後遺障害逸失利益の計算方法|計算機や14級・12級の年数の注意点も紹介!
「交通事故で後遺障害が認定されると逸失利益というのを請求できるって聞いたけど計算方法はどうなってるの?」
「後遺障害逸失利益の計算ソフトがあるって本当?」
交通事故にあわれて後遺障害まで残ってしまった方からすれば、せめてなるべく多くの損害賠償額を受け取りたいと思われるのではないでしょうか?
交通事故に巻き込まれるというのは、はじめての方が多いでしょうから後遺障害による逸失利益の計算方法なんて知らなくて当然かと思います。
しかし、後遺障害の逸失利益の計算方法を理解しておかないと最終的にもらえる賠償額が少なくなってしまう可能性があるんです!
このページでは、そんな方のために
- 後遺障害による逸失利益とは何か
- 後遺障害の逸失利益の計算方法
- 逸失利益の計算ソフト
といった事柄について、徹底的に調査してきました!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
後遺障害による逸失利益は交通事故の損害賠償の中で大きな割合を占める損害の項目です。
その後遺障害による逸失利益の計算方法を理解せずに示談をしてしまえば、その後に追加で請求することはできません。
示談してしまった後に後悔することが無いよう、後遺障害の逸失利益の計算方法をしっかり理解しておきましょう。
目次
そもそも、慰謝料とは異なり、逸失利益というのは聞き慣れない言葉ですよね。
そこで、まずは、交通事故の後遺障害による逸失利益とは何かについて調査・報告していきたいと思います!
交通事故の後遺障害による逸失利益とは何か
逸失利益の定義
逸失利益とは、一般的に
不法行為がなければ被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害
と定義付けられています。
損害の一種だということは分かりましたが、どんな損害のことなのか正直良くわかりませんね・・・。
交通事故の損害としてよく聞く慰謝料とは別物なのでしょうか?
逸失利益とは消極損害の一つ
逸失利益は財産的損害
交通事故が発生した場合、様々な損害が発生しますが、損害は大きく
- 財産的損害
- 精神的損害
に分けられます。
交通事故が発生すると、お金の面で様々な不利益が生じることになります。
これを財産的損害といいます。
また、事故にあうと、けがの痛みに耐えなければならなくなるなどの不利益も生じます。
この不利益は、それ自体でお金の面での不利益が生じているわけではないですが、精神的な苦痛を負っているといえます。
これを精神的損害といいます。
そして、精神的損害は本来金銭では評価できないものですが、精神的苦痛をなぐさめるために支払われる金銭を慰謝料といいます。
逸失利益は慰謝料とは異なり、実際に経済的利益を失っているので財産的損害に当たります。
逸失利益は消極損害
さらに、財産的損害は
- 積極損害
- 消極損害に分けられます。
積極損害とは、交通事故によりせざるを得なくなった支出のことをいいます。
代表的なものとしては、治療費や通院交通費などがあります。
それに対して、消極損害とは、交通事故により本来得られるはずであった収入や利益を失ったことをいいます。
この消極損害の一つとして逸失利益があります。
休業損害は同じ消極損害ではありますが、症状固定までの間に実際に休業により得られなかった収入減についての損害になります。
休業損害と逸失利益は、症状固定の前後で区別されることになります。
積極損害 | 消極損害 | |
---|---|---|
財産的損害 | 治療費など | ・逸失利益 ・休業損害 |
精神的損害 | 慰謝料など |
後遺障害による損害は逸失利益と慰謝料
そして、後遺障害による損害は大きく
- 逸失利益
- 慰謝料
の二種類に分けられます。
つまり、逸失利益は後遺障害による損害項目の一つということになります。
後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等とし、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める等級に該当する場合に認める。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
上記の支払基準に記載されているとおり、自賠責保険では、後遺障害による損害は後遺障害等級に該当(認定)された場合にしか認められません。
任意保険の対応や裁判でも、自賠責保険の後遺障害等級認定の判断が尊重されます。
つまり、原則として後遺障害による逸失利益を請求できるのは後遺障害等級に該当(認定)された場合のみになります。
後遺障害の等級が認定されると損害賠償額は大幅に増額するので、適切な後遺障害等級の該当(認定)を目指すことが重要になってきます。
また、逸失利益と慰謝料は別の損害の項目なので、それぞれ別個に請求できます。
後遺障害の逸失利益は将来得られたはずの収入の減収の補填
そして、後遺障害の逸失利益とは、
交通事故による後遺障害が残存しなければ被害者が得られたであろう経済的利益を失ったことによる損害
をいいます。
この失われた「経済的利益」をどう考えるかで争いがありますが、判例は以下のように判断しています。
かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。
(略)
現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難い(略)にもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべき(以下略)
出典:最高裁昭和56年12月22日判決
少し長いのでまとめると、判例は
- 原則として後遺障害の逸失利益の請求には収入の減少が必要である
- 場合によっては労働能力の喪失自体を失われた経済的利益とみることができる
と判断しています。
判断の難しい問題を含んでいますので、ここでは、後遺障害の逸失利益とは
後遺障害が残らなければ将来得られたはずの収入の減少を補うための損害項目
というように理解しておけばよいでしょう。
後遺障害の逸失利益の計算方法
逸失利益の一般的な計算方法
そして、皆さんが気になっているであろう後遺障害の逸失利益の計算方法は以下のようになります。
(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)
計算方法を聞いただけでは、あまりイメージが付きませんね・・・。
やはり、素人では後遺障害の逸失利益を計算するのは難しいのでしょうか?
聞き慣れない単語が並んでいて難しそうに感じるかもしれませんが、計算方法自体は比較的単純なものです。
簡単に言えば、この計算式は働ける期間の収入の減少分を一括してもらうためのものです。
計算式で使われている各項目の意味さえ理解すれば、ご自身で計算することも十分可能です。
そうなんですね、安心しました!
各項目の詳しい内容は個別に見ていく予定ですが、とりあえず、簡単に表にまとめてみました。
項目 | 意味 | |
---|---|---|
① | 基礎収入 | 後遺障害が残らなければ、得られていたであろう収入 |
② | 労働能力喪失率 | 後遺障害が残ったことによる減収の割合 |
③ | 労働能力喪失期間 | 後遺障害によって減収が発生する期間 |
④ | ライプニッツ係数 | 逸失利益を症状固定時の金額にするための係数 |
自賠責の後遺障害の限度額は逸失利益と慰謝料の総額
上記の計算式自体は自賠責の場合も同じです。
もっとも、自賠責の後遺障害の保険金は等級ごとに限度額が定められています。
そして、その限度額は逸失利益と慰謝料の総額になります。
自賠責保険の後遺障害慰謝料も等級ごとに定額となっているところ、自賠責保険の等級ごとの限度額と後遺障害慰謝料を表にまとめてみました。
等級 | 限度額 | 慰謝料 |
---|---|---|
第1級(別表第1) | 4000万円 | 1600万 |
第2級(別表第2) | 3000万円 | 1163万 |
第1級(別表第2) | 1100万 | |
第2級(別表第2) | 2590万円 | 958万 |
第3級 | 2219万円 | 829万 |
第4級 | 1889万円 | 712万 |
第5級 | 1574万円 | 599万 |
第6級 | 1296万円 | 498万 |
第7級 | 1051万円 | 409万 |
第8級 | 819万円 | 324万 |
第9級 | 616万円 | 245万 |
第10級 | 461万円 | 187万 |
第11級 | 331万円 | 135万 |
第12級 | 224万円 | 93万 |
第13級 | 139万円 | 57万 |
第14級 | 75万円 | 32万 |
この限度額があることにより、自賠責保険から受け取れる後遺障害の逸失利益は、計算上どんなに大きくなっても
各等級の限度額と後遺障害慰謝料の差額
までとなります。
上の表を参考にすれば、14級が認定された場合、自賠責保険から支払われる後遺障害の逸失利益は、75万円-32万円=43万円までです。
計算上生じた残りの差額は相手方の任意保険から回収する必要があります。
後遺障害の逸失利益を任意保険はどう計算する?
では、その任意保険は後遺障害の逸失利益をどのように計算しているのでしょうか?
実は、慰謝料の場合と異なり、後遺障害の逸失利益の計算方法自体は任意保険でも同じとなっています。
もっとも、任意保険は、その計算方法の各項目の数字を低く抑えることで、結果的に逸失利益の金額を低額にすることがあります。
逸失利益 | 慰謝料 | |
---|---|---|
基準 | 同じ | 違う |
金額 | 低い | |
金額の理由 | 基準に入る数字を抑える | 用いる基準の額が低い |
任意保険会社が計算式に入る数字を低く抑えている場合、その主張が正当なものかどうかを判断する必要があります。
その判断は経験のない方ですと、難しいことも多いので、ひとまず交通事故の経験豊富な弁護士に相談してみることをおすすめします。
後遺障害が非該当でも逸失利益を認めた裁判例も・・・
先ほどもお伝えしたとおり、自賠責保険では、後遺障害による損害は後遺障害等級に該当(認定)された場合にしか認められません。
そして、裁判でも、自賠責保険の後遺障害等級認定の判断が尊重されます。
つまり、自賠責保険で後遺障害が非該当と判断された場合には、裁判でも原則として後遺障害の逸失利益は認められません。
もっとも、裁判所は自賠責保険の判断を尊重するにとどまり、その判断に拘束されるわけではないことになっています。
そのため、下記のような、自賠責保険では後遺障害が非該当と判断されながら、後遺障害の逸失利益を認めている裁判例も存在します。
(略)
原告は、平成19年2月23日、自賠責保険の後遺障害に該当しないとする自賠責保険の支払不能の通知を受けた。
(略)
原告のPTSDによる後遺障害は、自賠責後遺障害11級相当(労働能力喪失率20%)として扱うのが相当である。
(略)
キ 後遺障害逸失利益 530万947円
(以下略)
出典:京都地判平成23年4月15日
また、自賠責保険で認定された等級に基づく喪失率よりも高い喪失率で、後遺障害の逸失利益を計算した裁判例もあるようです。
レポートにあるとおり、裁判所は自賠責保険の判断を尊重するので、自賠責保険の後遺障害の判断を争うには
適切な主張と主張を裏付ける証拠
が不可欠となります。
そして、適切な主張と主張を裏付ける証拠の収集は経験のない方では困難ですので、裁判で自賠責保険の後遺障害の判断を争うのであれば
必ず弁護士に依頼
した方が良いでしょう。
労災の受給分は後遺障害の逸失利益から控除!?
なお、交通事故が労災の場合、労災保険で後遺障害が認定されると、
- 障害補償給付
- 障害特別支給金
が支払われることになります。
この障害補償給付は、後遺障害の等級が
- 1級〜7級では年金
- 8級〜14級では一時金
として支払われます。
同じ、交通事故による後遺障害を理由として受領する金銭であることからすると、受給分は後遺障害の逸失利益から控除されるのでしょうか?
障害補償給付は支給確定分のみ控除
障害補償給付は障害が残ったことによる損害の補填という意味で後遺障害の逸失利益と同じ目的を有していることから
障害補償給付は後遺障害の逸失利益から控除されることになっています。
ただし、先ほど説明したとおり、7級以上は年金の形で受領し、後遺障害の逸失利益を受給する時点で、支給が未確定の部分がある可能性があるところ
控除されるのは支給を受けることが確定している限度
になります。
障害特別支給金は控除されない
一方、障害特別支給金は後遺障害の逸失利益から控除されないことになっています。
これは、特別支給金は労働福祉事業の一環として、労働者の福祉の増進を図るために支給されるもので、損害填補のためではないからです。
裁判例でも同趣旨のことが述べられています。
労災保険金(略)の特別支給金、特別年金は労働福祉事業の一環として、労働者の福祉の増進を図るために支給されるもので、損害填補のためではないから、損害賠償額から控除すべきものには当たらないというべきである。
出典:大阪地判平成3年1月17日
障害補償給付 | 障害特別支給金 | |
---|---|---|
支給済・支給確定済 | 控除される | 控除されない |
支給未確定 | 控除されない |
控除の対象となるかどうかやどの費目から控除してよいかの判断は経験のない方ですと、困難な面もあると考えられます。
交通事故の経験豊富な弁護士に相談して確認することが一番確実といえるでしょう。
逸失利益の計算に必要な基礎収入と労働能力喪失率・喪失期間とは?
基礎収入は将来得られていたであろう収入
後遺障害の逸失利益の計算方法について学んだところで、ここからは各項目について詳しく見ていきたいと思います!
まず、基礎収入の項目についてですが、これは
後遺障害が残らなければ、将来得られていたであろう収入
のことをいいます。
具体的には、原則として事故前の現実収入を基礎とするようです。
そうすると、現実収入のない主婦や学生などは基礎収入がなく、逸失利益が認められないことになるのでしょうか?
事故前に現実収入のない方でも逸失利益は認められることがほとんどです。
ただし、基礎収入の算出方法が異なりますので、その点は注意が必要です。
そうなんですね・・・現実収入がない場合でも逸失利益が認められるとわかって安心しました!
基礎収入の算出方法は分かりにくい場合もあるので、より詳しく知りたいという方は以下のページをご覧になってみて下さい。
こちらのページには
- 基礎収入のより詳しい算出方法
- 基礎収入の項目で問題になる点
が記載されています!
労働能力喪失率の原則と例外|併合の場合要注意!
原則は後遺障害の等級ごと
続いては、労働能力喪失率の項目についてですが、これは
後遺障害が残ったことによる減収の割合
のことをいいます。
冒頭で説明したとおり、後遺障害の逸失利益は
後遺障害が残らなければ将来得られたはずの収入の減少を補うための損害項目
であり、減収の割合分を補填すれば足りることになるからです。
とはいえ、後遺障害が残ったことによりどれだけ減収するかは将来のことですから、はっきりはわかりませんよね。
そこで、自賠責保険は後遺障害の等級ごとに喪失率を定めて、逸失利益の金額を算出しています。
具体的な等級ごとの喪失率は以下の表のようになっています。
なお、自賠責保険は後遺障害慰謝料の額も等級ごとに定めているので、参考までにあわせて表に記載してみました。
等級 | 労働能力喪失率 | 慰謝料 |
---|---|---|
第1級(別表第1) | 100% | 1600万 |
第2級(別表第2) | 100% | 1163万 |
第1級(別表第2) | 100% | 1100万 |
第2級(別表第2) | 100% | 958万 |
第3級 | 100% | 829万 |
第4級 | 92% | 712万 |
第5級 | 79% | 599万 |
第6級 | 67% | 498万 |
第7級 | 56% | 409万 |
第8級 | 45% | 324万 |
第9級 | 35% | 245万 |
第10級 | 27% | 187万 |
第11級 | 20% | 135万 |
第12級 | 14% | 93万 |
第13級 | 9% | 57万 |
第14級 | 5% | 32万 |
この表に基づく労働能力喪失率は原則として、任意保険との交渉や裁判の場においても用いられているようです。
実際に、後遺障害が残ったことにより、どれ位労働能力が失われたかを判断するのには時間がかかり、判断が難しいことも多いです。
そこで、迅速かつ公平に逸失利益を算出できるようにするため、自賠責保険は等級ごとに一律に労働能力喪失率を定めているといえます。
例外①後遺障害の内容
もっとも、任意保険との交渉や裁判の場においては、例外的に等級ごとに定められた労働能力喪失率が認められない場合もあるようです。
一般的に、後遺障害の等級は上位(数字が小さい)等級ほど症状が重いため、その分労働能力喪失率も高く設定されています。
しかし、後遺障害は同じ等級の中に様々な症状が「号」として規定されています。
その症状の中には、直ちに労働能力が失われるとは考えにくい症状も含まれています。
そういった症状の場合、任意保険会社や裁判所は
- 等級で定められた労働能力喪失率より低い喪失率で計算
- 労働能力が喪失されていないとして逸失利益を否定
する場合があります。
具体的に労働能力喪失率が争われやすい後遺障害の症状と等級・号数を以下の表にまとめてみましたので、ご参照下さい。
症状 | 等級・号数 | |
---|---|---|
① | 外貌醜状 | ・7級12号 ・9級16号 ・12級14号 |
② | 変形障害 | ・6級5号 ・8級相当 ・11級7号 ・12級5号 |
③ | 歯牙障害 | ・10級4号 ・11級4号 ・12級3号 ・13級5号 ・14級2号 |
④ | 嗅覚・味覚障害 | ・12級相当 ・14級相当 |
上記の表のような症状で労働能力喪失率が争われた場合でも、
- 職務内容
- 具体的な症状
などから実際の労働に支障が生じていることを具体的に主張立証することにより、提示されている逸失利益から増額できる場合があります。
労働能力喪失率が争われている方は、すぐに示談してしまわず、示談する前に弁護士に相談してみることをおすすめします。
例外②併合等級の内容
また、交通事故では、複数の箇所にケガをすることも多いため、二つ以上の後遺障害が認定される場合があります。
このことを自賠責保険では併合といいます。
そして、併合の場合の自賠責保険の等級の取扱いは原則として以下の表のようになっています。
場合 | 等級の取扱い | |
---|---|---|
① | 原則 | 重い方の等級 |
② | 13級以上の後遺障害が2つ以上認定 | 重い方の等級を1級繰上 |
③ | 8級以上の後遺障害が2つ以上認定 | 重い方の等級を2級繰上 |
④ | 5級以上の後遺障害が2つ以上認定 | 重い方の等級を3級繰上 |
※例外あり
併合して等級が繰上げになった場合、労働能力喪失率も原則として繰上げされた等級に定められた割合で計算されることになります。
ただし、認定された後遺障害等級の中に、先ほどの労働能力喪失率が争われやすい症状が含まれている場合
任意保険会社や裁判所は
- 労働能力喪失率が争われやすい症状が軽い方の等級であれば繰上げ前の等級
- 労働能力喪失率が争われやすい症状が重い方の等級であれば軽い方単体の等級
に定められた労働能力喪失率で逸失利益を計算する場合があります。
単純に認定された併合等級を基礎に逸失利益を計算していると、賠償額の見込みが狂う場合があるので、その点は注意しましょう。
もっとも、例外①同様、労働能力喪失率が争われやすい症状が含まれている場合でも、
- 職務内容
- 具体的な症状
などから実際の労働に支障が生じていることを具体的に主張立証することにより、繰上げ後の等級に定められた割合で計算できる場合があります。
併合で等級が繰上げられた場合の労働能力喪失率が争われている方は、すぐ示談せずに、示談する前に弁護士に相談してみることをおすすめします。
後遺障害の等級の併合についてより詳しく知りたいという方は以下のページをご覧になってみて下さい。
例外③現実の収入減との差
先ほどお伝えしたとおり、労働能力喪失率は
後遺障害が残ったことによる減収の割合
であるところ、後遺障害が残ったことによりどれだけ減収するかは将来のことですから、はっきりわからない部分があります。
とはいえ、症状固定後に減収が発生していないことは判明している場合があります。
そういった場合、後遺障害の症状は症状固定直後が一番重いと考えられることから、任意保険会社が
症状固定後に減収が発生していない以上、今後も減収は発生しないとして逸失利益を否定
してくる場合があります。
確かに、冒頭で紹介のあった判例でも、現状において財産上特段の不利益がない場合には、原則として逸失利益は認められないと判断しています。
しかし、その判例にも記載されているとおり、現状において財産上特段の不利益がない場合でも
- 収入が減少していない理由が本人の努力や周囲の協力にあること
- 昇給が遅れるなど将来的に不利益が生じる可能性があること
などを具体的に主張立証することにより、逸失利益が認められる場合があります。
反対に、症状や実際の仕事への影響を具体的に主張立証することにより、等級に基づく喪失率以上の割合で逸失利益を計算した判例もあります。
現実の収入減と等級で定められた労働能力喪失率に差がある場合には、どちらの当事者も争う余地があるということですね。
なお、岡野弁護士からご指摘のあった判例は以下のような内容となっておりますので、よろしければご参照下さい。
交通事故による傷害のため、労働能力の喪失・減退を来たしたことを理由として、得べかりし利益の喪失による損害を算定するにあたつて、(略)労働能力喪失率表が有力な資料となることは否定できない。
しかし、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、被害者の職業と傷害の具体的状況により、同表に基づく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できることはいうまでもない。
出典:最判昭和48年11月16日
いずれにせよ、労働能力喪失率が争われた場合には、ひとまず弁護士に相談してみた方が良さそうですね!
最後に、ここまでご説明してきた労働能力喪失率の原則と例外を表にまとめてみました。
場合 | 原則 | 例外 |
---|---|---|
等級認定 | 等級ごとの喪失率 | 外貌醜状など※ |
併合繰上げ等級 | 繰上げ後の等級の喪失率 | 繰上げ前の等級等※ |
現実の減収不発生 | 労働能力喪失率なし | ・不発生が本人の努力 ・将来的な減収の可能性 |
※場合によっては原則に戻ることも
労働能力喪失期間の原則と例外|14級・12級が要注意!
原則は症状固定日から67歳まで
続いて、労働能力喪失期間の項目についてですが、これは
後遺障害によって減収が発生する期間 のことをいいます。
そして、冒頭の定義のところで岡野弁護士にご解説いただいたとおり、症状固定日までの減収は休業損害の項目で補填されるので、
労働能力喪失期間の始期は症状固定日
が原則となります。
また、後遺障害の逸失利益は
後遺障害が残らなければ将来得られたはずの収入の減少を補うための損害項目 であり、
働ける期間を補填すれば足りるので、労働能力喪失期間の終期は就労可能な年齢になります。
とはいえ、何歳まで働けるかは将来のことであり人によって様々ですよね。
そこで、迅速かつ公平に逸失利益を算出できるようにするため、原則として就労可能な年齢を67歳として終期を一律に定めています。
例外①未就労者
学生などの未就労者は症状固定の時点では働いておらず、減収が発生してないので、症状固定日を始期にすることはできません。
そこで、未就労者については、就労始期を一般的な高校卒業時の年齢である18歳を原則にしています。
ただし、症状固定時に大学生や大学進学の可能性が高い場合には就労始期を大学卒業時にしています。
例外②68歳以上の高齢者
先ほどお伝えしたとおり、労働能力喪失期間の終期は原則として67歳となっています。
この原則どおりですと、68歳以上の高齢者の労働能力喪失期間はゼロになってしまいます。
しかし、実際のところ68歳以上でも働かれている人は大勢おり、その方たちの逸失利益が認められないのは不合理です。
そこで、68歳以上の高齢者の場合には原則として平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として逸失利益が計算されます。
例外③67歳以下の高齢者
しかし、そうなると68歳以上の高齢者より67歳以下の高齢者の方が労働能力喪失期間が短い場合が出てきてしまいます。
そこで、67歳以下の高齢者の場合
- 症状固定時から67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
のいずれか長い方を労働能力喪失期間として逸失利益が計算されます。
例外④14級9号・12級13号の場合
一般的に、後遺障害とは将来においても回復が困難と見込まれる症状とされているため、先ほどお伝えしたとおり、労働能力喪失期間は
症状固定時から67歳まで
が原則となっています。
しかし、むちうち症などによる神経症状で
- 14級9号
- 12級13号
が認定された場合、むちうち症などによる神経症状は一生続くものではないと考えられることから、労働能力喪失期間が制限される場合が多いです。
具体的な年数としては
- 14級9号の場合5年程度
- 12級13号の場合10年程度
に制限される場合が多いようです。
この年数は、裁判の場合の年数であり、任意保険会社からはこれよりさらに短い期間を主張されることも多いです。
また、裁判においても、上記の期間は絶対的なものではなく、これより長期の喪失期間が認められた裁判例も複数存在します。
さらに、任意保険会社がむち打ち症以外の神経症状の場合も労働能力喪失期間の限定を主張する場合があります。
しかし、むち打ち症以外の神経症状の場合には労働能力喪失期間の限定をするのが適当ではない場合も多いので注意が必要です。
なお、労働能力喪失期間の終期についても、具体的な職種、地位、健康状態、能力等によっては67歳以上まで認められる可能性もあります。
上記の例外も絶対的なものではなく、争う余地があるということですね。
いずれにせよ、労働能力喪失期間について争いや疑問が生じた場合には、ひとまず弁護士に相談してみた方が良さそうですね!
最後に、ここまでご説明してきた労働能力喪失率の原則と例外を表にまとめてみました。
場合 | 始期 | 終期 |
---|---|---|
原則 | 症状固定日 | 67歳 |
未就労者 | 18歳又は大学卒業時 | |
68歳以上の高齢者 | 平均余命の1/2 | |
67以下の高齢者 | ・67歳までの期間 ・平均余命の1/2 のいずれか長い方 |
|
むち打ち症 | ・14級9号:5年程度 ・12級13号:10年程度 |
※例外あり
忘れちゃいけない中間利息の控除
逸失利益を現在価値に修正するために必要
中間利息の控除とは
ここまで見てきた収入・減収の割合・減収が生じる期間を掛け合わせれば、逸失利益は計算できるようにも思えます。
しかし、収入・減収の割合・減収が生じる期間の単純な掛け合わせだと被害者が将来得られたはずの収入以上の利益を得る形になるんです!
詳しく説明しますと、逸失利益は将来得られたはずの収入分の金銭を先に一括で払われる形になります。
しかし、実際に金銭が手元にあれば、第三者に貸したり、預金したりすることで利息が得られることになります。
にもかかわらず、将来得られたはずの収入と同じ額の金銭を一括でもらってしまうと、被害者が利息分を余計に受領することになってしまいます。
このように利息分を余計に受領することを防ぐため、逸失利益が支払われる段階で、本来受け取る時期までの利息分を控除して支払う必要があります。
このことを中間利息の控除といいます。
つまり、中間利息の控除とは、逸失利益を現在価値に修正するために必要となります。
中間利息控除係数とは
この中間利息の控除を計算するために必要となるのが中間利息控除係数です。
中間利息控除係数にはいくつか種類がありますが、現在ではライプニッツ係数というものが用いられています。
このライプニッツ係数は法定利率である年5%を複利計算した中間利息を控除するために用いられる係数です。
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。
出典:民法第404条
難しいことが色々と書かれていてよくわからなくなってきました・・・。
岡野弁護士、本当に後遺障害の逸失利益は自分で計算することができるんですか?
実は労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数が記載されている表が存在します。
実際はその表に記載されている労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数を使って計算すればいいので、表さえあればご自身で計算は可能です。
そうなんですね、安心しました!
岡野弁護士がおっしゃっていたその表を見せてもらうことができましたので、その表の一部を特別に公開します!
なお、現在はほとんど使われていませんが、もう一つの中間利息控除係数である新ホフマン係数も参考までに併せて記載しております。
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 | 新ホフマン係数 |
---|---|---|
1 | 0.9524 | 0.9524 |
2 | 1.8594 | 1.8615 |
3 | 2.7232 | 2.731 |
4 | 3.546 | 3.5644 |
5 | 4.3295 | 4.3644 |
6 | 5.0757 | 5.1336 |
7 | 5.7864 | 5.8743 |
8 | 6.4632 | 6.5886 |
9 | 7.1078 | 7.2783 |
10 | 7.7217 | 7.9449 |
20 | 12.4622 | 13.6161 |
30 | 15.3725 | 18.0293 |
具体例で確認
後遺障害の逸失利益の計算方法は説明としては以上となります。
もっとも、説明だけではイメージが湧きにくいと思いますので、具体的な事例を用いて実際に計算してみたいと思います!
それでは、以下の方の逸失利益を計算してみましょう。
- 37歳 男性
- 年収600万のサラリーマン
- 後遺障害10級10号(上肢の可動域制限)が認定
この方の場合、労働能力喪失率は10級なので27%、労働能力喪失期間は67歳までの30年間になります。
そして、30年間に対応するライプニッツ係数は15.3725となります。
したがって、この方が受け取れる逸失利益は
600万×27%×15.3725=2490万3450円となります。
この場合に誤って中間利息を控除せずに計算してしまうと
600万×27%×30=4860万円となります。
中間利息控除有 | 中間利息控除無 | |
---|---|---|
計算式 | 600万×27%×15.372 | 600万×27%×30 |
逸失利益の額 | 2490万3450円 | 4860万円 |
※37歳男性、年収600万、後遺障害10級10号を想定
このように、中間利息控除の有無により、金額は大きく異なります。
誤って中間利息を控除せずに計算すると賠償額の見込みが大きく狂うことになるので、中間利息の控除は忘れないよう注意しましょう。
民法改正で逸失利益が増える!?
仕方がないこととはいえ、中間利息が控除されることによりこんなに金額が減ってしまうとなるとなんだか残念な気もしますよね・・・。
そんな方のために朗報です!
民法(債権法)の改正案が5月26日の参院本会議で可決、成立した。
(略)
施行は公布の日から3年を越えない範囲内となる。
(略)
その主な内容は、
(略)
②法定利率について、現行の年5%から年3%に引き下げた上で、市中の金利動向に合わせて変動する制度の導入
(略)
―となっている。
中間利息控除の問題
法定利率の引き下げと変動制の導入については、現行の5%と実態とのかい離がつとに指摘されており今回の改正になった。
加えて損害賠償請求権が生じたときの中間利息控除に用いる利率について法定利率によるべきとすることが明文化され、不法行為による損害賠償についてもこれが準用されることになった。
人身損害の逸失利益算定では、中間利息控除に複式計算のライプニッツ係数が用いられている。
そのため、自賠責の支払基準や自動車保険約款の改定が必要になる。
さらに、法律が施行されると、日本損害保険協会の試算によると、中間利息控除割合が現行5%のときの逸失利益額が5559万円となるモデル例で、これが3%となった場合は、同7489万円(1930万円、34.7%増)となることが示されており、損害率の悪化、料率引き上げ要素となる可能性も出てくる。
なお、遅延損害金にかかる利率についても法定利率が適用され、こちらは賠償金額を減じる要素となる。
(以下略)
民法改正により、法定利率が年5%から年3%に引き下げられることになりました。
その結果、記事にもあるとおり、控除される中間利息の額が減り、受け取れる逸失利益の金額が増えることになります!
改正された民法が施行、つまり適用になる日はまだ決まっていないので、その点は注意が必要です。
追記:改正民法の施行日は2020年4月1日に決まりました。
また、被害者がもらえる逸失利益の点ではメリットですが、記事にもあるとおり、この改正により
- もらえる遅延損害金は今より減ることになる
- 自動車保険の保険料が値上がりする可能性がある
などのデメリットもあります。
後遺障害逸失利益の計算ソフトはコチラ!
この記事を読んで、後遺障害の逸失利益の計算方法はご理解いただけたかと思います。
とはいえ、「自分で計算するのは正直面倒くさい」と思われる方も多いのではないでしょうか?
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益……保険種類や裁判所基準が様々で色々と算出しないといけない…。
この作業…大変。弁護士に相談…か??
— 羽田敬之 (@6haty3) August 24, 2015
その場合、このツイートをされた方がおっしゃるとおり弁護士に相談するのが一番です。
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後遺障害の逸失利益の計算方法を弁護士に詳しく尋ねるなら
とはいえ、見てきたとおり後遺障害の逸失利益の計算方法は複雑な部分もあります。
そのため、正確な逸失利益の見込額を知りたいならやはり法律の専門家・弁護士に尋ねるのが一番です。
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最後に一言アドバイス
岡野弁護士、読者の方に、最後にアドバイスをお願いします。
冒頭でもお伝えしたとおり、後遺障害による逸失利益は交通事故の損害賠償の中で大きな割合を占める損害の項目です。
その後遺障害による逸失利益の計算方法を理解せずに安易に示談をしてしまえば、大幅な増額の可能性を失うおそれがあります。
後遺障害の逸失利益の計算方法で少しでも疑問があれば、示談する前にかならず弁護士に相談しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 後遺障害による逸失利益とは将来得られたはずの収入の減収を補填するもの
- 後遺障害の逸失利益の計算方法
- 後遺障害逸失利益の計算ソフトの存在
という点について、理解が深まったのではないでしょうか。
交通事故に遭って悩み事がある方は、是非、上のスマホで無料相談や全国弁護士検索を使ってみてください。
下にまとめてある関連記事も参考になさってください。
皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
後遺障害逸失利益の計算方法についてのQ&A
「逸失利益」ってどんなお金?
交通事故における逸失利益とは、「事故がなければ本来得られるはずであった収入や利益を失ったことによる損害」のことを指します。原則として、後遺障害による逸失利益を請求できるのは後遺障害等級に該当(認定)された場合のみです。 逸失利益の定義方法をわかりやすく紹介
逸失利益はどのように計算される?
後遺障害の逸失利益は、①後遺障害が残らなければ、得られていたであろう収入②後遺障害が残ったことによる減収の割合③後遺障害によって減収が発生する期間、の3つの要素によって考慮されます。具体的な金額の算出には、決まった計算式が用いられます。<計算式:(基礎収入)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)> 逸失利益の一般的な計算方法
収入のない主婦にも逸失利益は認められる?
交通事故にあう前に現実収入がない方でも、逸失利益はほとんど認められます。また、主婦はもちろん、学生の逸失利益も認められる可能性があります。もっとも、収入のある方とでは基礎収入の算出方法が異なりますので注意が必要です。 基礎収入は将来得られていたであろう収入
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。