交通事故の症状固定とは|骨折とむちうちでは時期が違う?誰が決める?撤回は?
「交通事故で症状固定の話が出てきたけれど、どういうことかよくわからない・・・」
多くの方にとって、交通事故は初めての経験でしょうから、交通事故の症状固定とはどういうことか知らなくても当然かと思います。
このページでは、そんな方のために
- 交通事故の症状固定の意味
- 症状固定は誰が決めるか
- 交通事故で症状固定と言われたらどうすればいいか
- 交通事故の症状固定に至るまでの期間はどれ位か
- 症状固定の労災の場合の違い
といった点についてご紹介していきたいと思います!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
弁護士の岡野です。よろしくお願いします。
交通事故において、症状固定は非常に重要な意味を有しています。
症状固定日をいつにするかによって、受け取れる治療費、後遺障害に関する損害や慰謝料が大きく変わる可能性があります。
ここで交通事故の症状固定の意味をしっかり理解して、適正な賠償を受けられるようにしましょう。
目次
交通事故でケガをして治療をしている場合、一定の期間が経過すると、以下のツイートのように症状固定の話が出てきます。
聞きたいです。交通事故で症状固定と言われ、渋々私も医者も治療をやめてから、1ヶ月経つけど、相手側(保険)から全く連絡ないけど…。それって普通なの?
— yakko (@yakko704) 2016年3月2日
もっとも、症状固定とはどういう意味なのかよくわからない方も多いかと思います。
そこで、まずは、交通事故における症状固定の意味についてお伝えしていきたいと思います!
交通事故の症状固定の意味
症状固定とは?
症状固定とは、元々労災保険における概念であり、労災保険では以下のように定義されています。
症状固定
傷病に対して行われる医学上一般に認められた治療方法を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態
この定義における「医学上一般に認められた治療方法」とは、労災保険や健康保険の適用対象となるような治療方法をいいます。
そのため、実験段階や研究過程にあるような先進治療は含まれません。
また、「医療効果が期待できなくなった状態」とは、その傷病の症状の回復・改善が期待できなくなった状態をいいます。
したがって、症状固定には、投薬やリハビリ等により一時的には回復するが、少し経つと元の痛みが戻るという一進一退の状態も含まれます。
もう少し具体例を挙げると、以下のような状態に至ったときは症状固定と判断されます。
- 骨折の骨癒合後の機能回復療法としてのリハビリ施行直後は運動障害がある程度改善されるが、数日で元に戻る状態が一定期間続いた場合
- 外傷性てんかんが残った場合、てんかん発作を完全には抑制できないが、治療を継続してもそれ以上のてんかん発作の抑制が期待できなくなったとき
- むちうちによる急性症状は消失したが、疼痛などの慢性症状が持続している場合に、投薬やリハビリ直後は一時的に良くなるがまた元に戻る状態
そして、この症状固定の定義は、自賠責をはじめとする交通事故の損害賠償請求の場面でも重要な意味を持つことになります。
症状固定の大まかなイメージとしては、これ以上治療を続けても良くも悪くもならない状態として捉えておけばよいでしょう。
「症状固定」と「治癒」の違い
上記の症状固定の定義からもわかるかと思いますが、症状固定とは必ずしもケガの症状が完全に回復した治癒とは違います。
交通事故の被害者の方は以下のツイートのようにまだ痛いのに症状固定と判断されることに納得がいかないという方も多いようです。
https://twitter.com/__chimaki__/status/205608411033899008
被害者の方としては、交通事故によるケガの症状が完全に回復するまで治療したいというお気持ちになるのは当然のことかと思います。
しかし、症状固定とは先ほどもお伝えしたとおり、あくまで損害賠償請求において意味を持つ概念となります。
そのため、症状固定となった場合でも、治療できなくなるというわけではなく、その意味で、治療の必要性がなくなった治癒の状態とは違います。
症状固定後の通院の治療費は自己負担になる
先ほど、症状固定は交通事故の損害賠償請求の場面で重要な意味を有するとお伝えしました。
ここからは、交通事故における症状固定の具体的な意味について一つずつお伝えしていきたいと思います!
まず、被害者の方にとって重要なのは症状固定後の通院の治療費は被害者の自己負担になるということです。
もし、治癒の状態まで治療費を加害者が負担するということになると、治療費が長期間確定せず、損害賠償請求が行えないことになります。
そこで、治療効果が期待できなくなった時点で、加害者が負担する治療費を確定させることで、損害賠償請求問題の早期解決を図る意味を有します。
症状固定日は後遺障害の様々な基準時になる
症状固定日の症状で後遺障害の等級が判断される
とはいえ、被害者としては、交通事故による症状が残っている以上、それに対する損害賠償請求をしてもらわなければ不合理です。
そこで、症状固定時に残存している症状については後遺障害として、別の損害賠償請求の項目として判断することになっています。
具体的には、残存している症状について後遺障害の等級が認定された場合、等級に応じた慰謝料や逸失利益が別途請求できます。
このように、症状固定日に被害者に残存している症状について、後遺障害の等級が判断されることになります。
そのため、症状固定日は後遺障害の等級判断の基準時になるという意味を有します。
症状固定日は後遺障害申請や請求の時効の基準時
後遺障害申請の時効の基準時
お伝えしたとおり、症状固定日の症状が後遺障害の等級認定の判断対象になります。
このことを反対から言うと、症状固定にならないと後遺障害申請をすることはできないということになります。
そして、後遺障害申請には時効がある場合がありますが、その時効の基準時は後遺障害申請が可能になる症状固定日となります。
なお、後遺障害の申請の期限や時効については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみて下さい!
後遺障害の賠償請求の時効の基準時
また、交通事故による症状固定時の症状に後遺障害の等級が認定された場合、後遺障害慰謝料や逸失利益などの損害賠償請求ができます。
そして、不法行為となる交通事故の損害賠償請求権の時効について、民法では以下のように規定されています。
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。
不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
出典:民法第724条
そして、後遺障害に関する損害賠償については、症状固定にならないと損害が確定しないため、損害を知ることができません。
そのため、後遺障害に関する損害賠償請求権の3年の時効の基準時は、損害を知ることができる症状固定日に通常なります。
このように、症状固定日は、後遺障害に関する様々な基準時になるという意味を有します。
症状固定日で入通院慰謝料等の金額が決まる
先ほど、症状固定日は加害者が負担する治療費を確定させる意味を有するとお伝えしました。
実は、症状固定日は治療費に限らず、交通費、休業損害や入通院慰謝料といった傷害分の損害賠償請求全体の終期としての意味も有します。
つまり、症状固定までの期間は傷害分の損害賠償請求として、それ以降の期間の後遺傷害分の損害賠償請求として扱われるということになります。
ムチ打ちで症状固定が半年後の場合の傷害慰謝料
具体的には、入通院慰謝料は、症状固定日までの期間や実通院日数によって算出されることになります。
例えば、ムチ打ちの入通院慰謝料について、最も高額な弁護士基準では以下の表に基づいて算出されます。
上記の表に基づくと、ムチ打ちで症状固定が半年後の場合、弁護士基準での入通院慰謝料は、通院のみであれば89万円ということになります。
このように、交通事故の症状固定は損害賠償請求の場面において非常に重要な意味を有しています。
症状固定日がいつになるかは、後遺障害の等級認定の結果や、損害賠償請求できる金額を左右する重要な問題です。
そのため、症状固定の判断は慎重に行わなければならないといえます。
番号 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
① | 症状固定後の通院の治療費は自己負担 | 損害賠償請求問題の早期解決を図るため |
② | 後遺障害の様々な基準時 | ・症状固定日の症状が判断対象 ・後遺障害申請の時効の始期 ・後遺障害に関する損害賠償請求の時効の始期 |
③ | 傷害分の損害賠償の終期 | 入通院慰謝料は症状固定日までの期間等で決定 |
症状固定は誰が決めるの?
交通事故において症状固定が重要な意味を有することはお分かりいただけたのではないかと思います。
では、そのように重要な症状固定はいったい誰が決めることになるのでしょうか?
症状固定を判断するのは最終的には裁判所等
先ほどお伝えしたとおり、症状固定は損害賠償請求の場面において問題となる概念です。
つまり、症状固定日がいつになるかという問題は、損害賠償請求の金額がいくらになるかという問題に直結します。
そのため、症状固定につき当事者間で争いが生じた場合、最終的には損害賠償請求の問題を判断する裁判所等の第三者機関において判断されます。
交通事故の症状固定は医師の診断を重視する
もっとも、冒頭でお伝えした症状固定の判断基準からもわかるとおり、症状固定の判断には、医学的な見地からの検討が不可欠になります。
そのため、たとえ裁判所等が判断する場合でも、交通事故の症状固定の判断は医師の診断が重視されます。
特に、実際に被害者の治療にあたり、症状に最も詳しいと考えられる主治医の診断が重視されることになります。
ただし、主治医が治療の必要性があり症状固定の状態にないと診断していても、そのことのみで必ず症状固定ではないと判断されるわけではありません。
治療内容や経過などから客観的に見て一進一退の状態にあると判断できるような場合には、症状固定と判断されてしまうことがあります。
症状固定と判断された後の治療費は、主治医の診断がどうであっても被害者の自己負担ということになるので、その点は注意しましょう。
主体 | 理由 | |
---|---|---|
判断権者 | 裁判所※ | 症状固定は損害賠償請求の問題 |
決定に影響力のある者 | 医師(特に主治医) | ・判断基準は医学的問題含む ・主治医が最も被害者の症状に詳しい |
※損害賠償請求の判断権者で最終的には裁判所
実際の症状固定日の決め方はどうなってるか
実際の症状固定日の決め方としては、被害者と治療にあたった医師とが相談してタイミングを決定するのが一般的といえます。
被害者の症状を一番把握しているのは、被害者自身と治療にあたった主治医だからです。
もっとも、以下のツイートのように症状固定の話が加害者側の保険会社から持ち出されることがあります。
加害側保険会社からの電話…そろそろ症状固定…
( ゚皿゚)キーッ!!
右手の麻痺で普通の模型製作もイライラだったのですが…
久しぶりにガンプラ組んで塗装や修正のためにパーツを外そうと…
上手くパーツを保持できないので外せず、イライラ
指先に感覚がないので力加減がわからず、イライラ— しうしう【不審者じゃない方】 (@shoeshoe2012) October 25, 2017
このような場合にはどのように対応すればいいのでしょうか?
ここからは、交通事故で症状固定と言われたらどうすればいいかについてお伝えしていきたいと思います!
交通事故で症状固定と言われたらどうする?
症状固定と言われたら|保険会社の際の対応
保険会社に症状固定と言われたら打ち切りの意味
先ほどお伝えしたとおり、交通事故の症状固定を判断するのは最終的には裁判所になります。
つまり、保険会社が症状固定の話を持ち出してきても、そのことによって直ちに症状固定と判断されるわけではありません。
実は、保険会社から症状固定と言われたらそれは治療費の保険会社負担の打ち切りを意味していることになります。
加害者側の保険会社は、被害者の治療費を病院や整骨院に直接支払う一括対応をすることが多いです。
もっとも、この一括対応はあくまで保険会社のサービスであり、義務ではないため、一括対応を打ち切るかどうかは保険会社が決定できます。
そのため、保険会社は自社が症状固定と判断した以降の治療費については、一括対応を打ち切ることができます。
つまり、保険会社から症状固定と言われたら、治療費の一括対応が打ち切られても、直ちに損害賠償請求における症状固定にはならないことになります。
保険会社に症状固定と言われたらどう対応する?
保険会社に症状固定と言われたら、即ち治療費の一括対応の打ち切りを打診されたら、対応としては以下の三通りが考えられます。
- ① 治療費の一括対応の打ち切りの打診に応じ、症状固定として治療を終了する
- ② 治療費の一括対応の打ち切りの打診には応じるが、症状固定とはせず、自己負担で治療を継続する
- ③ 治療費の一括対応の打ち切りの打診に対し、症状固定とはせず、一括対応の延長交渉をする
ここからは、これらの対応について一つ一つ確認していきたいと思います!
対応①
この対応の場合、さらに
- 後遺障害申請をする
- 後遺障害申請はせずに、傷害分のみで示談の話を進める
という二通りの流れが考えられます。
この対応のメリットは、治療費を自己負担するリスクがなくなるという点です。
反対にデメリットとしては、被害者が十分な治療を受けられないという点です。
被害者が治療の効果を感じており、医師も治療の必要性を認めている場合、納得した解決をするためにもこの対応はとらない方がいいでしょう。
対応②
この対応の場合、被害者と医師が症状固定と判断するまで治療を継続した後に、①の場合同様、
- 後遺障害申請をする
- 後遺障害申請はせずに、傷害分のみで示談の話を進める
という二通りの流れが考えられます。
この対応のメリットは、被害者が納得するまで十分な治療を受けられるという点です。
反対にデメリットとしては、
- 少なくとも一旦は治療費を自己負担しなければならないという金銭的負担がある
- 裁判所などが症状固定日と判断した日までの治療費しか加害者側の保険会社に請求できない
という点です。
被害者が治療の効果を感じ、医師も治療の必要性を認めている場合でも、自己負担した治療費を支払ってもらえないこともあるので、注意しましょう。
対応③
延長の具体的な交渉方法としては、
- 主治医の意見を確認するよう求める
- 症状固定の期間を明確に区切る
ことなどが考えられます。
この対応のメリットは、治療費の自己負担なく十分な治療を受けられる可能性があるという点です。
反対にデメリットとしては、保険会社は延長交渉に応じる義務はなく、うまくいくとは限らないという点です。
保険会社が延長交渉に応じなかった場合には、①か②の対応をとることになり、症状固定後の流れは①や②の場合と同様になります。
なお、一般的に、保険会社との延長交渉は専門家である弁護士に依頼して行った方が認められる可能性が高くなると考えられます。
専門家である弁護士であれば、症状固定の判断について、理論的な主張・反論を行うことが可能だからです。
保険会社から症状固定と言われたら、それが妥当かどうかも含めてまずは専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。
対応方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
①症状固定し、治療終了 | 治療費の自己負担のリスクなし | 被害者が十分な治療を受けられない |
②症状固定せず、自費で治療継続 | 被害者が十分な治療を受けられる | 治療費の自己負担のリスク |
③症状固定せず、一括対応の延長交渉 | 自己負担なく十分な治療受けられる可能性 | 延長交渉応じてもらえない可能性 |
症状固定と言われたら|主治医の場合の対応
主治医から症状固定と言われたら拒否できない?
では、主治医から症状固定と言われたら、患者である被害者はそれを拒否できないのでしょうか?
先ほどお伝えしたとおり、症状固定の判断は主治医の診断が重視されます。
その主治医から症状固定と言われた場合には、原則としてその診断が尊重され、症状固定とされてしまう可能性が高いといえます。
もっとも、主治医は、保険会社から治療費の一括対応の打ち切りを言われたことで、症状固定と言ってくる場合があります。
また、主治医以外の別の医師だと症状固定について異なる判断をする場合もあります。
それらの場合には症状固定とはならない可能性もあります。
具体的にはここからの対応方法においてお伝えしたいと思います!
主治医から症状固定と言われたらどう対応する?
主治医から症状固定と言われたら、被害者の対応としては以下の四通りが考えられます。
- ① 症状固定として、治療を終了する
- ② 症状固定とはするが、自費で治療は継続する
- ③ 自費で治療を継続するため、症状固定とはしないよう打診する
- ④ 症状固定の判断につき、別の医師にセカンドオピニオンを求める
対応①
この対応の場合、さらに
- 後遺障害申請をする
- 後遺障害申請はせずに、傷害分のみで示談の話を進める
という二通りの流れが考えられます。
この対応のメリットは、治療費を自己負担するリスクがなくなるという点です。
反対にデメリットとしては、被害者が十分な治療を受けられないという点です。
主治医から症状固定と言われた場合には、この対応方法をとることが多いと考えられます。
対応②
この対応の場合も①の場合同様、
- 後遺障害申請をする
- 後遺障害申請はせずに、傷害分のみで示談の話を進める
という二通りの流れが考えられます。
この対応のメリットは、被害者が納得するまで十分な治療を受けられるという点です。
反対にデメリットとしては、症状固定後の治療費が自己負担となる点です。
主治医は症状固定と判断しても、患者が治療を希望する場合には治療を拒否することは通常ないので、こういった方法をとることも考えられます。
対応③
主治医は、保険会社から治療費の一括対応の打ち切りを言われたことで、症状固定と言ってくる場合があります。
この場合、被害者が自費で治療を継続するのであれば、症状固定の判断を先延ばしにしてくれる場合があります。
この対応のメリットは、症状固定の期間を延長できる可能性があるという点です。
反対にデメリットとしては、症状固定の判断に口を出されたと感じた主治医の機嫌を損ね、その後の後遺障害申請に支障をきたすおそれがあることです。
後遺障害申請をする場合、主治医との良好な関係を築いておく必要があるため、この方法をとる場合は依頼の仕方などを特に気を付ける必要があります。
対応④
主治医が症状固定と言っていても、別の医師であればまだ症状固定の段階ではないと診断する可能性もあります。
そのため、転院し、セカンドオピニオンを求めることで症状固定の判断を先延ばしにできる可能性があります。
この対応のメリットは、症状固定の期間を延長できる可能性があるという点です。
反対にデメリットとしては、セカンドオピニオンを不快に感じた主治医の機嫌を損ね、その後の後遺障害申請に支障をきたすおそれがあることです。
一般的には、従前の症状の経過を知る主治医の診断の方が信用性が高いため、セカンドオピニオンにはしっかりとした医学的根拠が求められます。
対応方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
①症状固定し、治療終了 | 治療費の自己負担のリスクなし | 被害者が十分な治療を受けられない |
②症状固定するが、自費で治療継続 | 被害者が十分な治療を受けられる | 症状固定後の治療費は自己負担 |
③自費で治療継続し、症状固定としないよう打診 | 症状固定の期間を延長できる可能性 | その後の後遺障害申請に支障をきたすおそれ |
④別の医師にセカンドオピニオンを求める |
症状固定と言われたら|双方の場合の注意点
最後に、双方の場合に共通する症状固定と言われたらどう対応すべきかについての注意点をお伝えしたいと思います。
症状固定後は原則撤回できない
まず、いったん症状固定としてしまった後は原則として撤回することはできません。
そして、先ほどお伝えしたとおり、症状固定日は、後遺障害の等級認定の結果や、損害賠償請求できる金額を左右する重要な問題です。
そのため、症状固定と言われたとしても安易にそれに応じて症状固定とはせずに、症状固定日は慎重に決定する必要があります。
症状固定後の通院は健康保険で
次に、症状固定後の通院は健康保険を使用するということが重要です。
症状固定後の通院は、少なくとも一旦は被害者が治療費を立て替える必要があり、自己負担額を軽減するには健康保険の使用が不可欠です。
また、症状固定日を争い、症状固定後の通院治療費を請求する場合も全て請求が認められるとは限らず、最終的に自己負担となる可能性があります。
そのため、最終的に自己負担となってしまった場合の負担額を減少させるには、予め症状固定後の通院に健康保険を使用しておく必要があります。
このように、後に加害者側に治療費を請求するかどうかにかかわらず、症状固定後の通院には健康保険を使用するということが重要といえます。
症状固定時の診断書の記載方法
症状固定後に後遺障害申請をする場合には、医師に後遺障害診断書を書いてもらう必要があります。
そして、後遺障害の適切な等級を認定してもらうためには、診断書の記載内容がとても重要な意味を有します。
具体的な後遺障害の診断書の書き方のポイントについては、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧ください!
交通事故の経験の乏しい被害者の方が、経験豊富な保険会社の方等から症状固定と言われたら、つい安易に症状固定に応じてしまうかもしれません。
しかし、安易に症状固定に応じてしまった場合、適正な損害賠償が受け取れなくなってしまうおそれもあります。
症状固定と言われたら、安易に症状固定には応じず、それが妥当かどうかも含めてまずは専門家である弁護士に相談してみましょう。
交通事故の症状固定までの期間はどれ位?
交通事故の症状固定に至るまでの期間は、被害者の受傷状況や治療状況によって様々です。
もっとも、症状ごとの一般的な症状固定までの期間というものはやはり存在します。
そこで、ここからは、症状ごとの一般的な症状固定までの期間についてお伝えしていきたいと思います!
むちうちの場合の症状固定の期間は6ヶ月?
むちうち(頸椎捻挫)の症状固定までの期間は、一般的には3ヶ月~6ヶ月と言われています。
保険会社は他覚的所見のないむちうちは、一般的に長くても3ヶ月で軽快する旨の医学的知見を根拠に3ヶ月での症状固定を迫ることが多いです。
しかし、そのような医学的知見は単なる一般論であり、症状固定日は事故状況や被害者の状況などにより当然個人差があります。
なお、むちうちは他覚的所見が乏しいことの多い症状のため、後遺障害認定に際しては受傷時の状況、治療内容、治療期間や通院日数が重視されます。
そのため、むちうちの症状固定で後遺障害が認定されるための治療期間としては、最低でも6ヶ月以上必要であると考えられています。
脳挫傷による高次脳機能障害の症状固定時期
脳挫傷の場合、症状が広範囲であり、重大なケースが多いため、症状固定までの期間は、一般的な怪我よりも長くなることが多いです。
例えば、脳挫傷による高次脳機能障害の場合は、症状固定までに最低でも受傷後1年以上の期間を要すると考えられています。
1年というのはあくまで最低の期間であり、実際には症状固定までに1年半程度の期間を要することが多いようです。
ただし、これは成人の場合であり、被害者が小児の場合は症状固定までにさらに長期の期間を要する場合があります。
被害者が小児の場合の症状固定までに要する期間については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧ください!
非器質性精神障害の場合の症状固定時期は?
非器質性精神障害の症状固定の時期について、厚生労働省は以下のように述べています。
非器質性精神障害は、(略)適切な治療を行えば、多くの場合概ね半年~1年、長くても2~3年の治療により完治するのが一般的であって、業務に支障の出るような後遺障害を残すケースは少ない。
しかし、症例によっては個体側要因も関係して2~3年の治療によっては完治に至らず症状が改善しないまま推移することもまれにはある。
こうした非器質性精神障害の後遺障害の障害認定の時期(略)をいつの時点におくべきかであるが、原則として各種の日常生活動作がかなりの程度でき、一定の就労が可能となる程度以上に症状がよくなった時期(略)とすべきである。
ただし、上記の一般的・平均的な療養期間を大幅に超えて療養してもなお、それ以上症状に改善の見込みがないと判断される場合であって、意欲の低下等により就労がかなわないものの日常生活はかなりの程度できる状態にまで回復している場合には、就労がかなわなくてもその時期を治ゆ(症状固定)と判断し、後遺症状について障害認定すべきである。
非器質性精神障害は、将来において症状が大幅に改善する可能性が十分にあることから、症状固定の時期は遅くなりがちです。
とはいえ、2~3年の治療によっては完治に至らず症状が改善しないまま推移する場合には、症状固定が検討されることになるようです。
脊髄損傷の場合の症状固定の時期はいつ頃?
脊髄損傷は再生不可能な脊髄が損傷している状態ですので、交通事故以前の状態に戻ることはありません。
そのため、脊髄損傷の治療は、残った体の中での働き(動く筋肉や感覚)を使って生活や職業復帰ができるようにするリハビリが中心になります。
そのリハビリは通常長期になりますが、根本的な治療ではないため、どこまでリハビリにより改善できるかの判定をするのは困難になります。
そのため、脊髄損傷の症状固定の時期の判断も困難なものになります。
ただし、一般的には6ヶ月~1年程度で症状固定とし、後遺障害として判断してもらうことになることが多いようです。
骨折の症状固定までの期間は?
骨折の場合、症状固定となるには、大前提として骨癒合が完了する必要があります。
骨癒合が完了する期間は骨折の態様・程度により様々ですが、一般的には3ヶ月~6ヶ月程度と言われています。
そして、骨折部位の関節可動域制限の障害が生じる場合は、リハビリの期間も必要となるので、症状固定までの期間がさらに長くなります。
また、プレートやスクリューを用いて骨折部位を手術し、骨癒合後に再度抜釘手術をする場合には、症状固定まで長期間を要する場合があります。
以上のことからすると、骨折の場合の症状固定までの期間は、一般的には6ヶ月~1年半程度と考えられます。
脳脊髄液減少症の症状固定の時期はいつ頃?
脳脊髄液減少症の治療には、ブラッドパッチが有効であると考えられています。
しかし、ブラッドパッチの効果が現れるまでには通常3ヶ月~6ヶ月の期間を要すると考えられています。
さらに、1回では効果は不十分なことも多く、2~3回のブラッドパッチが必要になる場合もあり、各回には一定の期間を空ける必要があります。
そのため、脳脊髄液減少症の症状固定の時期の判断は難しく、2年以上掛かる場合もあります。
なお、保険会社は交通事故による脳脊髄液減少症の発症に否定的です。
そのため、そもそもブラッドパッチの治療費を損害として認めない場合があります。
また、ブラッドパッチの治療費を損害として認める場合でも、症状固定の時期について争ってくる場合が多いと考えられます。
保険会社がブラッドパッチの治療費を争う場合、被害者は保険適用外のため、高額となるブラッドパッチの治療費を自己負担する必要がありました。
しかし、平成28年4月より、ブラッドパッチ療法が保険適用の対象になり、被害者の自己負担額が軽減できる可能性が出てきました。
ただし、保険適用は、一定の保険医療機関において、一定の診断基準に基づき、脳脊髄液漏出症として確定診断されたものに対してのみになっています。
症状 | 期間 | 備考 |
---|---|---|
むちうち | 3ヶ月~6ヶ月 | 後遺障害認定には6ヶ月以上必要 |
高次脳機能障害 | 1年~1年半 | 小児の場合はさらに長期間 |
非器質性精神障害 | 2年~3年 | 完治することが多い |
脊髄損傷 | 6ヶ月~1年 | 脊髄損傷は元に戻らない |
骨折 | 6ヶ月~1年半 | リハビリや抜釘手術を要する場合は長期間 |
脳脊髄液減少症 | 6ヶ月~2年 | 期間争われること多い |
※あくまで一般的な傾向に留まる
症状固定の時期に関する判例
先ほどお伝えしたとおり、症状固定は、傷害分の損害賠償の終期を確定させる意味を有します。
そのため、加害者側の保険会社は、後遺障害診断書記載の症状固定日より早い時期に症状固定していると主張し、主張する症状固定日以降の
- 治療費
- 入通院慰謝料
- 休業損害
といった傷害分の損害賠償を争ってくることがあります。
このような症状固定の時期が争われた判例の一つが以下のものになります。
被告は、前記のとおり主張し、
〔1〕乙第一号証中には、むち打ちについて、頸部の軟部組織の損傷の修復が終わる時期は受傷後八週であり、頸椎全体の可動性の回復も含めて、機能的に修復の完了する期間は受傷後三か月である旨の記載があり、
〔2〕乙第二号証中には、B病院の医師が、平成二二年一一月一七日、症状固定見込みを平成二二年一二月とした記載があり、
〔3〕乙第三号証によれば、本件事故による原告車両の損傷は非常に軽微であることが認められる。
しかし、上記〔1〕記載は、症状の個人差があることを当然留保した上で、一般的な治癒の過程を述べたにとどまると解される。
また、上記〔2〕記載も、治療経過中のある一時点における診断の見込みにとどまる。
他方、証拠(略)によれば、原告甲野は、本件事故から約六か月が経過した平成二三年三月ころからは徐々に就労に復帰し、同年五月からは接骨院への通院頻度も激減し、同年六月からは本件事故前と同様の勤務形態に戻り、同年六月には接骨院の通院治療を終了し、同年八月にはB病院の通院治療を終了するなど、原告甲野の症状は徐々にではあるものの改善に向かったと認められ、平成二二年一二月末日ころに症状が固定したとは認められない。
したがって、上記〔1〕及び〔2〕の証拠は採用できず、〔3〕の事実をもって(略)事実を覆すに足りず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。
出典:大阪地裁平成25年11月21日判決
この判例は、症状固定日について、具体的な通院状況や治療経過を重視した上で判断し、保険会社側の主張を認めなかったものといえます。
特に、むちうちが3ヶ月で治癒とする医学的知見は一般論であり、症状固定日は個人差がある点を重視していると思われる点が重要です。
このように、症状固定日は、被害者の症状によりケースバイケースであり、紋切り型の一般論で大きく左右されるべきではないといえます。
交通事故の症状固定までの期間には、症状ごとに一般的な期間が存在し、そのことを頭に入れておくことは重要です。
とはいえ、症状固定日は、被害者の症状により様々であり、具体的な通院状況や治療経過などを検討した上で判断する必要があります。
症状固定までの期間についてお悩みの場合には、ひとまず専門家である弁護士に相談してみるのがよいかと思います。
《参考》症状固定から示談までに要する期間
お伝えしたとおり、交通事故から症状固定に至るまでには、一定の期間を要します。
さらに、症状固定から示談までも一定の期間を要することになります。
具体的にどれ位の期間を要するかについては、後遺障害申請をするかどうかによって変わってきます。
後遺障害申請をしない場合
この場合は、症状固定日を損害賠償の終期として示談交渉を行うことになります。
症状固定から示談交渉を開始するまでには、症状固定時(最終分)の診断書が作成されるまでの期間が必要となります。
そして、実際の示談交渉に要する期間については、当事者間で争いのある事項の内容や数によって大きく変わります。
そのため、後遺障害申請をしない場合、症状固定から示談までに要する期間は、短ければ数週間ですが、長いと何年も要する場合があります。
なお、示談してから実際に示談金が入金されるまでには、示談書のやり取りや入金手続きにより1~2週間の期間を要する点には注意が必要です。
後遺障害申請をする場合
この場合、まず後遺障害申請準備の期間及び後遺障害の認定までの審査期間を要することになります。
症状固定から後遺障害が認定されるまでの期間については、以下の記事に詳しく記載されています。
後遺障害申請の受付から調査の完了までに要する日数については、以下の表のとおり統計データが公開されています。
なお、認定結果が非該当などで、異議申立を行う場合にはさらに期間を要することになります。
そして、後遺障害認定後の示談交渉については、後遺障害申請をしない場合と同様になります。
後遺障害 | 全体 | |
---|---|---|
30日以内 | 80.3% | 97.0% |
31日〜60日 | 10.7% | 1.8% |
61日〜90日 | 4.9% | 0.7% |
90日超 | 4.0% | 0.5% |
※損害保険料算出機構2017年度自動車保険の概況参照
症状固定の労災の場合の違い
業務中や通勤途中の交通事故の場合、症状固定は労災の場面でも問題になることがあります。
では、症状固定に関する問題は、労災の場合何か違いがあるのでしょうか?
最後に、症状固定の労災の場合の違いについてお伝えしていきたいと思います!
労災の場合の症状固定後の後遺障害の手続き
自賠責とは症状固定後の後遺障害申請先が異なる
労災の場合も症状固定時に一定の障害が残っているときには後遺障害申請の手続きを行うことが可能になります。
もっとも、労災の場合は自賠責とは後遺障害の申請先が異なる点には注意が必要です。
具体的には、労災の場合、症状固定後の後遺障害申請先は労働基準監督署になります。
労災と自賠責は症状固定後の診断書の様式が違う
また、労災と自賠責とでは、症状固定後に後遺障害申請を行うために必要となる診断書の様式も異なります。
労災の後遺障害診断書は、自賠責のものと比較して簡易な様式になっています。
労災の後遺障害の診断書については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧ください!
労災保険 | 自賠責保険 | |
---|---|---|
書式 | 労災所定の書式 (簡易な書式) |
自賠責所定の書式 (詳細な書式) |
提出先 | 労基署の窓口 | ・被害者請求:相手方自賠責 ・事前認定:相手方任意保険 |
労災を利用していた場合の症状固定後の通院
労災保険は症状固定後のアフターケア制度がある
先ほどお伝えしたとおり、症状固定後の通院の治療費については、原則被害者の全額自己負担となります。
しかし、労災保険では、症状固定後のアフターケア制度というものが定められています。
これは、一定のケガや病気の対象者に対し、症状固定後も再発や後遺障害に伴う新たな病気の発症を防ぐため、必要に応じて一定の
- 診察
- 保険指導
- 処置
- 検査
などの措置を無料で受けられるようにしている制度です。
つまり、労災の場合には、症状固定後の通院の治療費についても一部自己負担を免れることができるようになっています。
具体的な対象となるケガや病気、対象者等の対象範囲については以下の表のとおりです。
対象傷病 | 対象者 |
---|---|
脊髄損傷 | 原則等級3級以上 |
頭頚部外傷症候群等 | 原則等級9級以上 |
尿路系障害 | 尿道狭窄の障害を残す又は尿路変向術を受けた人で障害給付を受けている人 |
慢性肝炎 | ウイルス肝炎にり患した人で障害給付を受けている人 |
白内障等の眼疾患 | 眼疾患の傷病者で原則障害給付を受けている人 |
振動障害 | 障害補償給付を受けている人 |
大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折 | 原則障害補償給付を受けている人 |
人工関節・人工骨頭置換 | 障害補償給付を受けている人 |
慢性化膿性骨髄炎 | 障害補償給付を受けている人 |
虚血性心疾患等 | ・虚血性心疾患にり患し、等級9級以上の障害給付を受けている人 ・ペースメーカ又は除細動器を植え込んだ人で障害給付を受けている人 |
尿路系腫瘍 | 療養補償給付を受けている人で、症状固定したと認められる人 |
脳の器質性障害 | 原則等級9級以上 |
外傷による末梢神経損傷 | RSD及びカウザルギーによる激しい疼痛が残存する人で等級12級以上 |
熱傷 | 原則等級12級以上 |
サリン中毒 | 縮瞳、視覚障害、末梢神経障害、筋障害、中枢神経障害、PTSD等が残存する人 |
精神障害 | 療養補償給付を受けていた人で、気分障害、意欲障害、幻覚性障害、妄想性障害、記憶障害、知的障害が残存する人 |
循環器障害 | ・心臓弁損傷、心膜の病変の障害を残す又は人工弁に置換した人で、障害給付を受けている人 ・人工血管に置換した人 |
呼吸機能障害 | 障害補償給付を受けている人 |
消化器障害 | ・消化器を損傷した人で、消化呼吸障害等を残す人 ・消化器ストマを造設した人で障害給付を受けている人 |
炭鉱災害による一酸化炭素中毒 | 療養補償給付を受けていた人 |
労災は症状固定後も再発の場合治療費支払われる
さらに、労災の場合、傷病がいったん症状固定となった後も、次の要件を満たす場合には「再発」として、治療費等が支払われます。
- ① 症状固定時の状態から見て明らかに症状が悪化していること
- ② その症状の悪化が、当初の業務上又は通勤による傷病と相当因果関係があると認められること
- ③ 治療を行えば、その症状の改善が期待できると明らかに認められること
つまり、労災の場合には、一定の要件を満たせば、症状固定後の通院の治療費についても自己負担を免れることができるという違いがあります。
労災でも症状固定後は健康保険を利用できるか?
労災の給付が受けられる場合には、健康保険を利用することはできません。
もっとも、労災で治療を受けていたものの症状固定をした場合に、その後のリハビリに健康保険が利用できないと自己負担額が大きくなります。
そのため、労災で治療を受けていた場合でも、症状固定後、労災からの給付が受けられなくなった場合には、健康保険を利用できるようです。
労災の場合は症状固定の時期に違いがある?
労災も自賠責も症状固定の時期に原則違いはない
では、労災の場合、症状固定の時期について何か違いはあるのでしょうか?
結論から申し上げますと、労災も自賠責も症状固定の時期に原則として違いはないことになります。
なぜなら、どちらも同一の交通事故による症状について、同じ定義である症状固定の状態かを判断することになるからです。
労災の症状固定の時期は保険会社に影響されない
もっとも、労災の場合、治療費は労災保険から支払われることになります。
その結果、加害者側の保険会社が治療費を支払っているときのように、保険会社から症状固定を迫られることはなくなります。
したがって、労災の場合の症状固定の時期の判断は、保険会社の影響を受けないという違いがあるとは言えます。
労災の場合の症状固定についての金額の違い
最後に、労災の場合の症状固定にまつわる金額の自賠責との違いについてお伝えしたいと思います。
労災保険の後遺障害の金額に慰謝料は含まれない
労災において、症状固定後に後遺障害の等級が認定された場合の大きな金額の違いは、自賠責とは異なり、慰謝料が含まれない点です。
自賠責保険における後遺障害による損害には、逸失利益と慰謝料が含まれます。
後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等とし、自動車損害賠償保障法(略)に定める等級に該当する場合に認める。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
一方、労災において後遺障害の等級が認定された場合に受け取れる金額には慰謝料は含まれないことになります。
労災保険において後遺障害の等級が認定され、一定の金額を受領した場合でも、自賠責に慰謝料等を別途請求できるので忘れずに請求しましょう。
労災では症状固定後に年金の形で払われることも
また、労災の場合、症状固定後に後遺障害が認定された場合、7級以上の等級であれば、年金の形で支払われる金額があります。
これは、等級が何級であっても、すべて一時金の形で、後遺障害による損害の金額が支払われる自賠責との違いであるといえます。
なお、労災から年金の形で一定の金額を受け取る場合、自賠責との金額の調整に複雑な部分があるので、その点は注意しましょう。
労災でも休業補償等を症状固定後は原則受給不可
一方、労災の場合も、症状固定日は、固定前の療養給付と固定後の障害給付を区別する基準時になります。
そのため、労災でも療養給付の一つである休業補償は症状固定後には原則として受給できず、この点は自賠責の休業損害の場合と同じといえます。
ただし、先ほどお伝えした再発の要件を満たす場合には、治療費のみならず、休業補償も受給できるようになります。
労災 | 自賠責 | |
---|---|---|
慰謝料 | 含まれない | 含まれる |
金額の支払方法 | 7級以上は年金払い含む | 常に一時金 |
症状固定後に休業した場合の金額 | 補償されない※ | 損害賠償請求できない |
※「再発」の要件を満たす場合には補償される
《参考》症状固定後の傷病手当金や障害年金は?
交通事故においては、労災保険や自賠責保険など以外にも、健康保険や日本年金機構から一定の金額を受け取れる場合があります。
その金額の中には、症状固定と関わりのある金額も含まれます。
症状固定後の傷病手当金について
健康保険の傷病手当金は、労災の休業補償、自賠責の休業損害に相当するものです。
そのため、休業補償や休業損害同様、症状固定後は傷病手当金を受け取る余地はないかとも思えます。
もっとも、健康保険給付に関し、行政不服審査を行う社会保険審査会は、症状固定後でも傷病手当金を受け取る余地があることを認めています。
症状固定後の障害年金
そして、症状固定後の後遺障害申請により上位等級が認定された場合には、日本年金機構から障害年金を受け取ることができます。
また、障害年金を受け取れない場合でも、一定の障害が残ったときには障害手当金という金額が受け取れる場合があります。
なお、障害年金や障害手当金については、以下の記事に詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひご覧ください!
症状固定に関し弁護士に相談したい方へ!
ここまで交通事故の症状固定に関する事柄についてお伝えしてきましたが、読んだだけではわからないことがあった方もいるのではないでしょうか?
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、交通事故でお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。
お伝えしてきたとおり、交通事故において、症状固定は非常に重要な意味を有しています。
症状固定日をいつにするかによって、受け取れる治療費、後遺障害に関する損害や慰謝料が大きく変わる可能性があります。
症状固定日の判断を誤らずに適正な賠償を受けられるようにするためにも、症状固定に関し疑問があればまず弁護士に相談してみましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 交通事故の症状固定の意味
- 症状固定は最終的には裁判所が決めるが医師の診断が重視される
- 症状固定と言われたらどうすればいいかは誰から言われたかにより異なる
- 交通事故の症状固定に至るまでの期間はケガの症状により異なる
- 症状固定の労災の場合の違い
について理解を深めていただけたのではないかと思います。
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また、このホームページでは、交通事故に関する関連記事も多数掲載していますので、ぜひ参考にしてください!
皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。