交通事故で腕神経叢損傷(わんしんけいそうそんしょう)【わかりやすい解説】
目次
Q1.交通事故で腕神経叢損傷(わんしんけいそうそんしょう)になる場合とは?
腕神経叢(わんしんけいそう)は、腕にではなく首から肩の部分にある位置しています。
人間が身体を動かす時には、まず脳から命令が出て、神経を通じて身体の各所の筋肉に命令が伝わることで動く、という仕組みになっています。
そして、手や腕(上肢)の運動するときに脳から発せられる命令は、まず首にある頚髄(けいずい)から伸びた五本の神経根を通って、左右の手や腕にある末梢神経に伝わります。
この五本の神経根が叢(くさむら)のように密集して交差している箇所を、まとめて腕神経叢と呼ぶのです。
腕神経叢に位置する神経が担当する腕や手の動きは、神経ごとに、それぞれ異なります。
具体的には、「肩の運動」や「肘の屈曲」、「肘の伸展と手首の伸展」、「指の屈曲」などの運動が、腕神経叢によって担われているのです。
交通事故などにより首や肩に大きな衝撃がかかると、腕神経叢が損傷してしまう場合があります。
より具体的には、首が横にねじられて、肩を強く引き下げる力が加わった時に、腕神経叢損傷が起こります。
交通事故においては、特にオートバイの運転手が事故により転落して首や肩を地面に激しく打ち付けたことが原因で発症する場合が圧倒的多数です。
Q2.腕神経叢損傷の症状や治療、後遺症とは?
損傷することにより、腕神経叢が司っていた手や腕の動作ができなくなるおそれがあります。
肩の挙上や肘の屈伸などができなくなったり、手指が全く動かなくなったりする場合もあるです。
具体的にどの動作ができなくなるかは、腕神経叢の内でもどの部分が損傷したか、損傷の程度はどれほどであるか、などによって異なります。
また、腕や手指がしびれたり、感覚が麻痺する症状が発生する可能性もあります。
自律神経に障害が現れて、めまいや頭痛、吐き気などの症状が出る場合もあります。
腕神経叢損傷は、神経根が直接に傷付くことによって起こる節後損傷と、神経根が脊髄から引き抜かれることで起こる節前損傷の二種類に分類されます。
節前損傷は、転倒して肩が先に地面に付いた状態で身体が前方に投げだされることにより腕が引っ張られて、それにつられて神経根も牽引され、引きちぎられてしまうことで起こります。
節後損傷の場合は症状の回復が期待できますが、節前損傷の場合は、麻痺などの症状が回復しないことが多々あります。
損傷した腕神経は、縫合することが困難です。
また、節後損傷の場合には移植術によって神経を再建することが可能な事例も多いですが、節前損傷の場合は再建はほぼ不可能となるので、副神経の移行術が行われることになります。
ただし、神経の移植や移行は、損傷してから数ヶ月以内に行うことが望ましいです。
損傷から6ヶ月以上経つと、その間に使えなかった腕の部分の筋肉が萎縮し過ぎてしまい、神経が回復しても以前のように動作することが難しくなってしまうからです。
もし筋肉が動かなくなってしまった場合には、筋腱移行術が行われることになります。
手術後にも長期間のリハビリを行うことで、徐々に、損傷によって失われた機能の回復を目指していきます。
腕神経叢損傷では肩機能や手指機能、肘の屈曲や伸展などの様々な機能が同時に失われることもあり、そのすべてを回復することは困難である場合も多いです。
そのため、大半の場合では、上肢の機能障害という後遺症が残ることになります。
Q3.後遺障害の等級が認定される方法とは?
交通事故における損害賠償の項目は、傷害部分と後遺障害部分に分けられます。
傷害部分とは、事故による怪我が原因で発生した損害に対する賠償を指します。
傷害部分に含まれる具体的な項目は、治療費、休業損害、入通院慰謝料などになります。
後遺障害部分の損害賠償とは、事故による怪我が原因の後遺症による損害に対する賠償となります。
障害を負ったことにより生じた精神的苦痛に対する賠償金が、後遺障害慰謝料です。
また、障害のために失われる将来の収入に対する賠償金である逸失利益を請求することもできます。
逸失利益の金額は、被害者の年齢・職業・収入や、障害ごとの労働能力喪失率から算出されます。
後遺傷害部分の損害賠償を請求するためには、後遺障害等級の認定が必要となります。
等級を認定してもらうためには、損害保険料率算出機構に申請を行う必要があります。
申請方法は二種類あり、加害者側の任意保険会社が書類を提出する方法は事前認定と呼ばれます。
もう一つの申請方法である被害者請求では、被害者側が書類を提出して申請します。
被害者請求では被害者本人が申請するほか、弁護士に依頼して申請を代行してもらうこともできます。
Q4.腕神経叢損傷で起こる後遺障害の具体的な等級は?
腕神経叢損傷によって被る後遺障害は「上肢の機能障害」となります(上肢とは、肩関節から手関節までを指します)。
その等級は、障害の程度によって上下します。
基本的には、上肢の3大関節(肩関節、肘関節、手関節)のうちにどれだけの障害が生じているかによって、等級が定められることになります。
後遺障害等級表に記載されている認定基準は、以下のとおりです。
第1級4号 |
---|
両上肢の用を全廃したもの |
第5級6号 |
1上肢の用を全廃したもの |
第6級6号 |
1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
第8級6号 |
1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級10号 |
1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級6号 |
1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
後遺障害等級表内の用語については、以下の通りになります。
・「全廃」=3大関節の全部が全く動かせないか、それに近い状態(可動域が健側の10分の1以下)になっていること
・「用を廃した」=関節が全く動かせないか、それに近い状態に(可動域が健側の10分の1以下)なっていること
・「著しい障害」=関節可動域が健側の2分の1以下になっていること
・「障害」=関節可動域が健側の4分の3以下になっていること
腕神経叢損傷の後遺障害は重大なものになることが多く、基本的には、申請を行えば等級は認定される可能性は高いです。
ただし、申請の際に提出する書類の内容により、等級が上下してしまうおそれがあります。
腕神経叢損傷のような重症の場合、等級が変わると、後遺障害慰謝料や逸失利益の合計金額には100万円単位の違いが生じることもまれではありません。
そのため、後遺障害診断書の内容について、主治医との相談をかかさないようにしましょう。
また、申請書類の内容について弁護士に確認してもらうことも大切です。
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この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
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第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。