の形式で作成する場合の公証役場への出頭も代理してもらえるというのもメリットということができます。
示談書の作成を弁護士に頼んだ際の費用
もっとも、交通事故の示談書の作成を弁護士に依頼する場合には一定の費用が掛かります。
この点、現在は弁護士報酬は自由化されており、事務所ごとに異なります。
しかし、(旧)日本弁護士連合会報酬等基準では、示談書のような契約書類の作成についての手数料につき、以下の表のように定めていました。
定型 |
---|
経済的利益の額が 1000 万円未満のもの
5 万円から 10 万円の範囲内の額 経済的利益の額が 1000 万円以上 1 億円未満のもの 10 万円から 30 万円の範囲内の額 経済的利益の額が 1 億円以上のもの 30 万円以上 |
非定型※ |
経済的な利益の額が
300 万円以下の場合 10 万円 300 万円を超え 3000 万円以下の場合 1%+7 万円 3000 万円を超え 3 億円以下の場合 0.3%+28 万円 3 億円を超える場合 0.1%+88 万円 |
公正証書にする場合 |
上記に 3 万円を加算 |
※特に複雑又は特殊な事情がある場合は協議により定める額
決して安くはない金額ですが、上記のような弁護士に依頼することによるメリットと比較した上で、依頼を検討する必要があります。
示談の書類だけでなく交渉も頼んだ場合
そして、交通事故の示談の書類の作成だけでなく、保険会社との示談交渉から弁護士に依頼するということも当然可能です。
示談交渉から弁護士に依頼することの大きなメリットは、示談の金額の大幅な増加が見込めるという点です。
弁護士に依頼した場合、どれ位の示談の金額の増額が見込めるかの目安を簡単に知りたいという方には、以下の慰謝料計算機がおすすめです。
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また、示談金が弁護士に依頼した場合にどれ位増額が見込めるかについては、以下の記事に詳しく記載されていますので、ぜひご覧になってみて下さい!
ただし、示談交渉から依頼する場合、書類の作成だけよりも、弁護士の負担が大きいため、その分弁護士費用も高額になります。
先ほどお伝えしたとおり、現在弁護士費用については自由化されていますが、一定の相場は存在します。
交通事故の弁護士費用の相場については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい!
なお、弁護士費用特約を利用できる場合には、被害者の経済的負担なく弁護士に依頼できる場合もあります。
また、弁護士費用特約が利用できない場合でも、事案によっては弁護士費用を支払ってでも弁護士に依頼するのが望ましい場合もあります。
示談書に関しお悩みがある方は、弁護士に依頼すべきかどうかも含めて、まずは弁護士に相談だけでもしてみることをおすすめします。
弁護士費用特約の内容は、以下の動画で弁護士がわかりやすく解説しています。
交通事故の示談書について弁護士に相談されたい方へ!
ここまで交通事故の示談書についてお伝えをしてきましたが、読んだだけではわからないことがあった方もいるのではないでしょうか?
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、交通事故でお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。
交通事故の示談書は、最終的な解決の内容を記す重要な書類になります。
示談書の書き方に決まりはありませんが、具体的な事情により書いておくべき事項や公正証書にすべきかなどは変わってきます。
必要に応じて弁護士への相談や依頼も利用しながら、適切な示談書を作成し、妥当な金額の示談金を確実に受け取れるようにしましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 交通事故の示談書の書き方や文例
- 交通事故の示談書を公正証書の形式で作成した場合の効力
- 交通事故の示談書の作成などを弁護士に依頼する必要性
について理解を深めていただけたのではないかと思います。
これを読んで弁護士に相談した方が良いと思った方も多いハズです。
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また、このホームページでは、交通事故に関する関連記事も多数掲載していますので、ぜひ参考にしてください!
皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。