後遺障害9級の慰謝料は?相場と実際の交通事故の事例(判例)5選を紹介
このページをご覧になっているということは、ご自身またはご家族が交通事故の被害に遭われて、後遺障害9級のお怪我を負われたということでしょうか。
突然の交通事故で大きなケガを負ってしまい、大変な思いをされたかと思います。
長期間にわたる入院や通院は、仕事や日常生活にも支障が出てしまいますよね。
保険会社とのやりとりも被害者の方にとっては、大きな負担となってしまいます。
慰謝料や示談金は、どのくらい支払われるべきなのか知らない方は多いのではないでしょうか?
このページでは、後遺障害9級の慰謝料でお悩みの方のお役に立つように、私たち弁護士カタログの編集部が行なった判例調査の結果をまとめてあります。
法律的な部分の解説は、テレビや雑誌でもおなじみの岡野武志弁護士にお願いしています。
よろしくお願いします。
これまで事務所で取り扱った事例や裁判所が判断した判例にもとづいて、しっかりと解説していきたいと思います。
それでは、後遺障害9級の慰謝料の相場をみてみましょう!
後遺障害9級の慰謝料相場は690万円
そもそも交通事故の慰謝料はどうやって決まるの?
交通事故にあった場合、慰謝料がもらえるというのをご存知のかたは多いかと思います。
でも、保険会社に慰謝料金額を提示されたとき、その金額が妥当なのかどうかって、わかるものなのでしょうか。
後遺障害9級の慰謝料の決まり方なんて、普通の人はなかなか知らないですよね。
慰謝料の金額がどのようにして決まるのか、専門家の先生に聞いてみましょう。
慰謝料の決まり方には、3つの種類があります。
①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準と呼ばれるものです。
慰謝料の計算方法を自賠責保険の基準に拠るのか、任意保険の基準に拠るのか、弁護士(裁判所)の基準に拠るのかによって①②③の違いが生じます。
慰謝料の計算の基礎になるのは、ケガや後遺障害の程度といった事実関係です。
慰謝料の計算の仕方にもいろいろとあるのですね。
後遺障害が残ってしまった場合、もしかしたら仕事をやめなくてはならないかもしれないですし、これから先ずっと後遺障害を抱えて生きていかなくてはなりません。
交通事故の被害者としては、被害者にとって一番有利な基準を採用して欲しいものです。
簡単に慰謝料の計算をしてみたい方は、以下の「交通事故慰謝料の相場計算機」を試してみてください^^
この相場計算機は、③の弁護士基準を採用するものなので、保険会社が提示する慰謝料よりも大きな金額になる可能性が大きいです!
適切な慰謝料相場は弁護士基準の金額
慰謝料の決まり方には3つの種類があるということが分かりました。
ここで興味があるのは、私たち事故の被害者にとって一番有利な基準はどれなのか?ということですよね。
後遺障害9級が残ってしまった場合、今後の生活への支障も大きいでしょう。
被害者にとって一番有利な慰謝料の基準を教えてください。
裁判所でも採用される弁護士基準が被害者の方にとって一番有利です。
③の弁護士基準は、民事裁判になった時も採用される、一番公平で、かつ公正な基準です。
これに対して、②の任意保険基準は、保険会社が業界で勝手に採用する基準です。
任意保険基準は、支払われる慰謝料などが低くなる点で、被害者にとって不利です。
慰謝料や示談金の増額が可能なのは、弁護士が示談交渉をすることで、②の任意保険基準から③の弁護士基準に慰謝料の計算方法を変えることが可能だからです。
裁判所も採用する弁護士基準が、私たち事故の被害者にとっては一番有利ということなんですね。
弁護士基準だと、民事裁判になったときも採用されるということで、安心ですよね。
慰謝料の計算基準についてより詳しく知りたい方のために、以下に関連ページをまとめておきました。
後遺障害9級の慰謝料がもらえるケガ
慰謝料相場や慰謝料計算の一般論についてはよく分かりました。
後遺障害9級に特化したポイントは、どのような点になるのでしょう?
9級には以下の表にあるとおり、17通りもの種類があります。
この中でも、10号の神経系統または精神の機能障害が件数としては最も多く、たとえば、高次脳機能障害やうつ病、脊髄損傷などによって認定されることが多いでしょう。
後遺障害9級に該当するケガには、つぎの17パターンがあるようです。
後遺障害9級 | |
---|---|
1 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
2 | 一眼の視力が0.06以下になったもの |
3 | 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
4 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
5 | 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
6 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの |
7 | 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの |
8 | 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
9 | 一耳の聴力を全く失ったもの |
10 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
11 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12 | 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失ったもの |
13 | 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの |
14 | 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの |
15 | 一足の足指の全部の用を廃したもの |
16 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
17 | 生殖器に著しい障害を残すもの |
後遺障害の慰謝料は、等級ごとに相場が決められており、9級の慰謝料の相場は弁護士基準で690万円とされています。
7級以上の後遺障害と検証して低額にはなりますが、保険会社からは、被害者本人に対し相場水準を大幅に下回る300万円程度の慰謝料しか提示されないことが多いです。
被害者としては690万円という金額をしっかり覚えた上で、保険会社との交渉に臨むべきだといえます。
また、9級の後遺障害に対する慰謝料相場は690万円でも、通院期間や入院期間に応じた傷害慰謝料についてはこれとは別に請求することができるので、覚えておきましょう。
弁護士基準と任意保険基準では、倍以上も慰謝料金額が変わってくるのですね。
後遺障害9級の慰謝料の相場や計算についてより詳しく知りたい方のために、関連ページをまとめておきました。
実際の交通事故事例の慰謝料・示談金
①障害等級9級(男性・24歳)損害額6716万7557円の判例
まず、仙台地方裁判所の第3民事部の判決、平成20年(ワ)1401号事件をご紹介します。
24歳の男性が右大腿骨頚部骨幹部骨折などのケガを負った事故です。
属性 | 会社員 |
---|---|
性別 | 男 |
年齢 | 24歳 |
事故の内容 | 加害者車両がカーブを曲がりきれず対向車線にはみ出し、対面通行してきた被害者車両に衝突した。 |
傷害の内容 | 右大腿骨頚部骨幹部骨折、左膝蓋骨開放骨折、右距骨骨折、左肘脱臼骨折、骨盤骨折、左足根骨骨折、右手指伸筋腱断裂、右上腕・大腿・右膝・右手挫創、左正中神経・尺骨神経マヒ、右足関節脱臼骨折、右鎖骨骨折 |
後遺障害等級 | 併合9級(左肘関節の機能障害:12級6号、右手指の関節機能障害:11級9号、右足関節の機能障害:12級7号および右足指関節の機能障害:11級10号で併合10級相当、右下肢の短縮障害:13級9号、左手のシビレ等:14級10号、左下肢の醜状障害:14級5号、右下肢の醜状障害:12級相当) |
入院 | 303日 |
損害総額 | 6716万7557円 |
---|---|
うち慰謝料 | 1400万円 |
うち休業損害 | 1155万2944円 |
うち逸失利益 | 3804万0437円 |
ざっくりまとめると…
被害者の損害額は総額6716万7557円になりました。
- 慰謝料としては、入院・通院に対する慰謝料が570万円、後遺障害の慰謝料が830万円認められました。
- 休業損害は、退職までの期間分の707万7694円については争いはなく、退職後から症状固定日までの期間分については、基礎収入を平16ないし平18男子高卒25歳~29歳の平均収入を用いて算定されました。
- 逸失利益は、男子高卒全年齢平均賃金492万6500円を基礎収入とし、被害者は四肢に後遺障害があることを考慮して45%の労働能力を喪失したものと認め、労働能力喪失期間を症状固定から満67歳までの40年間として算定されました。
弁護士先生、こちらの男性は事故によって四肢に後遺障害が残ってしまったようですね。
この判例のポイントはどのような点になりますか?
本件は、非常に多くの後遺症が残ったケースです。
通常、後遺症の等級がどれだけ多くついても、併合等級ではあまり等級が高くなりません。
今回は、右足関節の機能障害と右足指の機能障害について、準用10級の評価が可能であったため、他の等級と合わせて併合9級という認定がなされました。
後遺症の等級評価の基準は複雑に規定されているため、申請前に弁護士に相談してみることが大切ですね。
②障害等級9級(男・症状固定時37歳)損害額6029万6357円の判例
次に、名古屋地方裁判所の判決、平成19年(ワ)第6411号事件をご紹介します。
会社員の男性が上顎骨骨折などのケガを負った事故です。
属性 | 会社員 |
---|---|
性別 | 男 |
年齢 | 症状固定時37歳 |
事故の内容 | 信号のない交差点で加害普通乗用車と被害自動二輪車が出会い頭で衝突した。 |
傷害の内容 | 上顎骨骨折、左下腿骨開放粉砕骨折など |
後遺障害等級 | 併合9級(左下腿骨開放粉砕骨折に伴う左足関節の機能障害:10級11号、左下腿骨の変形癒合:12級8号、左下肢の醜状損害:12級、右大腿の採皮痕:14級5号) |
入院 | 153日 |
損害総額 | 6029万6357円 |
---|---|
うち慰謝料 | 1020万円 |
うち休業損害 | 1159万4410円 |
うち逸失利益 | 2230万4257円 |
ざっくりまとめると…
被害者の損害額は総額6029万6357円になりました。
- 慰謝料としては、入院・通院に対する慰謝料が320万円、後遺障害の慰謝料が700万円認められました。
- 休業損害としては、被害者は事故当時日額1万4723円の収入を得ていたので、これを基礎収入として算定されました。
- 逸失利益としては、労働能力喪失期間を67歳までの30年、労働能力喪失率27%として算定されました。
弁護士先生、こちらの会社員の男性は、事故のケガによって仕事場で現場復帰の見通しが立たず、退職してしまったようです。
この判例のポイントはどのような点になりますか?
通常、9級の労働能力喪失率は35%として計算しますが、併合9級の場合にはその通りの数値が採用されないケースが多いです。
今回のケースは、右足関節の機能障害での10級の後遺症により、27%の喪失率を評価され、その他の骨の変形や醜状については労働能力に影響を与えないと判断されました。
9級という等級が認定されたからといって、その通り計算するわけではない事例があることが分かりますね。
③障害等級9級(男・58歳 症状固定時60歳)損害額5630万7975円の判例
3つ目に、東京地方裁判所の判決、平成24年(ワ)16459号事件をご紹介します。
個人タクシー業者の男性が、骨盤骨折などのケガを負った事故です。
属性 | 個人タクシー業者 |
---|---|
性別 | 男 |
年齢 | 58歳(症状固定時60歳) |
事故の内容 | タクシーを車道の端に停車させ、後部トランクを開けて荷物を取り出そうとしていたところ、後方から走行してきた加害車が被害者を挟むような形で被害車に追突。 |
傷害の内容 | 骨盤骨折、左大腿骨骨幹部開放骨折、左頚骨高原骨折、右頚骨高原骨折、両下腿コンパートメント症候群、右母指CM関節脱臼骨折 |
後遺障害等級 | 併合9級(左膝関節の機能障害、歩行困難、右手の神経症状、下肢の醜状障害) |
入院 | 256日 |
損害総額 | 5630万7975円 |
---|---|
うち慰謝料 | 1038万円 |
うち休業損害 | 1039万2426円 |
うち逸失利益 | 1373万3842円 |
ざっくりまとめると…
被害者の損害額は総額5630万7975円になりました。
- 慰謝料としては、入院・通院に対する慰謝料が348万円、後遺障害の慰謝料が690万円が認められました。
- 休業損害としては、個人タクシー業で前年度の所得は472万4014円であるため、基礎収入は1日当たり1万2942円とし、症状固定日までの803日を休業期間として認められました。
- 逸失利益としては、労働能力喪失率は35%、症状固定時には60歳であったから労働能力喪失期間は11年、基礎収入は472万4014円として算定されました。
弁護士先生、こちらの男性は個人タクシーを営業されていたようですが、この判例のポイントはどのような点になりますか?
被害者は、症状固定時60歳であり、個人タクシー業を75歳まで稼働できたはずであったと主張しました。
しかし、高齢者の交通事故の逸失利益については、67歳までの年数と、平均余命の2分の1のいずれか長いほうを喪失期間として採用する実務が定着しています。
本件の判決では、平均余命の2分の1である11年間を喪失期間として採用し、被害者側の主張を認めませんでした。
このように、交通事故では実態とは異なる独特の考え方が採用されているため、どのように損害額を計算するのかについては、あらかじめ弁護士に確認する必要があります。
④障害等級9級(男・56歳)損害額5591万7811円の判例
4つ目に、大阪地方裁判所の第15民事部の判決、平成18年(ワ)第9064号事件をご紹介します。
56歳の男性が脊髄損傷などのケガを負った事故です。
属性 | 会社員 |
---|---|
性別 | 男 |
年齢 | 56歳 |
事故の内容 | 交差点で赤信号無視の加害普通乗用車が、青信号で進行した被害原付自転車と衝突した。 |
傷害の内容 | 脊髄損傷、右肋軟骨損傷、左上腕打撲および左大腿挫傷 |
後遺障害等級 | 9級10号 |
入院 | 不明 |
損害総額 | 5591万7811円 |
---|---|
うち慰謝料 | 890万円 |
うち将来の介護費 | 2014万5956円 |
うち逸失利益 | 2002万4494円 |
ざっくりまとめると…
被害者の損害額は総額5591万7811円になりました。
- 慰謝料としては、890万円が認められました。
- 将来の介護費は、被害者1人で服の脱着、荷物の持ち運び、字を書くこと、入浴時の身体を洗うこと等が困難で随時妻の付添介護を必要としており、妻の介護に対し1日当たり4000円が認められました。
- 逸失利益としては、学歴計男性57歳に相当する634万4100円の収入を基礎収入とし、労働能力喪失率は35%、労働能力喪失期間は平均余命の2分の1の12年で算定されました。
弁護士先生、こちらの男性は、脊髄損傷によって左上下肢の後遺障害が9級に認定されたようです。
この判例のポイントはどのような点になりますか?
通常、9級の後遺障害では、将来介護費が認められるケースはほとんどありません。
本件においては、妻による入浴時やその他の動作における介助の必要性を認め、1日当たり4000円の介護費用が認められました。
9級の事例でここまで多くの介護費用を認めるのは異例ともいえますが、裁判では個別的に権利を主張すれば、損害として認められる場合もあります。
⑤障害等級9級(男・症状固定時30歳:中国人通訳、帰化申請中)損害額3999万2659円の判例
最後に、東京地方裁判所の判決、平成18年(ワ)第16910号事件をご紹介します。
帰化申請中の男性が、両肩打撲などのケガを負った事故です。
属性 | 会社員 |
---|---|
性別 | 男 |
年齢 | 症状固定時30歳 |
事故の内容 | 商店街の交差点を青信号で左折中の加害車両(普通乗用車)と、左折先横断歩道を右から左へ直進していた被害車両(自転車)が衝突した。 |
傷害の内容 | 両肩打撲、頸椎捻挫、頭部打撲、脳震盪、難聴 |
後遺障害等級 | 9級9号 |
入院 | 0日 |
損害総額 | 3999万2659円 |
---|---|
うち慰謝料 | 760万円 |
うち休業損害 | 65万9847円 |
うち逸失利益 | 3155万5112円 |
ざっくりまとめると…
被害者の損害額は総額3999万2659円になりました。
- 慰謝料としては、通院に対する慰謝料が60万円、後遺障害の慰謝料が700万円認められました。
- 休業損害としては、症状固定日までの69日間を休業日数、日額9563円(事故前3か月の平均日額)を基礎収入として算定されました。
- 逸失利益は、被害者は同時通訳という業務に従事していたことと後遺障害の内容を考慮すると、労働能力の35%程度を喪失、喪失期間は症状固定時の30歳から67歳までの37年間として算定されました。
弁護士先生、こちらの男性は日本の大学を卒業して、日本国内で就職し、帰化申請中だったようですね。
この判例のポイントはどのような点になりますか?
本件では、被害者が事故により頭部を打撲し、その後に片耳が全く聞こえなくなった結果、9級の後遺障害が認定されました。
加害者側は事故と難聴との間の因果関係を争いましたが、裁判所は因果関係を認める判断を行いました。
事故により脳や神経の損傷がなくても、事故後に実際に難聴が生じ、事故以外に原因が考えられない場合には因果関係が認められることもあります。
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まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
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