労災の後遺障害|等級別の金額及び認定の流れ(面談・通知・期間など)をご紹介!
「労災で後遺障害の等級が認定された場合にはどれ位の金額を受け取れるの?」
「労災で後遺症が認定されるまでの流れはどうなっているの?」
「労災に後遺障害の申請をしようと考えているのだけれど、自賠責に申請する場合と何か違いはあるの?」
交通事故の被害者になられた方の中には、労災に後遺障害を申請しようと考えているけれど、わからないことが多くお困りの方もいるかもしれません。
このページでは、そんな方のために
- 労災の後遺障害の等級別の金額
- 労災での後遺障害(後遺症)の認定の流れ
- 労災と自賠責との後遺障害の違い
といった事柄について、徹底的に調査してきました!
専門的な部分や実務的な部分は交通事故と刑事事件を数多く取り扱っている岡野弁護士に解説をお願いしております。
よろしくお願いします。
労災と自賠責とでは、後遺障害に関し様々な違いがあります。
労災で後遺障害の等級が認定された場合に受け取れる金額についてしっかり理解しておかないと、最終的に損をしてしまう可能性もあります。
また、労災の後遺障害(後遺症)の認定の流れを把握することで、手続きがスムーズに進み、今後の正しい見通しを立てることが可能になります。
こちらで労災の後遺障害についてしっかりと理解することにより、適切な損害賠償額をスムーズに受け取れるようにしましょう。
労災の後遺障害の等級別金額
労災の後遺障害の等級別金額の計算基準
労災の後遺障害で受け取れる項目
まず、労災で後遺障害の等級が認定された場合、等級に応じて下記の項目の金額が受け取れることになります。
- 障害(補償)給付
- 障害特別金
- 障害特別支給金
障害(補償)給付の計算の基準
そして、障害(補償)給付の金額を計算する基準は以下のとおりです。
給付基礎日額×等級ごとに定められた日数
給付基礎日額とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する金額のことです。
平均賃金とは、直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を日数で割った1日当たりの賃金額のことです。
そして、給付基礎日額に掛けられる等級ごとの日数は以下の表のとおりです。
障害等級 | 日数 |
---|---|
第1級 | 313日分 |
第2級 | 277日分 |
第3級 | 245日分 |
第4級 | 213日分 |
第5級 | 184日分 |
第6級 | 156日分 |
第7級 | 131日分 |
第8級 | 503日分 |
第9級 | 391日分 |
第10級 | 302日分 |
第11級 | 223日分 |
第12級 | 156日分 |
第13級 | 101日分 |
第14級 | 56日分 |
障害特別金の計算の基準
そして、障害特別金の金額を計算する基準は以下のとおりです。
算定基礎日額×等級ごとに定められた日数
算定基礎日額とは、原則として、事故前1年間に労働者が事業主から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った金額のことです。
特別給与とは、給付基礎日額の算定から除外されているボーナスなど3か月を超える金額ごとに支払われる賃金をいい、臨時で支払われた賃金は含まれません。
もっとも、特別給与の総額が給付基礎年額(給付基礎日額の365倍に相当する額)を上回る場合には、給付基礎年額の20%に相当する金額が算定基礎年額になります。
ただし、150万円が限度額になります。
そして、算定基礎日額に掛けられる等級ごとの日数は以下の表のとおりであり、障害(補償)給付と同じになります。
障害等級 | 日数 |
---|---|
第1級 | 313日分 |
第2級 | 277日分 |
第3級 | 245日分 |
第4級 | 213日分 |
第5級 | 184日分 |
第6級 | 156日分 |
第7級 | 131日分 |
第8級 | 503日分 |
第9級 | 391日分 |
第10級 | 302日分 |
第11級 | 223日分 |
第12級 | 156日分 |
第13級 | 101日分 |
第14級 | 56日分 |
障害特別支給金の金額
一方、障害特別支給金については、等級ごとに一定の金額が定められており、具体的には以下の表のとおりになります。
障害等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 342万円 |
第2級 | 320万円 |
第3級 | 300万円 |
第4級 | 264万円 |
第5級 | 225万円 |
第6級 | 192万円 |
第7級 | 159万円 |
第8級 | 65万円 |
第9級 | 50万円 |
第10級 | 39万円 |
第11級 | 29万円 |
第12級 | 20万円 |
第13級 | 14万円 |
第14級 | 8万円 |
後遺障害が7級以上の場合年金払い含む
ここまでの表をご覧になって、ある疑問を持たれた方も多いかもしれません。
それは、障害(補償)給付や障害特別金の計算の基準となる日数が7級以上よりも8級の方が多くなっているということです。
これだけだと、7級以上の等級が認定された場合よりも8級の方が受け取れる金額が多くなりそうですが、もちろんそんなことはありません。
実は、労災の場合、後遺障害等級が7級以上で認定された場合には年金の形で給付金が支払われるものがあります。
つまり、7級以上の場合、障害(補償)給付や障害特別金については、上記の計算の基準に基づいて算出された金額が毎年年金の形で給付されることになります。
具体的には、
- 支給要件に該当することになった月の翌月分から
- 毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の6期に
- それぞれ前2か月分
が支払われることになります。
障害特別支給金は何級でも一時金
もっとも、労災の後遺障害で7級以上の等級が認定された場合であっても、全て年金の形で給付されるわけではないです。
まず、障害特別支給金については何級であっても一時金の形で給付されます。
そのため、障害(補償)給付や障害特別金の場合とは異なり、先ほどの障害特別支給金の表でも7級以上の方が8級よりも金額が高くなっています。
障害(補償)年金前払一時金
先ほどお伝えしたとおり、労災の後遺障害の場合、7級以上の等級が認定された場合には年金の形で給付金が支払われます。
もっとも、すぐにまとまったお金が必要な被害者がいることも考えられます。
そこで、労災は、障害(補償)年金を受給することになった者に対し、1回だけ年金の前払として一時金を受け取る権利を認めています。
前払一時金の金額は、等級ごとに定められている一定額から希望するものを選択でき、具体的には以下の表のとおりです。
障害等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1200日分又は1340日分 |
第2級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1200日分又は1190日分 |
第3級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分、1200日分又は1050日分 |
第4級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分又は920日分 |
第5級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分又は790日分 |
第6級 | 給付基礎日額の200日分、400日分、600日分又は670日分 |
第7級 | 給付基礎日額の200日分、400日分又は560日分 |
この一時金は「前払」ですので、受給した場合、障害(補償)年金は各月分の合計額が、前払一時金の金額に達するまでの間支給停止されます。
なお、中間利息の関係から、各月分の額は1年を経過した以降の分は年5%の単利で割り引いた額になります。
障害(補償)年金差額一時金
また、労災の後遺障害で7級以上の等級が認定され、年金の形で給付金を受給する場合、不幸にも受給直後に受給権者が死亡する可能性もあります。
この場合に、死亡後の分を一切受給できないとなると、受給総額が8級以下の場合よりも少なくなるという不合理な状況が生じてしまいます。
そこで、労災は、障害(補償)年金の受給権者が死亡したとき、
受給済の障害(補償)年金と障害(補償)年金前払一時金の合計額が等級に応じて定められた一定額に満たない場合
遺族に対して障害(補償)年金差額一時金を支給することにしています。
等級に応じて定められた一定額とは以下の表のとおりです。
障害等級 | 障害(補償)年金差額一時金 | 障害特別年金差額一時金 |
---|---|---|
第1級 | 給付基礎日額の1340日分 | 算定基礎日額の1340日分 |
第2級 | 給付基礎日額の1190日分 | 算定基礎日額の1190日分 |
第3級 | 給付基礎日額の1050日分 | 算定基礎日額の1050日分 |
第4級 | 給付基礎日額の920日分 | 算定基礎日額の920日分 |
第5級 | 給付基礎日額の790日分 | 算定基礎日額の790日分 |
第6級 | 給付基礎日額の670日分 | 算定基礎日額の670日分 |
第7級 | 給付基礎日額の560日分 | 算定基礎日額の560日分 |
なお、障害(補償)年金差額一時金を受け取れる遺族及び支給を受けるべき順序は以下の表のとおりです。
障害等級 | 日数 |
---|---|
1位 | 死亡当時生計を同じくしていた配偶者 |
2位 | 死亡当時生計を同じくしていた子 |
3位 | 死亡当時生計を同じくしていた父母 |
4位 | 死亡当時生計を同じくしていた孫 |
5位 | 死亡当時生計を同じくしていた祖父母 |
6位 | 死亡当時生計を同じくしていた兄弟姉妹 |
7位 | 死亡当時生計を同じくしていなかった配偶者 |
8位 | 死亡当時生計を同じくしていなかった子 |
9位 | 死亡当時生計を同じくしていなかった父母 |
10位 | 死亡当時生計を同じくしていなかった孫 |
11位 | 死亡当時生計を同じくしていなかった祖父母 |
12位 | 死亡当時生計を同じくしていなかった兄弟姉妹 |
一般的な相続の順位とは違いがある点には注意しましょう。
また、障害(補償)年金差額一時金の時効は、受給権者が死亡した日の翌日から5年ですので、その点にも注意しましょう。
後遺障害が8級以下の場合は全て一時金
一方、労災の後遺障害であっても、8級以下の等級の場合、障害(補償)給付や障害特別金についても一時金の形で支給されます。
つまり、労災の後遺障害であっても、8級以下の等級の場合には自賠責と支払の形式において違いはないということになります。
労災の後遺障害の金額の支払形式について、表にまとめてみましたので、よろしければ参考にしてみて下さい。
項目\等級 | 7級以上 | 8級以下 |
---|---|---|
障害(補償)給付 | 年金※ | 一時金 |
障害特別金 | 年金 | |
障害特別支給金 | 一時金 |
※希望すれば一定額の前払一時金受領可能
労災の後遺障害の金額と逸失利益の関係
災害補償とは財産上の損害の填補
お伝えしたとおり、労災で後遺障害の等級が認定された場合、等級に応じて
- 障害(補償)給付
- 障害特別金
- 障害特別支給金
といった項目の金額が受け取れることになります。
そして、労働者に対する災害補償は、
労働者の被つた財産上の損害の填補のためにのみされるものであり、精神上の損害の填補の目的をも含むものではない
とされています。
つまり、労災の後遺障害における金額は、慰謝料は含まれず、自賠責保険における逸失利益に対応する金額であるといえます。
特別支給金は損害填補目的でない
もっとも、労災の特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環であり、労働者の損害を填補する性質のものではないことになります。
そして、労災で後遺障害の等級が認定された場合に受け取れる金額の項目のうち、特別支給金に該当するのは
- 障害特別金
- 障害特別支給金
になります。
この省令による特別支給金は、次に掲げるものとする。
(略)
二 障害特別支給金
(略)
四 障害特別年金
五 障害特別一時金
(以下略)
出典:労働者災害補償保険特別支給金支給規則第2条
つまり、労災の後遺障害において、逸失利益に対応する金額は、障害(補償)給付の金額のみということになります。
自賠責と労災との後遺障害の金額の調整
支給調整される項目は限定される
勤務中・仕事中や出勤途中・帰宅途中の交通事故の場合、労災・自賠責双方から後遺障害の認定により一定の金額が受け取れます。
もっとも、あくまで対象は一つの交通事故のため、公平の観点から、いわゆる二重取りがなされないようにする必要があります。
そこで、自賠責と労災の後遺障害の認定により受給できる金額の調整をする必要が出てきます。
このことは実務上支給調整と呼ばれています。
もっとも、二重取りを防ぐためには、自賠責と労災から支払われる金額のうち、同一の性質を有するものだけ支給調整すれば足りることになります。
そして、先ほどお伝えしたとおり、自賠責保険と労災保険から支払われる金額の項目のうち、同一の性質を有するのは
自賠責保険の逸失利益と労災保険の障害(補償)給付のみ
ということになります。
したがって、支給調整されるのは自賠責保険の逸失利益の金額と労災保険の障害(補償)給付の金額だけということになります。
つまり、労災から先行して後遺障害に関する金額を受給していたとしても、その金額を自賠責の慰謝料から控除することはできないことになります。
また、労災の障害特別金や障害特別支給金は、自賠責の逸失利益の控除の対象とはならないことになるので、その点注意が必要です。
労災\自賠責 | 慰謝料 | 逸失利益 |
---|---|---|
障害(補償)給付 | × | 〇 |
障害特別金 | × | |
障害特別支給金 | × |
労災から年金で受給している場合
支給調整されるのは自賠責保険の逸失利益の金額と労災保険の障害(補償)給付の金額だということはわかりました。
もっとも、お伝えしたとおり、労災の後遺障害で7級以上の等級が認定されると障害(補償)給付は年金の形で受給されることになります。
では、この場合に自賠責などから逸失利益を受領した場合にはどのように支給調整すればよいのでしょうか?
結論から言うと、この場合には7年を限度に、自賠責などから逸失利益を受領した金額に達するまで年金の支給が停止されます。
以前はこの期間は3年でしたが、厚生労働省の通達により、平成25年4月1日以降の事故については7年に延長されました。
ただし、労災から先行して障害(補償)年金を受領していた場合に、逸失利益から差し引かれる(求償の範囲)は従来通り3年となります。
労災保険給付の請求を行った者が、第二当事者等又は保険会社等から労災保険に先だって損害賠償金又は保険金の支払を受けている場合には、労災保険法第12条の4第2項に基づき、第一当事者等が受領した損害賠償金又は保険金の額を差し引いて、更に労災保険より給付すべき額がある場合にのみ労災保険を給付しているところである。
(略)
控除を行う期間については、年金給付を導入した労災保険制度の趣旨を損なわない範囲で延長することとし、災害発生後7年以内に支給事由の生じた労災保険給付であって、災害発生後7年以内に支払うべき労災保険給付を限度して行うこととする。
なお、求償を行う期間については、引き続き、災害発生後3年以内に支給事由の生じた保険給付であって、災害発生後3年以内に支払うべきものを限度とする。
(以下略)
出典:「第三者行為災害における控除期間の見直しについて」(平成25年3月29日 都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
つまり、8年目以降は実質的に二重取りになってしまいますが、年金給付を導入した労災保険制度の趣旨上、やむを得ないと考えているようです。
このようなこともあるため、労災にも後遺障害が申請できる交通事故の場合には、労災・自賠責双方に申請するのが望ましいといえるでしょう。
労災での後遺障害(後遺症)の認定の流れ
労災の後遺障害の等級別の金額についてはご理解いただけたのではないかと思います。
もっとも、そういった金額を受け取るためには当然労災において後遺障害の等級の認定を受ける必要があります。
そこで、ここからは労災における後遺障害(後遺症)の認定の流れについてご紹介していきたいと思います。
労災への後遺障害の申請手続き
労災の後遺障害(後遺症)の認定は、障害(補償)給付を支給するかどうかの判断のためになされます。
そのため、労災の後遺障害の等級認定の申請は、障害(補償)給付を請求する手続きの流れの中で行われることになります。
そして、障害(補償)給付を請求するには、所轄の労働基準監督署(長あて)に障害(補償)給付支給請求書という申請書類を提出します。
その障害(補償)給付支給請求書とは、以下のような様式になります。
勤務中・仕事中の業務災害の場合は障害補償給付支給請求書を、出勤途中・帰宅途中の通勤災害の場合は障害給付支給請求書を用います。
障害(補償)給付支給請求書には以下のような事項を記載する必要があります。
- 労働保険番号
- 労働者の氏名・住所・生年月日や所属事業場の名称・所在地
- 事故日
- 治癒(症状固定)日
- 災害の原因及び発生状況(業務災害の場合)
- 平均賃金や特別給与の年額
- 振込希望口座
そして、支給請求書に事業主からの証明をもらう必要があります。
なお、事業主が証明を出してくれないという場合も考えられます。
実務上は、このような場合でも労働基準監督署は申請を受理した上で、事業主に「証明拒否理由書」という書類の提出を求めるようです。
その上で、労働基準監督署が労災の認定をするかどうか判断するため、事業主が証明を出してくれない場合でも、労災認定がなされる可能性はあります。
また、通勤災害の場合には、別途下記の「通勤災害に関する事項という書類を提出する必要があります。
なお、障害特別支給金や障害特別金の支給申請も原則障害(補償)給付の請求と同時に行うことになっており、同一の様式で申請(請求)可能です。
そして、障害(補償)給付支給請求書には、所定の様式の医師からの診断書を必ず添付する必要があります。
また、必要に応じてレントゲンなどの添付書類・資料も同時に提出することになります。
労災の後遺障害診断書は自賠責と書式が異なる
そして、労災の後遺障害診断書は自賠責に提出するものとは書式が異なります。
労災の後遺障害診断書の書式は自賠責の書式と比較して簡易な書式となっています。
そのため、労災と自賠責の双方に後遺障害の申請をする場合には、各書式ごとの合計2通、後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
労災の後遺障害は原則面談審査
所轄の労働基準監督署に必要書類が提出されると、労働基準監督署において後遺障害の等級の認定審査が行われる流れになります。
では、労災と自賠責とでは、後遺障害の等級の認定の審査にどのような違いがあるのでしょうか?
認定基準は同じ
自賠責保険では、労災保険の認定基準を準用して、後遺障害の認定が行われています。
つまり、労災と自賠責とは認定基準については基本的には違いはないといえます。
審査方法は違う
もっとも、労災と自賠責とでは審査方法について違いがあります。
具体的には、労災保険の場合、地方労災医員という医師が後遺障害の等級認定の判断にあたり、原則として被害者との面談を行います。
それに対し、自賠責保険の場合、醜状障害等一部の例外を除き、原則書面審査であり、提出された資料から後遺障害の等級認定を判断します。
労災の方が等級認定されやすい?
そして、後遺障害の等級の認定においては、このような声も聞かれます。
また、後遺障害の認定においても、労災保険の方が高い等級を認定してもらえることが多いと言われていますよ。
— かやのなおき@大田区 (@mrjunon) November 21, 2017
このように、労災の方が高い等級が認定される可能性が高いといわれるのは、先ほどの審査方法の違いが大きな理由の一つと考えられます。
面談にて書面で伝わりづらい被害者の症状を正確に把握し、そのことが書面よりも優先して考慮される結果、高い等級が認定されることもあるようです。
このような傾向があるため、
先行して労災の後遺障害認定を行い、労災の認定結果を添付して自賠責に申請
する方法により、より有利な後遺障害が認定される可能性が高くなるといえます。
かつては、この労災の認定結果を添付する方法により、自賠責も同様の後遺障害等級を認定していました。
もっとも、現在は独自認定を理由に異なる判断をすることもあるので、その点は注意が必要です。
労災保険 | 自賠責保険 | |
---|---|---|
認定基準 | 労災の認定基準 | 労災の認定基準を準用 |
審査方法 | 地方労災医員の面談 | 書面審査※ |
認定の傾向 | 自賠責より認定されやすい | 労災より認定されにくい |
※醜状障害等の場合には面談する場合あり
後遺障害の等級認定により支給決定通知が届く
労働基準監督署での後遺障害の審査が完了し、等級が認定された場合、原則として厚生労働省から支給決定通知が送付されます。
以前は支給決定通知と別に支払振込通知が送付されていましたが、現在では支給決定通知と支払振込通知が一体となったはがきが送付されています。
その通知の送付の前後に、支払振込通知記載の等級に応じた年金又は一時金の金額が振込指定先の口座に振り込まれる流れになります。
一方で、後遺障害の等級が認定されなかった場合には不支給決定通知が送付されるという流れになります。
労災の後遺障害認定に不服の場合
労災での後遺障害の等級の認定に不服がある場合、審査請求という手続きをする流れになります。
審査請求は、不支給決定の通知を受けた日から3か月以内に、所轄の都道府県の労災保険審査官に対して行う必要があります。
そして、審査請求も認められなかった場合、審査請求に対する決定から2か月以内に労働保険審査会に再審査請求をすることができます。
再審査請求でも認められない場合には、再審査請求に対する裁決から6か月以内に、裁判所に労災不認定処分の取消訴訟を提起できます。
なお、この取消訴訟は、裁決を経ない場合でも、審査請求に対する決定から6か月以内に提起することができます。
お伝えしてきた流れについては、以下のページに表にまとめられています。
なお、自賠責での後遺障害等級認定に不服がある場合の手続きとして審査請求に対応する異議申立には期間や回数の制限はありません。
そして、自賠責での後遺障害の等級の認定に対する裁判所への裁判は症状固定時から3年以内に提起する必要があります。
このように労災と自賠責では、後遺障害等級認定に不服がある場合の手続きの申立期間や回数、裁判の提起期間に違いがある点に注意が必要です。
最後に、労災と自賠責との後遺障害等級認定に不服がある場合の手続きの比較を表にしてまとめてみましたので、参考にしてみて下さい。
労災 | 自賠責 | |
---|---|---|
期間制限 | あり | なし |
回数制限※ | 2回まで | なし |
裁判の提起期間 | ・審査請求に対する決定から6月以内 ・再審査請求に対する裁決から6月以内 |
・症状固定時から3年以内 |
※裁判所・紛争処理機構(自賠責)への申立は除く
労災の後遺障害の認定期間は約3ヶ月
労災での後遺障害(後遺症)の認定の流れは大まかに以上のようになります。
では、労災の後遺障害の認定期間はどれくらいになるのでしょうか?
この点につき、はっきりとした統計はありませんが、厚生労働省が出している労災保険請求のガイドブックには以下のような記載があります。
請求受付から給付決定までの期間は、おおむね3か月ですが、場合によっては3か月以上を要することもあります。
出典:http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/161108-21.pdf
当然、事案の内容等にもよりますが、労災の後遺障害の認定期間はおおよそ3か月前後のことが多いようです。
自賠責の後遺障害の認定期間は?
なお、自賠責の場合、認定機関である損害保険料率算出機構は、申請の受付から調査完了までに要する日数につき、統計を公開しています。
後遺障害の事案では、30日以内に調査が完了した事案が78.4%となっています。
また、31日~60日で調査が完了する事案は11.6%となっています。
そのため、通常の後遺障害の事案では、9割が 遅くとも2か月以内には調査が完了していることになります。
具体的な日数と割合については、以下の表に記載されているとおりとなります。
後遺障害 | 全体 | |
---|---|---|
30日以内 | 78.4% | 96.8% |
31日〜60日 | 11.6% | 1.9% |
61日〜90日 | 5.5% | 0.7% |
90日超 | 4.5% | 0.5% |
※損害保険料率算出機構「2018年度 自動車保険の概況」参照
労災と自賠責との後遺障害の違いについて
先ほどもお伝えしたとおり、勤務中・仕事中や出勤途中・帰宅途中の交通事故の場合、労災にも自賠責にも後遺障害の申請が可能になります。
もっとも、労災と自賠責とでは後遺障害に関し、以下のような違いがあります。
労災の後遺障害の金額には慰謝料が含まれない
労災と自賠責との後遺障害の等級が認定された場合の大きな違いは、慰謝料の金額が含まれるかどうかという点です。
自賠責保険における後遺障害による損害には、逸失利益と慰謝料が含まれます。
後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等とし、自動車損害賠償保障法(略)に定める等級に該当する場合に認める。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
一方、労災保険において後遺障害が認定された場合に受け取れる金額には慰謝料は含まれないことになります。
そのため、労災保険において後遺障害が認定された場合、慰謝料は別途自賠責保険や任意保険・加害者本人に請求する必要があります。
また、勤務中や仕事中の労災事故で、後遺障害が残ったことに対し会社に責任がある場合には、会社に慰謝料請求することも考えられます。
労災保険において後遺障害が認定され、一定の金額を受領した場合、慰謝料等を別途請求できるので忘れずに請求しましょう。
労災と自賠責は後遺障害の申請先に違いがある
また、労災と自賠責は、後遺障害の申請先にも違いがあります。
具体的には、労災保険の場合の後遺障害の申請先は労働基準監督署になります。
それに対し、自賠責保険の場合の後遺障害の申請先は、申請方法によって異なり、
- 被害者請求の場合は相手方の自賠責保険会社
- 事前認定の場合は相手方任意保険会社
が申請先になります。
なお、労災と自賠責の双方に後遺障害の申請をする場合には、各書式ごとの合計2通、後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
労災の後遺障害は一時金でなく年金での支払も
そして、労災と自賠責とでは、後遺障害の等級が認定された場合に支払われる金額の支払方法にも違いがあります。
先ほどお伝えしたとおり、労災保険の場合、7級以上の等級が認定された場合には、年金の形で支払われる金額があります。
一方、自賠責保険の場合には、等級が何級であっても、すべて一時金の形で、後遺障害による損害の金額が支払われることになります。
労災保険から年金の形で支払われる場合、自賠責との金額の調整に複雑な部分があるので注意しましょう。
労災と自賠責とは後遺障害の時効の期間に違い
さらに、労災と自賠責とでは、後遺障害が申請できる時効の期間にも違いがあります。
被害者請求の方法の場合、被害者が自分で自賠責に保険金相当額の損害賠償を請求する手続の中で、同時に後遺障害の等級の認定が行われます。
そして、自動車損害賠償保障法は、被害者請求につき、以下のような条文を規定しています。
第十六条第一項及び第十七条第一項の規定による請求権は、三年を経過したときは、時効によつて消滅する。
つまり、被害者が自分で自賠責に保険金相当額の損害賠償を請求する手続には3年という時効があるため、その手続の中で同時に行われる
自賠責保険に対する後遺障害の申請にも3年という時効がある
ことになります。
もっとも条文からは、いつから3年であるかまではハッキリとしません。
結論から申し上げますと、後遺障害による損害賠償請求権の時効は症状固定時から3年になります。
これは、後遺障害による損害賠償請求ができるのは症状固定になってからであることが理由となります。
そのため、自賠責への保険金相当額の損害賠償を請求する手続と同時に行われる後遺障害の申請の時効も症状固定時から3年になります。
一方、労働者災害補償保険法は、障害(補償)給付を受ける権利につき、以下のような条文を規定しています。
(略)障害補償給付、遺族補償給付、障害給付及び遺族給付を受ける権利は、五年を経過したときは、時効によつて消滅する。
つまり、被害者が労災保険で後遺障害が認定された場合の障害(補償)給付を受ける権利には5年の時効があるため、給付判断の前提として行われる
労災保険に対する後遺障害の申請にも5年という時効がある
ことになります。
もっとも条文からは、いつから5年であるかまではハッキリとしません。
結論から申し上げますと、障害(補償)給付を受ける権利の時効は症状固定時(傷病が治った日)から5年になります。
これは、障害(補償)給付を受ける権利が発生するのは症状固定になってからであることが理由となります。
そのため、労災保険からの障害(補償)給付の判断の前提として行われる後遺障害の申請の時効も症状固定時から5年になります。
労災と自賠責の症状固定日は同じになることが多いので、自賠責の時効の方が早く訪れることが多いと考えられます。
労災と自賠責の後遺障害の認定基準の違いは?
一方、労災と自賠責とでは、後遺障害等級の認定基準に違いはありません。
自賠責保険では、労災の認定基準を準用して、後遺障害の認定が行うとされているからです。
等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。
出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
ただし、あくまで「準じて」ということなので、違いがある部分もあると考えられます。
また、先ほどお伝えしたとおり、原則として面談が行われるかという審査方法には違いがあります。
認定基準がほぼ同じであっても、審査主体や審査方法に違いがあるため、労災と自賠責とで、後遺障害の等級の認定に差が出る可能性がある点には注意が必要です。
最後に、労災と自賠責との後遺障害の違いについて表にまとめてみましたので、参考にしてみてください。
労災 | 自賠責 | |
---|---|---|
慰謝料 | 含まれない | 含まれる |
申請先 | 労働基準監督署 | 相手方自賠責保険会社※ |
金額の支払方法 | 7級以上は年金払い含む | 常に一時金 |
時効 | 症状固定時から5年 | 症状固定時から3年※ |
認定基準 | 労災の認定基準 | 労災の認定基準を準用 |
※被害者請求の方法の申請の場合
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最後に一言アドバイス
それでは、最後になりますが、交通事故でお悩みの方に一言アドバイスをお願いします。
労災と自賠責とでは、後遺障害に関し様々な違いがあります。
この労災と自賠責との後遺障害に関する様々な違いをしっかり理解しておかないと、最終的に損をしてしまう可能性もあります。
もっとも、労災と自賠責との双方が関わる交通事故については複雑な部分も多く、被害者ご自身だけでは判断できないことも多いかと思います。
そういったご自身だけでは判断が難しいことが出てきた場合には、お一人で悩まずにまずは弁護士に相談してみましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
このページを最後までお読みの方は、
- 労災の後遺障害の等級別の金額
- 労災での後遺障害(後遺症)の認定の流れ
- 労災と自賠責との後遺障害の違い
について理解を深めていただけたのではないかと思います。
これを読んで弁護士に相談した方が良いと思った方も多いハズです。
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皆さまのお悩みが早く解決するよう、お祈りしています。
労災の後遺障害についてのQ&A
労災の後遺障害に対する補償は何がある?
労災で後遺障害の等級が認定された場合、等級に応じて①障害(補償)給付②障害特別金③障害特別支給金の金額が受け取れることになります。等級に応じて、もらえる金額は変わります。後遺障害が7級以上に認定されると①障害給付や②障害特別金は、年金の形で受給されることがあります。 労災の後遺障害の等級別金額
労災の後遺障害認定のおおまかな流れは?
まず、労災への後遺障害を認定されるには必要書類の提出が必要です。例えば勤務中の業務災害の場合は「障害補償給付支給請求書」を、通勤災害の場合は「障害給付支給請求書」を使います。支給請求書は、事業主からの証明と医師からの診断書(所定の用紙あり)が必要です。審査は原則面談が行われ、給付決定まで3ヶ月ほど要します。労災の等級認定に不服がある場合は審査請求も可能です。 労災での後遺障害(後遺症)の認定の流れ
労災と自賠責との後遺障害の違いは?
労災と自賠責では主に4つの違いがあります。①労災の後遺障害の金額には慰謝料が含まれていません。一方で自賠責保険には逸失利益と慰謝料が含まれています。②後遺障害の申請先が異なります。③金額の支払い方法です。自賠責が常に一時金ですが、労災は7級以上だと年金払いが含まれます。④後遺障害が申請できる時効期間が、労災は症状固定時から5年、自賠責は3年です。 労災と自賠責との後遺障害の違いについて
労災と自賠責の後遺障害の認定基準の違いは?
違いありません。自賠責は労災基準の後遺障害を準用しています。ただしあくまで「準じて」となっています。認定基準がほぼ同じであっても、審査主体や審査方法に違いが生じることもありえます。その結果、自賠責と労災とで後遺障害の等級の認定に差が出る可能性があります。 後遺障害認定基準の違いは?
この記事の監修弁護士
岡野武志弁護士
アトム法律事務所弁護士法人
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-11-28 合人社東京永田町ビル9階
第二東京弁護士会所属。アトム法律事務所は、誰もが突然巻き込まれる可能性がある『交通事故』と『刑事事件』に即座に対応することを使命とする弁護士事務所です。国内主要都市に支部を構える全国体制の弁護士法人、年中無休24時間体制での運営、電話・LINEに対応した無料相談窓口の広さで、迅速な対応を可能としています。