【交通事故】人身事故と物損事故の違い|人身扱いにしないのはNG!?
この記事のポイントをまとめると
- 人身事故と物損事故の違いは、ケガの有無であり、慰謝料請求・保険の適用・責任の範囲等に違いが出てくる
- 人身事故扱いにしないのは、被害者にとって基本的にメリットよりもデメリットの方が大きい
- 人身事故を物損扱いから切り替えるには、警察に診断書を提出する必要があり、明確な期限はないが、すぐ手続きするのが望ましい
交通事故における人身事故と物損事故の違い・人身扱いにすべきかや人身事故への切り替え方法を知りたい方向けの記事になります。
交通事故は大きく
- 人身事故
- 物損事故
の二つに分けることができます。
まずは、両者を区別する判断基準や両者の具体的な違いについてお伝えしたいと思います。
【交通事故】人身事故と物損事故の違い
人身事故と物損事故の判断基準はケガ
人身事故とは、人の身体や生命に関わる損害が発生した事故のことをいいます。
一方、物損事故とは、人の死傷がなく、器物の損壊のみが生じた事故のことをいい、物件事故と呼ばれる場合もあります。
器物の損壊「のみ」というのがポイントであり、ケガが発生していれば、器物の損壊が生じていても人身事故と判断されます。
(ここでいう器物には、車両のみならず、家屋や電柱、ガードレール、縁石、フェンスなども含みます。)
つまり、人身事故か物損事故かは
事故によりケガが生じたケースかどうか
が判断基準となります。
人身と物損の違い①慰謝料請求の可否
人身事故と物損事故は
慰謝料を請求できるかどうか
という点に違いがあります。
慰謝料とは、精神的損害(苦痛)に対する賠償金のことです。
ケガを伴う人身事故の場合は
請求することができます。
一方、物損事故の場合は原則として慰謝料を請求することができません。
通常、器物の損壊という財産権侵害に伴う精神的苦痛は、財産的損害の填補により同時に填補されるものと考えられているからです。
例外的に物損に対する慰謝料を認めた裁判例もありますが、
- 飼い犬が後遺障害の残るけがを負った事案(名古屋高判平成20年9月30日)
- 墓石が倒壊した事案(大阪地判平成12年10月12日)
など特殊な事案がほとんどです。
車両についてはどんなに愛着があっても慰謝料は残念ながら請求できないと思っていておいた方がいいでしょう。
人身と物損の違い②自賠責保険の適用
加入が義務付けられている自動車保険である
自賠責保険が適用されるかどうか
も人身事故と物損事故の大きな違いの一つです。
自賠責保険はあくまで、「人の生命又は身体が害された場合における損害賠償」について最低限保障するための制度だからです。
この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
そのため、物損事故についての損害は、直接相手に請求するか任意保険会社から補償を受けるしかありません。
人身と物損の違い③罰金や免許の点数
免許の必要な車両が当事者となる交通事故では、人身事故と物損事故とで
- 罰金などの刑事責任
- 免許の違反点数の加算などの行政責任
を負うかどうかという違いもあります。
このことは、「JAF」のホームページにも以下のように明記されています。
刑事処分及び行政処分において事故として記録されるのは人身事故であり、人的被害を起こさない物損事故(略)は事故扱いとはなりません。
免許の取消し・停止処分の基礎となる点数計算においては、人身事故及び建造物損壊事故の場合にだけ付加点数が付きます。
(略)通常の物損事故では点数は加算されません。
つまり、物損事故を起こしただけでは免許停止などの処分を受けることはありません。
ただし、「当て逃げ」すると物損事故でも罰金・点数が科せられ、免許停止の処分を受けることになるので、注意が必要です。
お伝えしてきた人身事故と物損事故の違いを表にまとめると以下のとおりです。
人身事故 | 物損事故 | |
---|---|---|
①慰謝料請求 | 〇 | × (例外あり) |
②自賠責保険の適用 | 〇 | × |
③罰金・違反点数 | 〇 | × (例外あり) |
人身扱いにしないメリット・デメリット
交通事故における人身事故と物損事故の違いは以上のとおりです。
しかし、実際には追突事故でむちうちのケガが生じていても、軽微だと人身事故扱いでなく物損事故扱いされていることも多いです。
交通事故が人身事故扱いになっているか物損事故扱いになっているかは交通事故証明書という書類で確認することができます。
では、交通事故でケガをしている場合、必ず人身事故扱いにしないといけないのでしょうか?
人身事故扱いにしないで、物損事故扱いのままにしておくことのメリット・デメリットをお伝えします。
メリット①刑事・行政責任を負わない
先ほどお伝えしたとおり、物損事故の場合は原則的に刑事・行政責任を負いません。
そして、実際にはケガをしている人身事故であっても、物損事故扱いになっていれば、刑事・行政責任は問われません。
つまり、交通事故を人身扱いにしないメリットは刑事・行政責任を負わない点にあります。
人身事故の加害者が被害者に対し、人身扱いにしないよう依頼するケースが多い理由は、上記の点にあります。
人身事故の被害者であっても、事故状況によっては刑事・行政責任を問われるケースがあります。
具体的には、被害者にも過失が認められ、加害者もケガをしているケースです。
つまり、人身扱いにしないで物損事故扱いのままにしておく上記メリットは、被害者にも認められるケースがあります。
デメリット①もらえる賠償金額の減少
実際にケガをしている人身事故であれば、物損事故扱いであっても、治療費や慰謝料を相手に請求することは可能です。
しかし、人身事故であっても、物損事故扱いになっていると保険会社から治療費や慰謝料を支払ってもらえない可能性があります。
自賠責保険への請求は、提出する交通事故証明書上で人身事故扱いになっている必要が原則としてあるからです。
そして、任意保険会社も、自賠責保険の適用がない場合には、損害について補償してくれません。
つまり、交通事故を人身扱いにしないデメリットの一つにもらえる損害項目が減少する可能性がある点があります。
なお、支払い自体は受けられるケースでも、人身扱いにしないで物損事故扱いのままにしておくと、ケガが軽いものと判断されて
- 通院治療費の打ち切りを早期に行われる
- 通院期間を基礎に金額が算定される通院慰謝料が減少する
- 後遺障害が認められにくくなり、後遺障害慰謝料などをもらえなくなる
など、もらえる賠償金額が減少する可能性も高まることになります。
デメリット②現場検証が実施されない
交通事故を人身扱いにしないで物損事故扱いのままにしておくもう一つのデメリットは
警察による詳細な現場検証が実施されない
という点です。
交通事故において過失割合は慰謝料の金額を左右する重要なものです。
過失割合は事故状況によって決まりますが、事故状況について加害者と被害者の認識が異なり、争いになるケースが多いです。
その場合に、事故状況を証明する有力な資料となるのが、警察による詳細な現場検証の結果作成される実況見分調書です。
しかし、物損事故扱いだと簡易な物件事故報告書しか作成されない結果、適切な過失割合が証明できなくなるおそれがあります。
【参考】人身と物損分の過失割合
交通事故では、人身と物損分の示談交渉を別々に行うケースが多いです。
そして、通常は先に損害が確定する物損分の示談が先に成立します。
では、物損分と人身分の過失割合が別になることはあるのでしょうか?
同じ交通事故から生じた損害ですので、過失割合も同じになるのが原則です。
ただし、保険会社が早期に示談させるため、物損分の過失割合だけ譲歩した結果、人身分と過失割合が別になるケースもあります。
お伝えしたとおり、交通事故を人身扱いにせず、物損扱いのままにしておくのには、メリット・デメリットがあります。
もっとも、基本的に被害者にとっては、人身扱いにしないのはメリットよりデメリットの方が大きいと考えられます。
交通事故でケガをした場合にはしっかりと人身事故扱いにしておくという対応が重要です。
人身事故を物損扱いから切り替える方法
では、交通事故でケガをした際に、物損事故扱いから人身事故扱いに切り替え(変更す)るにはどんな手続きが必要なのでしょうか?
人身扱いか物損扱いかは誰が決める?
切り替えの手続きをするためには、人身事故扱いか物損事故扱いかを誰が決めるのかを知っておく必要があります。
結論から申し上げますと、それは警察です。
先ほど、人身事故扱いになっているか物損事故扱いになっているかは、交通事故証明書という書類で確認するとお伝えしました。
その、交通事故証明書を発行する「自動車安全運転センター」のホームページには以下のような記載があります。
交通事故証明書は(略)警察から提供された証明資料に基づき、交通事故の事実を確認したことを証明する書面として交付するものです。
つまり、警察が人身事故と判断していなければ、交通事故証明書にも人身事故とは記載されないことになります。
警察に連絡をして病院の診断書を提出
具体的な切り替えの手続きとしては、まず、交通事故が起きた現場を管轄している警察に連絡をします。
そうすると、病院の診断書を持参して、警察署に来るよう指示されます。
実際に警察に診断書を提出すれば、警察においても人身事故として対応してくれることになります。
なお、警察で切り替えの手続きをする際には、診断書以外にも
- 被害車両
- 被害車両の写真(修理中などで被害車両を持っていけない場合)
- 車検証
- 運転免許証
- 印鑑
などを持っていく必要がありますので、警察に連絡をする際、必要となる物を事前に確認しておきましょう。
人身事故への切り替えに期限はある?
人身事故への切り替え手続きに明確な期限はありませんが、できるだけ早く対応すべきです。
事故発生から手続きまでの期間が空いていると、事故とケガとの因果関係が疑われ、切り替えが認められない可能性があるからです。
具体的には、交通事故発生から1週間以内、遅くとも10日以内に切り替えの手続きをすべきです。
切り替えできなかった場合の対応方法
物損事故扱いから人身事故扱いへの切り替えができなかった場合でも、保険会社に人身分の損害を賠償してもらう方法はあります。
それは、
人身事故証明書入手不能理由書
という書類を取り付けることです。
この書類があれば、交通事故証明書上で物損事故扱いになっていても、保険会社との関係では人身事故として対応してもらえます。
物損から人身切り替えのポイント
- ① 警察に連絡して診断書を提出する手続きが必要
- ② 明確な期限はないが、すぐに対応する
- ③ 切り替えできなかったら人身事故証明書入手不能理由書を取り付け
人身事故は弁護士に相談・依頼すべき!?
人身事故にあわれた方は、弁護士への相談や依頼を検討されることをおすすめします。
人身事故解決を弁護士に頼むメリット
人身事故の解決を弁護士に依頼するメリットには主に以下のようなものがあります。
人身事故を弁護士に頼むメリット
- ① 慰謝料を弁護士基準で保険会社と示談交渉できもらえる金額が増える
- ② 後遺障害が適切に認定される可能性が高まる
- ③ 保険会社との対応を一任でき、治療に専念できる
弁護士費用が掛かってしまうのがデメリットですが、弁護士費用を差し引いても、最終的にもらえる金額が増えることが多いです。
また、弁護士費用特約が使える場合は、弁護士費用を保険会社が負担してくれるので、弁護士に頼んで損をする心配はありません。
弁護士費用特約については、以下の動画で弁護士が分かりやすく解説しています。
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まずは、電話してみることから始まります。
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、人身事故にあわれた方に一言アドバイスをお願いします。
人身事故にあわれた方は、基本的に人身切り替えの手続きをしておくべきです。
その上で、弁護士に依頼をすることで、もらえる金額を増やすことができます。
具体的にどう対応すべきかお悩みの方はお気軽に弁護士に相談だけでもして下さい。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 人身事故と物損事故の違い
- 人身事故扱いにしないメリット・デメリット
- 人身事故に切り替える手続き
について理解を深めていただけたのではないかと思います。
これを読んで弁護士に相談した方が良いと思った方も多いハズです。
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皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
人身事故と物損事故の違いについてのQ&A
人身事故と物損事故の判断基準は?
事故によりケガが生じたかどうかが判断基準となります。人身事故とは、人の身体や生命に関わる損害が発生した事故のことをいいます。一方、物損事故とは、人の死傷がなく、器物の損壊のみが生じた事故のことをいいます。器物の損壊「のみ」というのがポイントであり、ケガが発生していれば、器物の損壊が生じていても人身事故と判断されます。 人身事故と物損事故の判断基準はケガ
人身事故と物損事故の違いは?
人身と物損の違いは、①物損事故の場合は慰謝料が請求出来ない(特殊な事案を除く)②物損事故の場合は自賠責保険が適用されない③物損事故の場合は免許の点数は加算されない(当て逃げを除く)などの3点があります。 <交通事故>人身事故と物損事故の違い
物損事故を人身事故に切り替えるには何が必要?
まずは交通事故が起きた現場を管轄している警察に連絡をとる必要があります。そうすると、警察署に来るように指示されますので、①病院の診断書、②被害車両(修理中などで被害車両を持っていない場合は車両の写真)③車検証、④運転免許証、⑤印鑑などを持参し手続きを行ってください。 人身事故への切り替えに必要な手順を解説
人身事故への切り替えができなかったら?
物損事故扱いから人身事故扱いへの切り替えができなかった場合でも、保険会社に人身分の損害を賠償してもらう方法があります。人身事故証明書入手不能理由書という書類を取り付けることです。この書類があれば、交通事故証明書上で物損事故扱いになっていても、保険会社との関係では人身事故として対応してもらえます。 切り替えできなかった場合の対応方法