交通事故と役員報酬|会社役員は休業損害もらえるの?小規模法人の休業補償は?
交通事故で会社役員の方が怪我をされたら、休業損害も高額化しそうなイメージがありますよね。
一方で、休業しても会社から支払われる役員報酬に関しては、被害者に損害がないようにも思えます。
- 会社役員の役員報酬に関する休業損害は、そもそも認められるの?
- 役員報酬の計算方法は一体どうなっている?
- 休業損害の支払時期は?
このページでは、そんな会社役員の休業損害に関するお悩みを解決すべく、調査していきたいと思います。
調査だけではわからない、専門的な話や実務的な話は岡野先生にお尋ねしていきたいと思います。
弁護士の岡野です。
休業損害は、事故にあわれた被害者の当面の生活に影響する重要なものです。
サラリーマンに代表される給与所得者の場合は、事故で休み、給料が減額すれば問題なく休業損害を請求できますよね。
他方で、会社役員の場合には、休業しても報酬が減額しないことが多く、休業損害として請求できるかどうか分かりにくいと思います。
保険会社から会社役員は休業損害は支払えませんといわれることもあるそうですが本当にそうなのか、検討していきましょう。
目次
交通事故の休業補償ですが、会社役員だと休業しても保障はしないのでしょうか。
ネット上でも同様の質問を発見しました。
やはり疑問をお持ちのようです。
通常の会社員の場合は、事故で減収すれば休業損害もらえるそうですが・・・
会社役員の場合、休業損害がもらえるのかどうか、その計算はどうなっているのでしょうか。
休業損害の基礎知識
休業損害ってどんな損害?
休業損害は財産的損害
交通事故が発生した場合、様々な損害が発生しますが、損害は大きく
- 財産的損害
- 精神的損害
に分けられます。
財産的損害とは、簡単に言うとお金の面で生じた不利益のことをいいます。
これ対して精神的損害とは、お金の面ではなく、けがの痛みに耐えなければならなくなるなどの精神的な不利益のことをいいます。
休業損害は、収入の減少というお金の面での損害ですので、財産的損害となります。
他方、慰謝料は負傷したことが原因となり精神的な不利益を受けたことの損害ですから、精神的損害に分類されます。
休業損害は消極損害
上で説明した財産的な損害は、さらに
- 積極損害
- 消極損害
に分類できます。
積極損害とは、ここでは事故による怪我で余計な出費が必要となった場合の増えてしまった支出部分のことをいいます。
消極損害とは、反対に事故による怪我で本来得られた利益が得られなくなった場合の減ってしまった収入部分のことです。
休業損害は、治癒あるいは症状固定までの期間働くことができずに収入が減少したことによる損害ですから財産的損害のうち消極損害に分類されます。
一方で、上で説明したとおり、慰謝料は精神的損害となります。
このように、休業損害と慰謝料は損害の分類上も全くの別物ということが分かりますね!
休業損害は実際にお金の面で不利益が生じているため、財産的損害であり、精神的損害である慰謝料とは別の種類の損害ということになります。
積極損害 | 消極損害 | |
---|---|---|
財産的損害 | 治療費など | 休業損害など |
精神的損害 | 慰謝料など |
主婦や無職の人は休業損害をもらえないの?
そうすると、交通事故がなくても元々収入のない方や事故によっても収入や利益の減らない人は、休業損害はもらえないということになりそうです。
実際、
- 学生
- 年金受給者
- 生活保護受給者
- 不動産オーナー
の方などは休業損害をもらうことはできません。
しかし、主婦(家事従事者)の方は、事故により家事ができなくなった場合、休業損害をもらうことができます。
家事労働は、社会的に金銭として評価できるものと考えられているからです。
下記の最高裁判例でも同様のことが述べられています。
家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げている
出典:最判昭和49年7月19日
いわゆる家政婦の方に家事をお願いする場合、金銭を支払わなければならないことを考えれば、当然のことかもしれませんね。
自賠責の支払基準においても、主婦(家事従事者)の休業損害は認められています。
家事従事者については、休業による収入の減少があったものとみなす。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
また、事故当時無職であった場合でも、内定先が決まっている場合などには、休業損害が認められる可能性があります。
主婦の方は、実際にお金が入ってこなくなるわけではないため、休業損害の請求を忘れてしまっている場合があるので注意しましょう。
また、事故当時無職の方なども、事故がなければ、事故後収入が得られたはずであるかどうかの就労の蓋然性の有無が重要といえるでしょう。
職業 | 休業損害 |
---|---|
会社員 | ○ |
個人事業主 | ○ |
主婦(家事従事者) | ○ |
学生(アルバイト) | ○ |
学生(無職) | △※ |
年金受給者 | × |
生活保護受給者 | × |
不動産オーナー | × |
※事故後就労していた蓋然性があれば○の可能性あり
会社役員の休業損害の計算方法をチェック
一般的な休業損害の計算方法
休業損害がどんなものかを簡単に確認しました。
ここでは、基礎編として休業損害の計算をみていきたいと思います。
どうやら、休業損害の請求先によって、計算方法は違うようです。
会社役員の休業損害の計算方法について解説する前に、一般的な計算方法をチェックしておきましょう。
自賠責保険の場合
自賠責保険に対して、休業損害を請求する場合の計算方法は以下のとおりとなります。
5,700円×休業日数
ただし、1日の休業損害が5,700円を超えることを資料などで証明できれば19,000円までは日額の増額が認められています。
上限がある反面、日額が5,700円以下の方でも、休業による収入の減収さえあれば、日額5,700円で計算されるので、収入の低い人にとり有利です。
2.休業損害
(1)休業損害は、休業による収入の減収があった場合・・・1日につき原則として5,700円とする。
(2)休業損害の対象となる日数は、実休業日数を基準とし・・・治療期間の範囲内とする。
(3)立証資料等により1日につき5,700円を超えることが明らかな場合は、自動車損害賠償保障法施行令第3条の2に定める金額を限度として、その実額とする。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
(略)政令で定める額は、一日につき一万九千円とする。
出典:自動車損害賠償保障法施行令第3条の2
任意保険・裁判の場合
一方、任意保険や裁判所に対して、休業損害を請求する場合の計算方法は以下のとおりとなります。
1日あたりの基礎収入×休業日数
1日あたりの基礎収入をどうやって割り出すかは職業別に異なります。
本ページのテーマである会社役員については下で説明していますので、ぜひご覧になってください。
日額5,700円未満の人は実際の日額で計算される反面、証明できれば、19,000円を超える日額も認められるので、収入の高い人にとり有利です。
この話の中で誤解されがちですが、休業損害の請求において、日額が最低5,700円になるわけでは必ずしもないということは注意しましょう。
よく自賠責保険は最低限の補償をする保険と言われるため、日額が自賠責で定められた5,700円以下になるのはおかしいとおっしゃる方がいます。
しかし、自賠責保険の基準が用いられるのは、治療費や慰謝料などを合わせた損害賠償の総額が120万円以内の場合のみとなります。
損害賠償の総額が120万円を超えた場合には自賠責保険の基準は用いられなくなり、任意保険基準や裁判基準が用いられることになります。
他の項目では任意保険基準や裁判基準を用い、休業損害の項目だけ自賠責保険の基準を用いるといういいとこ取りはできないので注意が必要です。
自賠責保険 | 任意保険・裁判 | |
---|---|---|
原則 | 5,700円 | 1日あたりの 基礎収入 |
上限 | 19,000円 | |
どんな人が得 | 収入の低い人 | 収入の高い人 |
妥当な金額はいくら?会社役員の休業の計算方法
会社役員の場合、その報酬は一年間で決められており、休んでも減額されないことが多いようです。
そうすると、収入の減少がないため、休業損害が認められなさそうですが・・・
会社役員の休業損害
会社役員の役員報酬は
- 労務提供の対価部分
- 会社の利益配当部分
の二つの側面があり、労務提供の対価部分については、使用人(給与所得者)同様、休業損害の対象になります。
問題は、役員報酬に占める労務提供部分がどれくらいかということで実務上も問題となることが多いそうです。
労務提供の部分がどれくらいの割合を占めるかは
- 会社の規模・収益・業務内容
- 役員の職務内容
- 使用人に対する給料の支払状況
などを参考にして判断していくものと考えられているようですね。
そもそも、名目上は会社役員でも、一人会社の社長のように個人事業主として扱った方がいい場合もあるので注意が必要です。
なお、会社役員の報酬は、株主総会の決議などを経なければそもそも減額できません。
また、会社が、被害者の一人会社や家族経営の会社の場合など、総会の判断を被害者がコントロールしうる場合
- そもそも減額の決議の必要があったのか
- 形だけでなく実際に減額がなされているか
などについて争われるケースがあります。
なるほど、会社役員の場合、株主総会の決議などで報酬を決め、経費として扱われていることもあり、休んでも減額されないことが多いのですね。
ただ、実際に休業が原因で減収した場合には、それが労務提供の対価部分ということで請求ができるということです。
この辺りは、一言に会社といっても大企業から中小企業まで様々で、実際の業務の性質等によって報酬の性質も異なりそうですね。
会社役員の休業損害は、休業して減収する労務提供の対価部分についてのみ認められる。
報酬の性質 | 休業による減収 | 休業損害の対象 |
---|---|---|
会社の利益配当部分 | 減収なし | × |
労務提供の対価部分 | 通常減収 | ○ |
【番外編】会社が間接損害の賠償を請求
会社役員自体の報酬に減額がない場合、確かに役員に交通事故での負傷による損害はなさそうです。
ただ、会社としては、休業でその役員の労務の提供を受けられなかったにもかかわらず、報酬が減額しません。
したがって、これを会社のいわゆる間接損害として、加害者側に請求することはできます。
ただし、これは会社役員の請求とは全く別ものになります。
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かんたん1分!慰謝料計算機
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この計算機で計算できるのは、上記の任意保険、裁判基準の休業損害です。
休業損害として、保険会社からはもっと低い金額を提示される場合があります。
判例にみる!会社役員の休業損害
計算方法は分かったものの、実際には会社役員の休業損害がどのように計算されるか実例が気になるところと思います。
そこで、ここでは会社役員の休業損害について、実際の裁判例における判断を見ていきます。
なお、計算方法や計算のポイントは、岡野先生に解説してもらいます。
ケース①会社役員・後遺障害併合9級
被害者 | 会社役員 |
---|---|
年齢 | 男性・症状固定時40歳 |
事故内容 | 高速道路上で普通乗用自動車が自動二輪車(夫乗車)に追突し、バランスを崩した自動二輪車がさらに前方の自動二輪車(妻乗車)に追突。 |
負傷内容 | 腰椎横突起骨折、左脛骨骨折、頭部外傷(II)、頚椎捻挫、両下腿打撲挫傷、右上肢打撲挫傷、胸腹部打撲挫傷、麻痺性イレウス、外傷性ショック、急性循環不全、仙骨骨折、骨盤骨折、外傷性脾損傷、腹腔内出血、両膝打撲擦過傷等 |
入院・通院 | 13・8・19~14・9・26 入院87日 通院実日数59日 症状固定14・9・26 |
後遺障害 | 併合9級 |
総損害額(認容) | 3347万5927円 |
休業損害(認容) | 196万5925円 |
本件の被害者は、会社役員の方で併合9級の重症を負われたようですね。
休業損害を計算するうえで、ポイントはどういった点になりますか。
本件の休業損害は、被害者が請求していた531万2850円のうち、196万5925円が認容されました。
本件では、争点の一つであった被害者の基礎収入について、被害者は
事故前に実際に支払われていた役員報酬月額20万円
の他
運営手法として未払いにしていた役員報酬20万円
についても、請求しました。
これに対して、判決は後者の未払い分20万円について収入と認めることはできないとして、[労務対償性のある基礎収入を前者のみの月20万円として休業損害を計算しています。
課税されず公的にも収入とされてない以上、後から収入に含めるのは困難との判断が結論に影響しています。
休業損害の計算の基礎に入れるかどうかの判断については、その部分の報酬が実際に課税されているかどうかも要素の一つになることがあります。
ケース➁会社社長
被害者 | 会社社長 |
---|---|
性別・年齢 | 男性・65歳 |
事故内容 | 降雨中の見とおしの悪い信号機のない交差点における優先道路を直進中の加害車両(乗合バス)とその右方から直進中の被害車両(普通乗用車)との出会いがしらの衝突事故。 |
負傷内容 | 頸部捻挫、背部筋挫傷 |
入院・通院 | 通院期間16・10・27~17・1・31 通院実日数33日 |
後遺障害 | - |
総損害額(認容) | 270万1495円 |
休業損害(認容) | 207万6679円 |
本件会社役員の被害者は、休業損害として1304万円余りの請求をしていたところ、207万円余りが認容されました。
休業損害の計算ポイントはどういった点になりますか。
本件社長は、弁護士資格も有していたようですね。
業務統括部長としての給与の他、弁護士報酬相当額、会社損害として支払われた休業中の手当も請求されました。
しかし、判決は労務対償性がある収入額として結局賃金センサスを基礎収入として計算されております。
その理由は、本件被害者は、所得証明や法人税確定申告書添付書類の写しの提出を拒否しており、信用できる証拠がないことでした。
そこで通常の給与所得者のように、賃金センサスの平均賃金額をもって基礎収入としています。
- 基礎収入(日額)を、708万4000円÷365
- 就労ができなかったと認められる期間を、107日間
として、休業損害を、708万4000円÷365×107日とし、従業員としての業務対償性207万6679円のみとしました。
このように、裁判においては休業損害の基礎とする収入につき、所得に関する確実な資料が提出できない場合、やむなく平均賃金を参考に計算されることがあります。
ケース➂薬局経営 代表取締役
被害者 | 薬局経営 有限会社代表取締役(男性) |
---|---|
性別・年齢 | 男性・42歳 |
事故内容 | 追突事故 |
負傷内容 | 頸椎捻挫、腰椎捻挫、左手関節捻挫、左足関節捻挫 |
入院・通院 | 通院期間22・9・9~23・6・9 実通院日数18日 |
後遺障害 | - |
総損害額(認容) | 138万5170円 |
休業損害(認容) | 24万9600円 |
本件の被害者は、薬剤師の資格をもつ薬局経営者・有限会社代表取締役の男性です。
本件の休業損害の計算ポイントはどういった点になりますか?
本件の場合、被害男性は休業損害として24万9600円の請求をし、全額認容されています。
通常、会社役員の休業損害は、労務対価の部分と報酬の部分に分けられ、裁判ではやはりその割合がどれくらいか争われることが多いと言えます。
この点、被害者は実質的に管理薬剤師として業務しており、報酬の労務対価的性質が強い等の事情から、本件では前年度の実収入を日額に換算した金額をそのまま計算の基礎として認めています。
このように会社役員であっても、比較的小規模で実際の業務内容が一般の従業員とほぼ同様である場合には、給与所得者と同様の計算を用いることがあります。
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ここまで、交通事故の休業損害についてご説明してきました。
しかし、結局自分の場合の具体的な計算が難しかったり、新しく疑問が出たりしたかもしれません。
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最後に一言アドバイス
では、岡野先生、最後にまとめの一言をお願いします。
会社役員の交通事故による休業損害の問題については、労務対償部分と利益配当部分に分けて考える視点が重要です。
ただ、実際にはどの部分が労務対償としての性格を持つのかの判断が複雑となる事があります。
不測の事故での怪我をされた場合、被害者は正当な補償を受けるべきといえます。
そのためにも、まずは気軽にできる方法で、ぜひ弁護士に相談してみてください。
弁護士に依頼すれば、事故後の生活の不安もなくなり、治療に専念できる状況を生み出せる可能性が高まるでしょう。
まとめ
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。